4月15日付 読売新聞編集手帳
この100日間の裁判員たちの重圧を思う。
年明け早々に選任手続きがあり、
計36回の公判。
結審後もひと月にわたって評議を続けてきた。
選択した結論は死刑だった。
首都圏の男性3人連続不審死事件の裁判は、
木嶋佳苗被告(37)と殺害行為を結びつける直接的な証拠がない。
検察は3事件に共通する状況証拠を積み重ねて
「犯人は被告以外に考えられない」
との主張を展開した。
状況証拠については2年前、
最高裁が
「被告が犯人でなければ説明できないものがなければならない」
と厳しい条件を示している。
初動捜査で警察が、
男性1人を自殺と見誤り司法解剖しなかった、
などの失態も明らかになった。
証拠の細部まで吟味し尽くした評議だったろう。
裁判員の苦悩に敬意を表しつつ、
検察の論告には疑問を呈しておく。
<夜晴れていて朝雪化粧なら、
雪が夜中に降ったのは明らか>。
状況証拠だけでも有罪にできると、
雪に例えて言いたかったのだろうが、
想像力で殺人を認定するわけにはいくまい。
「雪冤(せつえん)」という言葉が浮かぶ。
自らの無実を晴らす、
の意味。
冤罪を生まぬことが刑事裁判の鉄則である。