今朝(9月23日)の静岡新聞朝刊で紹介されたとおり、昨22日、静岡市清水文化会館マリナートで開かれた『韓日声楽家交流スペシャルコンサート in SHIZUOKA~音楽を通じた交流と協力のメッセージ』に行って来ました。
ちょうど秋のこの連休、日韓交流おまつり2013が東京で開催され、これに併せて駐横浜大韓民国総領事館が韓国出身の世界的バリトン歌手・金東圭(キム・ドンギュ)さんを招いて、川崎と清水で地元の音楽家たちとの交流コンサートを企画したそうです。東京での日韓交流おまつりに首相夫人が参加し、自身のFBで紹介したところ、批判コメントが集中した、なんてニュース、やってましたよね。
清水は、朝鮮通信使ゆかりの清見寺、日韓平和の礎を築いた徳川家康ゆかり地ということもあり、民団静岡県地方本部の皆さんが尽力され、政治の世界でギクシャクする今のような時代にこそ、民衆同士の文化交流を絶やしてはいけないという意志のもと、静岡県、静岡市、静岡商工会議所等、官民挙げて実現させたそうです。
私は、7月の静岡県朝鮮通信使研究会の例会で、静岡県議会日韓友好議員連盟の会長も務める天野一先生からご案内をいただき、最初は韓流スターの公演があるんだな~くらいの認識しかなかったのですが、8月に飲み会で久しぶりに金両基先生にお会いし、「大変意義のある会になるから、よかったら聴きにおいで」とお誘いをいただきました。
チケットは天野先生に頼めばいいのかなあ・・・でもお彼岸でお寺のバイトも忙しいし、行けるかどうかわかんないなあと迷っていたところ、突然、主催者の駐横浜大韓民国総領事館から招待状が届きました。しかもコンサート終了後に日本平ホテルで開かれる『韓日親善 瓊遥世界の夕べ』という懇親会にも参加できると。
私を、映画『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』のシナリオライターとして参加させるよう総領事館に話をつけてくれたのが、金両基先生だと分かり、ビックリ恐縮しながらも、バイトを早退させてもらって会場へ駆けつけました。
金東圭(キム・ドンギュ)さん。声楽の世界に昏い自分は初めて知るアーティストです。パンフレットの写真を見る限り、イケメン韓流スターってイメージともちょっと違う?(ファンの方、ゴメンナサイ)。
しかし一曲目の【セビリアの理髪師~私は町の何でも屋】から、痺れるような歌唱力と豊かな表現力に圧倒されました。会場からも、一曲目から割れんばかりの拍手とブラボーの掛け声。オペラは国内でも海外でも何度か観ていますが、初めて見る反応でした。「在日の同胞の方々が感極まったのかしら・・・」とも思ったのですが、プログラムが進むうちに、こんなに凄いエンターテナーがアジアにいたなんて・・・何でこの人の名前を日本で聞く機会がなかったんだろうと思えてきました。
パンフレットを見ると、イタリアヴェルディ国立音楽院を首席入学し、数々の受賞に輝き、ヨーロッパを中心に100回以上のオペラ公演、独奏会も100回以上、韓国の国家ブランドパワー声楽部門第1位に選ばれるほどの逸材とありますが、来日公演は今回が初めてだそうです。
より感動的だったのが、韓国唱歌や民謡を歌ってくれた第2部。最後に、他の出演歌手と三重奏で歌った日本の【浜辺の歌】は、涙がじんわりあふれてくるほど美しい合唱でした。
夜、日本平ホテルで開かれた『韓日親善 瓊遥世界の夕べ』は、コンサートの開催に尽力した関係者80人が集い、駐横浜大韓民国総領事館の李壽尊総領事が関係者を慰労されました。川勝知事、田辺市長、後藤商工会議所会頭はじめ、上川陽子さん、天野一さん、コンサートで伴奏を担当した静岡交響楽団の理事長曽根正弘さん等、私が個人的にもお世話になっているお歴々がそろった華やかな懇親会となりました。
食事の後には金東圭さんがピアノ伴奏だけのミニコンサートを開いてくださいました。大きなコンサートホールでマイクを使わず生声だけでも、物凄い歌唱力なのに、80人程度の小宴会場でマイクを使っての歌唱は、度肝を抜かれる迫力。お馴染み【トゥーランドット~誰も寝てはならぬ】や【マイウェイ】は、今まで聴いた誰の歌唱よりも心揺さぶられ、会場全体が「すごいもの聴いたなー」的興奮状態でした。・・・ひょっとして、初めて朝鮮通信使の行列を目撃した江戸時代の庶民の疑似体験を、今、してるんじゃないかと錯覚したほどです。
最後の〆の挨拶に立った曽根さんが「あれだけ声が出るというのは、肉食だからですね。サッカー選手も声楽家も肉をしっかり食べて体を鍛えないと駄目だとよく分かりました」と感嘆していました(笑)。
【瓊遥(けいよう)世界】という言葉、清見寺の境内鐘楼にかかる扁額の文字で、第5回朝鮮通信使(1643年・寛永20年)の製述官朴安期が書き残しました。瓊(けい)とは、もともと美しい赤い玉のこと。2つの宝石のように美しい世界が何時久しく広がっていく・・・朴安期は清見潟の景観を眺めながら、朝鮮国と日本との関係も、かくありたいと考えたのでしょうか。この言葉を今回のコンサートに使うようアドバイスしたのは金両基先生だそうです。
日本と韓国の外交関係がギクシャクする中、こういう会を実現させ、しかも理屈抜きに誰をも感動させた力とは何でしょうか・・・。朝鮮通信使は国際(国と国の交際)関係史で語られるテーマですが、家康が第1回通信使(1607年)を招いてから、最後の第11回(1811年)までの200余年間は、隣国でありながら紛争のない平和な時代であり、それを支えたのは民際(民衆同士の交際)でした。
家康が亡くなってまもなく400年という今、隣国ならではの諍いがあっても民際の太い絆が断ち切れない限り、平和は保たれるはず。この会を導いた李総領事や金東圭さんは、二十一世紀の通信使ともいえる存在で、我々はこれを最初に出迎えた歴史の証人になるかもしれない・・・そんな思いにかられながら、興奮を胸に帰路に着きました。
最後にひとつ。そんな身分じゃないのに金両基先生の顔で懇親会に混ぜていただいたせめてものお礼に、白隠正宗純米大吟醸の朝鮮通信使ラベル(白隠禅師が朝鮮通信使の曲芸・馬上才を描いたもの)を購入して持参したところ、李総領事ご夫妻に直接お渡しすることが出来ました!。
「日本酒ダイスキ」と喜んでくださった奥様、静岡の地酒の味を覚えてくださると嬉しいなあ。