杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ゆとり庵の炊きたてご飯モーニング!

2016-01-22 16:17:13 | 農業

 1月17日(日)~18日(月)、藤枝市主催の【藤枝の地酒蔵元と語る!吟醸旅籠2016】というイベントに参加しました。首都圏在住者を対象にしたシティプロモーション事業の一環で、私が以前お手伝いした県の地酒プレスツアー(こちらこちら)の一般版、という感じなのかな(実際参加されたのはIT関係者やブロガーさんが多かったみたいですが)、今回のサポーターである藤枝市場の渡部晋さん&ときわストア後藤英和さんから、冷やかしに来てと誘われて、17日夜の岡部宿大旅籠柏屋でのお泊り宴会から参加させてもらいました。今は国の登録文化財である柏屋に泊まれるなんて滅多にない機会だし、モーニングはゆとり庵の炊きたてご飯だと聞いて馳せ参じたのでした。

 

 柏屋での交流会では、講談師の田辺一邑さんが新作書下ろしの『家康の最期』を披露され、「初亀」「杉錦」「志太泉」の蔵元が地酒の紹介を、焼津酒米研究会の榊原会長と松下明弘さんが酒米の紹介をし、なんやかんやで午前2時ぐらいまでワイワイ飲み明かしました。私が寝たのは、柏屋のちょうど入口の受付がある土間だったので、目の前の街道は障子と雨戸1枚隔てただけ。折からの風雨で夜通しガタガタ揺れ、熟睡は出来ませんでしたが、現存する数少ない江戸時代の街道旅籠ですから、江戸の旅人気分を疑似体験したようなもの。障子一枚でも閉めれば暖かいんだなあと再発見できました。イベントの様子は参加ブロガーさんがUPしていますので、こちらをどうぞ。

 

 私が一番楽しみにしていたのは、モーニングのゆとり庵さんでした。昨年制作したJA静岡経済連情報誌【スマイル】のお米特集で、初めてじっくり取材させてもらい、もともと好きだった白いご飯がますます好きになり、地酒本【杯が満ちるまで】にもその思いを投入できたきっかけのお店。久しぶりにお会いした店主植田さんに「県外からもスマイルを読んだというお客さんが来てくれましたよ」と喜んでいただき、ホッとしました。

 この朝いただいたのは、磐田産きぬむすめ。2~3時間しか寝てなくて酒も完全に抜けていないというのに、朝からガッツリ2杯お代わりできました。お土産にいただいたきぬむすめのおにぎりを、夕飯に食べたときも、「美味しいお米は冷めても美味しいなあ」としみじみ。スマイルでとくに力を入れて取材した「きぬむすめ」や「にこまる」をふだんも食べているのですが、「日本に、美味しくない米なんて存在しない。どんなふうに食べてもらうか、きちんと考えればいいだけのこと」とおっしゃった植田さんの言葉が身に沁みました。日本酒もそうですね。今の日本に、美味しくない酒なんて存在しない。どんなふうに飲んでもらえばいいのかを考えればいいんだ、と。美味しい米や美味しい酒が日常的に口に出来るようになったのは、ごく最近のことで、思うように米を栽培できない歴史があって、先人たちの苦心の賜物の末、ふつうに食べられるようになったんだ・・・そんな感謝の思いを忘れないためにも、障子一枚で雨露をしのげる旅籠宿泊体験は意味があったと自分に言い聞かせました。

 

 スマイルの表紙にもなった「ゆとり庵」さんの紹介記事を再掲しますので、ぜひご笑覧ください。

 

 

「心にしみるごはんの味」を炊き上げる

釜炊きごはん工房 ゆとり庵(藤枝市岡部町岡部)

 

旧東海道岡部宿の面影を今に伝える大旅籠柏屋のそばにある『釜炊きごはん工房ゆとり庵』。店主の植田稔雄さんは「ふじのくに食の都仕事人」としても知られるごはん炊き職人です。植田さんが丹精込めて土釜で炊き上げたごはんからは、産地や銘柄の“顔”が見えてくると評判です。

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 ゆとり庵の看板メニューはずばり「ごはん」。暖簾をくぐると、店頭のショーケースには、おにぎりやいなりずしがズラリ。その上のお品書きには、ごはんの品種と産地が、居酒屋メニューのように紹介されています。ショーケースの横には店で使用する萬古焼きの土釜が飾られ、奥には個室が2つあって、予約客には目の前でごはん炊きを披露し、炊きたてごはん御膳をふるまいます。常時10~12の品種から、お好みの、あるいは植田さんお勧めの品種をオーダー。あつあつ、ふっくら、おこげも頼める釜炊きごはんは、まさに「おかず要らず」の逸品です。

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 2002年の開店時、「ごはんだけでよく勝負できるな」と周囲の料理人から驚かれたという植田さんは、山口県下関出身で、鉄道会社に30年勤務した異色のキャリアの持ち主。サラリーマン時代の愉しみは、出張先で郷土料理を味わうこと。「美味しい料理は数あれど、美味しいごはんに出合えない」のが不満だったそうです。「料理人の世界では、ごはん炊きは皿洗いのひとつ上ぐらいの下っ端仕事のようだが、ごはん炊きは、味付けで誤魔化せない高度な職人仕事ではないか」と思い続けてきました。

 三重県四日市市で営業所開設業務を担当していたとき、萬古焼きの土釜に出合い、自分で炊いてみたところ、試行錯誤の上、理想の釜炊きごはんに近づくことができた。それは「どんな高級炊飯器でも出せない味だった」と植田さん。この感動が原動力となって、約3年後、独立開業しました。「街中よりも田舎がいい。でも多くの人にごはんの美味しさを伝えるなら、田舎すぎないところがベター」と考え、出合った岡部の物件は、たまたま仕事で地縁があった土地に、昭和2年頃、建てられたという古民家。「親戚の家でくつろぐような気持ちになれる」と、店名も『ゆとり庵』にすんなり決まりました。

 プロの料理人が敬遠してきたとおり、ごはんを炊くという作業はシンプルゆえにごまかしが効かない奥の深い職人技。開店13年目の今も、植田さんは「満足できるのは年に数回しかない」と謙虚。「日本に、美味しくない米など存在しない。どういうふうに食べてもらうか、コツをきちんと考えればよいだけのこと」と県内~全国から厳選する米と向き合う日々です。

 ごはんは日本の主食。といっても日本人が生涯で食べる米の品種はごく限られますが、ここでは数種類の品種をすべて同一価格で味わうことができます。価格等の先入観を持たずに味わえば、本当に自分の口に合う米と出合えるはず。名人の手ほどきで、ごはんというシンプルな味の懐かしく新鮮な発見を愉しんでみましょう。

  

 

(料理紹介)

ゆとり庵では毎日、【日替わり食べくらべ3種】のごはんを塩むすびで販売。ごはん炊きに約1時間の浸漬時間を要するため、食事は要予約。土釜をテーブルの上に設置し、目の前で炊き上げてくれます。白米ごはん炊き御膳、たけのこごはん炊き御膳、金目鯛ごはん炊き御膳等、メニューはさまざま。白米ごはん炊き1620円~。

 

(店主紹介)

「おにぎりの味なんて皆一緒だろう?」と言いながら食べてびっくりした壮年男性。食事がとれず衰弱する一方だったおばあちゃんが亡くなる直前「ゆとり庵のおにぎりを食べたい」と言って完食し、今はご家族が墓前にお供えしているご近所さん。「子どもにこの味を覚えさせたい」という若いお母さん。そんなファンに囲まれ、植田さんは「心にしみるごはんの味」を伝えたい、と真摯に語ります。

 

■釜炊きごはん工房ゆとり庵

藤枝市岡部町岡部839-1 TEL 054-667-2827

営業時間 9時~14時 火曜定休  *食事は要予約。夜の予約可。

                <JA静岡経済連情報誌スマイル53号 静岡のお米特集(2015年6月発行)より>



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