北村薫の「円紫さんと私シリーズ」の最後の一冊ですが、調べてみたら、創元推理文庫版では短編3編が追加されているらしいので、機会があればそちらも読んでみたいです。
デビュー作『空飛ぶ馬』で大学2年生だった私は1児の母となっており、雑誌の編集者を続けています。
ただ、文学的なうんちくが多く、初期作品の気楽に読める要素が減って、昔と同じ流れを期待していた人には辛いかもしれません。
考えたら、太宰治も芥川龍之介も、そんなにきちんと読んだ記憶がありません。特に、太宰治は新釈諸国噺や御伽草子は読みましたが、他は、読み始めてすぐに挫折しています。なぜでしょう。自分でも不思議です。
あさのあつこの時代小説。あらすじはGoogle Playから
剣才ある町娘と、刺繍職人を志す若侍。ふたりの人生が交差したとき殺人事件が――。江戸・深川の縫箔(刺繍)屋丸仙の娘・おちえは、「弟子入りしたい」と突然丸仙を訪れた美しい若侍・吉澤一居に心を奪われる。旗本の家に生まれ、剣の名手でもある一居はなぜ、武士の身分を捨ててまで刺繍職人になることを切望するのか。 ...
ミステリ仕立てになっていると思わず読んでいましたが、ゆるいミステリでした。ほとんど伏線がないので、これをミステリと呼んでいいのやらわかりませんが、しゅじんこうのおちえと父親の会話が面白くて、楽しく読めました。
続編が出ないかなと、期待させる一冊ですが、設定からして難しそうです。作者も幕引きする文章の書き方をしています。
「活版印刷三日月堂」のほしおさなえの描きおろし長編小説です。
あらすじはこちらがよく書かれています。
自分はクリスチャンではないので、聖書の言葉がピンとこないのですが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の中に賛美歌の306番(現在の320番)が出てくるように、仏教徒だから他の宗教を否定するという意識は、日本人には希薄なのかもしれません。
しかし、いろいろな難しいテーマを中学一年生に語らせる文章とストーリーには、作者の力量を感じました。
ひとつわからないのは、題名です。音楽のフーガであることはよく分かるのですが、夏草ちゃんに関わってくる事件が、祖母、母、夏草と3つのキャラクターが交錯するから、フーガなのか、それらを混ぜてフーガとしたのか、どうなのでしょう。
日本のクリスチャン人口は世界でも最低水準だそうですが、教義をもつ聖書は美しい言葉にあふれています。一時期、日本でキリシタンが増えたのは、この美しい言葉と、賛美歌の絵一興だったというのは間違いではなかったと思います。それはコーランでも同じでしょう。
ただ、神を信じなかった人は地獄へ落ちる。神の教えを知らなかった人も地獄へ落ちる。宣教師がこうといた時に、「宣教師様の教えを聞く前に、死んだ爺さんは、地獄ですか」「そうだ」「じゃあ、俺も地獄でいいです」という日本人が多かった、だから明治になっても広まらなかった。そういう話を聞いたことがあります。
この本の中にも、似たような問答があります。
多分、普遍的な言葉で主題を展開したかった。だから聖書を引用し、同じ引用が、重みを変えていく、だからフーガなのかもしれません。
人形シリーズが好きだった、我孫子 武丸のミステリーランド第17回配本作品。
母とふたり暮らしの小学5年生・相原優希(あいはらゆうき)は、居眠りばかりしてしまうので、子供の頃から「眠り姫」と呼ばれていた。居眠り癖もあり学校になじめない優希を心配した母はお姉さん代わりの家庭教師をつけていたが、大好きだった美沙先生はアメリカへ留学することに。その代わりの新しい家庭教師・荻野歩実に、優希は大切な秘密を打ち明ける。その秘密とは、父親が3年ぶりに会いに来てくれた、というものだった。母とふたりで暮らしている理由を知らなかった歩実は、前任の美沙に事情を聞いてみるのだが……。父は本当に戻ってきたのか? 家族に秘められた謎とは?
私の読後は、こんな話なんだ、ぐらいのものでしたが、ネットでの評価がかなり高く、ファンタジーかなと思わせてちゃんとミステリーだという点を評価する人が多いようでした。
ほかの作家と比較すると、細かい女の子の描写がうまいのかもしれません。部分部分を読み返してみると、優希ちゃんの可愛らしさが浮かび上がってくる文章だったり会話だったりして、なるほど評価が高いのもわかるような気がします。
お勧めです。
大好きだった「猫丸先輩シリーズ」の倉知淳の連作ミステリー。
「文豪の蔵 / ドッペルゲンガーの銃 / 翼の生えた殺意」の三作が入っています。
あらすじはAmazonから。
女子高生ミステリ作家(の卵)灯里は、小説のネタを探すため、警視監である父と、キャリア刑事である兄の威光を使って事件現場に潜入する。
彼女が遭遇した奇妙奇天烈な三つの事件とは――?
・密閉空間に忽然と出現した他殺死体について「文豪の蔵」
・二つの地点で同時に事件を起こす分身した殺人者について「ドッペルゲンガ-の銃」
・痕跡を一切残さずに空中飛翔した犯人について「翼の生えた殺意」
本格ミステリーにファンタジーの要素を加え、会話主体のライトな文章で主人公が女子高校生という何でもありの作品です。
今後兄がどうなるのか、どこかで変わるのか、そのままなのか、続編の焦点はそこでしょうか。続編が読みたいです。
ミステリランドの第14回配本、北村薫の少女がピッチャーをやる野球小説ですが、鏡の国のアリスを底本としています。
運動神経抜群のアリスが、体力差から小学校を機に野球を辞めなくてはならないのですが、鏡の中のさかさまの世界へ行って大活躍するという、ファンタジー小説です。
少女が野球で大活躍するというのは、漫画ではしげの秀一の『セーラーエース』、テレビでは、高星由美子の「NHK少年ドラマシリーズ おれたち夏希と甲子園(原題は『野球狂の詩を唄う娘』)などがあるが、これはそれをさらにひねった作品で、なかなか面白い。
しかし、なぜ、小説家は「鏡の国のアリス」が好きなのだろう。
それから、高星さんはどうされているのだろう。「みゆき」の脚本や「タッチ」の脚本構成、1989年まで「中学生日記」の脚本を担当されたりしていたのだが。水戸が生んだ映画人の一人なんだけど、脚本家で生きていくのはしんどかったのでしょうか。高星さんの学生時代にバイトで、サントピアの映画館でもぎりをされていた姿が思い出されます。
宮部みゆきの連作短編。長編『パーフェクト・ブルー』の、その後の話で、なんか読んだことがあるような記憶が。
この中で一番気になる話は、表題作の「心とろかすような」小学生の女の子が絡む詐欺事件の話です。いや、単なるスケベ心で、こんな小学生に会ってみたい。
話はどれも面白くて、20年前に出版されているのに、古さを感じさせません。
デビューしたての広瀬すずなんかが、テレビで見ていて、ちょっとそんな雰囲気を出していました。近所のスーパーで10年ほど前に赤いマントを羽織った女の子が、その手のオーラ全開で歩いてましたが、あれは、お姉ちゃんのアリスだったのかもしれません。
それぞれの話は面白いので、おすすめです。
「クロノス・ジョウンターの伝説」の梶尾真治さんの、2016年の長編です。読書メーターなどを読むと、結構きついことが書かれているようですが、新しいタイムスリップの境地を切り開いたという点では評価されていいと思います。
一時期、暗い話が多かったように感じた梶尾さんの作品ですがこのところ話がまた明るくなってきているように感じます。
原作とした場合には、キャラメルボックスや他で舞台化されているように、表現者の工夫の余地があるところが持ち味だと思います。
ミステリランドシリーズの一冊。あらすじは図書館検索ページから。
12歳の秀介は、同級生の優希と虹果て村にある別荘で夏休みを過ごすことになった。虹にまつわる7つの言い伝えがあるのどかな村で密室殺人事件が起こり、2人は事件解明のため、おとなも驚く知恵をしぼる…。
面白かったです。殺人事件と恋愛の絡め方がとてもうまくて、感心しました。
何か書くとネタバレになりそうなんで、一言だけ。
おすすめです。
綾辻行人の講談社ミステリーランドシリーズの一冊。
あらすじはウィキから
少年の日の思い出のなかに建つ館、それは「お屋敷町のびっくり館」。……不思議な男の子トシオとの出会い。囁かれる数々の、あやしいうわさ。風変わりな人形リリカと悪魔の子。七色のびっくり箱の秘密。そして……クリスマスの夜の密室殺人!
このシリーズって、今まで読んだ3冊はミステリーというよりも怪奇ものに近いんですけど、これから先のシリーズはどうなのでしょう。
個人的には、冒険ものの要素が強い方が好みなんです。ケストナーの「エミールと探偵たち」みたいな。あれって、そんなにミステリー臭くないけれど、北村薫の初期作品の雰囲気がありませんか。ちっぽけな推理だけど、犯人は捕まえたのですから。