8月30日 編集手帳
人間嫌いで知られたドイツの哲学者、ショーペンハウアーは飼い犬のプードルを友とした。
〈アトマ〉(世界精神)という立派な名前を与えたが、
その犬に腹 を立てたときだけは〈人間め!〉と呼んだと、
『この哲学者を見よ』(中央公論新社)に挿話がある。
偏屈な哲学者ほどには人間が嫌いではないつもりだが、
犬よりもはるかに下等な心をもった人間がこの世にはたしかにいる。
さいたま市の男性が連れていた盲導犬が何者かに鋭利な物で刺された。
全盲の男性は変事に気 づくすべがない。
パートナーに危険を伝える際を除いては吠(ほ)えないよう訓練されている盲導犬は、
凶行に無言で耐えて黙々と導き役を務めたようである。
通勤の駅で時どき、
訓練中の盲導犬を見かける。
調教の人に伴われ、
ホームで電車の轟音(ごうおん)に慣れる練習をしている。
大切な仕事であるのは子供も知っているから、
大きな声を出したり、
悪ふざけを仕掛けたりはしない。
ほんの幼い子供でも、
である。
よく刺さるようにか、
盲導犬の服をめくり上げて肌をじかに刺したらしい。
どこにいる。
人間の姿をして、
獣(けだもの)以下の心をもった人間め!