2021年5月21日 読売新聞「編集手帳」
ベーブ・ルースの伝記映画『夢を生きた男/ザ・ベーブ』は1992年に公開された。
映画通のイラストレーター、
和田誠さんが次のセリフを著書に書き留めている。
「守備の甘い所へ打つのがコツだ
だから俺は場外へ打つ」
(『お楽しみはこれからだpart7』文芸春秋)。
プロに入って早々、
先輩に向かって言ったという。
こんな豪快なヒーローと比べられながら、
エンゼルスの大谷翔平選手の活躍が止まらない。
本塁打数1位で先発登板し、
ルース以来100年ぶりと騒がれたのは4月下旬のこと。
きのうのゲームはその日と少し違って、
タイではなく本塁打数単独1位で先発のマウンドに立った。
着実に、
野球の神様に近づいているように思える。
今のペースで打てばシーズンの終了時には50本を超える。
妙な言い方だが、
ただの二刀流ではなくなってきた。
力量のレベルでルースに遜色ないのは目下、
疑いのないところだろう。
きのうの試合に、
先の映画のセリフを体現するかのような場面があった。
第3打席、
変則守備でがら空きの三塁前にバント安打を転がした。
「守備の甘い所へ…」。
次は場外弾を。