杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

つまんでごろーじ県内発表会

2008-02-29 10:07:11 | 社会・経済

 ローカルニュースや今朝の新聞等でも紹介されたとおり、28日は、静岡県商工会連合会が企画開発した、静岡の酒と肴のギフトセット『つまんでごろーじ』の県内発表会がありました。

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   県産業経済会館で行われた試食・試飲会では、ホテル、百貨店、スーパー、通販業者、酒販業者の方々や、テレビ、新聞、雑誌、タウン紙等のメディア関係の方々に集まっていただき、県内初お披露目となりました。私は過去ブログでも紹介したとおり、企画アドバイザー兼コピーライターとしてネーミングやキャッチコピー、リーフレットの制作等を担当しました。

 各商品を開発した清信一さん(誉富士の酒・富士錦酒造)、鈴木勉さん(稲取きんめの煮付&卵のみそ漬け・なぶらとと)、望月由喜男さん(由比さくらえびの粕漬け・望仙)、山田光男さん(浜名湖カキの佃煮・山長商店)が、来場者に直接、商品開発の苦労話やアピールポイントを説明。私もパッケージに込めたこだわりや、業者がお客に商品説明をする際のポイントなどを紹介しました。

 地元の食通・情報通が集まった会だけに、どんな反応が返ってくるのか戦々恐々でしたが、食の安全性やトレーサビリティが毎日のように事件扱いされる昨今、究極の地産地消ともいえる企画意図やこだわりが琴線に触れたようで、「県内3ヶ所のご当地グルメの中でも今までにない珍味ばかり」「どれも味がよく、日本酒とよく合う」「全部で5000円は手ごろ」と喜んでいただきました。

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 静岡伊勢丹の松村彰久社長は「すぐにギフト商材にしたい。限定数でもかまわない。お中元の目玉になる」、静岡リビング新聞社の杉本幸子編集長も「グッドアイディア。全国リビング新聞ネットワークの集まりなどで自慢できる」と太鼓判。早くも生産予定個数を突破しそうな感触に、当事者たちは「モノが獲れるかどうかは漁次第。とくに金目鯛の卵、浜名湖のカキは数量が限られることを、どう理解してもらうか」と新たな心配に見舞われます。

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 ちょっと前の、売り手優先の考えだったら、数をそろえることにとらわれ、足りない商材は他所から取り寄せて“偽装表示”する・・・なんてことも有り得たかもしれません。

 買い手優先の今は、数が足りないリスクよりも、中身を偽るリスクのほうがはるかに高く、業者にとっては命取り。今回の4業者は、地域で真っ正直に商売をされてきた方々ばかりなので、それこそ素直に「注文数を揃えられなかったら申し訳ない」と感じられたと思いますが、その姿勢は堂々と示すべきだし、「限定でもかまわない。むしろそうすべき」という松村社長のひと言にも勇気付けられました。

 そうはいっても、せっかくこだわったいいモノを開発したのですから、「欲しい!」という声には100%応えたいというのが作り手の心情。発表会前後のミーティングでも、受注方法、各商品の収集方法、表示ラベルの方法など喧々諤々と話し合いが続きました。

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 13時30分からの県内発表会の後、県庁に移動して、石川知事を表敬訪問しました。業者の方々はやや緊張されていたようですが、私は、知事がどのつまみに最初に手をつけるのか興味津々。「なるほどな~、やっぱり珍しいアレかぁ」とナットク?しました。

 酒米『誉富士』は知事が選んだ名前だけに、思い入れもあるようで、「これも公務ですから」と楽しそうに試飲されていました。

  

 富士錦酒造の清社長と私は、夕方、静岡県酒造組合静酉会の会合に顔を出し、今年9月の静岡県地酒まつりIN東京と、浜松地区で予定される10月1日静岡県地酒まつりについての検討に加わりました。

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 その後の懇親会で、『つまんでごろーじ』の肴3種のサンプルを、各蔵元に試食してもらったところ、「金目鯛の卵は思ったより軽くて静岡の酒に合う」「カキは味そのものにインパクトがあるので、熟成酒向きかな」「やっぱり粕漬けが一番合う。最初は甘く感じるが、酒杯が進むうちに見事に調和する」という反応でした。

 実は蔵元の中には、「酒粕が大嫌い。食べる気がしない」という人も結構いるんです。酒蔵で育つと、そんな気持ちになるんでしょうかね。そんな彼らに、粕漬けを一番気に入ってもらえたのが、この日の最大の収穫だった・・・かも。

 

 なお、『つまんでごろーじ』へのお問い合わせは、静岡県商工会連合会しずおか・うまいもの創生事業実行委員会(TEL 054-255-9811  FAX 054-255-6060)へ。現在、専用サイトを制作中ですので、アドレスが決まり次第、お知らせします!


お祝い三昧

2008-02-27 12:25:49 | NPO

 ゆうべは浜松での取材が終わった後、樹木医の塚本こなみさんと、豆腐と地酒の名店『豆岡』で乾杯をしました。このブログでも再三紹介してきた身近な人たちが、この数日、立て続けにハレの舞台で喝采を受けたので、こちらもウキウキ気分。外は突風&大雨でしたが、心は春の花満開!状態でした。

 まず、こなみさんに、23日のNHK『課外授業~ようこそ先輩』の放送祝い。豆岡のお母さんこと女将の岩崎末子さんが「感動しました」と口火を切った後、私が、ディレクターの金聖雄さんとのメールのやりとりを報告。少年が選んだケヤキの木が病んでいて、それを掘り起こした展開が筋書きみたいでした、と感想を述べると、「あの学校に行って、真っ先に、あの木が一番状態が悪いってわかっていたけど、まさかあの木をマイツリーに選ぶ子がいるとは思わなくて、金さんと悩んじゃったのよ」と裏話を聞かせてくれました。こなみさんは、予定の収録日を一日追加し、あのケヤキがどんな状態か、どうすればいいのか、クラス全員を集めて授業をしたそうです。

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  担任の先生からは、収録が終わった後、「今まで口をきこうとしなかった子が少しずつしゃべるようになり、問題行動を起こしていた子が周囲に優しくなるなど、びっくりするほど変わりました。木に触れることが、これほどの効果があるとは知りませんでした」と感謝の手紙が来たそうです。こなみさんのもとに届けられた観察日記は、どの子も真剣そのもの。こなみさんもついつい、びっしり返事を書き込んで、腱鞘炎になりかけたとか。「ホントはその部分も放送してもらいたかったのよ」と笑います。

 番組収録が終わったからといって、縁が切れるわけではなく、子どもたちにとって、こなみさんは永遠に忘れがたい木の先生になるでしょう。卒業後も、母校にそんな思い出が持てるなんて、幸せな子たちだな、と思いました。大人になったら、ぜひ観に行ってほしいですね。あしかがフラワーパークのこなみさんの大藤!

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  豆岡の女将さんとは、お会いするたびに、ついつい、「日本人が日本酒を大事にしなくなった」と嘆き合ってしまうのですが、この夜も、「外国のお客様のほうが日本酒を喜んで呑んでくれるの。その横で、日本の女の子が“なんで焼酎置いてないんですか~?”と訊くのよ」と女将。

 豆岡の酒棚は、棚全体が冷蔵庫になっている特別仕様の棚。これだけのしつらえで地酒を大事にしてくれる店は、本当に少なくなってしまいました。一方、先週末届いた酒業界誌フルネットのメルマガによると、東京の地酒の名店が選ぶ酒どころイメージランキングでは、1位山形に次いで、静岡は第2位。この上位2県が、3位以下をかなりの差で引き離していました。消費者の人気ランキングでは相変わらず新潟が強いみたいですが、酒を商うプロの評価は違うようです。

 消費者に認知されるまでどれだけ時間がかかるのか、マーケティングの専門家ではないので見当もつきませんが、静岡のお膝元で、地酒の普及に30年以上尽くしてきた豆岡に来る客がこうでは、一体いつになるやら…。それでも全国2位の評価は、映画『吟醸王国しずおか』の製作者として大いに励みになります!

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 私が23日に京都へ行っている間、静岡では県STOP温暖化キャンペーングランプリの発表&表彰式がありました。このブログでも紹介し、個人的に応援していた『御前崎病院花の会』が、エコオフィス部門で優秀賞を受賞しました。グランプリのサッポロビール、準グランプリの資生堂と、企業規模を比べたら、大変な健闘だと思います。

 病棟の屋上を緑化し、春は菜の花(もうすぐ満開です!)、夏はひまわり、秋はコスモスと四季折々の花畑にし、階下の天井の温度を下げたり上げたりする効果のほどを地道に計測しています。育てた花は、もちろん、入院患者さんやお見舞い客にプレゼント。花の手入れや清掃活動などには地域の皆さんも参加します。代表を務める画像診療科の塚本隆男さんからは、「鈴木さんの後押しのおかげです」と過分なお礼メールをいただきました。「最終審査に残り、発表&表彰式に参加でき、他の企業や活動家の方々と情報交換ができたのが一番の収穫でした」と塚本さん。このブログには、〈御前崎病院花の会〉や〈塚本隆男〉や〈ストップ温暖化〉といったキーワードで検索・訪問してくれる人もいましたので、そういう方に私のことを知ってもらえて嬉しいです。お互い様ですね!

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  検索キーワードといえば、昨日、浜松で取材の合間にブログのアクセス数をチェックしていたら、〈山本起也〉〈スペイン〉〈最優秀〉というキーワードで訪問してきた人が何人かいて、もしかしたら…と23日まで開催されていたスペイン国際ドキュメンタリー映画祭punto de vistaのサイトを見たら、山本起也監督の『ツヒノスミカ』が最優秀監督賞を受賞とあり、ビックリ感激。15日の『朝鮮通信使』上映会で会ったときは、「スペインにもって行く機材が規格違いで、上映できるかどうかわからない、大変だ」とあせりにあせって、終了後、あわただしく東京へトンボ帰りしていたのがウソみたいです。

 

 これは1年前の駿府公園東御門でのロケ風景ですが、数年後、国際的大巨匠のお宝写真になるかも…!


多文化共生の原点

2008-02-26 23:43:23 | NPO

0226_2  26日は丸一日、浜松でNPO協働フォーラム「多文化共生の地域づくり」の取材。日系南米人労働者が多い県西部地区で、言葉や生活習慣の違い等から地域で生じるさまざまな問題を、行政や地域やNPOが肩書きを超えて協働で考えようという会です。

 

  

  私の多文化共生経験といえば、3年前に妹夫婦が住むアラスカを、両親を伴って訪れたとき、肝心の妹が、麻酔看護師の資格取得のためワシントンDCの大学院に急遽入学が決まり、不在で、義弟のショーンとカタコトの英語で3週間、オートキャンプをしながら過ごしたこと。父はどうせ言葉が通じないからと、ハナからコミュニケーションをとる気がなく、母は、ショーンが理解しようとしまいとすべて日本語で話を通そうとします。私はその板ばさみで四苦八苦しましたが、ショーンは両親が笑顔を見せるたびにホッとしていたようでした。私も、彼が元気にジョークを飛ばすたびに安堵しました。外国人とのつきあいの原点は、とにかく笑顔で挨拶することだ、としみじみ実感しました。

 今日のお話でも、ブラジル人に日本語を教えるボランティアの方が、いっぱしのNPO活動家や行政の担当者を前に、「外国人は、挨拶を返してくれない無反応な日本人にとまどい、自分たちが拒否されたような気持ちになる。それは外国人だろうと日本人同士だろうと、人間ならば同じこと。みなさん、挨拶だけでも笑顔でしましょう」と、小学生に諭すような提言をしたのが印象的でした。

 

  

  私は仕事柄、ほぼ毎日ように初対面の人に会います。時には会っていきなり、その人が嫌がるような質問や、個人の人生観にまで突っ込むような取材をしなければならない日もあります。そんなとき、唯一心がけるのは、話をするときは相手の目を見てハキハキした声で話す、最初と最後は笑顔で挨拶するという、まさに小学校の先生に教わるようなこと。それしか手がありません。

  

  もちろん、見た目の態度を繕ったところで、まったく通じない相手も大勢いました。映像作品『朝鮮通信使』の制作中は、私にとって初めて接する異分野の人たち―朝鮮通信使というディープな分野を研究する先生方や、若い映像クリエーターの人たちとのコミュニケーションづくりに苦慮しました。ある程度の年齢やキャリアのある人は、それだけ引き出しをたくさん持っていますから、あれこれ引き出しを突っつくうちにコミュニケーションのきっかけを見つけることができますが、引き出しの少ない若い人は難しいですね。とくに横文字の肩書きを持つ人の中には、挨拶はおろか、報・連・相がまったくできない人も多く、私にとっては異分野どころか同じ日本人とは思えないことも。それでチーム仕事ができるんだから、自分とは次元の違う才能の持ち主なんだと思うしかありません。

 

  

   仕事が終わった後もつきあいが続く人に共通するのは、いつでも笑顔で挨拶が交わせる人・久しぶりの連絡でもちゃんと返事をくれる人。すごーく単純なことです。日本が本格的な多言語・多文化社会を迎えるなら、なおのこと、目に見える行動が大事なんだなと思います。

 


地域の未来を考える

2008-02-22 12:33:32 | NPO

 今朝、静岡新聞を開いたら、静岡中部版16面の右端に自分が写っているではありませんか。ビックリドッキリ!・・・といっても、わかるのはごくごく一部の人だと思います。

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  昨日はNPO法人生き活きネットワークが事業受託をしている厚生労働省の『緊急サポートネットワーク事業』のシンポジウムが開かれ、私はいつものごとくMCを担当しました。新聞に掲載された写真は、前半の基調講演の講師・野島恵子先生(小児科医)と、話を聞くギャラリー3人(私と県庁スタッフ)。実際のシンポジウムはギャラリー約50名にパネリスト8名で進行しました。

 

 『緊急サポートネットワーク事業』とは、就学前の子どもが急に病気になったり病み上がりのとき、仕事が休めず看病できない両親に代わって子どもの面倒を見る人を派遣するという事業です。「子どもが病気のときぐらい、親がなぜ面倒を見ないのか」を眉をしかめる人もいるかもしれませんが、現実には、共働きの親やシングルマザーが、当日朝、職場に「子どもが熱を出したので休みます」とはなかなか言えないのも事実。そんなとき、選択肢として、

①職場に理解があって看護休暇が取りやすい

②いつも通っている保育園や子育て支援センター等に、病児・病後児も預かる施設が併設されている

のであれば、理想です。しかしこれが一朝一夕にはできないのも事実。そこで、緊急措置として、病気の子どもの面倒を見る能力のある人が、そのお宅へベビーシッター02213として行く、もしくは自分の家で預かるというシステムが作られたわけです。

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  深夜や早朝にSOSが来る緊急性の高い依頼ですから、コーディネーター役も大変です。昼間でも、「保育園から、子どもが熱を出したから迎えに来てくれと連絡が来たが、職場を離れられない。代わりに迎えに行って病院に連れて行ってくれ」という依頼があります。

 活き生きネットワーク代表の杉本彰子さん(右写真)や、顧問医の野島恵子さん(左写真) は、「だからこそ、子どもを預かる側の志やスキルが大事」と、この事業に登録をした〈まかせて会員〉さんの研修やネットワークづくりに力を入れています。その努力が奏功し、3年前のスタート以来、静岡県は全国でもトップクラスの実績を上げ、彰子さんは“女性の再就職・再チャレンジ支援に功績があった”として、昨年、総理大臣賞を受賞しています。

  

  静岡市では地元選出の衆議院議員・上川陽子さんが少子化担当大臣になるなど、子育て支援のトップランナーが活躍しています。彰子さんは「上川さんには〈踊る大走査線〉で織田裕二が柳葉敏郎に言うみたいに“私は現場でがんばるから、あなたは上に行って偉くなって”とハッパをかけてきたのよ」と笑います。

 そんな2人を、未婚・子無し・フリーランサーの私が、どういう縁かサポートをするハメになり、私の親は嘆いているかもしれませんが(苦笑)、自分が子を持たずとも、がんばる同性を応援することで、日本の少子化対策や再チャレンジに貢献できればいいんじゃないかと思っています。静岡が、日本で一番、子育てがしやすく、女性が働きやすいまちになってほしい。行政にはそういうビジョンをしっかり持ってほしいと思います。

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 この日は引き続き、夜、新しく発足した、『静岡県朝鮮通信使研究会』の第1回会合に参加しました。金両基先生や静岡県議・天野一さんらが世話人を務める『静岡人権フォーラム』や、市民団体『静岡に文化の風を』のメンバーを中心に、朝鮮通信使について本格的に学び・各地に普及浸透させ、地域の歴史文化の見直しや、朝鮮半島との交流を市民レベルで深めていこうという会です。

 

 

 手始めに、通信使の記録〈使行録〉に比較的詳しく記述が残された興津・清見寺や藤枝宿あたりの史料・史跡の見直しから始めようと、昨夜は、藤枝の小嶋良之さんの使行録調査の発表を聞き、聴講した興津自治会の皆さんに「次回はぜひ興津で研究会を」と呼びかけました。5月末には、雨森芳洲のふるさと滋賀県高月町に、貸し切りバスで視察に行く話も決まりました。

 

  

  天野一さんは「韓国の航空会社が静岡空港に早々に定期就航を決めたのは、静岡の人にとっては、重い荷物を持って成田や中部国際や関空へ行くより、いきなりソウル仁川空港を経由地として利用するほうが、時間も金額もほとんど変わりなく、しかも国際便の本数がはるかに豊富で、十分利用が見込めると考えているから。そんなグローバリズムのうねりの中にあることを考えれば、朝鮮通信使は過去を学ぶだけではなく、隣国との未来関係を考える貴重なきっかけになる」と言います。

 それを受けて、『静岡に文化の風を』の佐藤俊子さんも、「次世代の子どもたちに未来志向の国際交流を学んでもらう素晴らしいきっかけになる。そのためには、まず大人たちが、地元に朝鮮通信使との縁がいかにたくさんあるかを知る努力をしなければ」と力を込めます。

 

  

  自分が子どもを産んで育てるチャンスが、もはや、ほとんど残されていない私でも、少子化対策や朝鮮通信使関連のサポートをすることで、これからの静岡がどういう地域になってほしいかを考える資格があるんだ、と実感できた一日でした。

 


こなみさんと花はんめ

2008-02-21 09:23:27 | 映画

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 私がプロフェショナルとして、また女性として憧れ、尊敬してやまない樹木医の塚本こなみさん(あしかがフラワーパーク園長)が、06年に出演した『プロフェショナル~仕事の流儀』に続き、NHKの番組に登場します。その道の達人が自分の母校の児童・生徒たちを訪ねる『課外授業~ようこそ先輩』。今週土曜、2月23日(土)9時30分からの放送です(24日深夜再放送)。

 通常、この番組のロケは1~2日で終わるそうですが、こなみさんは子どもたちに樹木の観察日記を付けさせ、植物の成長に寄り添うことの大切さを教えようと、半年間かけて撮影したそうです。こなみさんがこの撮影に入っていた昨秋、私がこなみさんと出会うきっかけとなった(社)静岡県ニュービジネス協議会の西部部会(浜松)で『朝鮮通信使』の鑑賞会を開いてもらい、こなみさんにも観ていただくことができました。

  

  実は、脚本執筆や撮影交渉で疲労困憊していた頃、こなみさんに「自分の能力以上のことを要求され、できて当たり前と思われ、誰にも助けてもらえず、どうしたらいいかわからない」と泣きついたことがあります。こなみさんは、自身が足利の大藤の移植を請負うとき葛藤した経験をふまえ、「能力以上だと思える仕事に挑戦することは、自分を必ず成長させるから」と私の背を力強く押してくれました。

 そんな経緯もあって、こなみさんに『朝鮮通信使』を観ていただけた夜は感無量でした。そしてその夜、課外授業のロケ中だという話をうかがいました。

 「ディレクターさんが在日の人なの。友人が朝鮮通信使の映画を作ったって話をしたら感心していたわよ」とこなみさん。調べてみると、金聖雄(キム・ソンウン)さんというフリーの映像作家で、2004年に在日コリアンのおばあちゃんたちの暮らしをつづった『花はんめ』というドキュメンタリー映画を自主制作しています。

 

  こなみさんに「これも何かの縁ですから、ぜひ『花はんめ』を観てみたいですね」と話すと、こなみさんはさっそく金さんに頼んでDVDを送ってもらい、私に貸してくれました。

 私が今まで観たことのある在日を扱った作品は、時代背景や人権・差別といった問題が色濃く反映された作品が多く、これもそうかな、と思って観たら、川崎の桜本という町で肩を寄せ合い、つつましく生きる在日一世の女性たちの青春グラフティー。作品全体のトーンは、陽だまりに咲いたたんぽぽのような温かさに満ち溢れていました。在日一世の両親の苦労を知って育った監督が撮る作品としては、ある意味、異色だったかもしれません。

 

  

 金さんはこの作品に向き合った日々を、共著『ドキュメンタリーの力』(子どもの未来社・寺子屋新書)でこう振り返っています。

 

  「映画[〈花はんめ〉が完成までに5年という時間がかかったのは、撮影がそれだけ楽しかったということでもある。はんめたちに寄り添ってともにした時間は、私にとって素敵な時間だった。いっしょに食べ、いっしょに歌い、いっしょに笑い、そして涙した。できることならもっといっしょにいたかった。

 長く時間をかけさえすれば必ず良いものができるなんて思っていない。でもやっぱり時間をかければ、人や出来事とじっくり向き合える。迷うこともできる。撮影のたびに起こる思ってもいない偶然や出会いにゆっくり向き合える。これこそドキュメンタリーの醍醐味だろう。(中略) 花はんめが作品という形になりえたのは、私がこれまで経験したさまざまな出来事や人と人をつなぐ出会いなどが幾重にも重なったからこそだと思う。路地の片隅でそっと花を咲かせ、スクリーンの中で永遠の輝きを放つ花はんめたちを一人ひとりに届けたい。今はそんな思いでいっぱいだ」

 

  

 私が『花はんめ』を観て、金さんのこの本を読んだのは、『吟醸王国しずおか』の企画や製作費の工面等で精神的に追い詰められていたときでした。この作品のおかげで、自分が、地酒と向き合ってきた20年を振り返り、これまでの出会いやつながりを大切にし、あせらず、じっくり、作ればいいんだ、と思えるようになりました。

 

 

 『朝鮮通信使』の山本起也監督に、金さんのことを知っているか訊ねたら「すごい近い知り合い」という返事。人の縁って本当に不思議です。

 そんな金さんが撮った塚本こなみさんの課外授業。ぜひ一人でも多くの方に観ていただきたいと思います。