井上ひさしの短編集『十二人の手紙』を読みました。作者の腕を見せつけられる短編の数々を堪能しました。しかもエピローグにはそれまでの短編で登場した、横のつながりのなかった人たちが一つの事件にからんできます。そのおしゃれな構成に楽しませてもらいました。
私たちが小説を読むと普通その字面の意味を正直に受け取って今います。しかし近年、「ナラトロジー」の考え方が広まり、字面の意味の裏には、書き手や語り手の隠された本心があるという視点で読書することも増えてきました。面倒くさい読み方かもしれませんが、そのほうがその小説の本質を見ていると感じる場合もあります。
『十二人の手紙』はそんな裏を読む読み方を読者は要求されます。「手紙」の裏には、文面とは全く違う書き手の意図があります。表面的な意味と隠された意味の差こそがこの本のおもしろさになっているのです。
この文庫本は本屋さんに平積みにされていました。「まさに、どんでん返しの見本市だ」と帯がついています。これは読んでみたくなります。こんなふうに過去の忘れられた名作を再評価して紹介してくれる企画はとてもいい。せっかくだから本当におもしろい、読んでおくべき本を読みたい。本屋さんも努力しているんだなあと感心します。
井上ひさしさんの作品は、本当に小さいころから、知らず知らずにたくさん接してきています。それを次回以降、書いてみたいと思います。
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