杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

吟醸王国しずおかオフィシャルサイト完全オープン!

2010-03-30 22:29:26 | しずおか地酒研究会

 今月1日にオープンした『吟醸王国しずおか映像製作委員会オフィシャルサイト』。もうご覧いただけましたか?

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 映画本体の制作資金が枯渇しているときに、お金をかけてサイトを作ることに、若干の不安もありましたが、このひと月、このサイトを作らなければ出会えなかった方々に入会していただき、思い切って作ってみてよかった…と実感しています。

 

 

 出来たてホヤホヤのマイナーなサイトですから、とにかくアクセス件数を伸ばすには、新情報をつねに更新せねば!と、関連ブログ『杯が満ちるまで』は、会員有志の協力で毎日更新しています。

 

 

 サイト内には3本の連載読物コーナーを設けました。毎週金曜更新するのは、フリーアナウンサーで利き酒師の神田えり子さんの連載『えり子のぽんしゅカフェ』。静岡県でも指折りの人気ブロガーであるえり子さんのネームバリューをお借りして、ちょっとでもアクセス件数を伸ばそうという魂胆で、半ば強制的?にお願いしました(笑)。

 

 

 毎週水曜更新の『映像世界の杜氏を目指して~成岡正之物語』は、カメラマン成岡さんの半生を私が聞き書きしたコーナー。プロのドラマーとしてバンド活動をし、有名ミュージシャンのバックも務め、バークレー音楽学院に留学もした成岡さんが、さまざまな挫折を味わいながらも、映像技術者として独り立ちする、書いてる自分もワクワクする面白い半生記です。

 31日更新の回では、ハリウッド映画の制作会社へ特撮の修業に行くために、妻子を日本に残してアメリカ西海岸で業務用パイロット操縦免許を取得するまでの苦労話。・・・とにかくすごいキャリアです。

 

 

 この2人の連載コーナーに比べると、地味で長文で退屈させてしまいそうなのが、毎週月曜更新の『読んで酔う静岡酒~鈴木真弓の原稿集』。1994年に初めて地酒をテーマにした署名原稿を発表して以来、さまざまな媒体に掲載された私の地酒原稿の中から自分のお気に入りをピックアップしました。この映画を作っている人間が、“伝える”職業人としてどの程度のスキルを持ち、どんな気持ちで地酒と向き合ってきたかを正しく知ってもらいたいという気持ちから作ったコーナーです。

 

 

 これと併せてぜひ観ていただきたいのが、しずおか地酒研究会のコーナー。88年に私が地酒と出会ってから、96年に会を設立し、2007年に映画制作に着手するまでの履歴を、すべて網羅してあります。懐かしい写真(極力、顔がわからないよう小さいサイズにしてありますが)もたくさん載っていますので、地酒研メンバーの方はぜひ観てくださいね。

 

 

 映画制作の様子は、『フォトギャラリー~ただ今仕込み中』のスチール写真でたっぷり紹介しています。

 このブログでも紹介し続けてきた、2008年1月の最初の撮影―喜久醉松下米の仕込み、2月の磯自慢大吟醸の仕込み、08年6月から2010年3月までの初亀の一年等など…。私が撮った素人写真なので、お見苦しいところもありますが、撮影現場の醍醐味を少しでも多くの人にお伝えし、会員になってもらえたら…との願いを込めて編集しました。

 

 

 今日(30日)で、最後まで工事中だった会員リンクコーナーがやっと開通し、サイト内の全コーナーがフルオープンしました。

 

 地酒のサイトだと、酒関連のリンク先が中心になるところ、当委員会のメンバーは職種も地域も多岐に富んでいるので、リンク先を並べてみると壮観です。酒を愛する、映画制作に興味を持つ、クリエーターを応援する・・・、いろんな動機でメンバーになってくれた方々。リンク先でつながっているまだ見ぬ多くの方々。

 私は歴史が好きなので、よけいに強く思います。「同じ時代に同じ日本人として生まれ、静岡に縁があり、日本酒というちょっとニッチなジャンルで偶然にもつながった貴方」の存在そのものに感謝したい、と。

 

 

 吟醸王国しずおか映像製作委員会オフィシャルサイト。4月からもますます充実した内容で、映画制作と、静岡の酒の魅力発信に努めますので、よろしくお願いいたします。

 ご自分のHPやブログをお持ちの方は、ぜひリンクしてくださいね。

 アドレスは http://ginjyo-shizuoka.jp です。 

 


dancyu創刊20周年日本酒大試飲パーティー

2010-03-29 00:35:37 | 吟醸王国しずおか

 京都への夜行バス往復で、26日(金)は丸一日、眠気との戦い。地酒研メンバーの一人が、自分が属する組織の送別会でホテルセンチュリーの大宴会場に400人集まるから、会場で『吟醸王国しずおかパイロット版』を流したいと言ってくれて、その準備に奔走しました。

 

 

 翌27日(土)は東京の新高輪プリンスホテルで開かれた月刊dancyu創刊20周年記念の日本酒大試飲パーティーに参加。早めに行きたかったのに、疲労や眠気が取れず、開宴ギリギリの到着になってしまいました。 

 

 

 Imgp2071 全国から78蔵、4県の酒造組合が出展し、2000人の読者を集めての盛大なパーティー。日本酒だけの宴会で、これだけの規模は、バブリーな時代なら珍しくなかったものの、今のご時世では特筆モノです。私もこの20年、いろんな酒のイベントに顔を出してきましたが、最近では、静岡県酒造組合静酉会が一昨年、静岡県地酒まつりIN東京10周年で、東京国際フォーラムに1300人集めたとき以来の活況でした。

 

 今回はdancyu誌上で、読者対象に参加者を募り、応募者殺到で大きな宴会場に急きょ変更したとか。参加蔵元も、当初は30社ぐらいに声をかけたところ、出展希望が殺到したとか。dancyuという雑誌のネームバリューもさることながら、長い間コツコツと日本酒特集を続けてきた、その立役者である元編集長里見美香さんの功績に違いありません。

 

 知り合いがいないかと会場を見まわしたものの、いつもの酒イベントとはなんとなく客層が違う感じ・・・。いわゆる酒オタクっぽい人は少なくて、女性やカップルの割合が非常に高かった。酒の業界ルートで集めた客ではないからですね。

 dancyu誌上で特集紹介された「松下米」の松下明弘さんが、招待されていると聞いていたので、彼を必死に探してようやく見つけました。 

  

 静岡からは磯自慢、初亀、喜久醉の3蔵が参加し、会場の国際館パミール崑崙のセンターポジションにブースを設置。里見さんは「この場所になったのはたまたまですよ」と笑っていましたが、私は里見さんの「静岡愛」をビンビン感じ、会場で里見さんを見つけた時は思わず合掌してしまいました(笑)。

 

 

 里見さんにちゃんと20周年のお祝いとお礼を言いたかったのですが、この日、里見さんは、VIPゲストの中田英寿さんをエスコートし、会場内のブースを巡回していました。

 磯自慢、喜久醉、初亀を黙って試飲していたヒデさん、どんな印象を持たれたのかしらん・・・。全国の、カプロン酸華やかな酒や、パンチのある酒をいろいろ飲んだ後だと、静岡の酒は印象が薄いだろうなぁと心配になりつつも、こういう人が日本酒に興味を持って足を運んでくれるってありがたいですね。

 

 そういえば、何かの雑誌で、今年の注目男子でもある福山雅治さんが「純米大吟醸にハマっている」と書いてあったのを思い出し、先月、里見さんにお会いした時、「dancyuの力で龍馬さんを呼べないんですかぁ」などと妄想話をしてしまいました(笑)。

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  いつもの酒イベントなら、磯自慢のブースに異様なほどの長蛇の列が出来るのですが、この日は列の長さが若干短め・・・。後で蔵元に訊いたら、「静岡で日本酒って造っているんですか?」と聞く客もいたとか。常連しか来ない酒イベントよりも、新規ファン獲得にとても有意義な機会になったのではないかしら!!

 

 こういう場所で『吟醸王国しずおか』のPRが出来たらなぁ~と指をくわえつつも、勝手に宣伝活動なんかしたら、主催者や蔵元に迷惑になると思い、グッと こらえ、純粋に客として愉しみました。

 

 

 こちらは松下圃場に見学に来たことのある山口県の「貴」の永Imgp2082山貴博さん(右)と松下さん。

 原料(酒米)へのこだわりは、日本酒のメーカーなら当然と言えば当然ですが、米の作り手のスキルが注目され始めたのは、松下さんの存在が大きいし、だからこそ全国の心ある蔵元がわざわざ彼のもとへ見学に来て教えを乞い、dancyuが特集で取り上げたわけです。永山さんは、自ら米を作り酒を醸す、心ある酒造家のお一人ですね!

 

 

 13時に始まったパーティーは15時30分にお開きとなり、食事を全くとらずにひたすら飲みまくっていた私は、さすがに空腹と眠気でクラッときて、松下さんと食事へ。

 「宝くじが当たったら足りない映画資金を全部出してやる」と豪語する松下さんを、それなら試そうじゃないかと西銀座チャンスセンターに誘い、2人でスクラッチを買ったものの、彼は3枚買って300円、私は10枚買って500円しか戻らず・・・。やっぱり地道にコツコツ集めるしかないねぇと笑いながら、有楽町のヴィノスやまざきの売り場を見て、有楽町のガード下の定食屋へ。ごくフツウのチェーン定食屋なのに、ごはんの炊き具合をちゃんとチェックする彼を見ていたら、もっと気の利いた店を探しておけばよかったなぁと反省しきりでした。

 

 

 パーティー会場では、喜久醉のブースで、ふだん愛飲する特別本醸造ばかり飲んでいた松下さん。青島さんが「せっかくなら、他の大吟や純大クラスを試飲すればいいのに」と呆れる傍で、「これがやっぱり一番」と満足しきっていました。

 この日の顔ぶれは、さすがdancyu登場蔵が中心だけに、有名無名問わずキラリと光る個性ある酒蔵が揃っていましたが、それでもやっぱり静岡の銘柄を飲むとホッとする…。

 豪華な酒が立ち揃う試飲会でも、自分が米を納め冬場は蔵人として働く喜久醉のレギュラー酒をひたすら愛飲し、銀座のど真ん中でも、白いご飯にホッとして、その炊き具合を気にしてしまう松下さんの心情が、なんだかとっても理解できます。・・・もっとも、試飲会では滅多に飲めない「亀」「松下米40」「磯自慢純大」を卑しくガブ飲みした私ですが(苦笑)。

 

  

 

 なお、dancyu日本酒大試飲パーティーの写真は、吟醸王国しずおかブログ『杯が満ちるまで』にも掲載してありますので、併せてご覧くださいまし。

 


満開前の古都にて

2010-03-28 11:30:03 | しずおか地酒研究会

 25日(木)は、前夜、高速夜行バスに乗って京都へ。久しぶりの早朝着で、いつものように、近鉄の始発便に乗り換えて奈良へ。近鉄奈良駅近くのマックでコーヒーを飲み、トイレを済ませ、久しぶりの東大寺法華堂参拝です。

 

 朝7時、真冬に逆戻りしたような寒さと雨で、開きかけた桜も凍えるように身Imgp2042 を硬くしているようです。でも、東大寺の手前にある氷室神社の境内では、白木蓮としだれ桜が可憐な競演を魅せてくれました。

 

 

 早朝の東大寺境内は、いつもなら、犬の散歩や掃除をする地元の人をチラホラ見かけるぐらいで、あの広大な伽藍を独り占めしたような爽快な気分になるのですが、この日は悪天にもかかわらず、早くも観光客の姿が。氷室神社で花の写真を撮っていたら、「big buddha where?」と英語で話しかけられたりしました。やっぱり世間は春休みの観光シーズンなんですね。

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 ほとんどの人が大仏殿の入口へ向かうところ、私は柵越しに写真を1枚撮っただけで、そのまま二月堂・法華堂方面へ。

 

 

Imgp2054_2    雨の境内は、しっとり濡れた石段が、また格別の情緒を醸し出しています。二月堂・法華堂に至る「ねこ坂」や、切通しの石段は、あと数日経てば桜の花びらに彩られ、それはそれは、絵画のような美しい姿を魅せてくれるでしょう。こういう坂道をのんびり歩くのも、二月堂・法華堂に行く楽しみの一Imgp2056つです。

 

 

 東大寺法華堂は、先のブログでも紹介したとおり、今年5月から工事に入り、堂内が現状態で観られるのもあとひと月余りです。そのニュースを知った時、いてもたってもいられず、 残り1カ月で何回観にいけるだろうと焦ったものでした。

 

 8時開扉の法華堂に着いたら、一番乗りのつもりが、間髪の差で二番乗り。愛してやまないみ仏たちを独占できないもどかしさを感じつつも、正面の不空羂索観音と両脇の日光月光菩薩に対峙すると、いつにもまして、感動の波が打ち寄せてきます。

 

 月光菩薩は、その時々で怖くも見え、優しくも見え、私にとっては、自分の心の状態を映し出すまさに月の光のような存在です。この日は最初に真正面でお会いした時、「怒られてる…」と直感し、萎縮してしまったのですが、お堂の一番隅に腰掛けて、小一時間、黙して過ごしているうちに、月光さまの横顔がだんだんお優しくなってきました。と同時に、「この天平の御堂で、不空羂索さまの横で、こんなふうに怒ったり癒したりしてくれなくなるんだ…」と思うと無性に哀しくなりました。

 

 

 東大寺を後にし、近鉄奈良駅からバスに乗って大安寺へ。癌封じのご利益Imgp2061 で有名なお寺で、1月と6月の大祭では笹酒がふるまわれます。

 

 しずおか地酒研究会の設立当時からお世話になっているKさんが、数年前に癌を患い、地酒研に参加できなくなったとき、愛読する奈良の文化情報誌『あかい奈良』でこの寺のことを知り、Kさんの祈祷に行ったのが最初でした。

 

 闘病を続けながらも、大きな組織の女性管理職として懸命に仕事を続けていたKさんが、この3月、とうとう退職することになり、どんな慰労の言葉をおかけしたらいいのかを考えたら、大安寺に行くことしか思いつかず…。数年前の最初のご祈祷のときは何人かの方と一緒でしたが、今回は、私ひとりで、みっちり時間をかけてご祈祷していただきました。

 「・・・Kさんのために私はここまで尽くしたって、しょせん、自己満足だよな」と、どこかで自嘲しながらも、ご祈祷の後、一杯の笹酒をいただいたときは、「医者でもない、家族でもない、親しい友人でも職場の後輩でもない、単なる酒飲みつながりの私には、これくらいがちょうどいいのかも」と勝手に満足してしまいました・・・。

 

 

 

 昼前に京都へ戻り、この日一番の目的である佛教大学四条センター社会人講座『シルクロード新疆の文化財~キジル千仏洞壁画の魅力』を受講しました。当初は壁画研究家である安藤佳香教授が講義される予定でしたが、教授急病のため、佛教大学講師で僧侶の小島康誉氏が代役を務めました。

 

Imgp2062  小島さんは20年以上前から、キジル千仏洞の修復保全活動に尽力する“国際貢献実践家”。学術研究家の話もさることながら、小島さんのように実際に募金を集め、現場で汗を流し、努力をしている方のお話は、具体的で人間味あふれ、とても楽しい90分でした。

 

 小島さんたちの地道な貢献活動が奏功し、現在は中国政府も世界文化遺産登録を目指して本腰で保護に取り組んでいる新疆の仏教壁画遺産。・・・私が大学の卒論でキジルのことを書いた26年前というのは、小島さんたち篤志家がちょうど、この地域の調査と保護活動を始めた頃だったんですね。

 

 社会に出てからすっかりキジルから離れてしまった自分の20数年に比べ、小島さんの20数年は、キジルというかけがえのない仏教遺産のため、確かな貢献を重ねてこられたわけで、「自分が死んだら骨はタクラマカン砂漠に埋めてもらう」と明言する小島さんの表情を見ていたら、途方もなく羨ましく感じました。…私も学生時代、もっと真面目に勉強し、キジルの研究を続けていたら、間違いなくこっちの道に進み、「砂漠の中で眠るように死ねたら本望だ」と思ったはず。

 

 

 偶然にも拝聴できた小島さんの講義は、「こんなふうに死ねたら本望」という死に方を、堂々と語れる生き方をしたい、と改めて思わせてくれる濃密な時間でした。

 

 夕方から京都市内で映画を2本はしごして、日帰り入浴施設で冷えた体を温め、京都駅23時55分発の夜行バスでとんぼ返り。桜の見ごろなのにお花見なしの、寒くて地味~な古都巡りでした。

 


地酒とポテチに共通するもの

2010-03-26 11:41:39 | 地酒

 24日(水)はJA静岡経済連情報誌『スマイル』で、遠州夢倶楽部オリジナルの三方原男爵ポテトチップスを取材しました。

 遠州夢倶楽部というのは、Dsc_0013 県西部地区の酒販店40店が「酒屋から脱却して、商店になろう」との意思で集まり、新規商品開発に取り組んでいるネットワークグループ。

 酒販店が酒を見限って、他の商品で勝負するというのは、地酒ファンの身からするとなんとも哀しい話ですが、今、地方の個人酒販店が置かれた経営環境の厳しさを考えたら、「何でもいいから、スーパーや量販店にはない差別化できる商品で、なんとか生き残ってくれ~!」と手放しで応援したいところ。

 

 

 『スマイル』では、今回、じゃがいも特集の一環で、ブランド化されつつある人気の三方原男爵をポテチにして話題を集める夢倶楽部さんの取り組みを紹介することになりました。発起人の鈴代商店さんは、旧細江町にある酒の卸問屋さんで、酒以外にも調味料や加工食品等の品ぞろえに定評があります。

 

 JAの情報誌でポテチの取材に来たのが、酒オタクみたいなライターだったことに、最初は担当者も社長さんも面喰らってましたが、こちらが個人酒販店の状況に理解のある人間だと判ると、取材もスムーズに進み、いいお話がたくさん聞けました。

 

 

 実際に販売店で撮影をお願いしたところ、鈴代の担当者が案内してくれたのDsc_0016 は、酒の会でもよくお会いする『酒のバオオ』さん。

 バオオさんは静岡の酒をしっかり売っている優良地酒専門店ですが、「ポテトチップスやレトルトカレーを目的に来て、あぁ、こんな地酒もあるんだ、って知ってもらえたら、底辺拡大になりますよね」と、食品類の品ぞろえにもちゃんと力を入れています。

 酒が売れないから食品を・・・じゃなくて、食品をきっかけに酒の良さを知ってもらうという努力。これこそプロの酒販店なんだと心強く頼もしく感じました!

 

 

 鈴代の鈴木彰社長は、見た目どおり?の親分的な社長さんで、地域の酒販店と共存共栄していく腹がドン!と据わった方。

 地元Dsc_0005の人は、三方原の男爵いもが、ブランドになるほど人気になっているとはピンと来てなくて、じゃがいもは、近所の農家からタダでおすそわけしてもらうもの、もらいものにしては味はいいなぁと思う程度だったそうですが、酒販店仲間の会合で、いろいろなアイディアを出し合っている中で、はずみで「ポテチでも作るか」ということに。社長自ら、じゃがいも農家を回ってトラックに詰め、ポテトチップス加工の松浦食品(吉田町)まで運んだそうです。

 

 

 三方原男爵の収穫時期は、6~7月の2カ月余り。土壌の良さから、でんぷん質の多い、質の高い男爵いもに育ちます。

 

 ただし加工はむずかしい。というのも、でんぷん質の多いじゃがいもは、フライにすると焦げ目がつきやすくなります。収穫した後、すぐに加工せず貯蔵しておくと、でんぷんが糖に変わり、ますます焦げやすくなる。加えて、デコボコのある男爵は、ツルッとしたメークインの比べて病気になりやすいデリケートさも持っています。

 大手メーカーでは、男爵を高温で茹で上げ、大型連続フライヤーで切って揚げて・・・とオートメーション化しています。高温で火を通すと、芋本来の風味がなくなってしまいますが、表面に焦げ目のない、白くてきれいなチップスに仕上がるそうです。風味がなくなった分はいろ~んな味付けで工夫し、楽しんでもらうというのが、大手の戦略なんですね。

 

 Dsc_0096 一方、鈴木社長が依頼した松浦食品の松浦義広社長は、これがまた、いぶし銀のような職人さん。松浦食品は『芋まつば』や『かりんとう』で有名ですが、ポテトチップスも昭和43年ころから作っています。

 実は我が家では父が榛原地域に出張するたびにお土産に買って帰ってきてくれて、私は小学生のころから、松浦さんの、焦げ目つきのお芋の味がしっかりしたポテトチップスを食べていました。

 

 今回初めて、子どもの頃の憧れポテチ生誕の地を訪ね、松浦社長にお会いできて大感激! ポテチ造りの現場では、想像していたとおり、古くて年季の入った丸釜で、1回ずつ丁寧に揚げていました。

 

 「ポテトチップスの美味しさは、原料の芋で100%決まる」と松浦社長は言いますが、低温で丁寧に茹でて、職人さんが茹であがりをしっかりチェックして、釜まで手運びして、揚がり具合もちゃんと目視して…と、人の目がすみDsc_0089ずみまで行き届いている。…いい原料を活かすには、ちゃんと加工する人の手が貴重なんだと改めて実感しました。

 

 工場内で面白かったのは、このキケンサインの絵。すごい迫力ある絵だなぁ~!と思わず写真をバシバシ撮ってしまいました(笑)。人の手を必要としない、オートメーション化された大Dsc_0053手の工場では目にできない絵なんでしょうねぇ・・・。

 

 

 

 

 

 三方原ポテトチップスは、三方原男爵の収穫時期のみの販売。(この、限定販売というのが却ってイイみたいですね)。最初は、1袋300円以上するポテチが売れるかどうか不安だったそうですが、夢倶楽部会員店では1店舗当たり、想定外の売上を続々記録し、限定販売の話題性も手伝って、6~7月のシーズンは売れ切れ続出。「作れば売れるのはわかっているが、いもを無理に長期保存して三方原男爵の持ち味を無くしてまで作るのはナンセンス」との考えで、収穫時期限定にこだわっているそうです。

 「いかに売り上げを伸ばすか、ではなく、いかにうまいポテチを作るか、がテーマです」と、鈴木社長も松浦社長もきっぱり明言します。・・・なんだか静岡の心ある蔵元さんと話をしているみたいで、清々しい気持ちになりました。

 

 ちなみに、それ以外の時期は、国産じゃがいもを使った浜名湖ののり塩チップスがお目見えします。24日に写真撮影したのも、三方原男爵ではなくて、国産の男爵いもを使った浜名湖のりしおチップスの製造現場でした。

 

 遠州夢倶楽部のポテトチップスの販売は、夢倶楽部加盟店の限定ですが、地元のこだわり食材が充実する静岡伊勢丹、スーパーあおきにも置いてあります。松浦食品の工場直営店なら年中無休で買えますので、ぜひチェックしてみてください!


典座教訓に学ぶ

2010-03-23 12:20:32 | 吟醸王国しずおか

 私が携帯する文庫本の一冊に、道元禅師の『典座教訓』があります。

 ご存知の通り、典座(てんぞ)というのは禅寺の修行僧の食事係のこと。『典座教訓』は、料理を作ること、ただその中に人格完成の道を見出す名著で、1237年、道元38歳のとき著しました。

 私は20代のころ、かなり禅にかぶれて、いきなり『正法眼蔵』の訳書に挑んだのですが、あまりの難解さに頓挫し、代わりに救いを求めたのがこの書でした。今でも紐解いて読み返すことがありますが、昨年、角川ソフィア文庫のビギナーズ日本の思想シリーズから、(ページ数が少なく)読みやすい解説書が出たので、取材カバンに携帯するようになりました。

 

 典座の仕事を、

『一日いかにして、その食材を生かしきるか、皆がいかに満足してくれるか、心をその一点に込め、ただただひたすらに、煮たり炊いたりするだけだ。忘己利他、我をなきものにして、人々に心豊かになってもらう。この専一道心のみである』

と解説した部分は、酒蔵を取材するときに目の当たりにする杜氏や蔵人の姿と重なり、修行僧にも見える彼らの一挙手一投足に感動させられます。

 

 

 『吟醸王国しずおか』を撮り始めてからは、映像として美しいと感じる酒蔵とは、修行道場のように清潔で、規律がはかられ、典座のように真摯に作業する人々が映っている、と改めて実感しています。この実感は、私だけでなく、実際にカメラを回す成岡さんが図らずも「修行僧みたいだ・・・」とつぶやいたことでも証明できます。

 『典座教訓』の教えは、この映画でどの蔵をどれだけ撮るかを決める上で、大きな指針になっているといえます。

 

 

 今日(23日)、吟醸王国しずおかオフィシャルサイトにアップロードされた私の連載コーナー『読んで酔う静岡酒』その4では、1995年に開催した静岡市立南部図書館食文化講座のレジメを紹介しています。レジメでは、それまで5~6年かけて県内の酒蔵を取材して見聞きした静岡吟醸の製法のポイントを、専門書の助けを借りて解説しました。

 

 今の静岡吟醸の造り方とは多少のズレがあるかと思いますが、「米をよく洗う」「搾った後の酒袋をよく洗う」というポイントは、波瀬杜氏や多田杜氏や河村先生はじめ、私が教えを乞うた“修行道場の典座”のような匠たちから、再三強調された、永遠の教えだと思います。

 

 

 典座教訓にもこういう記述があります。

 『食を造るの時、すべからく親しく自ら照顧すべく、自然に精潔ならん・・・お米をとぐとき、全体をしっかりと冷静に点検して、小さな石や砂、ごみを取り除いていけば、雪のように純白米となる』。

 このあと、とぎ水もけっして無駄にせず、畑の野菜や木の幹に撒くように、と教えている。米と砂は区別しなければならないが、米が「正」で砂が「邪」ではないというのが禅の教えのようです。

 きれいに精米された米を、潤沢な湧水で洗う酒蔵では、とぎ水を大事にするなんて発想は、今は無用なのかもしれませんが、いつか再点検する時代が来るかもしれませんね。

 

 浅学非才の身のほど知らずで解説者ぶって書いた「レジメ」も、今読み返してみると、『典座教訓』の前では赤子同然だ、と自嘲してしまいます。それでも、静岡吟醸の匠たちの修行に通じる精神だけは、その行動と実践から汲みとっていただけたら、と願ってやみません。