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秋の味覚サンマが遠ざかる

2020-09-11 07:00:00 | 編集手帳

8月25日 読売新聞「編集手帳」


昭和の半ば頃までだろうか。
ドカッと大きなアルマイト製の弁当箱が珍しくなかった。
建設現場で汗を流して働く人たちに愛されたのが通称「ドカベン」。

漫画家の水島新司さんが明訓高校の強打の捕手・山田太郎に持たせたことで、
誰が名付けたかわからない弁当箱の呼び方が今に残るふしぎがある。
太郎のドカベンはふだん梅干し1個の日の丸弁当だが、
たまに貧しい家庭ながらの豪華版があった。
サンマの「一匹のせ」である。

サンマがかつて安魚の代表であったことは言わずもがなだろう。
漢字では秋刀魚。
きのうの夕刊(東京版)を読んで、
秋の味覚が生活のはるか向こうに遠ざかる気がした。

北海道厚岸町の初セリで1キロ1万1000円の最高値がついたという。
サンマは大きいもので約200グラム。
とすれば1匹のお値段は? 
わりと簡単な暗算なのに、
くらくらしてくる。
サンマは去年、
歴史的不漁に見舞われた。
残念ながら今年もそれが続くと見込まれ、
各地の漁港からため息が漏れる。

太郎の「一匹のせ」弁当が庶民から離れた豪華弁当になるかと思うと、
いささかせつない。
昭和の残像が粉々である。

 


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