長く取材編集を担当させてもらっているJA静岡経済連の食の情報誌『S-mail〈スマイル)』の最新号が完成しました。発行部数と配布先が限定されているため、世の中に氾濫する食情報に埋もれ、一般の認知度は高くない媒体とは思いますが、時間をかけ、丁寧に丁寧に作らせてもらっています。お近くのJA窓口、またはファーマーズマーケット等で入手できると思いますので、機会がありましたらぜひお手に取ってご覧ください。ご希望の方は私から送らせていただきますのでメールでご連絡くださいね!
*鈴木真弓のメールアドレス mayusuzu1011@gmail.com
今回のテーマはわさび。ここでは最新号巻頭でご登場いただいた、静岡県産わさびを愛用する東京大森海岸の老舗寿司店のイケメン!オーナーをご紹介します。
上質を究めて選んだ静岡わさび
大森海岸 松乃鮨(東京都品川区南大井)
わさびは英語名も「WASABI」と表される世界に誇る日本特産の香辛料。そして静岡県が産出額第1位。清涼で豊富な水源を持つ静岡ならではの特産野菜です。
すしや刺身など生魚を食べる時には臭み消しになり、コクのある煮物には爽快な辛味がアクセントに。そんな日本料理に欠かせないわさびの魅力と、産地静岡にかける期待を、創業100年を超える本場江戸前鮨の名店オーナーにうかがいました。
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品川を起点に東京と神奈川を結ぶ京浜急行「大森海岸駅」。現在、線路と並行して第一京浜国道が走る駅周辺は、戦前まで海苔の養殖がさかんで、昭和初期には大森海岸芸妓組合が設立されるなど、東京有数の花街として発展しました。戦後は周辺の海岸埋め立てが進み、広大な敷地を誇っていた料亭の跡地にビルや高層マンションが林立するなど駅周辺は様変わりしましたが、旧料亭の家屋がところどころ点在し、花街の名残を今に伝えています。
明治34年に創業した松乃鮨は、大森海岸の華やかなりし時代の香りを残す数少ない名店。今も月に数回、お座敷に芸者が入り、本場江戸前すしとお座敷芸の伝統を代々継承しています。
4代目を継いだ手塚良則さんは、家業を継ぐ前、海外でツアーガイドの仕事に従事し、ワインソムリエの資格も持つ寿司職人。大学で留学生を対象に英語でSUSHIを講義したり、国際交流イベントで握りのデモンストレーションを披露するなど、ニッポン文化の伝道師として幅広く活躍中です。
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松乃鮨では週に3~4㎏と、個店ではかなりの量の生わさびを築地から仕入れています。「海外からのゲストのほとんどは、新鮮な生わさびを見たことがないため、寿司を握る前に鮫皮を使って目の前でわさびをすりおろし、試食してもらう。わさびの茎側と根先では色、味、辛みが異なるので、一様に驚かれます」と手塚さん。
使用するわさびは御殿場産と中伊豆産。手塚さんは実際に圃場を訪ね、生産者の栽培にかける思いを直に聞き取り、その時の感動を海外ゲストや年配常連客にも熱く伝えるそうです。「富士山の湧水が育てたと言えば外国のお客様はとても感激される。食の経験豊かなお客様に喜んでいただけるのは、目の前の食材の素性や作り手の苦労話。あまり知られていないわさび産地の情報は会話を大いに弾ませてくれます」。
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寿司ネタ選びに厳しい眼を持つのは当然ながら、寿司店の板場に立つ者の矜持として「シャリ・海苔・わさびに手を抜かない」と明言する手塚さん。
「わさびにこだわって価格に添加することはできない。だからこそ、どれだけ良質なわさびを使っているかで店主の姿勢がわかる」とされ、「この店はいいわさびを使っている」という評価が励みになる・・・静岡わさびは寿司職人手塚さんの自信や心意気を象徴し、ニッポン文化の伝道師としての使命を確認する頼もしい存在になっているようです。
■大森海岸 松乃鮨
東京都品川区南大井3‐31‐14 TEL 03-3761-5622 サイトはこちら
営業時間 11時30分~13時30分、 16時30分~22時
日祝休
席数/カウンター12、離れ座敷4~6、2階座敷6~24
☆四代目・ソムリエ 手塚良則さん
明治34年創業の松乃鮨4代目として10代の頃から板場に馴染み、大学卒業後はプロスキーヤーとして海外移住し、スキーツアーガイドやワインソムリエとして活躍したという異色キャリアの持ち主。家業に戻った後、3代目の父と共に板場を切り盛りする傍ら、大学で留学生対象に英語でレクチャーし、ミラノ万博やイタリアスローフード世界大会等では実演披露するなど、国内外で鮨文化の普及振興に尽力する。