2021年5月6日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
アジア系住民への暴行事件が相次ぎ深刻な社会問題として取りざたされているのはアメリカだけではない。
オーストラリアでも差別的な言動がアジア系の人々に向けられるようになっている。
オーストラリア国立大学がアジア系の人々に調査を行ったところ
去年1~10月に1度でも差別を受けたと答えた人は84.5%にのぼっている。
多文化社会・移民国家を掲げるオーストラリアで今何が起きているのか。
4月25日 オーストラリア シドニー。
アジア系住民への差別に抗議の声を上げる集会。
アジア系住民の団体が初めて開催した。
「アジア系差別をなくそう!」
(ニューサウスウェールズ州 レオン議員)
「私たちの社会でアジア系住民への差別が増加しているのに
黙っていてはいけません。」
(ベトナム系の女性)
「これまで無視されてきた差別の問題に対して
声を上げて抗議するのは大切なことです。」
(中国系の女性)
「差別がある限り
オーストラリアが他文化の国であるとは言えません。」
怒りの声を上げる背景には
社会の中でアジア系への差別が露骨な形であらわれるようになっていることがあげられる。
医療機関の待合室で撮影された動画。
(TikTokより)
「“国に帰れ”と言ったな?」
「そうよ 言ったわ。」
アジア系のカップルが居合わせた白人女性から「中国に帰れ」とののしられる。
中国系住民のガレージで見つかった落書きは“中国人 死ね”。
地元メディアが大きく報じた。
オーストラリアではアジアからの移民が増え続けていて
現在では人口の1割以上を占めているといわれている。
去年 新型コロナウィルスの感染拡大が始まると
こうした人たちに対し
“チャイナウィルス”と暴言を吐いたり
暴行したりするケースが相次いだ。
さらに
オーストラリア政府が貿易問題などで中国政府との対立を深めていることも国民感情を悪化させているといわれている。
オーストラリアのシンクタンクが去年11月に中国系住民を対象に行った調査では
“過去1年間に中国系であることを理由に脅迫や暴力を受けた”と答えた人は
5人に1人。
“暴力行為を含め差別を受けた”と答えた人のうち半数以上が
新型コロナウィルスや対中関係の悪化が原因だと感じている。
調査を行った専門家は
白人中心に国づくりが進められてきた歴史の中で
社会にくすぶり続けてきた人種的な摩擦が
感染拡大や外交関係の悪化で一気に表面化したと指摘する。
(ローウィー研究所 スー氏)
「新型コロナは
もともと差別的な人たちの意識を増長させ
不幸にも今起きている人種差別につながったのです。」
こうしたなか4月シドニーであるアート展が始まった。
テーマは“I Am Not A Virus(私はウィルスではない)”。
差別の問題に関心を持ってもらおうと
アジア系のアーティストたちが製作した写真や立体作品が展示されている。
布で作られた餃子1個1個にアジア系住民への差別的な言葉が縫い付けられている作品。
餃子はオーストラリアでも広く親しまれているアジア料理である。
身近な存在にひどい言葉を投げつけていることに気づいて欲しいという思いが込められている。
アジア人を象徴する黄色い洋服に1.5mの長さの袖をつけた作品は
新型コロナをきっかけにアジア系の人たちが周りの人々から距離を置かれ孤独を感じていたことを表現している。
(来場者)
「政治問題とここで暮らす人々を分けて考えるべきです。」
「作品を見ることで
差別について考えるきっかけになると思います。」
このアート展を企画した1人の竹内さん。
日本人とオーストラリア人の両親のもと生まれた。
アジア系住民に向けられる差別的な視線を自身も感じてきたという。
差別が表面化している今だからこそ
問題を直視し
議論するきっかけを作りたいと考えている。
(竹内さん)
「展示を見た人たちが
差別について家庭や学校で話をして
お互いにどう接するべきか考える機会になってほしいです。」
オーストラリアは現在 国として多文化主義を掲げ
多くの国から移民を受け入れている。
オーストラリアでは40年余前まで「白豪主義」と呼ばれた白人優先政策が続けられてきた。
白人が優先されてきた歴史の影響は根強く
今でも一部の人の中には白人以外の人への差別的な意識が残っていると感じるアジア系の人もいる。
このように人種的にも歴史をめぐる摩擦が存在していたところに
新型コロナや政治的な対立が触媒となって差別や暴力が表面化したをみられる。
連邦政府レベルの対策はまだ十分に進んでいないのが現状である。
新型コロナの感染拡大でアジア系住民への差別が増え始めていた去年4月
モリソン首相は問題への対応について記者から問われると
“差別は止めなければならない”と強い口調で差別を非難したが
政府として具体的な政策には反映されていない。
オーストラリアでは先住民アボリジニの人たちへの差別も根強く残っているが
人種差別の問題に政府として真正面から取り組んでいないことに批判の声も上がっている。
自治体レベルや大学などの教育機関では人種差別対策のセミナーが開かれるなどの取り組みが進んでいる。
抗議集会にはアジア系住民だけでなく白人の人たちの姿も見られた。
社会に潜む差別の芽があらわになった今の状況を機会ととらえ
社会全体でこの問題を考えていくことが重要である。