GWの駿河茶禅の会京都禅寺ツアーレポートの続きです。
7日夜は大徳寺や船岡山に近い【紫野しおん庵】という京町家を1棟借りし、歩いてすぐの船岡温泉(国有形文化財の銭湯)で汗を流し、向かいの酒場でビールを飲み、しおん庵に戻ってまた飲んで、いい年齢のおっさんおばさんが修学旅行のようにはしゃぎ尽しました(笑)。しおん庵は銭湯&居酒屋は目の前だし、朝は7時から開いているパン屋さんがすぐ近くだし、家族やグループで泊まるのにもってこいでした!
8日は9時15分から見学予約をしていた大徳寺聚光院を訪問しました。ご存知・千利休の菩提寺で、会で訪問するのは2回目。表千家7代如心斎が、千利休150回忌の際に寄進したと伝わる三畳の茶室「閑隠席」(重要文化財)を改めて鑑賞し、如心斎が利休の目指した禅の厳しい教えを大切に再現したことを実感。茶庭の井戸に織部焼の滑車が付けられていたのも発見でした。
今回は、今年創建450年を迎えることから、寺宝の国宝・狩野永徳の障壁画が特別公開中ということで、ガイド付きでじっくり見学しました。ホンモノは京都国立博物館に寄託され、いつもは複製画の展示である狩野永徳と父・松栄の本堂障壁画46面(全て国宝)が9年ぶりに里帰りし、‟お寺の襖絵”という本来あるべき姿で鑑賞できたのです。描かれた花鳥が中央のご本尊のほうに向いているとか、ち密に大画面効果を考えた奥行きある作風だったことは、博物館の平面展示ではピンと来ないし、複製画とホンモノの違いは素人にもわかる。この障壁画は、昭和54年(1979)にパリのルーブル美術館からモナリザを借りたとき、そのお返しにフランスで展示されたそう。モナリザと同等の価値、というわけです。
2013年に落慶した新しい書院には、現代日本画のトップランナー千住博画伯の障壁画『滝』が奉納され、初公開されました。「時の流れを象徴するモチーフ」を表現した鮮やかな青&白い滝の見事なコントラスト。青の襖の前に黒の着物姿の男性が、白の襖の前に色鮮やかな着物姿の女性が座ると抜群のカラーセッションになる、というわけです。千住画伯は、狩野永徳の国宝障壁画に並べて観られるこの作品を生み出すのに16年格闘したそう。「この青は宇宙から見た地球をイメージしたもの。さすがの永徳でも見たことのない色だろう」と構想したとか。トップアーティスト同士の450年越しのバトルを垣間見た思いでした!
院内は撮影不可でしたので、こちらのサイトを参照してください。
七条まで移動し、智積院会館「桔梗」で湯葉料理のランチ。その後、京都国立博物館で開催中の特別展【禅ー心とかたち】を鑑賞しました。実は13時30分から地下講堂で始まる相国寺僧侶の「声明ー禅の祈り」を聴くつもりで、私一人、整理券を人数分取りに行ったら、券は一人につき1枚しか渡せないと言われてしまい、大慌て。しかも190席のうち残り40枚ぐらいしかなく、目の前で次から次へ来館した人に渡っていく。静岡から来た禅の勉強会のツアーだと話したところ、担当の女性スタッフが上に掛け合ってくれたのですがやはりNG。食事中の参加者にSOS電話をし、食事が済んだ人から駆けつけてもらったんですが、結果的に2人が取れずじまい。完全に事前確認し忘れた自分のミスで、2人には申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
その女性スタッフが整理券の残りが少なくなるにつれ、「私までドキドキしてきちゃいました…」と一言。お名前はうかがいませんでしたが、何気ないその一言に救われた思いでした。ほんとに感謝です。
肝心の展覧会は、整理券のことであたふたして集合時間や場所を伝え忘れたりして、落ち着いて観ることができなかったものの、パンフレットの表紙にもなっている国宝の雪舟筆「慧可断臂図」(洞窟で坐禅中の達磨に、弟子入りを乞うため、自分の臂を切って差し出す慧可)だけはしっかり凝視。
また、4年前の渋谷Bunkamuraの白隠展以来、ひさしぶりに白隠禅師「富士大名行列図」(解説はこちらを)に再会できて大感激でした。
芳澤勝弘先生が、白隠画の最高傑作とおっしゃるこの絵、白隠さんの意図が分からなければ、ただの富士山風景画でしょう。先生がなぜ最高傑作とおっしゃったのかが多少なりとも咀嚼できるまでになったこの4年ほどの白隠勉強を振り返り、私自身は胸一杯になりました。ほかのインパクトある白隠画に比べ、足を止めて観入る人の数は多くはなかったけれど、当会の参加者も「こういう大きな展覧会で見ると、白隠さんや富士山を見慣れた我々が、いかにすごいお宝のそばに暮らしているかがわかるね」と目を輝かせていました。
出入り口で皆を待っていたら、見たことのないゆるキャラのフォトセッションが始まりました。左側のトラは京都国立博物館の公式キャラクター「虎形琳ノ丞(通称トラりん)」、右の埴輪みたいなのは東京国立博物館の公式キャラクター「東 博(あずまひろし:通称トーハクくん)」だそうです。白隠さんの達磨像の前だと達磨像までゆるキャラに見えちゃいます(笑)。
禅展は京都では5月22日まで、東京では10月18日から11月27日まで開催されますので、ぜひお運びください。公式サイトはこちらです。
全員そろって博物館を出たのが15時40分ころ。最後に東福寺で特別公開されている法堂&禅堂を訪ねる予定だったのが、拝観受付が16時までと気づき、またまた大慌てでタクシーに分乗して移動し、ギリギリセーフ。
紅葉の名所で知られる東福寺。静岡市民にとっては地元出身の聖一国師が建立した禅宗大本山としておなじみですが、今回特別公開された法堂は、高さ25.5メートル、間口41.4メートルの堂々たる仏殿。創建当初は15メートルの釈迦仏像が安置され、脇侍の観音・弥勒両菩薩像は7.5メートルもあり、新しい大仏さんのお寺として喧伝されたそうです。造営したのは鎌倉時代の摂政関白・九条道家。現在の建物は昭和9年に再建された、昭和の木造建築としては最大級の建造物です。
天井には京都画壇の巨匠・堂本印象がたった17日間で書き上げたという蒼龍図があります。龍は仏教を守護する八部衆で、「龍神」ともいわれ、本山の多くでは法堂(はっとう)の天井に龍が描かれています。法堂は仏法を大衆に説く場所であり、龍が法の雨(仏法の教え)を降らすといわれ、火災から寺を守るという意味も込められているんですね。
法堂の柱のひとつに、日蓮柱という刻印がありました。禅宗の寺に日蓮宗の寄贈柱?と不思議でしたが、なんでも日蓮上人が他宗から迫害を受けたときに聖一国師に助けてもらったそうで、国師が東福寺建立の際、柱を一本寄贈されたそうな。昭和の再建時にも日蓮宗の門徒が寄付されたとのこと。宗教戦争が止まない国ではあり得ないエピソードですね。閉門時間16時30分とあって、30分足らずの拝観ながら、無理して駆けつけてよかったです。特別拝観は5月22日まで。詳しくはこちらを。
東福寺駅で解散し、残った9人で伏見まで移動し、今年3月にオープンした地酒屋台村【伏水酒蔵小路】で打ち上げ。ビールと焼き鳥で胃袋を落ち着かせた後、京都伏見の17蔵を一挙に試飲できる世界初の17蔵試飲セットを一気飲みしました。飲む前にソルマックをサービスで出してくれるところが粋でした(笑)。
茶禅をテーマに、ふだんはなかなか観られない国宝や特別名勝を巡った2日間。私が単純に、自分で観たいところに皆さんを巻き込んだだけかもしれませんが、同じ視線で楽しみを共有してくれた仲間の存在を、改めて心強く感じます。
禅語の、
三人同行、必有一智
(この世界に朋友ほど善きものがあるだろうか。修行の道を歩む修行者同士は「道友」として互いに切磋琢磨する仲間。そういうときお互いは友であるとともに、お互いにとっての師でさえある)
が身に沁みた2日間でした。