21日(日)、山梨県富士河口湖町にある県立富士ビジターセンターの講座【古資料に見る明治大正の富士登山】を受講しました。
以前、中日新聞の取材でビジターセンターを訪問したとき、講座の予定を知って、今回は仕事というより個人的な興味と取材リサーチを兼ねての受講です。
中央高速河口湖ICと、東富士五湖道路富士吉田ICに近い、富士スバルライン沿いにある富士ビジターセンター。富士山世界文化遺産登録に合わせ、1階展示フロアを大々的にリニューアルしました。以前取材に行ったときは工事中でしたが、今回はこのとおり。
ビジターセンターの敷地に、山梨県側の世界遺産センターの建設も決まっているそうで、いまだに建設地が決まっていない静岡県側から見ると、やっぱり富士山への“投資”は山梨のほうが進んでいるのかなあ・・・。
それはさておき、ビジターセンターでは毎月、「富士山ふるさと再発見講座」を開催中(こちらを参照)。7月21日は、元富士山レンジャーで“富士山好事家”を自称する萱沼進さんが、ご自身がコレクションする明治大正時代の富士山ガイドブックや雑誌の記述を紹介してくれました。萱沼さんのブログ(こちら)には興味深い富士山ネタが紹介されていますので、ぜひご参照ください。
今回、メインで取り上げたのは1905年(明治38)8月15日発行のグラフ誌【富士画報】。近事画報社という出版社が発行する【戦時画報】の特別版です。
戦時画報は、日露戦争の戦時状況を伝えるグラフ誌で、国木田独歩が編集長を務めていたそうです。1905年8月といえば、日露戦争で日本が勝ってポーツマス条約が締結された頃。富士山で特集号を組んだのは、国中が戦勝祝いで盛り上がり、富士登山者がグッと増えたから、というわけです。今で言えば、世界文化遺産登録祝の特別号って感じでしょうか。
この年、7月末に実際に富士登山をした作家杉浦野外坊と写真家・挿絵画家・編集者の4人が、新橋から鉄道に乗って御殿場口から富士登山をし、富士宮経由で帰ってくるまでの、今で言えば登山体験レポートが掲載されています。
戦時中のグラフ誌ながら国木田編集長の目利きのせいか、記事も挿絵も写真も秀逸のようです。
講師の萱沼さんの読み下しを聞きながらパワーポイント資料を眺めただけなので、詳しい記述はわからなかったのですが、たとえば新橋から御殿場までの汽車の道中で、ラムネの瓶が破裂した「ラムネ爆破事件」とか、二百三高地の形状に似せた“二百三高地巻き”という女性の髪型が当時流行っていて、汽車で居合わせた「二百三高地美人」にうつつをぬかしていたとか、登山者の荷物を運ぶ強力(ごうりき)には、素人の登山者を騙して高額をふっかける輩が多かったが、御殿場登山道では強力の組合組織があり、“明瞭会計”をモットーに登山客の評判を高めていたなど、当時の庶民の旅行登山の様子が垣間見える“小ネタ”が盛り沢山。
洋服&わらじで登るのが当時のトレンドで、わらじは最低4~5足持参、寒さ対策として和紙に油を浸した油紙と着ゴザが必携だったとか、登山を甘く見ていた同行者が高山病でダウンしたり、雨中に強行登山し、浅間神社で祈祷を受けたら奇跡的に雨が止んだとか、女学生の山ガール一行を追いかけてお鉢巡りを逆走したとか、登山のノウハウを実践レポートしながらも、当時の尖がった?知識人らしい自由闊達な描写。同じ戦時中でも、太平洋戦争時にはこんな雑誌は作れなかっただろうなあと思いました。
ご存知の通り、富士山の登山道は、富士吉田口、須走口、御殿場口、富士宮口の4つ。江戸時代、さかんだった富士講の巡礼者は主に富士吉田口を利用していました。
明治16年に東海道線が開通すると、御殿場口が一番人気に躍り出ます。丹那トンネルが出来るまで、東海道線は今の御殿場線を走っていたのですね。で、駅から一番近い登山口が御殿場だったというわけです。
萱沼さんがコレクションしている当時の絵葉書がこれ。SLをバックにした富士山、かっけー!ですよね。
【富士画報】では、東京からのお勧めルートとして①御殿場口、②富士宮口(鈴川駅から大宮まで鉄道馬車利用)、③須走口(御殿場から鉄道馬車で要3時間)、④富士吉田口(東京から最も不便)と紹介しています。
富士吉田口は、現代では最も登りやすく、登山者が最も多い人気登山口ですが、当時は大月まで汽車で行き、鉄道馬車を乗り継いで登山口まで半日~1日かかってしまっていたようです。
こちらは、萱沼さんの古絵葉書コレクションでビビッときた「金明水」。山頂近くの湧水スポットで、御殿場の地酒「金明」の酒銘の由来となった水です。地酒「金明」についてはこちらのブログもぜひ合わせてご覧ください。
萱沼さんの富士山講座第2弾は、9月8日(日)13:30~15:30から「忘れられた富士講~鳴沢村山臣講関連碑をめぐる考察~」が開催されます。受講無料。興味のある方は富士ビジターセンターへご予約ください。fuji-v.c@peach.ocn.ne.jp