杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

2018年春の映画鑑賞備忘録

2018-04-14 15:18:48 | 映画

 私の唯一の息抜きと言ってよい映画鑑賞。春はアカデミー賞ノミネート関連の作品がたくさん公開されるので、毎年集中的に映画館通いをします。今年は父の四十九日が終わった1月下旬から、週1~2本を目安に通い始めましたが、今のところ大きなハズレのない良作選びが続いています。とくに女性の描き方が素晴らしい作品が多く、爽快な気分で映画館を出られました。備忘録のつもりでリストアップしておきます。

 

★ジオストーム  今年最初に観た映画。地球滅亡の危機が、気候を制御するAIの暴走によってもたらされるというプロットは斬新でした。主人公の恋人の女性SPがやたらカッコよくて、日本語吹替版のブルゾンちえみもすごくよかった。ブルゾンさん、いい声ですね。朗読とかナレーションやったらどうかな。

 

★ブラックパンサー アメコミにしては深淵なストーリー。中心人物がほぼ全員アフリカ系で、国王のボディガードが全員女性ってまさに時代の反映ですね。しかも彼女たちがやたらカッコいい!個人的には「ホビット」のビルボ役マーティン・フリーマンとゴラム役アンディ・サーキスの対決再現がツボでした。

 

★スリービルボード 娘を殺された母親の絶対泣き寝入りしない男前っぷりにあっぱれ。個人的にはアカデミー作品賞。犯人の謎を最後まで引っ張るって私の好きなサスペンス「殺人の追憶」みたいでゾクゾクしますが、母親と警官が最後に交わすセリフには「殺人の追憶」を超えた人間ドラマがありました!

 

★羊の木  ちょっと残念だった作品。女性の描き方も残念。プロットはすごく面白いので、ブラックコメディにしたほうがよかったんじゃないかな。

 

★コンディデンシャル―共助  北朝鮮のイケメン刑事と韓国の熱血刑事が協働で、偽札造りの犯罪組織を追うという骨太エンターテイメント。対立構造の中にも存在する共感覚というプロットを素直に楽しめました。北の刑事をイケメンにしたのは北への忖度だろうか…笑?

 

★嘘八百  堺を舞台に、千利休ゆかりの茶碗の贋作で一儲けしようという詐欺師と骨董屋の怪しい世界をコミカルに描いた作品。白隠研究でおなじみ芳澤勝弘先生の名訳著『欠伸稿』が思わぬ形で登場して嬉しい限り!

 

★デトロイト アメリカの黒歴史に斬り込むキャスリン・ビグロー監督の容赦ない実話再現力に惚れ惚れ。女性フィルムメーカーの星ですね!スターウォーズ新シリーズのジョン・ボイエガが演技派だと知って得した気分でした。


★シェイプ・オブ・ウォーター こちらもヒロインの逞しさに惚れ惚れ。ダイバーシティの寓話化というのかな、今観るべき価値のある作品でした。

 

★グレイテスト・ショーマン  アカデミー賞授賞式での歌姫キアラ・セトルの「This is me」を聴いて映画館へ直行。

 

★ナチュラルウーマン  アカデミー外国映画賞。ホンモノのトランスジェンダー歌手が演じるトランスジェンダー歌手の役。これも今観るべき価値ある作品。

 

★15時17分、パリ行き  実際に起きた列車内テロを身を挺して防いだ一般市民を、当事者本人に演じさせるという今まで見たことのない映画。しかも事件前の平凡な日常を丁寧に描く。87歳でこういう挑戦ができるイーストウッド監督に惚れ惚れ。

 

★ペンタゴン・ペーパーズ~最高機密文書  情報公開法や公文書管理法に対する注目が高まる今、必見の作品。ワシントンポスト社の女性オーナーや編集長が、自身の地位(ポスト)と向き合う人間ドラマでもあるわけで、原題の「The Post」のほうがしっくりきますよね。「大統領の陰謀」や「ニクソン」を続けて観たくなります。WOWOWで放送するときはぜひお願いしたい。

 

★リメンバー・ミー  時間つぶしに観たアニメでしたが意外に深かった!メキシコの死者の日=日本のお盆のような民俗信仰をこんなに楽しくて感動的なエンターテイメントに仕上げるなんてさすがディズニー。アニメで「死」や「魂」を描くときの日本(たとえば「君の名は」)とハリウッドの違いが改めて分かりました。とにかく家族写真は大切にしなきゃ。

 

★しあわせの絵の具  モード・ルイスの絵はどこかで見たことがあると思いますが、こういう背景を持った人だと知ってより一層親しみを覚えました。モードを演じたサリー・ホーキンスはシェイプ・オブ・ウォーターでアカデミー主演女優賞にノミネートされましたが、こちらの方がスゴイ。彼女のハンディキャップ演技は演技とは思えません。

 

★ウィンストン・チャーチル  ゲイリー・オールドマンは私のお気に入りスパイ映画「裏切りのサーカス」でのアカデミーノミネーション演技に痺れてましたから、本作での受賞は当然という感じ。チャーチルの人となり(朝昼晩酒を欠かさないとか)をよく知らなかったので純粋に勉強になりました。こちらも「英国王のスピーチ」や「ダンケルク」を前後に観たくなる。WOWOWさんお願いします。

 

★素敵なダイナマイトスキャンダル  一世風靡した風俗雑誌の名編集長の自叙伝。ラジオでご本人が映画の紹介をするのを聴いて映画館へ直行。幼い頃、実母が愛人と駆け落ち&ダイナマイト爆発心中したというトラウマが効果的にインサートされて、主人公の人となりがしっくり伝わってきました。実母役の尾野真千子さん、NHKで「カーネーション」の再放送が始まりましたが、今の日本の女優さんでピカイチだと思います。

 

★クソ野郎と美しき世界  元SMAPの3人は、昔から素晴らしい演技派だと思ってた3人でしたが、本作はなんといっても園子温、太田光、山内ケンジという監督名に惹かれました。とくに山内さんは静岡県民におなじみ「コンコルド」のCMディレクターで、古館寛治さんも本作にしっかり登場されて安心?しました(笑)。オムニバスじゃなくて3人がちゃんと出演するオーシャンズ11みたいな作品が観たいな。


フランケンシュタインとホビット

2014-03-30 21:22:11 | 映画

 年度末バタバタしている中、急に2日間ぽっかり空いたので、取材予定先の下見を兼ね、東京へ行ってきました。観たい映画や展覧会が目白押しでした。

 

 

 一番のお目当ては、日本橋の新名所・コレド室町2にオープンしたTOHOシネマズ日本橋で限定上映の『フランケンシュタイン』。ロンドンのロイヤルナショナルシアターで上演された舞台のライブシネマです(こちらをご参照を)。

 お気に入りの英国ドラマ『SHERLOCK』で現代版シャーロックホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチと、米国ドラマ『エレメンタリー』でNY版シャーロックホームズを演じたジョニー・リー・ミラーが、ブレイクする前、怪物と博士を相互に演じて数々の演技賞を受賞した話題の舞台。後に同じ役をまったくテイストの違うドラマで演じるなんて面白いですよね。

 

 

 28日に観たのは、カンバーバッチが博士役、ミラーが怪物を演じたもので、二人の怪演に圧倒されっぱなしでした。演出は映画監督のダニー・ボイル。『トレインスポッティング』『普通じゃない』『ザ・ビーチ』『スラムダッグ$ミリオネラ』『127時間』と、この人の作品はよく観ていて、どの作品も人間の泥臭さを手痛く、かつスタイリッシュに表現しています(ロンドン五輪開会式の演出はやや大人しかったような気も・・・)。

 今回の舞台は、今まで映像化されてきたフランケンシュタインのイメージとは異なり、怪物も博士も若くてエネルギッシュでカッコいい。映画と違い、舞台のシンプルなセットのせいか、二人の存在感がよけいにビンビン伝わってきます。今更ながら、身ひとつで表現する舞台こそが、役者の真の力量を示すものだと解る。否が応でも本物の舞台を見たくなります、ホント。

 

 カンバーバッチが怪物を演じた回もスゴイみたいで、こちらは今週末の上映予定。残念ながらチケットは完売のようです。

 

 

 

 

 

 今回、間際にもかかわらず運よく入手できたチケット、TOHOシネマズ日本橋の巨大スクリーン“TCX”と最新音響システムDOLBYATMOSを装備したスクリーンでの上映で、今までにない臨場感で楽しめました。席は最後尾でしたが、スクリーンが壁一面のデカさで、アトモスというドルビーの革新的なシネマ音響によって、最後尾のハンディはまったくありません。

当初、映像で、舞台のナマの迫力がどこまで伝わるのか懐疑的でしたが、こういう映画館なら観る価値があるなあとしみじみ。観た後はどうしてもナマの舞台に行きたくなるし(ロンドンは遠すぎるけど)、舞台製作者にとってメリットは大きいはずですね。

 

 

 

 ちなみに、新規オープンのコレド室町2、1階にはヴィノスやまざきさんがワインショップを開店されていました。ワインだけかなと思ったら、店頭に堂々と静岡の地酒!・・・しかも磯自慢、開運、初亀、喜久醉、國香と実力銘柄がズラリ。日本橋のど真ん中で、実に誇らしいです。ヴィノスやまざきさんありがとうございます!

 

 

 

 

 翌29日には、ユナイテッドシネマとしまえんまで行って『ホビット~竜に奪われた王国』を観て来ました。大好きな『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の60年前のお話で、童話として有名ですよね。映画化された『ホビット』も3部作で、『竜に奪われた王国』は2作目。1作目の『思いがけない冒険』を、IMAXシアターのHFR3D版上映のある湘南まで観に行った話はこちらで紹介しました。

 

 『竜に奪われた王国』も、通常の2D版は静岡で観たのですが、TOHOシネマズ日本橋で新しい映像装置の素晴らしさを体感した後だっただけに、やはりIMAXシアターのHFR3D版を観たくなり、ネットで調べたら都内でも数館しかなくて、朝9時10分から上映するユナイテッドシネマとしまえんまで遠征することに。

 

 1作目もIMAXとHFRのスゴさを堪能できたけど、2作目は激流の川下りやら巨大竜との戦いなど“規格外”のアクションシーン満載で、よけいにIMAXとHFRのよさが発揮されたと思いました。進化する映像技術をいかんなく活かす映像表現・・・映画監督には途方もない空間デザイン力が求められる時代になったようです。

 

 

 ちなみにホビット3部作の主演は、『SHERLOCK』でワトソンを演じるマーティン・フリーマン。ワトソンは実にはまり役ですが、ホビットの主役ビルボ・バギンズは彼以外に想像できない、ベスト・オブ・はまり役!。非日常なシチュエーションを、常識的な表情やしぐさで自然にさりげなく、でもちゃんと観ている者にビルボの内面が伝わるように演じきるプロフェショナルです。ホームズ役のカンバーバッチが、ホビットでは悪の巨大竜をモーションキャプチャーで演じ、マーティン演じるビルボと対決するのがこれまた面白いのです。監督のピーター・ジャクソンは絶対にドラマSHERLOCKのファンなんだろうなあと思いました。

 

 5月から、NHK BSプレミアムで、SHERLOCK第3シリーズが始まるようです(こちらを)。たぶん放送前にはSHERLOCK第1シーズン、第2シーズンの再放送もあると思いますので、見逃した方にはぜひおススメします。

 

 


天使の分け前

2013-07-19 20:49:14 | 映画

 今月は映画を1本も観ることができず、ストレスが溜まりに溜まっていたのですが、やっと時間がとれて、静岡のシネギャラリーで今日(19日)まで上映の『天使の分け前』を、ギリギリセーフで観てきました。2012年のカンヌ映画祭審査員賞受賞作品ですね(ちなみに今年の審査員賞は是枝監督の「そして父になる」)。

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 それにしても、小粋なタイトルですよね、天使の分け前って。お酒の用語なんですよ。

 

 私がテキストにしている『ウイスキーの教科書』(樋口孝司著)によると、熟成中のウイスキーは水分と一緒に不快な香味成分(硫黄化合物など)を樽の外へと放出します。これを専門用語で「蒸散」というのですが、蒸散の働きによって雑味や刺激臭が和らぎ、年2~3%液量が減る。これを“天使の分け前”というのです。

 

 

 

 蒸散せずに残った液体は酸化し、熟成し、樽材から溶け出した香味成分と、アルコールや脂肪酸などがエステル化して、ウイスキー独特の香りになるのです。

 

 

 というわけで、この映画、ウイスキーのウンチクがたっぷり楽しめるかと思ったら、まったく違ってました。

 喧嘩に明け暮れるグラスゴーの青年ロビーが、収監を免れる代わりに課せられた社会奉仕活動の指導者ハリーによって人生を一変させるハートフルコメディ。ロビーを親身に世話するハリーがウイスキー愛好家で、蒸留所見学やテイスティングの会に連れて行かれるうちに、ロビーは利き酒能力に目覚め、100万ポンドの樽入り超高級ウイスキーや世界的なコレクターと“対峙”することに。周囲の人間と衝突してばかりの落ちこぼれ青年が、恋人に子どもが生まれたことで己を振り返り、生まれて初めて信頼できる大人に出会って、己の知恵と度胸で一発逆転の勝負に出る・・・彼に、“天使の分け前”が与えられるのかどうか、最後までハラハラさせられます。

 

 

 

 

 期待していた酒造りの映画ではなかったけれど、彼の周りの不純なものが蒸散していく過程は、まさにウイスキーの製造工程そのもの。原料に果物は使わないのに「フルーティーだ」と表現したロビーのテイスティング能力を、プロの専門家が評価したり、ロビーが「潮の香りがする」と評したことに仲間がビックリするくだりなど随所にテイスティング用語が使われ、利き酒の経験がある人ならば思わずニンマリ。幻のシングルモルトにオークションで100万ポンド(1億3千万円)以上もの値段をつける道楽者たちに、ひと泡ふかせる大芝居が、なんとも皮肉で痛快です。

 

 最後はちょっと甘いんじゃないの~?とも思えるオチだけど、ロビーが人間として成長していくには、相応の熟成期間が必要だろうし、天使の分け前をどう活かすのかは、また別の物語になるんでしょう。

 

 

 

 

 映画に登場するウイスキーは、超幻のモルト・ミル、ラガヴーリン16年、スプリングバンク32年、クラガンモアなど。とても手が出る酒ではありませんが、せめて名前だけでも覚えておかDsc02465
ねば。

 ちなみに私が「飲んだどー!」と自慢できるスコッチは、65歳のボウモア。ウイスキーの味や香りは、麦が育った土の環境、麦芽を完走させるときに燃料と一緒に使うピート(泥土)、酵母の種類、水の環境、樽の種類、そして熟成の時間・・・実に複雑な要素が絡み合います。これに比べたら日本酒はシンプルだけど、シンプルゆえに職人の手加減匙加減がストレートに左右する。・・・どっちもスゴイ酒だと思います。

 

 

 いつか自分も、日本酒造りの過程を人生になぞらえた物語が書けたら・・・なんて思っちゃいました。

 

 ちなみに、日本酒に“天使の分け前”に相当するものってあるのかなあ。あったら誰か教えてください。


『シュガーマン~奇跡に愛された男』を観て

2013-04-14 15:17:10 | 映画

 12~13日と東京。2~3件、仕事がらみの用事もあったのですが、2日間たっぷり感性の充電が出来ました。

 

 

 まずは映画から。今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した『シュガーマン~奇跡に愛された男』を観ました(公式サイトはこちら)。劇場で一般公開されるドキュメンタリー映画というと、戦争の悲劇や社会問題をより深く、センセーショナルに扱った重~いテーマが多いのですが、観た後で、これほどジワジワと感動と葛藤が交錯する気分になったのは久しぶりでした。

 

 

 

 デトロイトの貧困層出身のミュージシャン、ロドリゲスは、1960~70年代、ボブ・ディランよりもインパクトのあるメッセージ性の高い楽曲(「シュガーマン」は代表曲名)を発表し、一部で高く評価されたにもかかわらず、リリースした2枚のLPは全米ではまったく売れず、本人はレコード会社から干され、そのうちに消息不明に。ところが、遠く離れた南アフリカで、偶然、アメリカ娘がカセット録音して持ち込んだ彼の歌が、若者や反アパルトヘイト活動家の間で評判になり、本人がまったく知らない間に彼の名前はエルヴィス・プレスリーよりも有名になり、プロフィールがまったくの謎のままだったので“コンサート中にファンの目の前で自殺した伝説のロックミュージシャン”にされてしまった。彼の音楽で育った南アのジャーナリストとレコード店主が、90年代後半、謎を追求しようとネット等で調査をし、思わぬ事実にたどり着いた・・・。その顛末を、ロドリゲスの音楽とともに、関係者の証言と回想で追取材したドキュメンタリーです。

 

 

 こんなふうにサラッと説明すると、よくあるミュージシャンのちょっとユニークな伝記映画のように思われるでしょうが、ほかの伝記映画と違うのは、ロドリゲスという人物の、成功者なのか不遇者なのかよくわからない、つかみどころのない魅力。南アフリカでいくら伝説になったといっても、実際に売れたレコードは海賊版みたいなシロモノだから印税はおろか、本人はまったく知らない話だし、彼を干したアメリカのレコード会社オーナーも信じようとせず、「そんなに売れたのなら、誰が儲けをくすねたんだ」と怒り出す始末です。

 

 プロのミュージシャンで食べていく道をあきらめ、デトロイトの日雇い労働暮らしに戻ったロドリゲス。映画では、「彼が工事現場にもきちんとした身なりで来る紳士的な男で、教養も高く、社会の底辺の暮らしにも腐らず、懸命に働き、社会的問題にも眼をそらさない真面目な男だった」という証言が紹介されていました。

 

 

 後半、浮き彫りになる彼の素顔は、シュガーマン(=麻薬売人)なんて歌を作るような反社会性を微塵も感じない、おだやかな聖人のようです。彼はネイティブアメリカンとメキシコ系の血を引いているようですが、昨年夏、アリゾナのナバホで出会ったホピ族のジュエリー店主に、どことなく雰囲気が似ていました。

 他人の証言だけだったら、本当にこんな人、実在したのかなあと疑いたくもなるけど、そうじゃないところがこの映画の凄さ。ネタバレになるので、これ以上は書きませんが、「多くの人(ミュージシャンやクリエーター等)が、世の中から正当に評価されず、存在すら知られずに消えていく。彼も、奇跡的に一瞬、伝説にはなったが、はたして成功者といえるだろうか・・・」というくだりでは、なんだかじんわり泣けてきました。

 

 

 今、曲を聴けば、ボブ・ディランを凌駕するほどの素晴らしい音楽性と思惟に富む哲学的な歌詞なのに、当時のアメリカでは見向きもされず。南アでは100万枚以上売れたのに儲けたのは海賊版製作者だけ。20年以上経って追っかけファンがこうして立ち上がらなければ、一生浮かび上がることのない才能です。そういう才能が、世の中には本当にたくさんあるし、とりたてた才も能もない、ただのローカルライターの自分にだって、“一生懸命やっているのに周りから評価されない、自分が書いたものだって気づいてもらえない”という自虐的な思いがあります。

 なのに、一国の社会体制をひっくり返す力をも持つ音楽を創り出した人なのに、正当に報われず、その矛盾と、報いを求めようとしない、そんな彼の生き方に心を揺さぶられるのです。

 

 

 

 

 この映画によって、ロドリゲスというミュージシャンの名前が、音楽史にどのように刻まれていくのかわかりませんが、この映画を世に送り出した製作者は、映像クリエーターとして大きな使命を果たしたことだけはわかりました。

 

 

 静岡でも早く公開されるとよいのですが、アカデミー作品賞を取った『アルゴ』同様、静岡の映画興行主のお眼鏡には、すぐに留まらなかったんでしょうか、それとも地方の映画館にお鉢が回るまでは時間がかかるってことでしょうか・・・才能を見出すって難しいですね、ホント。


映画ならではの斬新な表現

2013-02-16 10:13:37 | 映画

 このところ、幸か不幸かバイト先のお寺さんからお呼びがなく、時間に余裕が出来たので、読書や映画鑑賞に勤しんでいます。昨年末に購入したKindleを、ようやく活用できるようになり、『光圀伝』『利休にたずねよ』の電子版を立て続けに読みました。本なら結構のブ厚さになるので、携帯がホント、楽です。昨日からは横山秀夫の『64』を読み始めました。「読み終わるまで9時間15分」ってわざわざ表示してくれるんですよ(苦笑)。

 

 

 昨日(15日)は午前中、グランドハイアット東京で行われた『インターナショナル・サケ・チャレンジ』『ジャパン・ワイン・チャレンジ』の授賞式をのぞきに行き、午後は東京ビッグサイトに『スーパーマーケットトレードショー2013』を視察。夕方は、銀座テアトルシネマで上映中の『塀の中のジュリアス・シーザー』を観ました(公式サイトはこちら)。

 

 

 ローマ郊外の刑務所で実際に行われている演劇実習が舞台で、囚人がシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」を演じるまでのドキュメンタリータッチのドラマ・・・という触れ込み。演技が素人の囚人たちが、実習を通して成長・団結をしていく舞台裏を追ったもの、とばかり思っていましたが、想像をはるかに越えた、今まで観たこともないスタイルの映画でした。

 

 

 囚人たちはすべて実名出演で、刑務所内は自由に撮影OK、という日本ではあり得ないシチュエーション。ホントに素人?実はプロの役者が演じてるんじゃないの?と見紛うほど、みんなうまいし、“役者顔”をしています。「ジュリアス・シーザー」自体が裏切り・扇動・反乱といったテーマだけに、主人公のブルータス役やシーザー役の囚人は、演技と現実が混乱してくる。その混乱ぶりも、あまり度が過ぎず、映像的も変に凝らず、一貫して刑務所の中と上演会のシーンだけを淡々とつなぎます。囚人たちの、素なのか、演技実習なのか、観ているこちらの混乱するようなすさまじい存在感。最近、ゲキシネとかいって舞台演劇をそのまま映す映画が増えていますが、それともまったく違う。・・・なんというのか、映画でしかできない、まったく新しい表現方法だと思いました。

 

 監督は、新進気鋭の若手かと思ったら、御年80歳を越えた超ベテランのタヴィアーニ兄弟。カンヌのパルムドール作品『父/パードレ・パドローネ』、グランプリ作品『サン・ロレンツォの夜』等の巨匠。本作ではベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)を受賞しています。今日(16日)から静岡のシネギャラリーでも上映が始まりますので、ぜひご覧ください!

 

 

 

 

 今週はもう1本、レンタルDVDで観た『ロック・アウト』という邦画が印象に残りました。高橋康進さんという若手映像作家の長編初作品で、2009年ニューヨーク国際インディペンデント映画祭で最優秀監督賞・最優秀スリラー賞を受賞しています。公式サイトが見つからなかったので、こちらを参照してください。

 

物語は失業して希望を失った若者があてのないドライブ中に出会った少年と、ある種の心の交流を通して自己再生していくという、シンプルなロードムービーなんですが、これがNYでスリラー賞を取ったというところがミソ。主人公がいつブチきれるのか、終始、どきどきザワザワ、落ち着かなくて、少年にも何かトラウマがあるんじゃないかとか、失業した会社にも裏があるんじゃないかとか、観ているほうの妄想を駆り立てる。そして、意外なほど、爽快なオチ。巨匠のタヴィアーニ兄弟作品と比べて何ですが、この映画も、ある意味、映画でしかできない面白い表現アプローチという点で共通項を感じました。

 

 特典映像で、高橋監督や主演俳優さんが手弁当で海外の映画祭に参加し、懸命に売り込み努力をしているところが、また、グッときました。映画は言葉や文化の壁をいともかんたんに超えて、受信能力のある人にはちゃんと伝わる・・・映画作りの醍醐味を、あらためて教えられた気がしました。

 

 

 これは、午前中の『インターナショナル・サケ・チャレンジ』の授賞式でも、同じように感じました。日本酒は、いまや、本当にグローバルな食文化になりつつあります。受信感度の高い、よき理解者、支援者、同志をみつけること・・・酒造りも映画作りも課題は同じなんですね。

 

 

 

 昨日(15日)は日刊いーしず連載中の『杯は眠らない』第3回がUPされましたので、こちらもよろしくお願いします!