1月27日(日)~28日(月)と伊豆の下田に行ってきました。地酒に関する活動や取材が目的でしたが、天候に恵まれたこともあって、空き時間を利用し、爪木崎と石廊崎の灯台周辺を
歩いてみました。
現在、伊豆地域では『伊豆ジオパーク構想』を進展中で、昨年秋に発行された県広報誌『ふじのくに』でも特集記事を作りました。このとき、実際にジオパークとして注目される地点を回る時間がなく、借り物の写真で済ませてしまったのが心残りで、何とか機会をつくって自分で写真を撮りに行きたいなあと思っていたのです。
下田の爪木崎も石廊崎も、過去、何度か行ったことがありましたが、ジオパークという視点で観ると、なんだかまったく違った世界に感じました。
伊豆半島というのは、今から約2千万年前、太平洋の海底火山群がフィリピン海プレートで移動し、日本列島に衝突して降起したといわれます。伊東の城ヶ崎海岸や大室山、西伊豆の黄金崎や堂ヶ島、天城山や浄連の滝、そして伊豆の代名詞でもある数々の名湯や名水は、このような成り立ちが生み出したものなんですね。
爪木崎の不思議な俵磯も同じ。火山の地下から上昇したマグマが、海底で噴火を起こさず、地層のすきまに入り込んで固まってしまうことがあります。そうして出来た岩体を「シル」と言うそうですが、俵磯のシルは六角柱状になっていて、マグマが冷えるときに体積収縮で割れ目が出来ました。これを「柱状節理」と称します。
以前から、不思議な岩だな~と思っていましたが、こうやって地質学的特徴を知ったうえで観ると、「身近にこんなスゴイ地学の標本があったのか、子どもの頃から知っていたら地理や自然科学が得意科目になっていたかも」・・・なんて思っちゃいました。
こちらは田牛海岸にある竜宮窟。海岸には何度か行ったことがあるけれど、「竜宮窟」のショボい看板(失礼!)を気に留めることはまったくありませんでした。暗い石段を下ると、自然の浸食が創り出したなんとも美しい空間が広がっていました。
スケールは違うけど、昨夏に訪れたグランドキャニオンやアンテロープキャニオンの造形美を思い出し、ここもジオパークとしての解説看板をしっかり作れば、人気観光スポットに生まれ変わるかも、と感じました。
「ジオパーク」とは、ギリシャ語で大地を意味する「ジオ」とパーク(公園)をつなげた言葉。1990年代にヨーロッパで生まれた造語です。
18~19世紀、資源開発を目的に発展した地質学が、20世紀後半、“自然遺産を暮らしに生かす”という視点で再認識され始めたんですが、一般市民も、自分たちが暮らす地域の地形や地質の特徴を科学的に学び、観光や地域づくりに生かし、経済的に保全継続させそうと動き出します。対象となる自然を「ジオパーク」と呼び始めたこの活動は、やがて地球規模に広がって、2004年、ユネスコ支援のもとで世界ジオパークネットワークが発足。これまでに世界26カ国92ヵ所が「世界ジオパーク」に認定されています。
世界遺産と違うのは、地元が自主的に、経済的に保全継続できるしくみづくりが重視される、という点です。観光や地域づくりにいかに活かせるか、がポイントなんですね。
日本ではジオパーク構想に近い活動に取り組んでいた糸魚川(新潟)と島原半島(長崎)他が中心となって、日本ジオパーク委員会が立ち上がりました。2008年12月に、洞爺湖有珠山、糸魚川、島原半島、アポイ岳、南アルプス中央構造線エリア、山陰海岸、室戸の7地域が日本ジオパークに認定。その後、数が増え、2012年9月24日に伊豆半島を含む5ヶ所が加わり、これまでに25ヶ所が認定を受けました。うち、糸魚川、島原半島、山陰海岸、室戸岬、洞爺湖有珠山の5ヶ所が世界ジオパークに認定されています。
伊豆半島では1990年代から静岡大学の小山真人教授が地質学的特性に着目したジオパーク的構想を提唱し、2000年以降、伊東市を中心に講座やフィールドワークを継続的に行ってきました。
08年に日本ジオパーク委員会が発足した後、09年の県議会で川勝知事が「伊豆ジオパーク構想」を初めて表明し、ジオパークという言葉が広く注目されるようになります。
知事の提言を受け、伊豆半島の6市6町が足並みを揃え、各地でジオパーク認定に向けた研究会や調査活動が本格的にスタート。11年3月には伊豆地域13市町・県・観光協会・企業・大学等が結集し、『伊豆半島ジオパーク推進協議会』が発足。協議会発足からわずか1年半で、日本ジオパークの認定を受けました。
これから目指すは、もちろん世界ジオパーク認定。世界への推薦は各国1年あたり2件までという制限があるため、推進委員会では13~14年度にかけてしっかりと実績を積み、国内推薦を勝ち取り、15年度の世界認定を目指して活動中です。
小山教授がまとめた「伊豆ジオパーク構想提案書」の序文には、川端康成のこんな言葉が紹介されています。
「伊豆半島全体は一つの大きい公園である。一つの大きな遊歩場である。つまり、伊豆は半島のいたるところに自然の恵みがあり、美しさの変化がある。」
「面積の小さいとは逆に海岸線が駿河遠江二国の和よりも長いのと、火山の上に火山が重なって出来た地質の複雑さとは、伊豆の風景が変化に富む所以(ゆえん)であろう。」(川端康成 『日本地理大系』第6巻、昭和6年2月より)。
小山教授曰く、「川端康成は、地形・地質の多様さ・複雑さが、伊豆独特の自然の美しさの原因であることを見抜いていた。とくに、“火山の上に火山が重なって出来た”という表現は、伊豆の大地の本質を見据えたものであり、現代の専門家も脱帽せざるをえない。“伊豆半島全体が一つの大きい公園である”も卓見である」とのこと。
つねづね、優れた文学者とは、優れた観察者であり、分析家であり、ものごとを感覚ばかりでなく、きちんと論理的にとらえる頭脳の持ち主ではないかと思っていましたが、この一文を読んで改めて実感しました。
石廊崎の先端にある祠と、その背景に見つけた風力発電の風車(ちょっと写真では見づらいですが、右下写真の中央の稜線の上に風車が数基立っています)。
ジオパークの象徴的な場所に、感性と知性が同居する、見様によっては実に不思議な風景です。
これが21世紀なんだなあと妙にしんみりしちゃいました。
伊豆ジオパーク構想については、こちらのサイトをご参照ください。