杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

しずおか地酒研究会20周年アニバーサリー「お酒の原点お米の不思議2016」秋編のご案内

2016-08-29 20:02:58 | しずおか地酒研究会

 今回もしずおか地酒研究会20周年アニバーサリー秋の企画のご案内です。

 

 7月に訪問した静岡県農林技術研究所三ケ野圃場を再訪し、稲刈りを控えた「誉富士」「山田錦」「新型誉富士」等の生育状況を宮田祐二さんに解説していただきます。7月の訪問レポートはこちら
 

 
 静岡県産米の育種の原点であり、県内稲作農家の生産活動を支えるベースキャンプである試験圃場。「誉富士」を開発した宮田祐二さんが現場で語るコメの育種の難しさ&面白さは、素人の酒飲みの琴線をも大いに刺激します。
 稲刈り直前の黄金色の穂波がキラキラ輝く、田んぼが最も美しい季節。写真を撮りにくるだけでも価値があると思います。そして「誉富士」と「山田錦」、試験栽培中の雄町系新品種の“原石”をその目で確かめ、地酒が、ふる里の大地に根付いたコメの命を受け継いでいることを、肌で実感してみましょう。



 終了後は浜松に移動し、地酒研でお世話になっている山中恵美子さんのお店「呑み処ぼちぼち」で、宮田さんを囲んで酒米談義に花を咲かせる予定です。三ケ野圃場の見学のみ、または「ぼちぼち」からの参加でもOKです。ふるってご参加ください!




◇日時 9月25日(日) 13時30分~19時30分
 

◇会場 静岡県農林技術研究所三ケ野圃場(磐田市三ケ野)・呑み処ぼちぼち(浜松市中区千歳町)


◇スケジュール 13時30分/JR袋井駅集合 ⇒(タクシー移動) 14時~16時/圃場見学 ⇒ (タクシー&JR) ⇒ JR浜松駅 ⇒(徒歩)17時~/呑み処ぼちぼち 


◇会費 5000円(交流会費)


◇定員 20人 *定員になり次第締め切ります。


◇申込 しずおか地酒研究会(鈴木真弓)へメールにてお申し込みください。
mayusuzu1011@gmail.com




しずおか地酒研究会20周年秋の特別企画「あなたと地酒の素敵なカンケイ」ご案内

2016-08-22 19:44:08 | しずおか地酒研究会

 今日はしずおか地酒研究会20周年アニバーサリー、秋の目玉企画のご案内です。

 20年前の発足年、10月1日の日本酒の日に、浜松で開催された静岡県地酒まつりに合わせ、「女性と地酒の素敵なカンケイ」というパネルディスカッションを開催しました。80名を超える方々にお越しいただき、後日、静岡新聞紙面に記事まで書かせていただきました。当時まだ、女性が日本酒を語るというのはニュースな出来事だったんですね。ちなみにこのとき、当時まだ西武百貨店にお勤めだった松崎晴雄さんに初めてお会いしました。

 

  20年目の今年、10月1日が土曜日ということもあり、ぜひ地酒まつりの前に「女性と地酒の素敵なカンケイ2016」をやろうと、dancyuの里見美香さん、酒食ジャーナリストの山本洋子さんにパネリストの打診もし、駅前の貸会議室も押さえ、開催準備をしていたところ、サールナートホールから話題の映画『カンパイ!世界が恋する日本酒』の公開記念イベントの相談を受けました。

 私自身、8年前から地酒ドキュメンタリーを製作中で道半ばの身。これも何かの天命だろうと話を聞いてみると、10月下旬の公開予定で、できたらその前の10月の週末に先行上映会とキックオフイベントを希望とのこと。「ちなみにうちではこんなのを計画してるんですよ」と10月1日の予定をぶつけてみたら、「ぜひうちの劇場を使ってください」と有難いオファーをいただきました。そんなこんなでテーマを広義の「あなたと地酒」に変更し、『カンパイ!世界が恋する日本酒』にも出演した松崎晴雄さんにも急きょオファーを掛けて、日本を代表する豪華酒類ジャーナリスト3名を迎えての映画鑑賞会&トークセッションを開催することになりました。

 いろんな方々の偶然&必然の出会いやサポートあっての20年だなあと、あらためてしみじみ感激しております。10月1日土曜日、映画を観て、ためになるお話を聞いて、呑み尽くす。地酒ファンのみなさま、ぜひとも静岡駅周辺に集結しましょう!!

 

 

『カンパイ!世界が恋する日本酒』公開記念

先行上映&トークセッション「あなたと地酒の素敵なカンケイ」

 

日時:平成28年10月1日(土)13:30~17:00 

会場:サールナートホール 公式サイトはこちら

料金:2,500円(税込) ※先着200名・全席自由

チケットはサールナートホール窓口で絶賛発売中。

しずおか地酒研究会でも販売いたします。下記へ郵便振替にて代金をお送りください。入金確認後、郵送にてお届けいたします。

00810-4-81568 しずおか地酒研究会 (恐縮ですが振替手数料はご負担ください) 

 

世界と静岡を熱くする日本酒ワールド、映画&トークでお試しあれ!

 ここ数年、日本のみならず世界的にも日本酒がブームです。1970年代前半のピーク時には全酒類の30%近くを占めた日本酒の消費量は、数の上では約7%と激減していますが、これは昔でいう大手の普通酒マーケットが縮小したため。地方の小さな酒蔵がつくる特定名称酒、特に吟醸酒、純米酒の生産量・消費量は右肩上がりです。原料や製法にこだわり、丁寧に醸された蔵独自の味わいが、若者世代、女性、外国人といった新たなユーザーに評価されるようになったのです。

 静岡県の酒蔵にもいち早くその変化が訪れ、酒通の間では「吟醸王国しずおか」と評価されています。酒どころのイメージがなかった静岡ゆえ、地元の飲み手が誰よりも地元の酒を誇りに思えるようになろうと1996年、飲み手主動の地酒愛好会「しずおか地酒研究会」が誕生し、地域密着で活動しています。

『カンパイ!世界が恋する日本酒』は、ここ数年の日本酒のドラスティックな姿を象徴するように、酒蔵に生きる人々のグローバルな活動が紹介されています。しずおか地酒研究会では設立20周年記念事業として、本作品の静岡での先行上映会に合わせ、日本を代表する酒類ジャーナリストの面々をお迎えし、トークセッションを開催します。

 10月1日は日本酒の日。まずは映画館にて視覚と聴覚でたっぷり美酒を味わってみてください。そして当夜に開催される第29回静岡県地酒まつりin静岡2016(注)にもぜひ足をお運びください。

 

 

(注)毎年10月1日に開催される静岡県酒造組合主催の地酒まつり。静岡県内全酒蔵の銘酒が一堂に味わえる。今年はホテルセンチュリー静岡にて18時より開宴。入場料2500円。チケットはイープラスにて発売中。詳細は静岡県酒造組合HP(こちら)へ 。

 

 

プログラム

13:00~開場

【第一部】

13:30~主催者挨拶 鈴木 真弓(しずおか地酒研究会)

13:35~15:15  『カンパイ!世界が恋する日本酒』先行上映 (本編尺95分 + 予告編5分程度)

    

15:10~15:40  映画レビュー「世界と地酒の素敵なカンケイ」

映画に出演した松崎晴雄氏、映画レビュー執筆者の山本洋子氏に作品の魅力をたっぷり伺います!

ゲスト/松崎 晴雄氏(日本酒研究家) 、山本 洋子氏(酒食ジャーナリスト)

聞き手/鈴木 真弓(しずおか地酒研究会)

 

 (10分休憩)

 

【第二部】

15:50~17:00  トークセッション「静岡の酒で広がるカンケイ」

吟醸王国と評される静岡の地酒を、第一線の酒類ジャーナリストが熱く語ります!

登壇/里見 美香氏(dancyu主任編集委員・静岡市出身)

   松崎 晴雄氏(日本酒研究家)

   山本 洋子氏(酒食ジャーナリスト)

   コーディネーター/鈴木 真弓(しずおか地酒研究会)

 

 

 

 

映画『カンパイ!世界が恋する日本酒』

【解説】外国人として史上初めて杜氏となり、新商品を次々と世に送り出しているイギリス人のフィリップ・ハーパー、日本酒伝道師として、日本酒ワークショップや本の執筆などを通して奥深い日本酒の魅力を世界へと発信を続けるアメリカ人ジャーナリストのジョン・ゴントナー、そして、自ら世界中を飛び回り日本酒の魅力を伝えている、震災に揺れる岩手の老舗酒蔵を継ぐ南部美人・五代目蔵元の久慈浩介。まったく異なる背景を持つ3人のアウトサイダーたちの挑戦と葛藤を通し、日本だけにとどまらず、世界で多くの人々を魅了する日本酒の魅力的な世界を紐解いてゆく。

 

●監督:小西未来●出演:フィリップ・ハーパー、ジョン・ゴンドナー、久慈浩介 ほか

●2015年●日本・アメリカ●シンカ配給●95分

10/29()~静岡シネ・ギャラリーでロードショー! 公式サイトはこちら

 

 

 

 

 

◆ゲストプロフィール

 

松崎晴雄氏/酒類ジャーナリスト・日本酒輸出協会会長・『カンパイ!世界が恋する日本酒』出演者

日本酒輸出協会会長として世界に向けて日本酒のイメージ向上、普及啓蒙に努め、各種セミナーや試飲会等の行い、『カンパイ!世界が恋する日本酒』でもその活動ぶりが紹介されている。西武百貨店の酒類バイヤー・売場担当を経て97年に独立し、日本酒を中心とする酒類ジャーナリスト、コンサルタントとして活躍。日本酒に関する著書も多く、連載も数多くこなし、毎月数ヶ所で愛好家向けのセミナー講師も務める。純粋日本酒協会主催のきき酒コンテストでは、通算30回以上名人として認定され、「永久名人」として表彰されている。2001年より静岡県清酒鑑評会審査員を務める。

 

 

山本洋子氏/酒食ジャーナリスト・地域食ブランドアドバイザー

鳥取県境港市・ゲゲゲの妖怪の町生まれ。(株)オレンジページで「素食」「マクロビオティック」「郷土料理」「米の酒」などをテーマにした料理雑誌・編集長を経て独立。身土不二、一物全体を心がける食生活を提案し、「日本の米の価値を最大化するのは上質な純米酒」をモットーに「一日一合純米酒!」を提唱する。地域食ブランドアドバイザー、純米酒&酒肴セミナー講師、ジャーナリストとして全国へ。「感動と勇気を与える地方のお宝さがし」がライフワーク。編集した本に『純米酒BOOK』グラフ社刊、『厳選日本酒手帖』『厳選紅茶手帖』世界文化社刊がある。

 

 

里見美香氏/dancyu 主任編集委員

静岡市七間町生まれ。聖母幼稚園、青葉小学校、城内中学校、静岡高校と18歳まで静岡で過ごし、早稲田大学を経て、暮しの手帖社に入社。NHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のモデルで同社創業者の大橋鎮子氏のもと、季刊雑誌『暮しの手帖』編集者として6年半勤務。プレジデント社に移り、食をテーマとする月刊誌『dancyu(ダンチュウ)』に創刊から携わる。99年2月号で初めて第一特集のテーマとして日本酒を取り上げ、以来、毎年冬の定番企画となった。2005年、同誌編集長就任。その後、dancyu別冊編集長として『日本の発酵食』『絶品おかず365レシピ』などを刊行し、築地での食イベント「dancyu祭り」も立ち上げる。

 

 

 

 


しずおか地酒研究会20周年アニバーサリー「藤田千恵子さんと行く奈良京都酒造聖地巡礼」その3

2016-08-20 10:41:01 | しずおか地酒研究会

 奈良京都酒造聖地巡礼の続きです。

 8月1日の午前中は、大神神社参拝の後、門前にある『三諸杉』の醸造元今西酒造をのぞいて土産酒をゲット。次いで清酒発祥の地として知られる菩提山正暦寺を訪ねました。個人的には何度も訪れていますが、『菩提もと』と『諸白酒』が生み出されたこの地に、造り手・売り手・飲み手のみなさんと一緒に参拝するのは長年の夢でした。参加者も同じ思いだったようで、静岡県で唯一、菩提もとの酒を醸す『杉錦』の蔵元杜氏杉井均乃介さんに記念碑の前に建ってもらって撮影タイム。拝観可能な福寿院客殿で、ご住職に清酒発祥の地となった歴史を解説していただきました。

 

 

  正暦寺は992年(正暦3年)に一条天皇の勅命によって創建され、当初は堂塔伽藍を中心に86坊もの塔頭が菩提仙川の渓流を挟んで立ち並ぶ壮大な勅願寺として威勢を誇っていました。その後、平家の焼き討ち、度重なる兵火、徳川幕府の厳しい経済制圧によって江戸中期以降は衰退し、大半の堂塔が失われ、今は江戸期に創建された福寿院客殿と護摩堂、大正時代再建の本堂と鐘楼堂などわずかな建物が残っています。紅葉の名所として知られ、11月のシーズンには多くの観光客でにぎわい、1月には菩提もと清酒祭も行われます。

 

 いただいた資料を復習のつもりで書き出してみます。

 

 奈良市の東南山麓、菩提仙川に沿って、苔むした石垣ともみじの参道を登りつめると菩提山正暦寺がある。現在の清酒造りの原点は、ここ正暦寺で造られた僧坊酒に求めることができる。この僧坊酒は『菩提泉』『山樽』などと呼ばれ、時の将軍足利義政をして天下の名酒と折紙をつけさせたと『蔭涼軒日記』に記されている。時代はくだり、1582年(天正十年)5月、織田信長は安土城に徳川家康を招いて盛大な宴を設けた。この時、奈良から献上された『山樽』は至極上酒であったらしく、『多門院日記』に「比類無シトテ、上一人ヨリ下万人称美」したとある。

 本来、寺院での酒造りは禁止されていたが、神仏習合の形態をとる中で、鎮守や天部の仏へ献上する御酒として自家製造されていた。そのため、宗教教団として位置づけられながらも、荘園領主として君臨していた寺院では、諸国の荘園から納められる大量の米と、酒造りに必要な広大な場所、人手、そして清らかな渓水、湧き水などの好条件に恵まれ、利潤を目的とした酒造りを始めるようになった。中でも正暦寺の僧坊酒は、発酵菌(酒母・もと)を育成し、麹米・掛け米ともに精白米を使う諸白酒を創製したという点で、酒造史の上で高く評価されている。

 清酒造りにおける酒母(もと)の役割とは、雑菌を無くし、もろみのアルコール発酵をつかさどることにある。単に糖液で培養した酵母菌で酒を造るならば、乳酸菌・バクテリアなどの雑菌が殺されることなく、もろみが腐りやすくなる。

 しかし、正暦寺で創製された酒母(もと)、すなわち『菩提もと』は、酸を含んだ糖液で培養するため、その酸によって雑菌が殺され、しかも、アルコールが防腐剤の役割を果たすという巧妙な手法がとられており、これは日本酒造史上の一大技術革新であった。

 こうして、蒸米と米麹と水からまず酒母(もと)を育成し(酒母仕込み)、酒母が熟成すると米麹・蒸米・水を3回に分けて仕込み(掛け仕込み)、いわゆる三段仕込みの原型が出来上がった。この諸白酒は、後に火入れ殺菌法なども取り入れられ、仕込みも三段仕込みから四段・五段仕込みへと発展し、『南都諸白』の名で親しまれ、17世紀の伊丹諸白の台頭まで一世を風靡し、奈良酒の代名詞ともなった。(清酒発祥の地〈菩提山正暦寺〉より)

 

 昼前に正暦寺を出発し、昼食に立ち寄ったのが京田辺にある酬恩庵一休寺。こちらで禅寺の本格的な精進料理をいただいたのです。次の目的地である京都の松尾大社までの道すがら、ランチの店をいろいろ探したんですが、今回のメンバーは酒食のプロばかり。全員が満足するような店を見つけるのは無理だろうし、かといってファミレスやドライブインみたいなところでも味気ない・・・と悩んだ挙句、以前、駿河茶禅の会(こちらを参照)で訪ねた一休寺で精進料理が食べられることを知って決めたのでした。

 平日月曜日。しかも猛暑の昼過ぎ、ほかに拝観客はなく、我々グループは貸し切り状態で方丈や庫裏を丁寧に案内してもらい、待月軒で精進料理を味わいました。全員汗だくで喉もカラカラ。ダメもとで「ビールありますか?」と訪ねたところ瓶ビールをゲット。調子に乗って「日本酒は?」と訊いたらこちらはNGでした(苦笑)。

 

 松尾大社に到着したのは15時頃。ここはさすがに参拝経験のある人がほとんどで、自由にお詣りしてもらいました。酒造資料館がいつの間にかリニューアルされていて、お休み処としてもベストスポット!

 

 予定ではここで解散でしたが、杉井さんが京都駅南口のイオンモールに新規オープンした取引先の酒販店さんに挨拶に行くというので全員便乗することに。お訪ねしたのはオール純米酒&スタンディングバー併設の『浅野日本酒店』さん。大阪で2年前に新規開業し、はやくも京都に2店舗目をオープンというわけです。日本酒しか扱わないという個人専門店でもコンセプトとデザインがしっかりしていれば、ちゃんと成果が出るお手本のような店でした。

 

 居残り組は、私がこのところ上洛のたびに寄せてもらっている高倉御池の『亀甲屋』で慰労会。京の地酒「京生粋」と汲み上げ湯葉で巡礼ツアーを締めくくりました。この店は30年近く前、京町家をリユースした先駆けの店として地元に愛され続け、なかなか予約が取れない人気店に。直前に、ダメもとで予約できるかお尋ねしたら、運よくキャンセルが出て8人でお邪魔することが出来ました。「亀」つながりで、ご主人と女将さんに初亀の橋本社長をご紹介できたのも何よりも嬉しかった! これもそれも、酒の神様がつなげてくれたご縁に違いありません。藤田千恵子さん、参加者のみなさま、本当にお世話になりました&お疲れ様でした。

 素晴らしい酒縁に、あらためて、感謝乾杯!

 


しずおか地酒研究会20周年アニバーサリー「藤田千恵子さんと行く奈良京都酒造聖地巡礼」その2

2016-08-08 10:43:43 | しずおか地酒研究会

 奈良京都酒造聖地巡礼のつづきです。

 8月1日、大神神社はお朔日詣りの日。毎月1日のお朔日詣りは昨年の元旦にお詣りして以来です(こちらをぜひ)。このときは取材執筆中の「杯が満ちるまで」が無事刊行できるようにとお祈りし、今回は無事の刊行に感謝の報告をするお詣り。せっかく門前の宿に前泊したのだから早朝の静寂した時間帯にお詣りしようと、朝風呂に入って身を清め、7時前に出かけたら、参道や境内はお朔日詣りの人々でいっぱい。特別な例大祭でもない月次のお詣りにこれだけ多くの善男善女が集まるとは、この神社がいかに地域の人々に愛されているかが伝わってきました。

 今回のお詣りは、大神神社の分社である岡部の神神社を信仰する「初亀」の蔵元橋本謹嗣さんが、神神社を通じて事前に連絡を入れてくださったようで、焼津ご出身の大神神社権禰宜・神谷芳彦さんが我々一行の巡礼導師となってくださいました。ポケモンGO禁止の貼り紙は今年限定のトピックスかも!と橋本さんをモデルにみんなが記念撮影(笑)。

 

 

 大神神社のご神体は高さ467mの三輪山です。全山が杉、松、ヒノキで覆われ、太古より神が鎮まる聖なる山と仰がれ、大国主命が自らの魂を「大物主大神(おおものぬしのおおかみ)」の名で三輪山に鎮めたと記紀神話に記されています。

 大物主大神は国造りの神であり、農工商すべての産業、方除、医薬、造酒など人間の暮らし全般の守護神。境内には寛文4年(1664)徳川家綱によって再建された拝殿(重要文化財)以下、商売繁盛の「成願稲荷神社」、杜氏の祖先神である「活日神社」、薬の神様である「磐座神社」、知恵の神様「久延彦神社」などさまざまな摂社が点在し、全部をじっくりお詣りしたら丸一日かかってしまいそうでした。

 神谷さんが真っ先に案内してくださったのが、杜氏の神様活日神社(いくひじんじゃ)です。

 日本書紀によると、10代崇神(すじん)天皇の御代、疫病が大流行。天皇は大物主大神のお告げを受け、三輪山大神の祭祀を行い、高橋邑の活日命(いくひのみこと)にお神酒を醸す掌酒(さかひと)の任を命じます。活日命は一夜にして大変な美酒を醸し、天皇に

「この御酒は わが御酒ならず 倭なす大物主の醸みし御酒 いくひさ いくひさ」

という歌を捧げたそう。これによって、三輪の大神は酒造守護の大神になり、活日命は杜氏の祖神になったということです。

 

 神話の世界のお話ですから、いかようにも解釈できると思いますが、国が危機的状況に陥ったとき、酒がどのような存在感を示したのかを想像し、実際に酒造業にかかわる橋本さんや杉井さんはもちろんのこと、我々のような周辺の者もあらためて身が引き締まる思いがしました。

 

 こちらの記事にも書きましたが、大陸から稲作が入ってきて農耕社会が構築された弥生時代、もっとも大切にされたのはその年に最初に実る初穂で、初穂には大いなる霊力があると信じられていました。初穂と、初穂で醸された酒を神々に供え、そのお下がりを収穫祭でいただく。穀霊が宿った酒に対する人々の畏敬の念は計り知れなかったと思います。今の日本人が酒を必要とするのは、国が揺れ動くとき、というよりも、個人の心が(いいほうにも悪いほうにも)揺れる時、かもしれませんが、このような場所をお詣りすると、日本酒が日本人の民族の酒であると強く確信できる。昔から歴史が好きで神社仏閣巡りをしていた自分が、酒を伝える仕事をするのも、ごく自然に日本人たる己のルーツを辿る営みなんだろうと思えてきます。

 

 神谷さんにご案内いただいた最後のお宮が、大直禰子神社(おおたたねこじんじゃ)。三輪の若宮さまとして親しまれているそうですが、パッと見は神社じゃなくてお寺。それも道理で、明治以前は大御輪寺(だいごりんじ)という神宮寺で、仏像ファンならお馴染み天平仏の傑作・聖林寺の国宝十一面観音がご本尊だったそう!明治の廃仏毀釈で大御輪寺は神社に変わり、観音様は多武峰の聖林寺に移されたのです。明治以前、三輪の大神様のご子孫・大直禰子命と十一面観音様が並んでお祀りされていたころは、今でいう凄いパワースポットだったんだろうな…と想像し、日本の神と異教の仏をごく自然に受容していた神仏混合時代の日本人を、どこかうらやましく思いました。

 

 拝殿向拝の大杉玉、11月13日に架け替えられ、翌14日には醸造安全祈願祭(酒まつり)が斎行されます。今年はぜひ参拝したいなと思っています。ご神体の間近にレンズを向けるのははばかられましたので、写真はいただいた資料からコピーさせていただきました。

 


しずおか地酒研究会20周年アニバーサリー「藤田千恵子さんと行く奈良京都酒造聖地巡礼」その1

2016-08-05 14:28:57 | しずおか地酒研究会

 7月31日~8月1日、しずおか地酒研究会の設立20周年特別企画として、日本酒ライターの大先輩で敬愛する酒食エッセイスト藤田千恵子さんと、奈良京都に点在する日本酒ゆかりの聖地を巡礼するツアーを催行しました。

 地酒研に藤田さんをお招きしたのは、2003年に東伊豆稲取での宿泊サロン以来。このときは観光地のホスピタリティや地酒の扱われ方について、静岡県の蔵元4人と藤田さんでトークバトルしていただきました(こちらこちらに記録してあります)。今年のお正月、20周年アニバーサリー企画として過去20年間に開催した好評企画にリトライしようと考えていたとき、藤田さんに真っ先に連絡をし、快くご協力いただき、実現できたのです。


 今回廻った聖地は、酒林(酒蔵の軒に吊るす杉玉)発祥の大神神社(奈良県桜井市三輪)、日本清酒(菩提もと)発祥の正暦寺(奈良市)、酒の神様松尾大社(京都市)の3か所。昨年上梓した『杯が満ちるまで』で酒造の起源について執筆したのがきっかけで、大神神社の分社である岡部の神神社を信仰する「初亀」の橋本謹嗣社長、菩提もと再現に取り組む「杉錦」の杉井均乃介社長に同行をお願いしたところ、お2人も快く参加してくださいました。

 行先はこれに加えて、藤田さんが懇意にされる久保本家酒造(奈良県宇陀市)、精進料理をいただいた酬恩庵一休寺(京都府田辺市)、イオンモールKYOTOに新規オープンしたオール純米酒の酒販店「浅野日本酒店」、最後は私が懇意にしている京町家「亀甲屋」でフィニッシュと、1泊2日のドライブ旅行にしてはかなりタイトなスケジュール。もともと20周年アニバーサリー企画を陰日向でサポートしてくれた会員と、車に乗れるだけの人数でこじんまり行くつもりでしたが、藤田さんの酒友を含めた計13名でのにぎやかな珍道中となりました。


 7月31日(日)は車2台で静岡を朝8時に出発。昼過ぎに奈良大宇陀の久保本家酒造に到着しました。旧伊勢街道一帯に広がる城下町として戦国時代から発展し、今も歴史的街並みが残り、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている宇陀松山。その一角にある同蔵も、街並みを象徴するように、切妻造りの桟瓦葺(さんかわらぶき)、白漆喰の外壁に囲まれた堂々たる伝統家屋です。

 敷地内には昨年7月に「酒蔵カフェ」がオープン。水曜日から日曜日(午前11時〜午後4時)の営業で、3種の利き酒セット、酒粕を使ったスイーツ、糀(こうじ)ドリンク、仕込水コーヒーなどが楽しめます。3月に下見にうかがったときは平日午後の訪問で、利き酒セットを頼みましたが、土日にはランチ営業もしているということで、今回は到着後さっそくランチをいただきました。

 ランチは酒蔵らしい発酵食メニューがいっぱい。これで1200円はコスパ高!と全員大喜びでした。

 

 

 食事後は蔵元久保順平さんの案内で仕込み蔵の見学です。久保本家酒造といえば「初霞」「生もとのどぶ」で知られ、南部杜氏の加藤克則さんは生もと造りの名手として注目の人ですが、この時期は当然ながら蔵にはいらっしゃいません。久保さんは「僕なんかの説明ですみません」と恐縮しながら1階の釜場や仕込みタンク、2階の麹室や酒母室を丁寧にご案内くださいました。ちなみに久保さんは加藤さんを杜氏に雇用する前の数年間、ご自身で杜氏を務めた経験もおありです。

 酒蔵の環境や宇陀松山の土地柄についての解説では、さりげなく「万葉集の●●に詠われた」とか「大化の改新のころ」なんてフレーズが出てくる。日本広しといえども大化の改新を語る酒蔵なんて奈良の蔵しかないだろう~とみんなで唸ってしまいました(笑)。

 夏場、杜氏や蔵人不在で、“物置状態”になった蔵をいくつか見たことがありますが、不在中とは思えないほどピカピカで整理整頓が行き届いていました。酒母室の広さと清潔さは、この蔵が酒母造りをいかに重視しているかを体現しているよう。同じく生もとや菩提もと造りを手掛ける杉錦の杉井均乃介社長が、かなり突っ込んだ質問をされていましたが、同業他社の人にも過度なガードを張らず、技術をディスクローズするのが酒造業者のいいところ。逆に言えば、同じ道具・同じ手法で造っても同じ酒にならない酒造業の奥深さを、同業者同士の対話からもどことなく感じました。

 

 

 

 いただいた資料によると、久保本家酒造は元禄15年(1702)の創業。吉野から転居した初代久保官兵衛が「新屋(あたらしや)」という屋号で造り酒屋を始め、この地が交通の要所ということもあって手堅い商売をされていたようです。幕末期、6代目伊兵衛氏の2人の弟は吉田松陰、緒方洪庵、林豹吉郎、福沢諭吉等と親交があり、明治以降は洪庵から譲り受けた天然痘ワクチンを使って地域医療に従事したそうです。

 酒造業は8代目伊一郎氏の時代に大いに発展し、灘(兵庫県)に進出したり、県内初の乗り合いバスの松山自動車商会(現・奈良交通)や銀行(現・南都銀行)を創業。伊一郎氏は衆議院議員を4期務めた実力者で久保家も隆盛を極めたそうです。氏が急逝したとき後継の9代目順一氏はまだ19歳。バス、銀行事業は親戚に譲り、灘の酒蔵も手放し、本家での酒造業に専念するも戦争の時代に入って厳しい経営を余儀なくされます。戦後はいち早く製造復活をはたし、地域に初めて信号機を寄付したり万葉集の歌碑を建立するなど地域貢献に尽力。禅宗を信条にされていた順一氏は、大徳寺長老の立花大亀老師を自宅に招き、知人を集めて毎月禅講義を開催されたそうです。

 

 我々を迎えてくださった久保順平さんは1961年生まれの11代目。10代の頃は祖父の順一氏、父・伊一氏に反発し、大学卒業後は大和銀行(現・りそな銀行)に入行し、ロンドン勤務も経験されたそうです。しかし海外に出て初めて、家業や地域の得難い価値に気づき、1994年に退職してUターン。家業は曾祖父の8代目伊一郎氏の時代をピークに曲がり角に差し掛かり、灘に桶売りをしていた状況でしたが、静岡県の酒蔵が吟醸酒で“自立”の道を切り開いたように、久保さんも地酒蔵の強みを模索し、酒造りの同志を求めて全国を回って、生もと造りの技術を持つ南部杜氏の加藤克則さんと出合います。

  加藤杜氏と二人三脚で新たに確立した「初霞」「睡龍」「生もとのどぶ」は大きな評判を集め、今では生もと造りの銘醸として知られるようになりました。
 



 こちらは2008年、ウォールストリートジャーナルに掲載されたSAKEの特集記事。私が撮影した青島酒造の写真が掲載されたことは、こちらのブログでも紹介済みですが、偶然にも同じ紙面に久保本家酒造が掲載されていたことに気が付いてビックリ。「喜久醉」青島酒造の蔵元杜氏・青島孝さんも久保さん同様、家業継承を嫌って金融の世界に進み、海外で仕事をし、そこで改めて日本の地に足の着いたモノづくりの価値や自身のアイデンティティを見つめ直した人。不思議なご縁を感じます。


 蔵見学の後は、宇陀松山の歴史的街並みを散策し、16時に出発。約30分で宿泊地の桜井市三輪・大神神社門前旅館「大正楼」へ到着しました。夕食時には持ち込ませていただいた静岡の酒をたっぷり味わい、夜は大正楼の前から宿の浴衣のまんま、大神神社おんぱら祭り花火大会を見物しました。私にとってはこの夏初めての花火。なおかつ大好きな酒友たちと旅先で、ほろ酔い気分で見上げる夜空の大輪と打ち上げの音は、いっそう心に沁み渡りました。(つづく)