2021年5月19日 読売新聞「編集手帳」
梅雨の晴れ間の景色だろう。
俳人の加賀千代女は<紫陽花(あじさい)に雫(しずく)あつめて朝日かな>と、
花と水滴と陽光のきらきらした戯れを描写している。
ずいぶん気の早い記事を愛知の地方版に見かけた。
名古屋市の鶴舞公園に「あじさいの散歩道」という名所があるそうで、
「現在は一分咲き」と伝えていた。
見頃を迎える6月上旬~下旬まで、
二分、
三分…とゆっくり花を結ぶようすを眺める楽しみ方が産地にはあるのかもしれないと思った。
花屋に並ぶ鉢植えのアジサイは愛知や島根などが主な産地とされる。
ここ数年は人気の高まりから、
新品種が続々と誕生している。
島根県の試験場が開発した品種は先頃、
「星あつめ」という名に決まった。
空の星を一つ一つ集めるように色づき、
膨らんでいく花の成長に見立てたらしい。
佐賀県は今年、
意欲的に「可愛花」と「雨のち星」という二つの銘柄を送り出した。
前者は「かわいかぁ」という九州弁にちなむ。
後者は雨の中でさえ、
美しく瞬く星だから…。
と知って、
島根の「星あつめ」と並べて観賞したくなった。
地上に星が元気に瞬く季節が来る。雲が隠すからだろう。