昨日(29日)は一日、静岡県広報誌MYしずおか(08夏号・7月20日発行)の取材に走り回りました。今回担当するのは特集コーナー2本。1本は地域医療現場で不足するマンパワーの問題と対策、もう1本は富士山静岡空港。ともに新聞紙面を賑わせる重要テーマであり、何かと批判の対象にされるテーマでもあります。
クライアントからお金をもらって記事を書くコピーライターとしては、もちろん批判的な表現はできないし、ベタなPRや県の自画自賛記事になっても読み手を白けさせるとあって、微妙な匙加減が要求されます。
この雑誌は中日新聞が制作を請負っていますが、特集記事だけ私のような外部ライターを使うのは、新聞記者には“加減”ができないという事情があるのでしょう。だったら新聞社ではなく、広告会社や制作会社が請負えばいいのに、と思われるでしょうが、毎年、多数の広告・制作会社がコンペに参加しながらも、新聞社が受注するというのは、新聞社が持つ編集力―医療・教育・福祉のような広告会社とは接点の少ない分野や硬派なテーマにも即応できる取材能力や、自前でヘリを飛ばして空撮もできる撮影能力などが奏功するから。
新聞社の弱点だったデザインも、グラフィックデザイナーの島田雅裕さんがアドバイザーに加わってからはずいぶん“垢抜ける”ようになりました。もっともデザイン重視になって、文字数がどんどん制約され、丁寧な説明を要する今回のような難しいテーマでも、グラビア誌風に要点を絞ってわかりやすくコンパクトに、と指示されます。これがなかなかタイヘンで…。コピーライターでありながら、こういう編集チームに入って匙加減をしながら仕事する、というのは、自分の取材能力や筆力を大いに鍛えてくれるんだ、と前向きに臨むようにしています。
ちなみに島田さんには、磯自慢のカレンダーをデザインをお願いし、寺岡社長のハイレベルなリクエストに悪戦苦闘?しながらも、ゴージャスで素晴らしいカレンダーを作ってもらいました。仕事で出会ったクリエーター(ライター・デザイナー・カメラマン)は、何かしら酒の世界に引きずり込む、というのが私の悪い?習性で、今、そのエジキになって苦労しているのが、『吟醸王国しずおか』の映像カメラマン・成岡正之さんかもしれません(苦笑)。
でもそれは、酒というのが、それだけ人を惹きつける魅力あるものだという証明でもあります!
さて、昨日の取材では、心に残るお話をたくさん聞けました。今の地域医療の人材不足というのは、ご存知のとおり、今まで研修医は大学の医局の意向で研修先や就職先を決めることが多かったのが、勤務先を自由に選べるように制度改正されたため、高度な先端技術が学べる都市部の大学病院に人気が集中し、地方や僻地の病院が嫌われてしまったという背景があります。
午前中うかがった静岡県立総合病院の松田副院長のお話で印象的だったのは、地方の人材不足の問題は、そのような制度的な背景もさることながら、医師の世界でも、技能の伝承がうまくいっているところとそうでないところがある、という指摘。「職人の世界と同じですか」と感心すると、「とくに外科医の場合、知識も重要だが、経験が何より大事。多くの手術をこなす経験豊かな先輩ドクターから、いい技を盗みたいと必死になる若手を根気よく育てようとする中堅ドクターの存在が大きい」といいます。磯自慢の多田杜氏が、ことあるごとに、若い蔵人に「技は教えてもらうもんじゃない、盗むもんだ、知識よりも経験だ」と話していたことを思い出しました。
そして、研修医に教える一番大切なことは、知識や技術よりも、患者に向き合う姿勢だといいます。患者が弱い立場で、医師のさりげない顔つきや言葉づかいの一つひとつに過敏になっていることを忘れてはいけない、と。これは日頃、NPOの取材でよく耳にする「ミッション(使命)を忘れてはいけない、ミッションに立ち返れ」という言葉に通じます。
病院という職場がものすごく特殊な世界で、医師が特別な職業だというわけではない・・・モノづくりやサービス業やNPOの現場でも教える鉄則が、同じように尊ばれているということ、そしてベテランと新人のつなぎ役となる中堅どころが、モチベーションを高めて働ける環境づくりが同じように大事なんだということに、どこか新鮮な驚きと安堵感を覚えました。(ついでに心臓血管外科のスペシャリストでもある松田先生も、ドラマに出てくるようなカッコいい先生で、見とれてしまいました・・・!)
午後は東京・平河町の都市センターホテルで開催された『富士山静岡空港販売促進会議』の取材。就航先の北海道、九州の人々を、静岡へ呼び込む旅行商品を検討する会議です。出席した航空会社・大手旅行会社の営業企画担当者からは、「静岡の何をメインに売りたいの?」「そこに行くための空港からのアクセスは、どの程度整備されているの?」と矢継ぎ早に質問がなされます。来春の開港に合わせた旅行商品となると、20年度下期(21年1~3月)にはCM・ポスター・パンフレット等での宣伝が必要で、それら広告ツールを制作するのは年内。となると遅くとも9月ぐらいまでに内容を固めなければなりません。担当者が突っつくのも無理ない話・・・。静岡の“ウリ”となる観光地に、ある意味、優先順位を付けて、重点的にアクセス整備をするという作業を、公務員の皆さんがどこまでスムーズにやり遂げられるのか、興味深々で耳を傾けてしまいました。
県のような大きな組織が、民間のスピード感覚にどこまで柔軟に対応できるのか、いろいろ難しい局面もあろうかと思いますが、少なくとも私が接点を持った県の担当者は、空港をセールスする、という営業意識を持つ努力をしています。そういう一人ひとりの現場職員の頑張りを、同じ県民として応援しよう!という眼で書こうかな、と思っています。
会議の後のレセプションでは、静岡の酒コーナーの“看板娘”に早替わり。そろえたのは静岡県酒造業界のトップリーダーであり、石川知事の故郷でもある掛川の『開運』、空港のお膝元・島田の『おんな泣かせ』、富士山の名を冠する『富士正』、JALのファーストクラスに乗っている『磯自慢』、今年の県知事賞受賞『喜久酔』の5銘柄。いずれも純米大吟醸クラスです。県が酒造組合に相談したときは「組合で銘柄は選べない」と返され、私に話が来て、レセプションの出席者を聞いたら国交省や航空会社・旅行会社のトップクラスだということで、「舌の肥えた食通・酒通がいるかもしれないから、出品する以上はハイレベルなものを」とアドバイス。「だったら鈴木さんに来てもらわないと」と言われ、看板娘をやることに。
案の定、「ああ、これはうちのファーストクラスの酒だ」とか「磯自慢や開運は東京でも買えるけど、他はなかなか呑めないねえ」とか、私が持ってきた日経新聞の“業界人が選ぶ日本酒人気ランキングベスト10”に開運・喜久酔・磯自慢の3銘柄が入っている記事のコピーを、テーブルで「こういうすごい酒らしい」と回し読んで他の人にも薦めるなど、熱心にテイスティングしてくれました。
ビールばかり飲んでいた石川知事に、国交省のお偉いさんに薦めるように『開運』を手渡したところ、「ああ、これこれ、これを待っていた」と満面の笑顔。「“開運”というのは中国でも韓国でも意味がすんなり通じる。いい名前ですねぇ」とお偉いさん。東京で9月に開催する地酒まつりにぜひいらしてください、とさっそくセールスしておきました。
会議のときは、県側のプレゼン資料に、お茶や桜えびや静岡おでんはあっても、静岡吟醸はまるで無視されてしまい、内心、忸怩たる思いがしましたが、実際に呑んでもらって喜ぶ姿を見ると、「お茶やおでんを試飲試食しても、この人たちはこ~んな嬉しそうな顔はしないだろう」と溜飲を下げました。
酒にはやっぱり、酒だけが持つ、人を惹きつけ、なごませ、地域と地域を結びつける魅力があるんですね!