杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

軌道修正できる道

2015-12-09 22:06:54 | 日記・エッセイ・コラム

 金星探査機「あかつき」が、金星の軌道投入に再チャレンジして見事に成功したというニュース。科学に疎い私でも、久々に爽快な感動を覚えました。3年前、静岡県ニュービジネス協議会西部部会のセミナーで、「はやぶさ」の成功談を解説してくれたNECの小笠原雅弘さんから「はやぶさの帰還はあかつきのプロジェクトチームを勇気付けた」と聞き、宇宙に関するニュースを耳にするたびに、あかつきの動向が気になっていたのです。

 前回ブログで紹介したとおり、上川陽子さんのラジオ番組100回記念で、コンピュータを自分で一から造る面白さを子どもたちに教える福野泰介さんのお話をうかがいました。生まれたときからPCゲームやスマホが身近にある世代は、機器がどういうしくみで動いているのか考える動機も機会も持てないでいる。それは、とてももったいないことだと。

 ジャンルは全く異なりますが、私は酒が、米と水と微生物だけでどうしてあんな美味しい飲み物になるのか、考える機会を得る事ができて、ライター人生の軌道をちゃんと歩けている、と実感しています。なにかひとつ、関心を持った物や事象についてトコトン考え、真理に手が届くまであきらめずに追究する・・・こういう体験は、なにかの壁にぶちあたったとき、人を“軌道修正”させてくれるように思います。

 上川さんがラジオで新入社員や新入生に向けて、こんな呼びかけをされたことがあります。「社会に出てからの道にはさまざまな難関があると思いますが、ある沸点に到達すると、関門はパン!とはじける。その沸点は、あきらめずに努力し続けた人だけが到達できるのです」。

 今の私には、社会人デビューした頃のように自分の可能性にワクワクするようなパワーはありませんが、挫折しそうになったとき、できない理由を並べてあきらめの軌道に自らを追い込むことはしたくないな・・・。上川さんの言葉と、あかつきのニュースを照らし合わせ、ふとそんな熱い思いがこみ上げてきました。

 

 以下に、3年前のセミナーを紹介したブログ記事を再掲しますね。

 

「はやぶさが遺したもの」

 (2012年)2月21日夜、静岡県ニュービジネス協議会西部部会のトップセミナーで、NEC航空宇宙システムシニアエキスパートの小笠原雅弘さんの講演会がありました。小笠原さんは1985年に初めてハレーすい星へ旅した「さきがけ」、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」、そしてチーム「はやぶさ」のメンバーとして、感動の地球帰還を成功させた、日本の太陽系探査衛星のスペシャリストです。

 

 
 理系エンジニアの人の話を聴くのはとても好きなんですが、物理や科学や生物の成績がまるでダメ子だった自分には、小笠原さんのお話をコンパクトに取材記事にまとめるなんて今から受験勉強をしろと言われるようなもの・・・ 講演会場へ向かう前に、浜松駅近くのシネコンで映画『はやぶさ~遥かなる帰還』を観て、なんとなく予習した気分になって、自分の気持ちを、理解しきれずともせめて前向きにお話を楽しんで聴けるような状態に持って行って、会場入りしました(苦手な分野の取材の時は、「せめて気持ちを作って臨む」だけでも違うんです・・・)。

 

 会場入りして小笠原さんに「今、映画を観てきたばかりです~」とご挨拶したとき、小笠原さんの上司が、映画ではピエール瀧さんが演じた人で、本人は似ても似つかぬ容姿(笑)で、「渡辺謙さんはじめ、映画に登場する役者さんはモデルの人物とは見た目にギャップのある人を敢えて選んだみたいですねえ」と愉快そうに話してくれました。

 「ピエール瀧さんは静岡出身ですよ」と応えたら、「それはいいことを聞いた、今日の講演のネタに使わせてもらいます」とクイック返答。こういう切り返しのよさが、理系の人と話すときの楽しみなんですね。

 

 小笠原さんの講演は、さすがNECだけあって映像やパワーポイントを活かして大変解りやすく、また、航空エンジニアという職人さんは、宇宙少年のように夢や冒険心を熱く持っているんだ・・・と伝わってくる素敵な講演でした。これから映画『はやぶさ』をご覧になる方にも参考になりそうな点だけ(ちょっとネタバレも含みますが)書きますね。

 

 はやぶさの形は、太陽電池パネルが|‐○‐|とアルファベットのHのように連結されています。パネルの端から端までの長さが5.7メートル、総重量は510kgで、軽自動車よりも軽いんです。それまでの人工衛星はゆうに600kgを超えていたんですが、これでは3億キロ彼方のイトカワまで飛ぶのにメタボ過ぎるということで、ネジの材質やら板の厚みやらまでトコトン軽量化しました。おぉ、これぞ日本の技術だ~と聴いていてワクワクしました。ちなみに、はやぶさの形って当初の設計ではー○ーだったそうで、少しでもストロークを短くしたほうが飛行中のバランスが取りやすいということで、H型にしたようです。

 

 映画を観ていてわかりにくかった「スイングバイ」という技術。はやぶさは2003年5月に打ち上がって、太陽の軌道を1周回って2004年5月にもう一度地球の近くまで戻ってきているんですね。地球自身が太陽の周りを1秒間に34kmの速度で回っているので、その軌道速度に乗っかると、+4㎞/秒速くなるそうです。歩いている人が途中から走行中の電車に飛び乗ったような感じでしょうか。少しでもエネルギーロスの少ない飛行を目指して開発されたんですね。

 

 映画でも面白いなあと思ったのは、イトカワに落とすターゲットマーカーを「お手玉」から発想したというところ。小笠原さんはこの部分の開発にも関わっておられ、詳しく解説してくれました。

 なにせ、イトカワは宇宙空間をプカプカ浮いている直径500mぐらいの岩石で、表面は直径20mもある岩石がゴロゴロしている。なんとか平べったいところを見つけて球を落として、パッと飛び散った表面のチリや破片をパッとつかまえて持ち帰る=サンプルリターンというのが、はやぶさの最重要ミッションです。でもイトカワの重力は地球の10万分の1でほぼ無重力状態。表面でハネ返らず、ある程度留まってサンプルキャッチできるターゲットマーカーを、どうやって作るのか、無重力下での物体の動きを地球上では想像し切れず、おもちゃのスライムみたいなもので実験したりして、「我々は“井の中の蛙というか、“1Gの中の蛙”でした」と小笠原さんは振り返ります。

 

 技術者の直感で「お手玉」を思い付き、江東区の町工場(映画では山崎努さんの工場がモデル)にファックスを送って、薄いアルミ製の球体を試作品に作ってもらいました。「本当にハネ返らないのか?」という疑問を払拭するために、飛行機を急降下させて無重力に近い状態でのべ12回、3年にわたって実証実験を重ねたそうです。小笠原さんは「技術者には、妄想でもいいから“直感”が大事」と強調されていました。・・・なんだかこのエピソードだけでも1本の映画になりそうですね。

 

 その後、さまざまなトラブルに見舞われながらも、プロダクトマネージャー川口さんの「はやぶさの目的地は地球」「地球へ帰そう」の一言でチームは団結しました。小笠原さんは、「いろんな人がいろんなことを言ったが、プロマネのあの一言は今でも忘れられない」そうです。「リーダーは、たった一言、心に残る言葉があればいい」と実感を込めておられました。

 

 最後にイオンエンジン全停止という最大の危機を迎え、映画では政府(JAXA)と民間(NEC)出身の2人の技術者が対立したような描き方でした。ま、そこで最終的に渡辺謙さんが主役らしく「全責任は私が取る」とカッコよくおさめるんですが、実際は技術者2人が最後まであきらめずに食らいついて、周囲が引っ張られたそうです。

 「抵抗するのが一人で残り全員があきらめモードだったら無理だったと思う。2人だったから前進できた」と小笠原さん。・・・うん、すごく現実味があるなあ。いろんなことで四面楚歌になるとき、1人ならくじけちゃいそうなところ、誰か1人でも賛成してくれると馬力が出るし、反対する人も一応聞いてみるか、という気になってくれそうですよね。映画的に見せ場を作りたかったのかもしれないけど、あそこはあまりいじらずに、2人の団結力を見せてほしかったと、まあ後から実際の裏話を聞いて思った次第です・・・

 

 はやぶさの技術的な功績は、①イオンエンジンの性能の凄さ、②ハイレベルな自律航法、③小さな球を打ちこんで採集に成功したこと、④サンプルを守り切ったカプセルの性能の凄さーだそうですが、やはり映画のキャッチコピーにもあるとおり、「あきらめないこと」に尽きると思います。

  

 現在、金星探査機「あかつき」が、金星の軌道突入時にエンジン全停止というアクシデントに見舞われ、姿勢制御用エンジンで再チャレンジしているところで、あかつきのスタッフは、はやぶさの功績を間近に見ているだけに、小笠原さんは「彼らはまったくあきらめていない」と頼もしそうに語ります。

 2014年には「はやぶさ2」が、小惑星1999JUSという水や炭素系有機物がありそうな惑星を目指して出発する予定だそうです。事業仕分けで予算が削られ、そっちの面で苦労されているそうですが、日本人の技術力とあきらめない強靭な精神力を最大限に発揮させるこういう舞台を縮小させないでほしいと、切に感じますね。 

 

 歴史好きの私は、未来を考えたり研究したりする人とはあまり縁がないけど、歴史を創ってきた人は間違いなく現状で縮こまらず、未来を志向し、壁を打ち破ってきた人だということぐらいは理解できる、と実感した講演会でした。


語り部の資格

2015-05-02 23:14:33 | 日記・エッセイ・コラム

 久々に自宅のデスクの前で不動明王?のごとく一歩も動かず、がっつりモノ書きしています。箸休めにネットサーフィンして見つけ、心に残ったのが、NHKあさイチの柳澤秀夫解説委員が、親交のあった故・後藤健二さんについて語ったインタビュー記事でした。

 あさイチで後藤さんの訃報にふれたとき、柳澤さんの「後藤さんが何を伝えようとしたかに目を向けて」という言葉が反響を呼びました。当時、日本の報道では、紛争地での取材手法や後藤さんのプライバシーについて、また日本政府の責任問題といった論調が目立つ中、本当に見落としてならないのは、命を賭して彼が伝えたかったものは何かを問いかけたものでした。インタビューでは大手メディアとフリーランサーの違いにも触れ、大手メディアの「危ないところにはフリーに行ってもらう」「撮って来てもらった素材で番組をつくる」という短絡的な発想や、フリーの人たちが「自分たちがヤバイところへ行って仕事して稼いでいるんだ」とかっこつけるのも、何かちょっと違うと柳澤さん。

 フリーだろうと大手所属だろうと、ジャーナリストを自認する以上、危険な地域で取材活動するリスクは同じ。消防士や警察官が危険を承知で仕事するのと同じ。その現場で、今語るのに最もふさわしい人間が伝えるのが理想だと。でなければ、今そこで起きていることが正しく伝わらない。後藤さんはつねづね「伝えるべきことがちゃんと伝われば(誰が伝えようと)いい」というスタンスだったそうです。私たちは、ややもすると、「何を伝えたか」より、「誰が伝えたか」にとらわれてしまいがちですが、これは日本が、ホンネと建前を使い分ける社会のせいかもしれませんね。

 

 私が書くものは戦場ジャーナリストの世界とは程遠い、平和でローカルなテーマですが、取材やインタビューをする中で、「書かないほうがいいかな」と思われるかなりセンシティブな話は多々あります。それを聞かなかったことにして体裁を繕った記事を書く・・・それが求められた仕事で、クライアントの要求に応えて書くのがプロなんだと自分に言い聞かせてきました。でも取材したテーマの根源的な問題が必ずそこにはある。はっきり「オフレコだ」と言われたらもちろん書きませんが、かりに、私が自己判断できわどい話も暴露したら、取材対象者からの信頼は失われ、私が懸命に問題提起しようとしても、スズキが書くものはNOのレッテルを貼られ、問題解決からはむしろ遠ざかってしまう。以前、そんな失敗をした私は、あの時点で、そのテーマについて語るにふさわしい人間ではなかったのだ・・・柳澤さんの記事を見てそう感じました。

 

 最近読んだ、あるニッチなテーマに関する2冊の本。1冊はそのテーマの“体現者”が書いたもので、もう1冊は“研究者”が書いたもの。体現者は「自ら体現しない者は論ずる資格がない」とし、研究者は「幅広い人間が自由に論じることでテーマが伝播し、価値が高まる」としています。取材者の感覚からすれば、体現者の言っていることは極論に思えますが、テーマを曲解して論じたり営利目的に価値を高めようとする輩がいたとしたら、体現者の言い分は理解できないこともない。ちなみに私が読んだ研究者の本はそんな輩とは程遠い、極めてまっとうなもの。体現者には研究者に対し、どこか理屈では説明できない複雑な思いがあるのかな、と想像しました。テーマへの思いは同じように深いのに、立場が違う者同士が共同歩調をとるのはそんなに難しいことなんだろうか・・・。

 

 関わった取材テーマについて、そのつど実体験するわけにはいかない自分にとって、体現者の言葉は重く厳しいものがあります。酒のことを書くのに、酒を造ったことのない人間に書く資格はないと言われるようなもの(・・・実際、そう思っている酒造関係者がいるかもしれません)。そんな体現者に“対抗”するには、現場をしっかり観察し、ひたすら想像力を働かせるしかない。それも中途半端な理解や思い込みで想像するのではなく、記録や文献や証言を、丁寧に、慎重に検証しながら・・・。

  

 後藤さんの映像は、紛争地の一般庶民の苦しみに寄り添っていたといわれます。声に出して訴えることの出来ない弱者の痛みを思いやっていたと。人として、想像力をまっとうに働かせていたのでしょう。私も想像力を間違った方向にふらないよう、まっとうな判断力を持てるよう日々精進し、取材テーマにはまっすぐ向き合って当事者に寄り添いたい、と思います。

 ・・・今日は内容のない駄文になってしまいました。すみません。

 

 

 

 


【杯が乾くまで】ブログお引越しのお知らせ

2014-09-06 13:57:14 | 日記・エッセイ・コラム

 【杯が乾くまで】は今回からgoo blogで発信することになりました。これまでお世話になっていたBlogzineのブログサービス終了にともなう変更です。

 これまでのURL(mayumi-s-jizake.blogzine.jp)ご覧のみなさまは自動切換えになると思いますが、「お気に入り」や「ブックマーク」にご登録の方がいらっしゃいましたら、お手数ですがURLの登録変更をお願いいたします。

 【杯が乾くまで】の新しいURLです。よろしくお願いいたします。

  http://blog.goo.ne.jp/mayumiakane1962

 

 


家事の大事

2013-10-22 09:42:50 | 日記・エッセイ・コラム

 今日(22日)は今月に入ってやっと取れた休息日。夏物衣料や扇風機の片付けやら掃除やらで一日つぶれそうです。

 

 お恥ずかしい話ですが、最近、この年齢になって、ようやく「家事」って立派な仕事だなあと実感できるようになりました。

 

 

 たとえば洗濯。まず“道具”選びからして取捨選択の眼が必要です。最近はやたら洗剤が多機能&パッケージが派手になっていて、ドラッグストアの洗剤コーナーでは、まず商品選びからして迷います。事前に、自宅の洗濯機の性能、使用頻度、乾燥方法など等をインプットしておかなければなりません。自分の場合、仕事柄(酒蔵や食品関係の取材等で)、香りの強い洗剤や柔軟仕上げ剤はNG。シャンプーや化粧品類も香料の少ないものを選びます。敏感肌なので極力、化学合成物質を含まないオーガニック製品が望ましいのですが、洗浄力の点で劣るし、価格も割高。どっちのリスクをとるか悩ましいところです。

 

 

 晴天の朝の洗濯干しは大好きな気分転換作業の一つ。我が家には乾燥機がないので、狭いベランダで、いかに効率的に乾かすかつねにチャレンジングです。衣料の素材、サイズや形状、色柄を考慮し、どれとどれを隣り合わせで干すか、数限りある洗濯ばさみをいかに有効利用するか、短時間ながらものすごく頭を使う作業ですね。私はしょせん独り分ですから、小一時間程度で終わりますが、大家族の洗濯ともなると、半日はかかる大仕事でしょう。頭脳と体力を駆使するハードワークです。

 

 

 

 掃除はあまり好きではなく、家では、汚れが気になってきたらやる、という感じですが、お寺のバイトでは、「つねにきれいな状態にしておく」ことが業務。一日さぼれば一日分の埃がしっかり溜まり、目立ちます。毎日の地道な作業の積み重ねが大事だということを、実にわかりやすく、的確に教えてくれるのが掃除であり、だからこそ、禅寺の修行メニューにもなっているのだと理解できます。

 

 ・・・といっても、掃除しながら他のことを考えていたり、終了時間を気にするなど、まだまだ無心で作業できる境地には到達していませんが、洗濯と同様、洗剤選びから始まり、効率よく汚れを落とす手順や方法を考えながらの作業は、仕事や日常生活のあらゆる作業能力の効率アップを図る訓練に、確実になっていると思います。

 

 

 

 最近、「仏教に興味がある」「坐禅に連れて行って」という男性が私の周りにちらほらいて、さまざまな情報を提供しています。歴史講座を受けたり、寺の坐禅会に参加するという、いかにも非日常のカタチから入る人が多いし、自分もそうでしたが、家事という最も日常的なフィールドでも、修行といえる体験が出来るのではないかと、少しずつ実感できるようになりました。

 

 もっとも、家事に、作業効率化の訓練という“目的意識”を持ってしまったら、純粋な意味での“修行”にはならないと思いますが、これまで家事を、仕事よりもずっと下に見ていた自分にとっては大きな前進です。

 

 

 

 なんだか取りとめの無い話ですみません。さあ今日はとりあえず、気合を入れて部屋の掃除をしますね。

 

 


浜松フラワーパーク&箱根ジオパーク

2013-06-29 20:43:51 | 日記・エッセイ・コラム

 今年も早くも半分が終わろうとしています。元日に家族で富士山を愛でた三保松原。・・・半年後に世界遺産登録で盛り上がろうとは予想できませんでした。しかも、7月1日の中日新聞富士山特集で、元日に三保松原を散策する家族の写真を使っちゃうという、まさかの荒業(笑)。昨日(28日)UPした日刊いーしずの【杯は眠らない】で先取り紹介しちゃいましたので、ぜひご覧ください。

 

 

 先週は、塚本こなみさんのご案内で浜松フラワーパークを取材してきました。そして昨日28日は箱根パークボランティアさんのご案内で箱根の自然観察ツアーを取材しました。ふだん、自宅に閉じこもってパソコンに向き合う以外、映画館か居酒屋ぐらいしか行動範囲のないネグラな私には、これだけ自然に満ち満ちた場所は異次元気分。仕事を忘れてカメラのシャッターを夢中で切っていました。

 

 

 

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 まず浜松フラワーパーク。エントランスに稲が植えてあって、日本らしい雰囲気。最近増えてきた外国人のツアー客を出迎える演出として、目を引きます。

 

 

 

 

 

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 今まで意識しなかったのですが、フラワーパークには著名な作庭家による素晴らしい日本庭園と、その奥に見事な花しょうぶ園があります。花しょうぶはそろそろ見納めですが、取材した20日は雨がしとしと降って、これがまた情緒を盛り上げてくれました。コンセプトは“森の中の花しょうぶ園”。色のコントラストが素敵です。

 

 

 

 

 紫陽花はまだつぼみもありましたから、もう少し楽しめそうです。

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 ここにはフジ棚が作られる予定。Dsc02517_2浜松フラワーパークは、3月末から4月にかけて、桜とチューリップでドーンと華やぎ、5月中旬からバラ、6月上旬から紫陽花、花ショウブと身頃を迎えますが、観客動員が見込める4月下旬から5月初旬のGW時に見せるものがなかったんですね。

 この時期、ぴったりあてはまるのがフジ。塚本こなみ=フジですから、もう、これは、中途半端な規模ではなく、存分に見せる準備を着々と進めているようです。

 

 

 

 

 

 

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 噴水池の東側には、新たに建てられた木下恵介生誕百年碑と、映画『二十四の瞳』の舞台・小豆島から寄贈されたオリーブの木が目を引きました。そうだ、公開中の『はじまりのみち』も観に行かなきゃ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 こなみさんは、以前にも増してエネルギッシュで、理想の観光植物園づくりに邁進されていました。行政のしばりを受けつつ、任期3年で成果を出さなければならないプレッシャーは、余人が想像できないほど大きいと思いますが、求められ、発揮できる能力と機会を持っている人は、プレッシャーを栄養にしちゃうんですね、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 28日の箱根は、曇り空で涼しく、実に快適な自然観察が楽しめました。環境省所管の箱根ビジターセンターを基点にした約2時間のコース。箱根パークボランティア解説員の方が、毎月第2・第4金曜日に無料で開く観察会で、当番の解説員が自分の得意分野や興味のあるテーマでコースを組み、案内してくれるのです。

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 この日は担当の解説員塩見さんによる「イワガラミ」と「ツルアジサイ」の探検ツアー。イワガラミとは、その名のとおり、岩にからみつくガクアジサイに似た花。ツルアジサイは、見た目はイワガラミに似ていて、高い木にからみつき、気根を上へ上へとはわせ、木をまるごと飲み込むように咲くんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 これが岩にからみついたイワガラミ。ちょっと分かりづらいかもしれませんが、ここ、かなり高い岩なんです。岩壁に網の目のようにツルがはっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 こちらがツルアジサイに“征服”されてしまった木。パッと見たら、もとからこういう形状の木かと思っちゃいますね。

 

 

 

 

 

 

 

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 箱根はヒメシャラの北限の地だそうです。幹の肌がこんなふうに剥けているところに触ったり抱きついたりすると、ひんやり気持ちがいいんですね。水が流れる導管が表皮に近いところにあるからで、「熱中症が心配になったらヒメシャラの木に抱きついてください」と教えてもらいました。

 

 

 

 

 

 

 この無料自然観察ツアー、ガイド役の解説員さん自身が、趣味の延長で、自分が楽しんでやっているって感じ。当番じゃない解説員さん仲間も積極的に参加し、互いにフォローし合ったりで和気あいあい。野草料理に詳しい参加者から調理方法なんか聞いたりして、とてもいい雰囲気でした。

 毎月第2・第4金曜日、10時までに箱根ビジターセンターに行けば、申込不要で誰でも気軽に参加できます。

 

 

 

 

 

 

 

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 今回の取材のメインテーマは“箱根ジオパーク探訪”。お目当ては大涌谷でしたが、この時期は、森の中の草花を観察するほうが楽しいですね。大涌谷は、アジアからの観光ツアー客でごったがえしてました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 逆に、客がほとんどいなくて?ゆっくりできたのが、入生田駅前にある『神奈川県立生命の星・地球博物館』。お子さんのいる方ならご存知だったかもしれませんが、私は初めて。公立施設とは思えない迫力満点の展示にビックリしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一番ビックリしたのは、去年、アリゾナを旅行したとき、ナバホ族居留地でお宝探しをした珪化木(こちらを)。木が炭化して石になっちゃったやつですね。私が拾ったのは手のひらサイズですが、ここには木の幹がまるごと石になっちゃったのが!!

 

 

 

 

 

 そういえば、アリゾナから持ち帰った珪化木を、「何よりのお土産!」と喜んでくださったのが、こなみさんでした。

 

 樹木医の仕事とは、何百年、何千年と地球に刻まれる植物のいのちをつなぐこと。化石となった植物のいのちの重みが、誰より理解できる方なんでしょう。

 

 

 

 

 46億年の地球の歴史の中で、自分はどうしてこの時代に、この国で生まれ、こういう仕事をしているんだろう・・・ついつい、そんな哲学的な思惟にふけってしまいました。

 

 

 ついつい視野が狭くなる日常生活の中で、ほんのひとときでも、こういう場に身をおいて目線を変えてみるって、いいリフレッシュだなあと思いました。