10月3日 読売新聞「編集手帳」
『ローマの休日』の新聞記者役といえば、
世紀のダテ男グレゴリー・ペックである。
一方、
この映画のすこし前に主演した『世界を彼の腕に』は近代史に相まって名を残す。
ペックが演じたのは、
ロシアからアラスカを買い取るという豪快な夢を抱く船乗りだった。
米国が実際にアラスカを買い取った史実を背景に、
人間の勇壮なロマンを描く。
トランプ大統領が昨夏グリーンランドを買収したいと表明したとき、
一瞬ながらダテ男のペックをよぎらせてしまった。
世界からあまりに強引だと批判を浴び買収はならなかったものの、
支持率がそれで下がったとは聞かない。
豪快で予測不能な大統領はむしろ支持者の望むところなのだろう。
そんなトランプさんが新型ウイルスに感染した。
これも予測不能な大統領の一面にちがいない。
職務は続けているとされるが、
しばらく官邸に隔離され、
一月後に迫る大統領選に大きな痛手となる。
とはいえ弱気になって白旗をあげる人ではあるまい。
先の映画の題をもじってみる。
『世界を誰の腕に』――権力の攻防を描くドラマが終幕に向け、
大転換したところかもしれない。