今回から5回に渡り、荒唐無稽な盲説を含めて紹介する。
〇魏志倭人伝が語る卑弥呼と信仰
卑弥呼を語るには魏志倭人伝が欠かせない。魏志委倭人伝には、卑弥呼と邪馬台国(倭国)の信仰と葬送および武器(祭器)の類に関して、数カ所に記載されている。その要点を以下に記す。
1)“その死、棺有りて槨無し、土を封(もっ)て塚を作る。始め死するや、喪を停(とど)むること十余日、時に当たりて肉を食らわず、喪主、哭泣し、他人、就きて歌舞飲酒す。家を挙げて水中に詣(いた)りて澡浴(そうよく)し、以て練沐(れんもく)①の如くす。”
2)“大人の敬する所を見れば、但(た)だ手を博(う)ちて、以て跪拝に当(あ)つ。”
3)“其の国、本(も)と亦(ま)た男子を以て王と為し、住(とど)まること七八十年。倭国乱れ、相攻伐すること歴年、乃(すなわ)ち共に一女子を立てて王と為す。名づけて卑弥呼と曰う。鬼道に事(つか)え、能(よ)く衆を惑わし、年己(すで)に長大なるも夫壻(ふせい)なく、男弟ありて佐(たす)けて国を治む。”
4)“卑弥呼、以(すでに・もって)死し、大いに冢を作る。径百余歩、殉葬する者、奴婢百余人。”
5)“兵は矛・楯・木弓を用う。木弓は下を短くし上を長くし、竹箭は或いは鉄鏃、或いは骨鏃なり。有無する所は、儋耳(たんじ)・珠崖(しゅがい)と同じ。“
ここで1)は、死する対象者の記載はないが大人(貴人)と思われ、甕棺か木棺かは別にして棺桶があって塚に埋葬する。人が亡くなると10日間の殯(もがり)にふす。喪主は泣き叫ぶが、他人は殯の期間中歌舞飲酒する。そして家人は、清浄な水の中に入り穢れを落とす・・・とあり、倭国には墳墓と殯と禊(みそぎ)の習慣があったことになる。
2)は、ココ『魏志倭人伝にみる柏手跪拝と神の降臨』を御覧願いたいが、要約すると、祖先神(祖霊)が依りつく磐座や大木(御神木)に向かって、手を打って跪(ひざまずいて)て拝む・・・ということになる。
3)は、倭国戦乱が70-80年続き、邪馬台国を構成する国々から卑弥呼が王として共立された。卑弥呼は鬼道をこととしたとある。
4)は、卑弥呼は外径百余歩の大きさの墳墓に埋葬され、殉死する者が百人余りいたと記す。
5)の兵隊は、矛・楯・弓を持ち、矢は鉄と骨製があると記すものの、剣・銅戈ましてや銅鐸については、言及されていない・・・ここが不思議なことで、倭国の風習・風俗はそれなりに詳細に記されているが、考古学者が声高に述べる銅鐸や広形銅剣・銅矛など『青銅器祭祀説』につながる文言は言及されていない。
卑弥呼が亡くなった時、百余歩の大きさの墳墓に埋葬され、殉死者が百余人いたと記すが、その墳墓での埋葬儀礼に銅鏡や銅鐸は登場しない。北部九州で行われていた墳墓や甕棺への青銅器の埋納は、既に過去のものであったのか(注:当該ブロガーは、邪馬台国九州説の立場をとる)。
卑弥呼の鬼道は、中国から伝播した道教の影響を受けたものとする説が存在する。当該ブログでもココにその一端を紹介している。
ここで、『鬼』、『鬼神』、『鬼道』について中国や朝鮮半島の事例を確認してみる。中国では亡くなった人の魂を『鬼』、特に普通の人や悪人が亡くなると『鬼』になる。中国の『鬼』は『神』と対となっている。偉い人が死んだら『神』になるという。この鬼籍(きせき)に入った人を祀る、つまり祖霊信仰を鬼道と云ったものと考えられる。
隣国・朝鮮半島である。『魏志韓伝』では以下の如く記載する。『以五月下種訖祭鬼神 群聚歌舞飲酒晝夜無休 其舞数十人倶起相随踏地低昂手足相應 節奏有似鐸舞 十月農功畢亦復如之』「五月に種まきが終わると鬼神を祭る。群衆は歌って舞い、酒を飲み、昼夜休まない。その舞いは、数十人がいっしょに立ち一斉に舞う。手を下げたり上げたりし、足もそれに合わせてうごく。節回しは(中国、漢の)鐸舞に似たところがある。十月に収穫が終わるとまたこのようなことを繰り返す。」
『信鬼神 國邑各立一人主祭天神 名之天君 又諸國各有別邑 名之為蘇塗 立大木縣鈴鼓事鬼神』「鬼神を信仰し、国邑ではおのおの一人を立てて天神を主祭させ、これを天君と名づけて蘇塗(そと)という。そこに鈴鼓を懸け、鬼神に事(つか)える。」
・・・以上のようで、朝鮮半島では農耕儀礼と読みとれなくもないが、どうも鬼道とは祖霊信仰以外には考えられそうもない。倭国でも信仰に関する傍証は、アニミズムに関連した祖霊(祖先神)信仰が主体であった可能性が高い。民衆や大人の信仰が、そのようであったとすれば卑弥呼の鬼道が、それと縁遠いものであったと考えるのは不自然である。やはりシャーマンとしてアニミズム信仰、つまり祖霊信仰を主体とした信仰であった可能性が高いが、陳寿は黙して語っていない。
注①)練沐(れんもく):練絹(ねりぎぬ)をきて沐浴する。一周忌の儀式。
<続く>
今日は。ご期待されるような中味ではないかと存じます。語呂合わせの駄洒落に近い内容で、我ながらよくもブログにしたな・・・と、お恥ずかしい限りです。