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春の記憶

2015-02-21 08:00:00 | 編集手帳

2月20日 編集手帳

 

鉄道の線路には、
記憶に眠る若き日の自画像をくすぐるものがある。
歌集『流木』で今年の読売文学賞(詩歌俳句賞)に選ばれた高野公彦さんに忘れがたい一 首がある。
〈青春はみづきの下をかよふ風あるいは遠い線路のかがやき〉

青春は青春でも、
その二人には青ざめた春の記憶が残るのかも知れない。
千葉県内の公立高校で入試当日の朝、
電車を乗り間違えた受験生である。
JR京葉線の南船橋駅ホームで「もう間に合わない」と途方に暮れた。

古い俗謡にある。
鮎(あゆ)は瀬につく、
鳥は木にとまる、
人は情けの下に住む。

その駅を出た電車の車掌が「困っている学生がいる」と司令室に報告した。
連絡を受けた駅長が焦る二人に乗り継ぎ方法を教え、
「大丈夫。落ち着いて試験を受けてきなさい」と送り出した。
集合時刻には遅れたものの、
駅長が学校にトラブルの発生を伝えてくれたおかげで手続きがすみやかに進み、
試験開始には間一髪で間に合ったという。

異変に気づいた車掌さんの“目”。
電話に伸びた駅長さんの“手”。
遠い線路に人の情 けが輝いて、
青ざめた春の記憶もまんざら捨てたものではない。


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