杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

シルクロード音楽の復元

2010-07-31 16:47:54 | アート・文化

 昨日(7月30日)は虎ノ門にある東京中国文化センターで開催された歴史講座『永遠のシImgp2774 ルクロード~天山南路・音楽の旅』を聴講しました。

 

 

 私は過去ブログでも紹介したとおり、大学では東洋美術史を専攻し、卒業論文では天山南路・クチャにある『キジル石窟』の壁画を取り上げました。シルクロードに興味を持ったのは、多くの人がそうであったように、30年前、高校生のときに観たNHK特集『シルクロード』が直接のきっかけ。シリーズ中、クチャを取り上げた回では、クチャに伝わるウイグル族の民族音楽が主にフューチャーされていました。キジル石窟の壁画に、楽器を演奏する伎楽飛天の絵がたくさん残っていたからです。

 

 

 オンエアのときは、敦煌など他の石窟美術をメインにした回のほうが印象に残っていて、キジル石窟を勉強したのは卒論のテーマを考えているとき、ゼミの先生に勧められたから。そのときはキジルやクチャのことを、「NHKのシルクロードで民族音楽を取り上げたところだった」と、後から気づいた程度でした。

  

 そんな、深いような浅いような思い出のあるNHKシルクロードとクチャの音楽。今回参加した講座は、その、元NHKシルクロード取材班団長の鈴木肇Imgp2768 さんと、正倉院復元楽器の演奏集団『天平楽府』主宰の劉宏軍(リュウ・ホンジュン)さんのお話と演奏が聴ける、大変貴重な勉強会でした。劉さんはNHK『シルクロード遥かな調べ』の音楽をはじめ、坂本龍一氏に協力して映画『ラストエンペラー』の作曲・演奏を担当した中国アジア民族音楽の第一人者。今年10月8日には平城遷都1300年祭の記念式典で演奏されます。

 

 

 

 

 鈴木さんからは番組制作者ならではのトリビアを聴かせていただきました。NHKシルクロードの音楽といえば、今や世界的なシンセサイザー奏者となった喜多郎。私も当時、サントラLPを何枚も買いましたっけ! その喜多郎さんも、当時はLPを1枚やっと出したばかりの無名アーティストでしたが、新聞で、NHKがシルクロードの大型特集番組を制作するという記事を見つけ、アポなしでNHKを訪ね、受付に「自分の音楽をぜひ使って」と名刺とLPを置いて行ったとか。

 

 

 その後、音楽を選ぶ段階になって、鈴木さんたちは取材映像をまとめた90秒のパイロット版を作って、10人の作曲家に打診しました。その際、「そういえば受付へ売り込んできたのが一人いたな」と思い出し、喜多郎さんを合わせたつごう11人から試作曲を集め、作者の名前を伏せた状態で番組スタッフが視聴し、スタッフ10人中8人が選んだのが喜多郎さんだったそうです。

 

 「シンセサイザーのような電子楽器は当時はまだ珍しく、歴史紀行番組には似つかわないように思われたが、彼の音楽はシルクロードの空間の大きさを見事に表現してくれた」と鈴木さん。NHKシルクロードといえばあの音楽、というように、切っても切れない組み合わせになった意味でも、喜多郎の採用は大成功でしたね。映像と音楽の融合がいかに大事か、改めて考えさせられます。

 

 

 

 伎楽飛天が数多く描かれたキジル石窟第8号窟は、制作当時(7世紀)、インドから中央アジアへと伝来された楽器の記録図にもなっています。その中のひとつ・五絃琵琶の現物が、奈良正倉院にたった一つ残されています。もちろん世界でただ一つです。

 

 

Imgp2772  五絃琵琶の工芸技術は、中国・呉の国、ペルシャ、インドの技術が融合したもの。本体は紫檀の木で造られ、螺鈿の鮮やかな文様が施され、美術工芸品としての価値も計りしれません。正倉院に伝わる楽器を研究し、その復元と演奏を手掛ける劉宏軍さんは、「紫檀も螺鈿も今は輸入禁止だから、完全な復元は不可能」としながらも、可能な限り現物に近いものを復元し、演奏会で披露しています。

 

 

 Imgp2771 講演会では、劉さんが手掛けた四弦琵琶や呉竹笙などの復元楽器を間近に見せていただき、実際に演奏もしていただきました。 演奏する際も、当時の楽譜というのはお経みたいに漢字に縦書きで書かれているので、これを今の音楽家が読めるように五線譜に“変換”しなければなりません。これも、口で言うほどカンタンではないそうです。

 

 

 

 とにもかくにも、テレビの画面上でしか、あるいは正倉院展のガラスケース越しでしか見たことのないシルクロードの古代楽器が、実際にどんな音色をしているのか、当時の人をどんなふうに感動させたのか、こうして疑似体験できるなんて、30年前にNHKシルクロードを一視聴者として観ていた頃には想像もしていませんでした。

 

 キジル石窟に描かれた、世界で唯一の五絃琵琶(現物)は、今年10月下旬から始まる奈良正倉院展で久しぶりに展示されるそうです。

 また、劉さん率いる『天平楽府』の演奏会が、1月7日(金)18時30分から、東京文化会館(JR上野駅公園口前)で開かれます。詳しくは企画会社アーツ・プラン(TEL 03-3355-8227)までどうぞ。


吟醸王国新連載スタート

2010-07-29 09:40:59 | 吟醸王国しずおか

 今日はご案内事項をいくつか。

 まず、吟醸王国しずおか公式サイトで、新しい連載を始めました。2006年から2008年にかけ、映像作品『朝鮮通信使』の制作をきっかけに、『吟醸王国しずおか』のキックオフに至るまでの裏話をつづった『ライターが挑む映画作り』。

ライターが挑む映画作り

 吟醸王国しずおか公式サイトで連載していたカメラマン成岡正之さんのコーナーの『朝鮮通信使』制作秘話を読んでいただいたのか、最近、酒の席で「朝鮮通信使の裏話も聞きたい」と言われることがあります。キャリアの長い映像カメラマンの成岡さんと、映像キャリアゼロのライター鈴木では、同じ制作現場でも視点が違って面白いんじゃないかと思います。

 

 原稿自体は2007年秋頃、『吟醸王国しずおか』の企画書がわりにまとめた内容を編集しなおしたもの。活字ライターが当事者として初めて関わった映像制作の裏側や、自ら挑戦しようと思った理由、その原動力になった、さまざまな出会いや経験をつづってあります。

 ただ単に、長年取材してきた地酒について、ペンからビデオカメラに置き換えただけではなく、自分なりにモノづくりの精神を理解し、自分もその志を持って取り組んでいるということを、お伝えできればな、と思います。毎週水曜日をぜひお楽しみに!

 

 

 

 8月4日(水)から8日(日)までは、陶芸家日比野ノゾミさんの作陶展『そそぐ器、のむ器2』が、大村屋酒造場事務所2階・サロン若竹(島田市本通1-1-8、TEL0547-37-3058)で開かれます。

 ノゾミさんの作品は、先ごろ開かれた松坂屋静岡店のグループ展『LIVE LOVE LABO』でも紹介されました。今回は、昨年に引き続き、夫・日比野哲さんが副杜氏を務める酒蔵での本格的な展示即売会です(昨年の様子はこちらを)。ぜひお見逃しなく!

 

 

 

 

 お酒とは関係のないイベントですが、8月7日(土)13時~15時30分、静岡市中央福祉センターで『障害者の人権とマスコミを考える会』(静岡市障害者協会・静岡人権フォーラム主催)という勉強会が開かれます。

 ライターといっても自分はマスメディアの末端にいて、表立って報道業務にかかわることはありませんが、身内に障害者がいますし、NPO活動の取材等を通して、福祉の現場の“伝え方”には日々考えさせられることも多く、このテーマはしっかり向き合わねばと思っています。

 参加費無料です。このブログをご覧のマスコミ、メディア関係のみなさま、ぜひ一緒に考えませんか?

◎問合せ/静岡市障害者協会 TEL 054-254-6880 

◎ E-mail  shizu-syokyo@cy.tnc.ne.jp


じっくり育てる

2010-07-27 19:03:42 | アート・文化

 7月があっという間に過ぎて行きます。昨夜(26日)は部屋のエアコンから突如水が噴き出し、あわててOFFにして、ひと晩グッと我慢。今日(27日)も一日、扇風機だけでしのいでいますが。いつの間にかエアコンなしでは暮らせない生活になってしまった自分を反省しています。昨夜は夕食時に電子レンジも急に故障し、チンするつもりの冷凍ご飯を湯せんする羽目に。電化製品ってハカったように同時期にいくつも故障するんですよねぇ・・・。それにしても、今の生活でエアコンと電子レンジが使えないのは、あまりにもイタイ・・・。

 

 

 『吟醸王国しずおか』の構成台本づくりに四苦八苦する中、嬉しい励ましメッセージをいくつかもらいました。

 

 杉錦の杉井均乃介さんからは、先月の藤枝・掛川試写会の試飲酒提供のお礼にお送りしたオリジナルお猪口に対し、暑中見舞いを兼ねたお礼状をわざわざいただきました。私が風邪で体調を崩していたことをご存知で、温かい気遣いの言葉と、「映画は焦らずにじっくり作ってください」のメッセージ。日本酒という時間をかけて熟成させる醸造酒の造り手らしい言葉だなと思いました。ふだん会う人には「完成はいつか」とせっつかれることが多いだけに、被写体である蔵元から「焦らず作れ」と言っていただけるのがどれだけ有難いか・・・。

 ほんの少しですが、彼らの、対象とじっくり向き合うものづくりの時間感覚を共有出来たような気がしました。

 

 三島の某居酒屋のご主人からは、「パイロット版を2年前に某所で観て入会チラシをもらったんだが、今からでも入会できるか?」とのお電話。面識のない方でしたが、「自分も地酒をじっくり丁寧に売っていく大切さを、ここ2年ほど実感している。時間がかかっても理解してくれるお客さんを育てることを継続しなくては。映画作りの思いと一緒です」と真摯に語られるのを聞いて、ジーンときました。

 造り手は仕込みの時、売り手はお客さんを前にした時、自分ならカメラやパソコンのキーボードを操作する時、すぐに答えが出ないことにいらだち、不安と闘い、それでも安直な方法に逃げずに向き合う・・・同じ同志なんだと思えてきます。

 

 

 24日(土)夜と、25日(日)日中は、静岡音楽館AOIで演出家や演奏家の先生方をインタビューする仕事でした。

 

 

 AOIは、自主企画コンサートが多く、聞けば国内外の作曲家がAOIのために書き下ろした処女作や、AOIの舞台空間に合わせて既存のプログラムを大胆にアレンジし直したものを開催しているそうです。プログラムを企画する芸術監督や企画委員には日本トップクラスの作曲家や演奏家が名を連ねています(・・・といっても私はこの世界に疎くて、資料をもらって初めてそんな偉い先生方が運営していたのかとビックリ)。

 

 

 それでも、音楽という、カタチに残らない芸術作品を、お客さんに感動というカタチで伝え残す、舞台での一発勝負。よく知られた楽曲を、有名アーティストに演奏してもらうなら企画の苦労はありませんが、初演モノや、通は知ってても一般の静岡市民には「?」という現代音楽や民族芸能のプログラムを、一発勝負の舞台で披露するのはプレッシャーではないかしら。

 

 

 インタビューした先生方は「コンサートを企画するというのは、ただ曲を並べるというのではなく、企画者自身にやりたいもの、表現したいものが明確にあり、自分のそれまでの創作活動が投影される」「思想をもった企画を続けていきたい」と力強く語ります。

 

 

 時間をかけて、心あるものをじっくり育て、丁寧に伝え、それがすぐに数字上の評価につながらなくても、途中でやめない努力。

 自分が「産みの苦しみ」の中にいるとき、その努力を実践している人々にふれることができて、また新たな勇気が湧いてきました。


『レフェリー~知られざるサッカーの舞台裏』を観て

2010-07-22 11:57:04 | 映画

 連日厳しい暑さが続いています。昨日(21日)、終日外出し、夜、帰宅したら、部屋の温度計が36℃! あわててエアコンを付けても今朝まで32℃以下に下がらず、同時に扇風機を回しても生温かい風しか来ない…。家の中でも熱中症になるとニュースでやってましたが、ヒトゴトじゃありませんね。

 

 

 21日は県東京事務所で広報誌の取材。川勝知事と、前大分県知事の平松守彦氏の対談に立ち会いました。氏が提唱した一村一品運動は、今やアジア、アフリカ、ラテンアメリカ等世界の開発途上国に浸透し、“ローカルにしてグローバル”な展開を見せています。

 中国では「中国に最も貢献した外国人十傑」の一人に、IOCのサマランチ会長らと並んで選ばれた平松氏。昨日は川勝知事をナビゲーターに、そんな氏の貴重なお話を直接聞けるという“ぜいたく”を味わいました。終了後は知事から「記事にまとめるのが大変でしょう」と憐れんでいただきましたが、内容が素晴らしいと執筆もスムーズに進むと思います。

 9月末発行予定の県広報誌『ふじのくに』に掲載予定ですので、乞うご期待ください!

 

 

 そうそう、県東京事務所は平河町にある都道府県会館13階にあるのですが、事務所の看板は川勝知事の指示で「ふじのくに大使館」と銘打たれ、入口ディスプレイには地酒がズラリ。お隣の兵庫県東京事務所(ディスプレイはImgp2755 灘の銘酒)に張り合っているのか!?と思いきや、県が育成した酒米「誉富士」を期間限定でPRをしているそうです。

 

 

 対談で、平松氏が大分麦焼酎の火付け役だったという話があったので、川勝知事も負けじと「わが静岡も酒どころで、磯自慢というのはサミットの乾杯酒に選ばれて…」とディスプレイを指さして自慢しようとしたんですが、残念ながら磯自慢は誉富士を使っていないので、ディスプレイされておらず。なんとも皮肉な“ねじれ現象”です。

…まぁ、他県から見れば、自慢できるものがいくつもあって、静岡県うらやましいぞ~という話かもしれませんが。

 

 

 さて、目下、『吟醸王国しずおか』本編の構成台本の練り直しに日々苦慮している私。ここ数カ月、毎週のように開いたパイロット版(20分)試写会を通して、本編を何分にするのか、改めて熟考しています。ドキュメンタリーでは90分ぐらいが限度だろうと漠然と想定していたのですが、ディープな地酒ファンは「もっとしっかり観たい、2時間でも少ない」と言ってくれるし、地酒ビギナーからは「1時間でも長い」という反応も。・・・映画制作を企画した当初も、目下斗瓶会員でプロモーション方法を検討する時も、多くの意見を民主的に聞きたいと思ったところで、地酒経験や思い入れの度合いが違う人間が集まれば、意見もバラバラ。最後は自分が腹をくくるしかありません。こういうのも“生みの苦しみ”の一つなんだろうと思います。

 

 

 昨日21日は勉強のつもりで、県東京事務所へ行く前に、渋谷で『レフェリー~知られざるサッカーの舞台裏』というドキュメンタリー映画を観ました。取材前の限られた時間で観られる上映作品を検索して、たまたまヒットした作品だったんですが、これが、前のめりでワクワク見入ってしまうほど面白かった!

 

 

 舞台は2008年のUEFA(欧州選手権)。ヨーロッパのベストレフェリーに選出され、UEFA決勝でも主審を務めると思われたハワード・ウェブ(イングランド)が、グループリーグのポーランド戦で下したPKのジャッジを巡り、ポーランド首相からも「殺したい」と言われるほどの物議をかもし、結局、決勝スペインvsドイツ戦の主審はロベルト・ロゼッティ(イタリア)に。その決勝に至るまでの、レフェリーたちの心の機微や、ミスジャッジによって家族にも脅迫が及ぶというレフェリーたちの置かれた知られざる“過酷な環境”を、カメラはしっかりととらえます。

 

 

 冒頭いきなり、試合中のレフェリー同士のマイクの生のやりとりから始まります。主審と副審が、イエローカードを出すかどうかギリギリまで確認しあう生々しい声、ゴールの後、スタジアムのオーロラビジョンで再生されたオフサイドシーンにうろたえる副審、「画面を見るな」と叱咤する主審・・・レフェリーとはつねに“鉄板”の存在であると自認し、選手や監督にそれを示さなければならない存在だけに、その人間臭いやりとりが新鮮でもありナットク感あり。

 

 

 審判の誤審問題は、ワールドカップでも再三取り上げられ、ビデオ判定やハイテク装置の導入も検討されているそうですが、この映像の中でUEFA会長のミシェル・プラティニが、「私はレフェリーの仕事に一切介入しない」「選手は試合中ハイテク機器を使わない。生身の体で勝負している。レフェリーも同じ。選手がミスをするように、レフェリーもミスをする。それがサッカーだ」とレフェリーたちを慰労するシーンが、サッカーというボール一つを道具としたスポーツの有り様を象徴していると思いました。

 

 

 ハワード・ウェブに代わってUEFA決勝の主審を務めたロベルト・ロゼッティは、先月のワールドカップのメキシコvsアルゼンチン戦で誤審をし、自ら引退表明をしたとか。ハワード・ウェブはご存知の通り、決勝スペインvsオランダ戦の主審を務め、イエローカードを乱発していましたが、大会を通じて高評価でした。両者の“運命の逆転”ぶりもシナリオに書かれたかのようにドラマチックです。それにしてもW杯決勝で、日本の西村雄一さんがハワード・ウェブらイングランド審判チームの四審を務めたというのは、今更ながら凄いことなんですね。

 

 

 作品自体はUEFA公認作品で、「よくUEFAがそこまで撮らせたな」「公認撮影ゆえツッコミが足りないな」と思えるシーンもありました。それでも、レフェリーという縁の下の存在にスポットを当て、ジャッジを下すプロフェショナルの矜持を、しっかりとしたカメラワークで捉えた映像・・・77分という時間があっという間に感じられました。

 カメラワークがしっかりした映像は、つなぎ方次第で時間の長さをカバーできるんじゃないか、と思います。もちろん被写体そのものに魅力があっての話ですが、この点、『吟醸王国しずおか』は成岡さんに撮ってもらって本当に大正解です!

 

 

 帰宅し、深夜、BSのワールドカップの再放送を観ていたら、ブラジルvsチリ戦で毅然と笛を吹くハワード・ウェブの姿が。この映画をワールドカップが始まる前に観ていたら、たぶん視点の違う観戦が楽しめたと思います。決勝戦の再放送、要チェックです!

 


ドンクのパン職人仁瓶さん

2010-07-19 17:50:44 | 吟醸王国しずおか

 昨日(18日)は安東米店さんが事務局を務める『第7回カミアカリドリーム勉強会』に参加しました。

 今回のメインゲストは㈱ドンク生産本部顧問で、パン職人の世界では知らない人はいないというビッグネーム・仁瓶利夫さん。コメの勉強会でパンの話とは、なかなか粋な趣向です! 

 

 

 ドンクは、西武静岡店にあった頃から私にとってあこがれパンの象徴で、松坂屋に移転してからも、パン・ド・ミー(食パン)や、うぐいす豆が入った「アリコベール」は、あれば必ず買って帰るお気に入りの味です。

 仁瓶さんは西武静岡店に勤務されていたこともあり、知らず知らずに仁瓶さんが焼いたパンを食べていたんですね。そんな、静岡市民にとっても馴染み深い方が、フランスパImgp2748 ン「バゲット」に対する愛情と、職人らしい筋の通ったモノづくり精神を語ってくれました。

 

 細長くて表面がパリッとしたお馴染みのフランスパン「バゲット」。Baguetteとは見た目の通り「杖」「棒」という意味です。

 ドンクの前身である「藤井パン」は明治38年(1905)に神戸で開業し、戦後の昭和22年(1947)に3代目藤井幸男氏が事業を継承して「ドンク」と改名。日本で本格的なフランスパンを焼こうと、フランス国立製粉学校のカルヴェル教授に師事して職人をパリに派遣したり、パリからカルヴェル教授の教え子を派遣してもらったり、東京国際見本市でフランスパンのブースを担当し、その後、フランスから取り寄せた機材と職人をすべて引き取って三宮にフランスパン専門工場を作る等、日本におけるフランスパンのフロントランナーとなりました。

 

 日本ではパンといえば、いろいろな味付けやアレンジが効いた菓子パンや総菜パンが人気ですが、日本人が、毎日食べるなら、五目ごはんや味付けごはんじゃなくて、シンプルな白いごはんだというように、フランス人にとってもフランスパンは毎日欠かせない主食。シンプルな材料でいかに美味しいパンを作るかが、職人にとって大切なテーマなのかもしれません。

 

Imgp2751 「若い頃は、目の前のパン生地ではなく、レシピばかりに目が行っていたが、パン屋の仕事とは生地に向き合うこと。完成品をイメージし、仕込みの方法を逆算するのが職人の仕事です」と仁瓶さん。・・・米でも酒でも同じですね。

 

 

 フランスパンは、今でも年配の日本人には、「表面が硬くて、皮がひび割れてポロポロ落ちたりして食べにくい」という声もありますが、仁瓶さんによると、焼き立てのパンは、釜の中の高温から、室温に急激に冷やされるとひび割れするのが当然で、フランスでは皮くずが落ちないパンは?とされるそうです。また、いいパンを見極めるポイントとしては、表面を指で押すといい香りがするかどうか。バゲットを買ったらぜひ試してみようと思います。

 

 「バゲットが登場する以前は、パンといえば丸くて大きい形状で、一家の主人が切り分け、家族に与える。パン=分かち合うものの象徴でした」としんみり語る仁瓶さImgp2754ん。今は、パン屋さんで売られる商品のほとんどがワンポーションで、個々に好きなものを食べるから、分けあう、分かち合うなんて感覚を持つことはないでしょうね。

 

 

 最後に仁瓶さんは「パンは神から与えられ、パン屋という職業は悪魔が与えた」と自嘲します。過酷なパン職人の労働を謳った言葉のようですが、「酒」も、そのまま当てはまるかも(苦笑)。

 

 パン職人と酒の杜氏は、微生物という目に見えない自然界の力と対峙するわけで、レシピ(人間の理屈)ではなく生地に向き合えという仁瓶さんの言葉は、麹造りに向き合う杜氏さんの言葉にも似て、謙虚で誠実なお人柄が伝わってきます。

 

 カミアカリやバゲットの食べ比べについては、吟醸王国しずおか映像製作委員会の清水さんが詳しくレポートしてくれましたので、こちらもご参照ください。

 

 

 

Imgp2731

 

 さて、今回は、カミアカリの試食会と、仁瓶さんの講演&バゲット試食会の合間に、カミアカリ開発者である松下明弘さんの口添えで、『吟醸王国しずおか』 パイロット版の試写をやっていただきました。

 

 ただでさえ内容盛りだくさんのプログラムで、あまり関係のない映像試写をわざわざ無理にプログラムに入れるのは主催者に迷惑では(松下さんの依頼なら安東米店さんも断れないでしょうし…)と最初は尻込みしたのですが、結局、試食の準備時間に観てもらえれば、プログラム進行上、問題ないとのことで、試写と募金の呼びかけをさせていただきました。

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 カミアカリや仁瓶さんを目的に来られた方には「?」だったかもしれませんが、募金ブースには休憩時間に声をかけてくださる方もいて、地酒と直接接点のない方に知っていただく貴重な機会になりました。本当にありがとうございました!

 仁瓶さんも「実は日本酒に目がない」そうで、試飲用に持ってきた喜久醉松下米を嬉しそうに飲んでくださいました。

 

 

 今回の勉強会の主要企画メンバーである松下明弘さん安東米店長坂潔暁さん、長坂さんと一緒にカミアカリツーリズムを企画した坂野真帆さん(そふと研究室社長)、長坂さんの盟友で仁瓶さんのツーリング仲間だという内田一也さん創作コーヒー工房くれあーる)とは、偶然同世代で、それぞれ別のきっかけで知り合い、かれこれ15年ぐらいのつきあい。み~んな一匹狼で頑張ってきました。私が彼らと同列に数えてもらえるかどうかは「?」かもしれませんが、とにかく今回はどこか同窓会気分で楽しめました。

 

 30~40代で積み上げてきたものを、それぞれのカタチにして、さらに次の世代につなげていけたらいいですね。1947年生まれの仁瓶さんが、我々にその生き方を示してくれたように。