3月18日 経済フロントライン
埼玉県に本社がある曙ブレーキ工業。
ブレーキの生産で世界有数のシェアを誇り
グループの従業員は9,000人を超える。
売り上げの7割が海外。
イギリスの超高級スポーツカーに使われるブレーキや
アメリカのGMゼネラルモーターズ向けの製品など
円安を追い風にこの5年で売り上げは約3割アップした。
社長の信元久隆さん、
当初から3%を超える賃上げは容易ではないと考えていた。
その理由は世界で加速するEVシフト。
自動車の電動化でブレーキに求められる技術も急速に変わりつつある。
これまでのガソリン車のブレーキは
油圧を使ってブレーキを動かし車輪を止める仕組みである。
今後 電動化が進めば
油圧ではなく電気を使ったシステムに置き換わるとされている。
世界中のライバル企業との開発競争に勝つために積極的な設備投資が必要で
「人件費を大幅に増やす余裕はない」と信元さんは言う。
(曙ブレーキ工業 信元久隆社長)
「今の状況を考えていくと
自動車産業自体が変わっていくし
先に対する対応をどうするかを今からやっておかないと
先もなくなってきてしまう。
危機感が非常に強い。」
3月7日 賃上げをめぐって経営側と労働組合との間で詰めの交渉が行われた。
労働組合の委員長 尾釜芳昭さん。
「我々としては制度的昇給はあるものの
全体の底上げ
そういったところも必要。」
実は労働組合側も当初から“大幅な賃上げ要求は難しい”と判断していた。
経営側に要求した賃上げ率は満額でも2,6%だった。
組合が給料の引き上げを強く求めないのは理由があった。
「2009年6月ですね。
希望退職者を初めて募集した。」
2008年に起きたリーマンショック。
取引先の自動車メーカーの経営不振で
会社は巨額の赤字を記録した。
そして翌年 正社員約200人のリストラに踏み切ったのである。
これ以降 雇用の維持が最優先となり
賃上げ要求は会社の経営状況をより踏まえたものになっていったと言う。
(労働組合 尾釜芳昭中央執行委員長)
「当然会社がなければ従業員も雇用がないということになりますので
賃金 一時金の要求もありますけどそういったところはバランスをとりながら
組合のほうも考えていかなといけない。」
14日 経営側が回答を示した。
賃上げ率は月給ベースで去年を上回る2,3%で妥結。
激しいグローバル競争に直面する企業にとってぎりぎりの決断だった。
(曙ブレーキ工業 信元久隆社長)
「これでも無理した回答だったと思っている。
労使が一緒になったやれると思うし
やっていかなければいけない。」
一方 国内市場中心の企業も人口減少が進むなか賃上げに二の足を踏んでいる。
首都圏を中心に観光ツアーを手掛ける はとバス。
従業員約1,000人である。
専門知識を持つ社員による質の高いサービスを売りにしている。
景気の回復を追い風に利用者も増え
昨年度は93万人とバブル期の水準に達した。
この6年にわたり黒字経営を続けている。
しかし会社では“今後 客足は伸び悩む”と見ている。
人口減少の影響が避けられないと考えているからである。
(はとバス 黒瀬智弘経営本部長)
「国内での市場が今より拡大していくとの予測はどの企業もしていないだろう。
どういう戦略をとっていくかがこれからの課題。」
いま会社は新たな収益の柱をつくろうとしている。
まず取り組んだのが訪日外国人客の獲得である。
日本の伝統文化を体験するツアーなど
1日20コースほどを運行。
しかし外国人客の獲得は容易ではない。
この日定員42人のバスに乗り込んだのはオーストラリア人の2人だけ。
外国人の利用者は思うように増えていない。
この会社では
格安で運行するライバル会社の出現などが理由だと見ている。
(加藤一久国際事業部長)
「外国人の客数をどんどん伸ばしていく計画だが
非常に環境としても厳しくなってきているのかなと。」
この会社ではバス利用者の数が伸びなくなることを見越して
ホテル事業など多角化に取り組んでいる。
国内市場の縮小が見込まれる今
企業にとって大幅な賃上げは容易なことではない。
(はとバス 黒瀬智弘経営本部長)
「どれだけ賃上げができるかは一番大きな問題ですので
会社としても可能な限り人材投資という点でも応えたいが
現実の中でなかなか難しい。」