2021年4月23日 NHKBS1「国際報道2021」
温室効果ガスの排出を減らそうという機運が世界的に高まっているが
その実現は容易ではない。
再生可能エネルギーの普及などで二酸化炭素の排出を減らす一方で
吸収を増やすことで実質的に排出量を削減する取り組みも重要になってくる。
これまでは二酸化炭素を吸収するものとしては森林などがよく知られているが
いま注目されているのが
ブルーカーボン
海の植物が二酸化炭素を吸収することで海底に蓄えた炭素のことである。
海の植物による二酸化炭素の吸収量は森林の20倍以上とも言われ
各国で取り組みが加速している。
沿岸部にマングローブなど豊かな生態系を誇るオーストラリア。
一方で発電の約8割を石炭など化石燃料に依存するなど
国民1人当たりの温室効果ガスの排出量は先進国の中でもワーストクラスである。
そうしたなか政府が目をつけたのがブルーカーボンだった。
(オーストラリア政府の公式YouTubeより オーストラリア環境相)
「オーストラリアには6万キロの海岸線があります。
世界のマングローブや海草などの1割がここに集まっているのです。」
海の植物がどれぐらいの二酸化炭素を吸収しているかを調べるため
6年前 国が主導して本格的な実態調査が始まった。
中心となって調査を始めたディーキン大学のマクレディ―教授。
調査では
海草などの根元の土を採取し
特別な装置を使って土に含まれた炭素の量を分析した。
海の植物の場合
吸収された炭素は根を通して土の中に蓄積される。
幹に炭素を蓄積する森林などと異なり
数千年にもわたって炭素が残り続けるのである。
オーストラリアでは
1年間に約5,000万トンの二酸化炭素が森林で吸収されていると言われているが
専門家によると
この他にも
海の植物によって最大で約2,000万トンの二酸化炭素が吸収されることが分かったという。
オーストラリアはこうした調査結果を示したことで
国連から“海の植物を二酸化炭素を吸収するものとする”ことを認められた。
(ディーキン大学 マクレディ―教授)
「ブルーカーボンは世界の温暖化対策の取り組みの中でまだ十分に活用されていません。
温暖化対策の新たな切り札となるのです。」
一方
日本は企業を巻き込みブルーカーボンを活用する仕組み作りに動き始めている。
ブルーカーボンに特化したオフセット制度である。
制度の運営機関が
海の植物が吸収した二酸化炭素の量を認定。
一方 企業は
排出した二酸化炭素のうち自ら削減できない量について
運営機関に料金を支払い「排出枠」を購入する。
企業は購入した枠の分だけ排出した二酸化炭素の量を削減したことにできるというのである。
その先行事例として国が注目する取り組みが福岡市で始まっている。
福岡市は独自の調査で
博多湾の一部の植物が二酸化炭素を年間43,4トン吸収すると算出。
去年10月
「排出枠」として1トン当たり8,000円で販売したところ
購入希望が殺到しすぐに完売した。
(福岡市港湾空港局 みなと環境政策課)
「ブルーカーボンがまだなじみがない中で興味を持っていただいて
申し込んでいただいたことは
非常に関心の高さがうかがえる。」
購入した住宅会社エコワークス。
太陽光発電や省エネなど環境に配慮した住まいづくりに力を入れるこの会社。
2030年に二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするという目標を掲げ
事業所の電力を全て再生可能エネルギーに切り替えた。
しかしなかなか減らないのが営業車の排気ガスだった。
そこでその分を少しでも補おうと
今回10トンの「排出枠」を購入したのである。
(エコワークス株式会社 小山社長)
「取り組みが必ず将来の顧客からの評価
社員のモチベーションにつながる。
確信を持って取り組んでいる。」
販売によって得られた収益は
博多湾の環境保全のために使われることになっている。
博多湾に海洋植物を植えるなど生態系の維持に取り組んできた団体は
オフセット制度が今後の活動の後押しになると期待している。
(一般社団法人ふくおかFUN代表)
「制度を通し
いろんな方が参入し
博多湾の生き物が住みやすい場所になるよう目指せるといい。」
国は今後
オフセット制度を全国に普及させた上で
海外にも広げ
気候変動対策の分野で主導的な役割を果たしていきたいとしている。
(国土交通省港湾局 海洋・環境課)
「オフセット制度の意義など
日本から国際的に発信する。
そのリーダーシップを日本が取っていく取り組みを進めていきたい。」