杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

わらび座の『火の鳥』

2008-04-30 10:43:33 | アート・文化

 29日(火・祝)は新宿文化センターに、わらび座ミュージカル『火の鳥』を観に行きました。

 

 

  昨夏、静岡でわらび座公演『義経―平泉の夢』が上演されたとき、事前に開かれた上演を成功させる有志の集まりに呼んでもらい、主演の戎本みろさんにお会いしました。本公演は仕事の都合で観にいけなかったのですが、事前の集まりでは、みろさんはじめ出演者が即興で歌ってくれたり、一緒に飲んだり食べたりして、とてもフランクで楽しいひとときを過ごすことができました。私は恥ずかしながら、わらび座という劇団のことを、このとき初めて、ちゃんと知ったのでした。

 

  わらび座は、1951年に原太郎氏が東京で創設し、日本の伝統芸能や民謡を現代感覚で表現しようと、民謡民舞の宝庫である秋田県田沢湖町に拠点を移し、全国の民俗芸能を調査し、舞台化し、全国で公演活動を行っています。小学校や公民館にわらび座が来たのを観た、という人も多いと思います。

 

 

  1974年に全国800万人の市民支援によって、パブリックシアター「わらび劇場」が完成。観光客や修学旅行生が気軽に観劇できるように、また劇団員がここで生計を立てながら演劇活動ができるようにと、劇場の周辺に温泉や宿泊施設をつくり、「たざわこ芸術村」という一大テーマパークを築き上げたのです。東北の片田舎で、毎日演劇が上演され、全国から観客が集まり、にぎわっているというのは、奇跡のような話。静岡の真ん中にありながら、市民が気軽に近寄れない静岡県舞台芸術公園とはえらい違いです。

 

  わらび座の劇場ニュースを見ると、わらび劇場では、ホントに毎日公演をやっているんですね。お休みは毎週1回程度。今年の演目は松尾芭蕉を主人公にしたミュージカル『おくのほそ道』。芸術村では夏には俳句の会や花火&盆踊り、秋には収穫体験やクリスマスなどイベントメニューも盛りだくさんです。来年には、秋田の酒蔵の歴史をテーマにしたミュージカル『響け!酒屋唄』(仮題)を上演するらしいので、これは、ぜひ観に行かねば、と思っています。

 

  一方、全国を巡回する特別公演は、今年は、『天草四郎―四つの夢の物語』と、昨日観た『火の鳥―鳳凰編』の2本。『火の鳥』は、創設者原太郎氏の夫人が、関西の学生演劇チーム「学友座」で当時、大阪大学医学部の学生だった手塚治虫氏と俳優仲間だったという縁から始まったそう。今回は、手塚治虫生誕80周年記念ミュージカルとして、手塚プロ全面協力のもとで上演されました。

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 昔、アニメ映画で観たことのある『火の鳥』。今の映像技術なら実写化も可能かもしれませんが、舞台、しかもミュージカルとなると、あの深く壮大な死生観をどうやって表現するのか、想像がつきませんでした。描かれるのは奈良の大仏建立時のお話。東大寺初代別当・良弁僧正も登場するとあって、現代風のミュージカルになるというのが、どうもピンと来ません。

 

  正直なところ、アタマから、手塚作品や大仏建立がテーマだと思い込まず、1本のミュージカル作品として楽しめればよい、と思って観ました。そして、本当にミュージカルとしては見ごたえのある上質な作品でした!。なんといっても素晴らしかったのは、主役のパク・トンハさんと戎本みろさんの歌唱力。ホールの音響がイマイチだったせいか、歌詞の内容はうまく聴き取れなかったのですが、それでも、ミュージカルの成否はやっぱり俳優の歌声と表現力に因る部分が大きいと実感しました。

 

  民族の歴史や伝統や宗教観につながるようなテーマを、現代風の舞台表現で伝えようとするわらび座の試み。なにか、ひとつの老舗企業の生き方を見るような思いがします。

 

  

 さて、今夜は22時発の夜行バスで京都へ行き、1日朝から5日まで京都・興聖寺にて接心(特別坐禅)に参加します。心の垢をそぎ落とし、新たな気持ちで仕事や映画づくりに臨みたいと思います。みなさまも充実したGWを送られますよう!


クリムの花文字体験

2008-04-28 10:03:26 | 朝鮮通信使

 26(土)~27日(日)は京都。京都通の静岡新聞編集局の平野斗紀子さんと一緒に、26日午前中は宇治の平等院に藤を、午後は、映像作品『朝鮮通信使』のロケでお世話になった高麗美術館の開館20周年記念特別展「愉快なクリム―朝鮮民画」を観に行きました。

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 平等院の藤は、樹木医塚本こなみさんが育樹指導をされているので、楽しみに行きましたが、満開には今ひとつといった状態。こなみさんが手がけたあしかがフラワーパークの世界一の藤に比べたら、やっぱり物足りないかな…。もちろん、平等院の藤は、藤原家のシンボルとしての存在感があり、国宝の鳳凰堂をバックに風に舞う長い房の一群は、一般の公園や庭園では見られない優雅な姿。この時期、一度は目に焼き付けておきたい風情です。

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  高麗美術館の特別展「愉快なクリム―朝鮮民画」は、学芸員の片山真理子さんに、昨年の秋口から「静岡市立芹沢銈介美術館の所蔵品もお借りするんですよ」と聞いていたので、待ちに待った展覧会。片山さんの解説記事によると、〈クリム〉とは朝鮮語で絵や図を表す言葉で、〈民画〉とはご承知のとおり、大正末期から昭和初期にかけて柳宗悦らが提唱した民藝運動から生まれた造語。朝鮮国には、日本の狩野派や琳派のような流派はなく、宮廷画員がいわゆる唯一の“正統派”。クリムは、民衆から生まれ、民衆のために描かれた民画で、儒教精神を表した文字デザイン図、門扉に飾った動物の画、先祖を供養するための廟堂図などが発達しました。ほとんどが、名もない絵師が村から村へと移っては生活に必要な絵を描き残し、古くなって破れたものを描き直しては立ち去ったそうです。

 

  柳宗悦の同人だった芹沢銈介は、文房具を描いたクリムを見て「朝鮮画の静物は、思わず体を撃たれる驚きだった。不思議な驚くべき画境である。有難き欣びです」と激賞したとか。今回、静岡の美術館でも観たことがなかった芹沢コレクションのクリムを初めて観て、漢字一文字を絵のように大胆にデフォルメする朝鮮の名もなき絵師たちのセンスに、本当に脱帽!でした。

 

  芹沢コレクションの中に、かすれた書体と、虎、馬、魚、亀の絵を組み合わせたユニークな〈飛白体文字図〉があります。この文字図の画法を体験するワークショップに参加し、実際に平筆を使って、文字のところどころに花や蝶を描く“花文字”で、「福」の字を描いてみました。

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 指導をしてくださった朝鮮民画の継承者・李青山先生の実技には、最初、20名あまりの参加者も目がテン!状態でした。筆は、素材をあれこれ探して先生が行き着いたというフェルト帽の生地。いったん水を染み込ませ、中央部分だけスポンジで水分を切り、両端に墨汁をつけて描くのですが、筆の持ち方、水や墨汁の染み込ませ方を覚えるだけでいっぱいいっぱい。

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 それでも、こういう画法があって、漢字をこんなふうに楽しく表現できるなんて、驚きの発見でした。見慣れた「福」の字が、人によってさまざまなカタチに表現され、習字の筆文字で見比べるのとは違う、その人らしい幸福感が伝わってくるようです。

  

 

  この日、偶然にも、静岡県立美術館学芸員の福士雄也さんが参加されていました。聞けば、来年初春、富士山静岡空港開港記念として県立美術館でも朝鮮美術展を開催する予定で、高麗美術館の所蔵品がいくつか出展されるそうです。クリムのワークショップもぜひやりたい、と、視察に来られたのでした。

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  昨年の『朝鮮通信使』撮影、今年の芹沢コレクション出展、そして来年は県立美術館への貸し出しと、高麗美術館が3年連続して静岡と縁続きになるなんて、不思議な感動を覚えます。『朝鮮通信使』で描こうとした、民衆と通信使の“誠信の交わり”が、400年経た今、まさに再現されつつある、と実感します。(右写真=右から片山真理子さん、平野斗紀子さん、福士雄也さん、李青山先生、鈴木真弓)

 

  高麗美術館の『愉快なクリム―朝鮮民画』は、5月25日(日)まで開催中。5月17日(土)には焼き物絵付け体験ワークショップ、18日(日)には花文字体験ワークショップがありますので、興味のある方はぜひご参加を! 問合せはこちらまで。


鷹匠歴史散策

2008-04-25 11:38:35 | 映画

 昨日(24日)夜は、シズオカ文化クラブ定例会で、静岡市葵区鷹匠の歴史散策と、劇団「伽藍博物堂」座長・佐藤剛史さんの一人芝居鑑賞を楽しみました。

 

 

 鷹匠一帯は、今は、静岡の代官山などと言われているようですが、その昔は、今川氏の人質だった竹千代時代の徳川家康が住んでいた町。旧鷹匠会館あたりにお屋敷があったそうです。

 

 静岡鉄道の線路沿いにある『華陽院』は、家康の母方の祖母・源応院と、家康の娘で7歳で夭折した市姫の墓があります。

 源応院は、生母と生き別れ、8歳から19歳まで駿府で人質生活を送った竹千代=家康を親身に養育した人。1560年、桶狭間の戦いの年、家康が19歳で今川義元上洛の先陣を務めて高天神城(現・掛川市大東)にいたときに駿府で亡くなり、訃報を知って嘆き悲しんだ家康は、自分の代わりに三河松の苗木を墓の傍らに植えるように指示したとか。この松は昭和15年の静岡大火で焼枯し、現在の松は昭和23年、徳川家正氏が植え直したものです。

 

 

 源応院の墓より、市姫の墓のほうが立派なので、取り違えて本に紹介した作家もいたそうです。19歳で今川配下に在った当時の家康が建てられる墓は、この大きさが精一杯だったのでしょう。晩年の大御所時代に建てた市姫の墓が、それよりはるかに立派なのは、まさに家康の立身出世を物語っています。

 

 

 昨年、映像作品『朝鮮通信使』の撮影で対馬の宗氏の菩提寺を訪ねたとき、家康の意を汲んで日朝外交の修復に努めた宗義智の墓が、他の墓に比べ、思いのほか小さかったのが印象的でした。今の私たちは、歴代宗氏の墓を俯瞰的に眺め、大きいだの小さいだのと勝手なことを言いますが、考えてみれば、墓を建立した当時の宗氏の置かれた立場や、当時の義智への評価がどんなものだったのか、墓の形状から想像できるわけです。歴史というものは、複眼で見なければいけないという鉄則を思い出しました。

 

 東京にある新井白石の墓も、本当に小さく、目立たなくて、ビックリしました。強引な幕政改革を推し進め、道半ばにして失脚した白石に比べ、対馬の外交官として終生活躍したライバル・雨森芳洲の墓はすごく立派でした。

 脚本では、当初、白石のことを、悪役のように書いたのですが、仲尾宏先生の助言をもとに史料を読み直し、白石の功績や、朝鮮通信使には詩人として高く評価されていたことを盛り込みました。桜が散りかかった夕暮れ時に撮影した白石の墓の情景は、思いのほか美しく、作品の中でいくつか撮った墓石の中でもひときわ心に残っています。

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  伽藍博物堂の舞台は、以前から好きでたびたび観に行っていましたが、この日の佐藤剛史さんの時事ネタパフォーマンスは絶品でした。とくに、富士山静岡空港に対抗して“富士山山梨空港”を造ろうとする山梨県の架空の市の市長さんを主人公にした一人芝居は、空港関係者が観たら、笑えないかもしれないブラックジョークのテンコ盛り。でもブラックジョークの対象になること自体、大したもの。空港が、それだけゆるぎない存在になりつつあるということでしょう。

 開港を契機に、静岡への観光客誘致を目指して関係業者があれこれ動き出しているようですが、秀吉が壊した日本と朝鮮半島の関係を修復し、韓国では人気の高い徳川家康のことを、静岡は、もっとしっかりアピールすべきだと思います。華陽院のような名跡の存在も、本来であればもっと知られて然るべきでしょう。住宅街にある鉄筋造りの建物で、サインらしいサインもなく、外からはそのような名所旧跡だなんて、まったくうかがい知れません。

 先日、静岡伊勢丹で開催された九州物産展で、これも『朝鮮通信使』の撮影で訪れた佐賀県呼子のイカめし業者さんと話が弾んだとき、「せっかく静岡に来たので、家康ゆかりの名所旧跡を回りたいんだけど、案内が少ないですね」と言われてしまいました。

 

 

 帰宅後、メールをチェックしたら、3月のシズオカ文化クラブ定例会で『朝鮮通信使』を視聴してくださった静岡歴史愛好会の長田和也会長から、静岡市中央公民館「アイセル歴史講座」の6月例会で、『朝鮮通信使』の鑑賞会を開きたいという申し出が。この作品が、市民の中に少しずつでも浸透されることを何より願っていた私としては、最高に嬉しいオファーでした。しかも、歴史に関心のある方々に観ていただき、批評してくださるというのは、作り手の一人としても、大変ありがたいことです。

 開催日は6月16日(月)の午後。詳細は後日、改めてお知らせします。

 

 

 なお、過去ブログでもご紹介したとおり、『朝鮮通信使』の山本起也監督が、06年の作品『ツヒノスミカ』で、スペイン国際ドキュメンタリー最優秀監督賞を受賞し、このほど、凱旋記念上映会が開催されることになりました。

 開催日は6月20日(金)。静岡市民文化会館中ホールにて、『ツヒノスミカ』は午前1回、午後1回、夜1回の計3回上映(前売りチケット500円)。『朝鮮通信使』は午後1回、無料上映します。詳細はこちらをご覧ください。

  前売りチケットは、私のほうでも手配しますので、ご希望の方は、プロフィールのメールアドレスまでご一報ください。


藤田千恵子さんvs静岡の蔵元

2008-04-23 09:51:58 | しずおか地酒研究会

 2003年、東伊豆稲取に藤田千恵子さんを招いて開催したしずおか地酒サロンでは、参加した4蔵の蔵元と藤田さんのトークバトルを企画し、好評を博しました。静岡の蔵元が、観光地で初めて地酒を知ったお客さんに向けて、どんなパフォーマンスを示すのか、その一端がうかがえた興味深い内容でした。

 おりしもGW目前。観光地でいろいろな酒&食体験をされる方も多いと思います。5年前のトークバトルですが、今読んでも面白く、各蔵元の“性格”もなんとなく伝わる内容ですので、話のタネにぜひご一読を。

 

 

しずおか地酒サロン
「地酒と食とおもてなし ~ 観光地の真のホスピタリティを探る」
■開催日/2003年621日(土)~22日(日)
■場 所/東伊豆・稲取温泉「うえじま旅館」
■講 師/藤田千恵子さん フリージャーナリスト 「日本の大吟醸」(新潮社刊)はじめ日本酒関連の執筆多数、酒・食・旅の専門誌・一般誌等で活躍中。
■参加蔵元/志太泉、喜久醉、杉錦、國香

■出品酒/黎明(富士高砂酒造)、中屋(同)、臥龍梅(三和酒造)、南アルプス(萩錦酒造)、青春(磯自慢酒造)、多田信男(同)、富士桜(志太泉酒造)、雛酔桜(杉井酒造)、喜久醉(青島酒造)、嶋田(大村屋酒造場)、竹の風(同)、開運初蔵純米(土井酒造場)、遠州の四季(同)、國香出品用斗瓶取(國香酒造)、舞車(千寿酒造)、花の舞超辛口純米(花の舞酒造)


 

■トークバトル「日本一呑めるオンナ&蔵元なのに呑めないオトコたちの珍放談」

パネリスト/藤田千恵子さん、杉井均乃介さん(杉錦)、望月雄二郎さん(志太泉)、青島孝さん(喜久醉)、松尾晃一さん(國香)

 

○蔵元と観光地の間に澱む暗くて深い河…

(藤田)まず今日お集まりいただいた蔵元さんに、ご自分が観光客として旅館やホテルに泊まったときの経験談をうかがいたいと思います。

(杉井)最近はあんまり余裕がないので観光旅行はしていないんですが(苦笑)、1泊程度の団体旅行ですと、藤田さんのお話のように料理も酒もこれといった特徴がなく、印象に残りませんね。コストを考えてのことでしょうが、あまりいいお酒が呑めるという機会はないように思います。大きなチェーンの居酒屋さんなどもそうですが、世の中にはもっと美味しいお酒があるのに、なんとか努力して紹介できないのかなあと実感します。

(望月)お酒の味に限って言えば、旅館で出される燗酒は熱すぎますね。冷酒に関しても本醸造の生酒のように味がすっきりしてやや物足りないような酒が多いように思います。もう少しお料理との相乗効果を考えて、味のバリエーションをそろえてもいいように感じます。藤田さんのお話にあったように、私のところへも「旅行に行くからお酒を送ってくれ」というオーダーが来て、私のほうで23種類選んで旅行先へお送りするというケースもあります。消費者の意識のほうが高いのかなと感じます。

(青島)本日のタイトルどおり、私はまったく呑めませんで、ビール一杯半ぐらいで赤くなってしまいます。ですから一生のうちに呑める酒も限られてしまうので、吟味して呑むようにし、食べるほうを中心にしています。伊豆へはあまり来る機会がないのですが、仕事で県外に出る回数が増え、その土地の料理をしっかり食べて少々呑むというパターンですね。

(松尾)昨年の夏、このご近所の北川温泉に泊まったんですが、呑むのはほとんどビールで、徳利で出されるお酒は、中身はまったく気にしませんでした。(苦笑)。

 

○ここがウリです、静岡の酒、わが蔵の酒

(藤田)というように、蔵元さんと観光地の間には深くて暗い河があることをお分かりいただけたかと思いますが(苦笑)、日本全国どこに行っても美味しいものが食べられる国にしようという野望を持つ私としては、いろいろ考えることがあります。ひとつは、この4人の蔵元さんがお造りになっているような地酒と、値引きやリベートが前提となった酒とでは、観光地に入ってくる流通経路が違うということ。美味しい地酒が観光地に入っていくためには、蔵元さんご自身が積極的にアピールすべきでは、とも思うのです。そこで、外側または内側から見た静岡の酒の特徴やご自身の酒について自画自賛していただけませんか?

(杉井)静岡県がお酒の産地だというイメージは、県内外の多くの方はお持ちではなかったと思いますが、静岡県工業技術センターの河村傅兵衛先生が20年来、静岡のお酒を指導され、品質的に認められた。この先生の功績が8割以上ではないかと思います。

 熊本県は焼酎県のイメージが強いのですが、野白金一という日本酒造史に残る素晴らしい指導者がいて、吟醸酵母のスタンダードである9号酵母を開発した。また山形県工業技術センターにも小関敏彦という先生がいて、酵母や酒米の開発や指導に尽力されています。このように優れた指導者の力によって銘醸地が生まれるのが日本酒の世界の特徴で、静岡県もその例に当てはまった特殊な県だといえます。お隣り神奈川県にも有名な蔵元は2~3ありますが、静岡県ほど注目されませんね。静岡県はどの蔵も品質重視で造っていて、底辺のレベルが高い。これは大きな強みといえます。

 私の蔵は年間400石程度の小さな蔵で、みりんも造っています。もち米と焼酎で作る本格みりんで1升瓶2300円もしますので業務用向きではありませんが。焼酎も昨年から復活させ、現在、蔵で米焼酎と芋焼酎を寝かしているところです。

(望月)志太泉は藤枝のだいぶ奥のほうに蔵があり、水がきれいでやわらかいという特徴があります。この水を生かし、すっきりして適度に香りのあるお酒を造っています。地元でも酒米の山田錦を作っていますので、米の旨みや個性が感じられる酒を目指して造っています。

(青島)静岡県全体を見ても、非常に水質がよく、量が豊富だという強みがあります。酒造りは微生物を扱う仕事で、作業の前後の道具の洗浄や管理などにも大量の水を使います。丁寧な酒造りをしていこうという地域ですので、酒どころとしての意識を持つ上で水のよさや豊かさは大きな恵みだと思います。今日は4社ですが、県内には30余の蔵元がありますので、いろいろな銘柄を知り、静岡にはいい蔵元がたくさんあるなと感じていただきたいと思います。喜久醉は「酒造りは米作りから」をモットーに、夏場は田んぼで米作り、冬場は蔵で酒造りと、一年を通した造りを実践しています。酒質は食中酒としてのオーソドックスな味を目指しています。

(松尾)自分で造りを始めて10年になります。県内で自醸蔵になったのは比較的早いほうで、河村先生が開発された静岡酵母と出会い、これまでやってきましたが、まだまだ奥が深く、同じ酒は2つと造れないですね。自分が始めた頃は県外へたくさん売れと言われましたが、最近は地元の人や地元に来てくれた人に呑んでいただく酒を意識するようになりました。

 

 

○蔵元が考える、自分の酒と料理との相性

(藤田)お酒というのは単独ではなく、食べ物と一緒に味わうものです。私が旅館の女将だと仮定すると、みなさんは自分の酒をどのように売り込みますか?

(杉井)ひとつの蔵にも本醸造から大吟醸までいろいろな種類があります。一銘柄も10年前とは品質が変わっていますので、一概には言えませんが、私のところは本醸造系はどんな料理にも合うと思います。吟醸系はやはり淡白な料理でしょうね。みりんは昔ながらの造りでストレートでも呑めますので、食前酒やデザート酒として楽しんでいただくこともできます。スーパーで売っているみりんは、呑むとアタマが痛くなりますけど(苦笑)。

(望月)杉井さんが言うように、ひとつの銘柄もいろいろ変化しますので、自由に呑んでいただければいいと思いますが、新酒と熟成酒の違いはあると思います。新酒の時期はフレッシュ感や渋み・苦味があり、それが長所・短所にもなっていますが、ややエグ味のある春の山菜料理などとは味わいのバランスがとれると思います。45月にはうちのほうでは鮎が採れますし。秋口のキノコや栗ご飯などは熟成酒とマッチします。つまり季節感に合ったお酒を味わっていただきたいですね。

(青島)一般的な認識として吟醸酒はスッキリ、純米酒は旨みがあると言われます。静岡の酒は全体的にスッキリしていますが、喜久醉もそのような特徴は出ています。大吟醸は白身魚のように脂の少ないもの、純米系には脂ののったものが合いますが、純米吟醸などはオールラウンドにマッチすると思います。私は酒があまり呑めないので、料理を意識しながら酒も造っています。ふだんの食事も有機米の玄米食です。日本の伝統的な食材を選んで食べているうちに、伝統食や自然食の微妙な味わいが味覚として解かるようになってきて、究極の酒は「そばに合う酒」じゃないかと思っています。そばの香りは時期によって違いますし、味とのバランスも非常に繊細です。そのそばの味わいを邪魔しない酒が、脇役としてはベストではないかと思います。

(松尾)喜久醉さんとは造り方や使っている酵母も同じなので、だいたい目指すところも同じですが、ひとつ目指すのは食材とケンカしない酒。よく言われるのは淡白な酒は淡白な料理、味の濃い酒は濃い料理、という組み合わせですが、造り手の実感で言えば、酒自体は繊細な酒質を目指して造っているつもりですが、出来上がった酒は“強い”ことが多く、料理と合わないこともある。淡白で淡麗な酒ほど、酒自体は強いのです。味が濃い酒というのは、実は味でボケていてインパクトがない酒なのです。淡麗ですっきりした酒ほど表現は難しい。そんな酒で料理との調和が主張できればいいですね。

     

○“カップ酒純米化運動”に未来はあるか!?

(藤田)ところで、私がかねがね残念に思っていることにカップ酒があります。カップ酒のお酒はなぜまずいのか。なぜいいお酒が提供できないのでしょうか。駅弁でもそうですが、なぜこんなに添加物の多いおかずを入れるのか、保存食なのに保存料を使うなんて…と苦々しく思っていました。旅行先から帰る電車の中で、美味しい駅弁とカップ酒があれば旅の締めくくりとしてはこの上なく幸せなのに、呑みたいお酒がないのでウーロン茶で我慢することもしばしばです。そんなわけで、昨年、思い立って『カップ酒純米化運動』というのを一人で始め、出会った蔵元さんに「カップ酒、なんとかしませんか」と訴えているところなんですが、みなさん、いかがでしょうか?

(杉井)そうですねえ。まずカップという入れ物に充填するのに設備投資が必要です。うちでも一時やっていたのですが、需要が少なくてやめてしまいました。

(藤田)需要が少ないというのは、まずいからじゃないんですか?

(杉井)まあ、当時は三倍醸造全盛の時代で、大手に駆逐されたという感じでしょうか(苦笑)。今はこういう時代ですので、我々のほうでも一升瓶1700円前後でいい酒質のものを提供しようと努力しているんですが。

(望月)杉井さんが言われたように、カップ酒は専用の充填機とキャッパー(打栓機)がないと出来ません。うちでは造ったことがないのですが、高校の100周年記念か何かのときに1000本ほど頼まれ、一升瓶を10本ずつ小分けして造ったことがあり、えらく苦労した思い出があります(苦笑)。

(青島)うちもやったことはありません。家内制手工業のような現場ですので、量は造れませんし、限られた生産量を配分して商品化しようとすれば、優先順位をつけざるをえません。また流通の問題もあります。お酒というのは繊細な生き物で、生鮮食料品に近いものであり、呑んでくださる方のノドを通るまでが製造工程だという考え方ですので、流通の先が見えないものは品質に最後まで責任が持てないのです。流通面での課題がクリアできれば可能かと思いますが、これはこれで大きなプロジェクトになると思います。いずれにしても時間がかかることだと思います。

(松尾)藤田さんが考えるのは、純米酒をカップ酒にしようということですか?

(藤田)純米酒に限定するわけではありませんが、とにかく美味しく呑める酒をカップ酒にしたい。映画館のポップコーンと同じで、今のカップ酒を呑むと悲しくなるんです。楽しくなるカップ酒が欲しいのです。

(松尾)問題点はやはり、我々のような地酒蔵にとっては「品質が保てない」ということに尽きるでしょうね。

(藤田)コンビニのようなところで冷蔵庫に保管されたとしても、売る側の意識がなければ駄目でしょう?

 

(松尾)カップ酒は冷蔵庫には入れてもらえないでしょう。ワンカップタイプではなく、ネジ栓式の180mlお燗瓶で、冷蔵保存が確約できるなら可能性はあると思いますが…。

(藤田)…なんとなく運動が頓挫しそうな気分になりましたが(苦笑)、時間になってしまいましたので、またこの後の試飲会で気分を盛り上げたいと思います。今日はありがとうございました。                     (文責 鈴木真弓  *なお現在、志太泉さんで純米レベルの高規格カップ酒“にゃんかっぷ”が発売されています)


酒屋さんに期待すること

2008-04-22 17:09:30 | しずおか地酒研究会

 『吟醸王国しずおか』映像製作支援委員会の会員募集を始めて1ヶ月が過ぎました。初めから資金援助のターゲットを業界関係者に置かず、純粋な静岡酒ファンや、クリエーター発信型の企画に共鳴してくれる人に呼びかけたので、一般の方々の申込みが多く、本当にありがたいです。

 

  作品は、地酒を商う酒販店や飲食店の皆さんの追い風にもなれるのでは、と考えていますが、実際に入会を申し込んでくれた業務店はごくわずか。ちゃんと最初から“ターゲット”にして営業活動をしないのがまずかったのでしょうか。この上は、撮りだめしてある画を仮編集したサンプル映像を、お店などに持ち込んで観ていただくなど、営業に本腰を入れねばなりません。

 

 

  静岡の蔵元さんたちも、その昔は試飲酒持参で営業店を回って苦労したそうです。「取引して欲しかったら1ケースに〇本サービスしろ」「店の看板を寄贈しろ」なんてよく言われたとか。営業先でいくらアタマを下げても、ネームバリューの酒には勝てないのなら、品質をトコトン磨いて、向こうから「納品してくれ」とアタマを下げてくるような酒を造るしかない・・・蔵元たちのそんな反骨精神が、静岡を吟醸王国にのし上げたのでした。

 

  私も彼らに倣って、黙っていても周囲から「応援させてくれ」といわれるような映像を撮るぞ!と独りで盛り上がっているんですが、現実は甘くありません…。撮影と両立でどこまで出来るか体力的にも自信がないのですが、ここは、どぶ板営業の鉄則に従い、試飲酒持参で営業に回るような感覚で、サンプル映像を各地で観てもらおうと思っています。そんな映像が出来たら話を聞いてやってもいい、と思われる店主や地酒愛好会のみなさん、ぜひお願いします。

 

 

 昨日(21日)は、東伊豆町稲取の地酒専門店『吟酒むらため』さんから、入会申込みをいただき、酒販店さんからの貴重な申込みに小躍りしました!。

 伊豆は、ハッキリいって静岡の酒不毛の土地。せっかく県外から多くの観光客がやってくるのに、旅館・ホテル・料理店で、静岡の酒にこだわる店が本当に少ないんですね。そんな中、稲取では、手打ちそば誇宇耶と吟酒むらためという2店の“志士”が、伊豆ではネームバリューの低い静岡の酒を一生懸命普及させています。

 

 私は、彼ら2店の努力に報いるためにも、伊豆の観光業者に向けて何かインパクトのあることをしたいと考え、2003年に、女性日本酒ライターの草分け的存在であるエッセイストの藤田千恵子さんを稲取にお招きし、しずおか地酒サロンを開催しました。後日、会報ニュースに紹介した藤田さんの講演録は、今、読んでも示唆に富んでおり、学ぶべき点も多いので、ここに一部を再掲します。当時の藤田さんのご指摘、今は多少、改善されているように思いますが、いかがでしょうか。藤田さんから「プロの酒屋でしょう?」と叱られるような店が減っているといいんですが・・・。

 

 「地酒と食とおもてなし ~ 観光地の真のホスピタリティを探る」
■開催日/2003年621日(土)~22日(日)
■講 師/藤田千恵子さん フリージャーナリスト 「日本の大吟醸」(新潮社刊)はじめDscn2387日本酒関連の著書多数、酒・食・旅の専門誌・一般誌等で活躍中。

 

  

  静岡県というのは日本酒ファンには地酒王国として認知されており、20年ほど前、静岡の酒が軒並み全国新酒鑑評会で入賞したことは日本酒ファンにとっても大きな出来事でした。それまで「磯自慢」は海苔の佃煮だと思っていた人も多かったそうですが(笑)、首都圏ではもうそんな人はいません。
 お酒というのはイメージの産物ですので、私もイメージで言わせていただければ、静岡の酒は明るくてさわやかで呑み疲れしないという印象です。事実、静岡の酒を呑んで「呑み疲れた」という経験はありません。しかし地元静岡の方はその実力をどれだけご存知でしょうか。昨年春、静岡を訪ねたとき、ある酒屋さんで地酒を選ぼうとしたら、「静岡の酒は静岡酵母で造ってあるからどれもおんなじ味だよ」と言われ、キレそうになってしまいました(笑)。同じ酵母を使っても蔵が違い、造り手が違い、水や米が異なれば同じなんてあり得ない。自分の身近にあるものほど見えないということもありますが、プロの酒屋さんなのに地元に宝石のような銘柄があることを知らないなんて
 
でもこれは全国各地で見られる現象です。築地の魚と同じで、いいものはみんな東京へ行ってしまう。日本酒ファンは、そのお酒が造られた場所へ行ったり、その場所の料理と一緒に飲みたいと思うのに、地元に行っても地酒が呑めないことがあるんです。

 

 

  日本酒ファンが旅行を計画し、その土地に足を踏み入れ、景色を楽しみ、旅館に着いてお風呂に入るまでは幸せです。しかしその後がいけない。お目当ての地酒がなく、あったとしても純米酒や吟醸酒ではなく、醸造用アルコールが多めに添加してある普通酒だったりします。「温泉地に銘酒なし」というあきらめの境地に達し、あるときから旅行に行くときは酒を宅配便で宿へ送ってから出かける、なんてこともしました。もちろん持ち込み料は支払いますので、割高になってしまうのですが、せっかくの旅行ですし、いいものを食べたい呑みたいと思うわけです。
 そのうちに、食と泊の分離という現象を起こし、旅行は行きたいが食事つきの旅館ではなく、温泉は日帰り施設、宿はシティホテル、食事は地元の居酒屋というスタイルをとるようになりました。旅館に泊まれば一度に済むし、楽だし、くつろげるし、一番いいわけです。そんな一番いいことをあきらめてまでそうするというのは、それほど旅館の飲食が辛いからなんです。

 

  なぜ旅館の食事が居酒屋に負けてしまうのでしょうか。私の経験では、居心地のよい旅館を避けて居酒屋に行くのは、ひとつは居酒屋には数合わせのメニューはなく、自分が食べたいものを食べたい量だけ楽しめるからです。旅館ではこれでもかこれでもかと思うほど運ばれてくるのに、印象に残ったりお代わりしたくなるようなメニューがなく、「こなしていく」という感じで食べなくてはいけない。熱いものが冷めていて、冷たいものがぬるくなっている。見た目や数を重視するのか、見るからに添加物を使っているようなものも少なくありません。それは今の時代の嗜好に合っているとはとても思えません。
 温泉旅館というのは本来、体を癒し、健康を取り戻す施設であるはずです。そこにとても人工的な食事が出てきてしまったら意味がない。若い人はホテルや居酒屋を使いわけることに抵抗はありませんが、家族連れや高齢者には辛いですよね。出来たら旅館でゆっくりしたいのに。
 何を出されるかわからないというのは、楽しい反面、その店の料理人に信頼がなければ成り立たないことだと思います。旅館というのは観光業の中の「総合芸術」なんです。誰もが旅館業に就けるわけではありません。今、旅館業を営んでいらっしゃるかたは、そんな自覚を持っていただけたらと思います。

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  今日はせっかくお招きいただいたので、静岡の食とお酒の相性についてちょっと考えてみました。まず私の好きな桜えびの掻き揚げはビールに合いますが、日本酒も発泡性のあるものがいいんじゃないでしょうか。桜えびは春先のものですから、春の新酒の時期にちょうど出てくるにごり酒や発泡タイプのものが合うと思います。掻き揚げは塩でいただくのがオススメです。
 お酒の順番としては、食前酒に吟醸酒をいただき、次に香りの穏やかな純米吟醸を。料理コースには最低でも23種類の日本酒を合わせていただきたいですね。

  こちらの名物で金目鯛の煮付けがあります。砂糖を使ったり、酒やみりんを使ったりと、味付けはそれぞれの店で違うと思いますが、煮魚には純米酒のぬる燗や、味付けが濃い目だったら2~3年熟成させたものでも合うと思います。これはうなぎの蒲焼にも合いますね。
 ただ、酒と料理をあまり細かく言い過ぎてもいけないと思います。四谷の鈴傅という酒屋さんは夕方から居酒屋を営んでおられるのですが「組み合わせを楽しむのはいいけど日本酒はなんにでも合うんだから、行き過ぎてはいけないよ」とよく言われます。日本酒は甘・酸・渋・苦の味がバランスよく含まれる、他には例のない食中酒です。そのおおらかさが日本酒の魅力でもあるわけです。ちなみに鈴傅さんからは「どんな面白い話をして、いい酒を呑ませても女性は美味しい料理がなければ満足しないよって男性に伝えておいて」と言われました(笑)。

 

  みなさんもご存知の湯布院は、ひとつひとつの施設もさることながら、地域全体の力を感じます。まず土地のものをきちんと生かしている。玉の湯さんでは地元の無農薬野菜の朝市が開かれ、きれいな竹細工なども目を楽しませてくれます。農家のかたとのつながりをご主人がとても大切にしていて、農家が厨房に直接採れたての野菜を運んでいました。旅館の食事を23泊続けると疲れることがありますが、湯布院ではそのような体験はせず、毎度の食事がとても楽しみでした。料理研究家と地元畜産農家が協働で美味しいハムやソーセージを作ったりもしています。
 矢野顕子さんの歌に「食べたものが私になる」という歌詞があって、すごく好きなんですが、食事は私たちの体を作るものですから、旅行の最中であってもそういう意識を持ちたいし、旅館業の人は娯楽施設としてだけでなく、人の健康や命にかかわる仕事をしているという意識を傾けていただけたら、と思います。
 玉の湯さんには日本酒やワインもいいものが揃っているのですが、以前、私のところへ「九州の美味しい地酒をそろえたいんだけど」と相談が来て、いろいろご提案したところ、従業員のかたが事前に自分たちが作る料理とどんなお酒が合うのか、熱心に勉強した上で提供したとおっしゃっていました。あの旅館の人気はこんな地道な努力の賜物なんだと思いました。
また、亀の井別館のご主人はコーヒー豆にも凝っていて、旅館でお出しするコーヒーの味にとても気を配っています。

 

 オランダでは失業対策でワークシェアリングを行い、8時間の仕事を5時間と3時間で分け合うというようにして立ち直ったと聞きましたが、亀の井のご主人も「観光業もそんなシェアリングが必要じゃないか」と考え、1泊目は自分の旅館で食事を楽しんでいただき、2泊目は湯布院の街中で食事していただくという提案もしています。伸びていくには自分たちの利益だけ考えるのでは駄目だと言う。温泉地として多くの人に認知され、ひいきにしてもらうには、山の中の一軒家では駄目で、温泉郷としての魅力を打ち出す必要があると。湯布院にしても地域の力で多くの客を惹きつけているのです。これは日本酒もまったく同じで「うちの蔵はこういう美味しい酒が出来た」のではなく、「静岡の酒っておいしいね」というようにエリアとして認知され、親しまれた上で、個々の蔵の個性を打ち出すべきです。今は日本酒離れということが言われてしますので、銘柄や地域もさることながら、もっと広く、「日本酒っておいしいよ」という訴え掛けが必要ではないでしょうか。(文責 鈴木真弓)