杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

フルーツゼリーの試作実験

2008-10-03 10:14:20 | 社会・経済

 昨日(2日)は東京・新橋にある乳製品メーカー中沢乳業の研究室におじゃまし、新しいゼリー菓子の試作実験に立ち会いました。静岡県商工会連合会の平成20年度小規模事業者全国展開支援事業(しずおか・うまいもの創生事業)で、県内産のフルーツを使ったオリジナル菓子を開発することになり、静岡県出身のチョコパティシエ・土屋公二さんが、実際に製造販売する県内の5軒の菓子事業者に実技指導をしたのです。

 

 

 

 私はこの事業に3年前からかかわり、昨年度はアドバイザーとして参加。酒とつまみのギフトセット『つまんでごろーじ』の開発をお手伝いしました。今年度も引き続きアドバイザーを引き受けたのですが、得意の「酒」とは勝手が違い、お菓子類は完全に一消費者感覚。5軒のお菓子やさんと、土屋シェフと、コーディネーターの石神修さんがあれこれやっていることを、ほとんど眺めるだけでした。お菓子作りが趣味の人なら、こういう実技を見学するだけでも実になるんでしょうね。事業委員長の米屋武文先生(静岡文化芸術大学教授)と2人、「我々の出る幕はありませんね~」と苦笑いしながら、試作品のテイスティングを楽しみました。

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 試作の内容については、まだ開発段階ということで、公表は差し控えますが、面白かったのは、「菓子作りは科学だ」ということ。昨日は土屋シェフのはからいで、菓子の素材メーカーとして知られる愛国産業のスタッフもかけつけて、地元産の生のフルーツをゼリーにするという、菓子業者にとってはかなりハードルの高い作業に向け、専門家の立場から貴重なアドバイスをしました。

 

 

 

 お菓子作りの経験者ならよくご存じかもしれませんが、ゼリーやプリンのぷるぷる感を出すために使うゲル化剤には、今、カラギーナンという海藻抽出物を使うのがトレンドなんですね。原料はスギノリやツノマタといった紅藻類。プリン、ゼリー、アイスクリーム、ようかん、ソース類などのほか、シャンプー剤などにも使われているそうです。

 

 とくに最近のトレンドは、ゼリーでもプリンでも、ピシッと固めるのではなく、ほろっと崩れるようなぷるぷるとろとろ感だそうで、カンテンやペクチンといったおなじみのゲル化剤よりも、カラギーナンは素材に合わせやすく、好みの固さ・柔らかさを出せるそう。

 

 地元産の生フルーツを使うというのは、口ではカンタンに言えますが、業者さんにとっては本当に至難の業です。土屋シェフいわく「安定した状態のフルーツを安価に通年入手できなければ事業としては成り立たないのが定石」からこそ、「裏山で採れた旬のフルーツを使って、2~3人の家族経営のお菓子屋さんが作れる手法」を考える難しさと、新規事業として挑戦のし甲斐があるとのこと。

 

 そこで、愛国産業のスタッフがひねり出したのが、フルーツをピューレ状にしたときに、糖度とpH数値を一定に保つグラフ表。旬のフルーツは、当然、収穫時期やその年の気候によって数値にバラつきが出ます。お菓子屋さんが地元で期間限定で売る分には構いませんが、ギフトセットとして全国に販売展開するならば、味のバラつきはNG。まず仕上がり糖度をいくつにするかを決め、フルーツピューレの糖度を測り、足りない分をグラニュー糖で足す。愛国さんが作ってくれたグラニュー糖添加量早見表は、土屋シェフも「今日の拾いモノ!」と小躍りするほど貴重なデータのようです。

 

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 さらに重要なのは、クエン酸とクエン酸ナトリウムで出来たpH調整剤。pH数値が足りないと、出来上がったゼリーを熱湯殺菌しても死滅しない可能性があるそうです。熱に弱い菌は酸に強く、酸に強い菌は熱に弱い特性があるため、pH調整剤で数値を適正にしておく必要があるということ。

 話を聞いていると、菓子作りは理系頭脳がなければ出来ない…とつくづく感じます。中沢乳業のサポートスタッフも「昔は、お前はアタマが悪いから学校なんかいかずに菓子屋を継げ、なんて言われましたが、今は、アタマが悪ければ菓子屋も継げません」と苦笑していました。

 

 

 それにしても、生フルーツを加工することの難しさは相当なものです。試作品のうち、メロンを使ったものは、生メロンの風味がなくなってしまい、リキュールか香料を加えないと、消費者が期待するメロンゼリーの味にはなりません。みかんは皮を入れることでおいしさが増すのですが、皮を使うとなると残留農薬の問題が出てくる。使用するのは微々たる量で、みかん栽培に使われる農薬は水溶性で人体に影響はないといわれますが、今の消費者の食品に対する厳しい眼を考えると、業者さんは看過できず、しかも残留農薬の検査には膨大なお金がかかるとか。

 

 

 無添加が最上のもので、素材100%でなければホンモノではないという風潮…。酒の世界でも「純米酒至上主義」みたいな人がいます。

 

 こうして、実際、お菓子業者さんの苦労を目にすると、消費者の食への意識って一部マスコミや運動家が煽っている部分も確かにあるなぁと思います。それはそれで、冷静に考えなければと思う一方、私自身は、醸造アルコールが添加された本醸造系の酒も大好きだし、不安定なフリーランスの身ですから、食費に枯渇するときは100円ショップやドラッグストアでため買いした添加物の塊みたいなジャンクフードにも頼っている。食品表示も、偽装は許せませんが、100%すべて正直に表記しているわけではないから、メーカーを信用するしかない。

 最終的には、そのメーカーが企業活動できる日本という国を信用するしかありません。それが、20世紀から21世紀にかけて、日本という国で生を受けた自分の運命かなと。

 ・・・そういえば、もうすぐ選挙ですね。

 


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