このところ肉体的な疲労がとれないせいか、コンスタントに書く作業に集中できなくなりました。やっぱり加齢には勝てない、というか、書く作業というのが、いかに体力を使うかを実感させられます。
またまた少し遅めのご報告で恐縮ですが、11月8日(金)に三島市で開催された『2013静岡県ニュービジネスフォーラム in 東部』のレポート、今朝(11月24日)の静岡新聞朝刊の広告記事として発表させていただきました。全8時間のプログラムをこの紙面に押し込むのは至難のワザで、かなりバッサバッサと削ってしまいましたが、ここではもう少し詳しくご紹介しましょう。
まず10時から始まった第22回静岡県ニュービジネス大賞二次審査(公開プレゼンテーション)、以下の4社が登壇しました。
① ㈱栄和(浜松市西区)/残渣・においが発生しない新しい生ゴミ処理機の開発
② あさぎりフードパーク協同組合(富士宮市)/地元の食品製造販売業者が富士山麓で「見せる食の工房団地」を創設し、六次産業化の拡大を目指す。
③ SKY-NETWORK㈱(静岡市清水区)/WEBサイト対面通信クラウドサービス「POP&GO」の提供。
④ ㈱リバーソン(袋井市)/世界でも例の無い微生物制御発酵茶製造法を開発し、県内茶業者に提供。新たな高機能性茶の誕生につながった。
審査の結果、㈱栄和がニュービジネス大賞、㈱リバーソンが特別賞を受賞しました。
栄和(こちらを参照)の生ゴミ処理機は特殊なバイオ菌を使い、生ゴミを下水適合水とCO2に分解し、装置内部に臭いの発生を抑制する部品を装着。実物展示コーナーでは、排水の中を金魚がスイスイ泳いでいました。こういう処理機が家庭用ディスポーザーとして、新築マンション等に標準設置されるようになるといいだろうなあと思いました。
㈱リバーソンは、静岡酒ファンならおなじみ、静岡酵母の生みの親・河村傳兵衛先生が創業した発酵技術コンサルタント会社です。微生物発酵茶と聞いてもピンと来ないと思いますが、プーアール茶が代表格で、不特定の微生物による自然発酵で作られたお茶。日本では徳島県の阿波番茶、高知県の碁石茶等が知られています。
先生が開発した微生物制御発酵茶というのは、ある特定の微生物1~2種類を用いて(特許技術)、新規ポリフェノール=テアデノールA,Bを発見。内臓脂肪の減少に効果が期待されるそうです。味はプーアール茶に似ていますが、淹れると光沢のある紅色に近い美しい水色。同技術の普及目的に設立された日本微生物発酵茶協会加盟の県内4茶業者が商品化しました。
このうち、カネ松製茶(島田市)はイタリアンで有名なアル・ケッチァーノ(山形)の奥田政行シェフとコラボし、同店オリジナルの「あるけっ茶」として発売。アル・ケッチァーノでも大々的に売り出されています。こちらを参照してください。
この日、残念なことに河村先生は体調を崩して欠席されましたが、代わりに受賞した日本発酵茶協会の長田辰美会長(右)は「静岡の茶業者に夢と希望をもたらしてくれるすばらしい技術」と感無量の表情でした。
午後からのフォーラムは、「地域に学ぶニュービジネス~富士山の世界遺産化によせて」がテーマ。基調講演の講師に、6月の世界遺産委員会で三保の松原の登録にも尽力された前文化庁長官の近藤誠一氏を迎え、外交官やユネスコ大使として活躍された経験から日本の文化力の底力、のようなものを、わかりやすく解説していただきました。かなりの抜粋になりますが、紙面で発表した記事を再掲しますね。
基調講演(抜粋)<o:p></o:p>
世界遺産化と地域振興
近藤 誠一氏 (前文化庁長官/富士山世界文化遺産登録に貢献)
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私が外交官として過ごした40年間のうち、前半20年は日本が上り坂、後半20年は下り坂の時代でした。世界の潮流をいち早くつかむニュービジネス精神が、下り坂20年の日本には欠けていたように思います。
世界の潮流とはヨーロッパに端を発した地方都市の活性化です。地球規模の問題を扱うのに国という単位は小さすぎるが、時代の変化に柔軟に対応し、生活者のニーズにきめ細かく応えるには大きすぎる。そこでヨーロッパでは経済とは異なるモノサシを用いた〈欧州文化首都認定〉を1985年に始めました。ユネスコやASEANでも同様の制度が誕生し、日本でも2007年から文化庁長官表彰、2010年から文化芸術創造都市モデル事業制度がスタートしました。
いくつか例を紹介しましょう。フランスのナント市は奴隷貿易の町として世界史に登場し、近代は造船の町になり、すっかり廃れてしまったとき、ジャン=マルク・エロー市長(現フランス首相)のリーダーシップで世界的なクラシック音楽祭を開く文化芸術都市に甦りました。スコットランドのグラスゴー市も工業都市の盛衰を経験し、一時期は犯罪都市の汚名を負いましたが、今では街並みの美しさを誇っています。徳島県神山町は思い切った光ファイバー設備投資で、過疎の町が一躍、IT企業メッカとなり、海外アーティストが定住するレジデンスまで生まれました。これら成功例に共通するのは、
① リーダーの先進性
② 市民の理解と協力
③ 才能ある推進者
④ 地域の特性を見つける
⑤ 寛容性―の5つです。
富士山は〈信仰と芸術の源泉〉という理由で日本では17番目の世界遺産に認定されました。単に世界遺産数が1つ増えたというのではなく、日本の伝統文化の思想と特徴が世界に認められた非常に価値ある登録です。
「自然は人間が理性的に制御できる」と考える欧米の思想とは異なり、日本人は「人間が自然の一部である」と考え、目に見えぬものの価値を認識する。このような固有の価値観は明治以降、置き去りにされ、日本人の勤勉性・緻密さ・組織力といった側面が近代化に活用されました。
しかし深刻化する環境エネルギー問題や市場経済の短期成果主義に行き詰まりを感じる現代、動植物や日常道具にも感謝・供養の念を持つ日本人の価値観や“モッタイナイ精神”が世界中から注目されている。これはビジネスにも重要なテーマになります。
世界遺産化は富士山の保全を世界中に確約することですが、保全は義務ではなく権利です。決してニュービジネスと対立するものではありません。ある調査で、日本人が求める豊かさとは「モノ」が4割、「心」が6割だったそうです。これに応えるニュービジネスの創出に期待しています。
別会場では、富士山本宮浅間大社から重要文化財の富士山曼荼羅図(複製)をお借りすることができ、間近で拝見しました。
同フロアでは、私がお声かけした元富士山レンジャー萱沼進さん(こちらを参照)が、富士登山の歴史を物語る富士講関連の史料を展示してくださいました。私は朝、展示のお手伝いをしただけで、後は終日取材で走り回っていたので、ニュービジネス経営者の皆さん方が、どれだけ関心を持ってくださったかよくわかりませんでしたが、一日で片付けてしまうのはモッタイナイくらいのお宝史料に違いありません。
ぜひちゃんとした博物館や資料館での展示会を希望します!
このあとの事例紹介では、地域資源を活かしたニュービジネス事例3つが紹介され、引き続いてのパネルディスカッションでは、近藤誠一氏、杉山泰裕氏(県文化・観光部理事)、中村徳彦氏(富士山本宮浅間大社宮司)、上原伊三男氏(㈱印傳屋上原勇七専務取締役)、遠藤まゆみ氏(NPO法人三保の松原羽衣村事務局長)が「地域に学ぶニュービジネス~富士山の世界遺産化によせて」をテーマに討論しました。
長くなりますので、この続きはまた。