7月19日 キャッチ!ワールドEYES
ナイル川は
長さ約6,700kmにおよび
地中海に流れ出るまで11カ国(エジプト・スーダン・南スーダン・エチオピア・エリトリア・ウガンダ・コンゴ・タンザニア・ケニア・ブルンジ・ルワンダ)を通り抜ける世界最大級の川である。
エチオピアが
スーダンとの国境近くナイル川の支流に建設を進めている水力発電用ダム
グランド・エチオピア・ルネサンス・ダム。
2011年に建設が始まり
総工費は日本円にして約4,300億円。
高さ170m
全長1,8kmにも及ぶダムで
完成すればアフリカ最大のダムとなる。
建設はすでに3分の2まで進んでおり今年中にも完成すると見られている。
エチオピアは“ダムは水力発電用で下流に影響はない”と主張しているが
エジプトはナイル川の水量の低下に強い懸念を示している。
かつて「エジプトはナイルのたまもの」と言われていた。
しかし今エジプトは水の利用を制限される事態に直面している。
2015年 エチオピアを訪れたエジプトのシシ大統領は
両国関係が良好であるとアピールしつつも
ダム建設への懸念は隠しきれなかった。
(エジプト シシ大統領)
「エチオピアは新たなダムによって発展するでしょう。
しかしエジプトはナイルなくしては立ち行かないのです。」
専門家はこの懸念は大きいと言う。
(英シンクタンク ギー・ジョビンズ氏)
「エジプトは水の99%はナイル川に依存していた。
農業から飲み水まであらゆる水の利用はナイル川に左右される。
だからエジプトは
エチオピアのダムから水が放出される量について細心の注意を払っている。」
エチオピアのダムがエジプトの農業や生活にどの程度影響を与えるか
誰も知らない。
「ナイル川の水の量が減り工業排水の割合が増えると水質が悪化する」と専門家は警告する。
(英シンクタンク ギー・ジョビンズ氏)
「もしナイル川の水の量が減ったら
汚染物質を海へ流すナイル川の能力が低下するでしょう。」
エジプトの外相は今年1月アフリカ連合のサミットの席上で
エチオピアとスーダンの高官らとダムの運用をめぐり会談を行った。
主要な対立点はエジプトの取水量への影響である。
ジャーナリストのカッセム氏は
ダムの貯水地に水をためる期間が12年なのか3年なのかが重要だと指摘する。
(ジャーナリスト ヒシャム・カッセム氏)
「話し合いの合意が得られず平行線のまま
悲劇的な結末を迎えるでしょう。
なぜなら
エジプトの農地の多くに水がいきわたらず
干ばつが広がり
農業に深刻な影響を及ぼすことになるから。」
ムバラク元大統領が「ナイル川に作るダムはすべて破壊する」と警告して
戦争の脅威が高まったこともあったが
カッセム氏は「武力行使は最悪の選択肢だ」と指摘する。
(ジャーナリスト ヒシャム・カッセム氏)
「エジプトが武力行使すれば
エジプトの歴史の中で最初の
そして最大の外交上の失敗となる。」
シシ大統領は
「今のところ危機的な状況にはなく
話し合いのための外交努力は続けている」と主張している。
多くの国を通過するナイル川をめぐっては
これまでも流域国の間で対立と緊張が繰り返されてきたが
背景にはナイル川をめぐる協定の存在がある。
現在のナイル川の水の利用を規定する協定は
1959年にエジプトと隣国のスーダンとの間で結ばれた協定がもととなっている。
この協定では
ナイル川の年間水量を840億㎥と規定。
これは日本全体の年間水使用量を上回る量である。
そしてそこから蒸発による損失分を除き
残りの75%をエジプトが
25%をスーダンが
取水権を持つと定めている。
“それ以外の流域国がナイル川で開発を行なう場合は
エジプトとスーダンの合意が必要である”としている。
この協定により事実上ナイル川の利用や開発を制限されてきたことに対し
エチオピアなど上流の国々は長年不満をつのらせてきた。
(中東調査会 研究員 西舘康平さん)
「エチオピアや上流国がダム建設を推進した背景には
人口増加やケニアの経済発展
降雨による農業から河川の水を利用した灌がいへの移行がある。
この一環としてエチオピアでは
ダムの水力発電で生産した電力を近隣諸国に輸出する計画がある。
すでにスーダン・ジブチ・ケニアとは契約が交わされ送電網の配備が進んでいる。
ルネサンス・ダムもこの計画の1つであり
国内では近代化の象徴として考えられている。
こうした上流国の台頭を受けて
流域国の間で新しい枠組み作りの機運が生まれる。
この機運が生まれた1999年にNBI=Nile Basin Initiativeが作られた。
NBIの中では
ナイル川を開発する権利や各国の取水量を規定する協定を2010年まで交渉されてきた。
エジプトとスーダンが59年協定で定められた水量が保証されないとして交渉継続を要求したのに対し
複数の上流国が調印を強行したため
エジプトがNBIの参加を凍結したという経緯がある。
エジプトの取水制限の要請を受けて
スーダンはエジプトとエチオピアの仲介をしてきたが
2016年以降ルネサンス・ダムの建設を明確に指示するようになる。
70~80年代はエジプトが“ナイル川の覇権”を握っていると言われてきた。
こうしたエジプトの優位を59年協定以降上流国は覆せないということが物語ってきた。
しかしこうしたパワーバランスはNBIで変化した。
ルネサンス・ダムの建設はパワーバランスを変化させる局面になるかもしれない。」