先の記事の通り、全国新酒鑑評会は今年で100回目という大きな節目を迎えました。国を代表する伝統酒の品質コンテストが100年も続いている国なんて他になく、本当に誇るべきことだと思います。
私は平成元年から日本酒の取材を本格的に始め、当時、東京の滝野川にあった醸造試験所の全国新酒鑑評会に毎年のように通っては、全国の銘柄と酒質を必死に覚えました。全国を知らないことには、静岡酒の特徴がよく解らなかったのです。当時は新しい知識や情報を吸収するのに夢中でしたが、今振り返ってみると、ほんの一端でも100年の歴史の滴に触れたんだな・・・と感慨深くなります。
鑑評会を主催する独立行政法人酒類総合研究所は、明治37年(1904)に国立の醸造試験所として設立されました。1904年といえば、連合艦隊が旅順港のロシア艦隊を攻撃し、日露戦争が始まった『坂の上の雲』の時代のど真ん中です。・・・やっぱりすごい歴史があるんですねえ。
日本酒は古い歴史を持っていますが、試験所設立は、明治維新と文明開化を受け、酒造の科学的な解析にもスポットライトが当たり始めた時期でした。
1881年にイギリスから招聘された科学者アトキンスが原料米の化学分析から酵母や麹菌のスケッチ、発酵の科学的理論づけ等を論文で示し、酒造研究が本格的にスタート。1895年には世界で初めて清酒酵母の分離に成功し、純粋培養酵母による酒造りが普及。野生酵母や雑菌の汚染を防ぐ新たな製法として、山廃酒母(1909)、速醸酒母(1910)が開発され、安定かつ大量の清酒醸造につながったのです。
そんな中で酒造専門の研究機関として醸造試験所が本格稼働し、明治44年(1911)から全国新酒鑑評会がスタート。第1回(1911)から第34回(1944)までは、1~3位のランキングが発表されていました。きき酒会場に一覧表が貼り出されていたので、あわててメモしました。
第1回(1911) ①月桂冠(京都)、②菱百正宗(広島)、③菱百正宗
第2回(1912) ①飛鳥山(東京)、②しら泉(兵庫)、③白牡丹(広島)
第3回(1913) ①月桂冠(京都)、②日本盛(兵庫)、③忠勇(兵庫)
第4回(1914) ①初幣(熊本)、②月桂冠(京都)、③両関(秋田)
第5回(1915) ①日本盛(兵庫)、②西の関(大分)、③初幣(熊本)
長くなるのでこの辺でやめときますが、なるほど、月桂冠って初代チャンピオンだったんですね・・・。松崎晴雄さんのしずおか地酒サロン(こちら)でも触れていましたが、広島、熊本、秋田・・・今に至る銘醸地は黎明期のこういう実績からスタートしたのだと、よく解りました。
順位付けが最後となった第34回(1944)は、①一人娘(茨城)、②櫻な美(長野)、③該当なしという結果でした。太平洋戦争真っ只中で原料米の調達もままならない時代にも、酒造技術の向上に尽くそうとする蔵があったんですね。この、第1回から第34回までの順位は、『天下の銘酒 醸造試験所秘帳』として記録され、戦火をくぐりぬけ、1945年発行の日本醸造協会誌に掲載されたということです。
醸造試験所では昭和55年(1980)から金賞に賞状が授与されることになりました。平成22酒造年度までの31回で、出品総数約27,000点のうち、賞状は6,637点(24.2%)に授与されました。授与率は初期の頃は15%程度だったのが、最近では25~28%に増えています。
ちなみに静岡県が受賞率日本一になった昭和60酒造年度は、全出品836点のうち金賞は119点。入賞率は14%台という低い時代で、静岡県は出品21点中金賞10点、銀賞(金に準ずる入賞)は7点で、トータル入賞率80.9%(日本一)を達成した、というわけです。
今年度は100回記念として、賞状に「第百回記念」の文字が入り、輸出振興にも寄与できるよう、英文の賞状も授与することになったそうです。これらデータや展示物は、6月15日(金)に東京池袋で開かれる一般向けの公開きき酒会でも見られるそうですので、お時間のある方はぜひ!
日本酒フェア2012~日本酒の魅力を堪能できる国内最大級イベント
■日時 6月15日(金) 10時~20時
■場所 池袋サンシャインシティ 文化会館4階展示ホールB・ワールドインポートマートビル4階展示ホールA
■内容
①鑑評会100回記念 平成23酒造年度全国新酒鑑評会公開きき酒会(入賞酒約440点の試飲) 第1部/10時~13時、第2部/16時~20時 *入場はいずれも終了30分前まで
②第6回全国日本酒フェア(試飲&販売) 11時~20時
■入場料 前売3000円、当日3500円、日本酒フェアのみ1000円 *前売り券はイープラス、チケットぴあ、JTBエンタメチケットでネット購入できます。
■問合せ 日本の酒情報館 電話03‐3519‐2091