12月17日 読売新聞「編集手帳」
週末、
近所の花屋さんをのぞくとシクラメンの鉢植えがにぎやかに並んでいた。
この花の人気に火をつけたのは1975年のヒット曲「シクラメンのかほり」といわれる。
作詞・作曲を手がけた小椋佳さんはかつて、
著書『いたずらに』(新潮文庫)の中でこんな告白をした。
<“シクラメンのかほり”“うす紫のシクラメン”は実在しないものです。
完全に遊びです>
詞で「うす紫」は「真綿色」「うす紅色」に続き、
3番目に出てくる。
小椋さんが歌を作った当時、
紫はなかったそうだが、
いつからか生花店の景色は一変し、
今は人気品種の一つになっている。
では「かほり」はどうか。
調べてみると、
こちらも“実在”した。
東京都の農林技術機関が開発し「はる香」の名で種苗登録されている。
職員が歌に着想を得て、
匂いのする新たな品種に取り組んだというから、
生みの親は小椋さんの遊び心といえるかもしれない。
栽培に力を入れる園芸農家も出てきたという。
<今年また雪の囲ひを終りたり窓に一鉢シクラメンを置く>(真庭義夫)。
師走も半ばを過ぎ、
冷え込む日が続いている。
冬が香ってきた。