6月25日 読売新聞「編集手帳」
シェークスピアの劇は格調高いセリフが演者の口から次々に飛び出す。
そこにユーモアを仕込んだジョークがイギリスにある。
観劇を終えた客が同伴者に感想をつぶやく。
「どんな物語かと思ったら、
ことわざばっかりじゃないか」。
シェークスピアが人間の深部をのぞいてつむいだ言葉が、
後にことわざや格言となったのを知らないのである。
教養がないのは客なので共感を抱けるが、
舞台の中心に立つ主役だとしたらどうだろう。
米国のボルトン前大統領補佐官が回顧録で、
「驚くほど政権運営や外交のための知識に乏しい」と暴露した。
トランプ大統領である。
「フィンランドはロシアの一部か」
「イギリスは核保有国なのか」と外交の席などで質問することがあった。
史上初の米朝首脳会談しかり。
分断の歴史や非核化の重要性への理解に乏しく、
自身のアピールを最優先にしていたという。
米朝交渉に一瞬、
光を見たのを思い出す。
拉致問題が一気に進むのではと。
「この世は舞台、
人はみな役者」
(シェークスピア名言集より)。
教養や心根はともかく、
せめて常軌を逸しない大統領を演じてほしかった。