6月20日 読売新聞「編集手帳」
ラジオが家になく、
近所の上級生に野球放送を聴かせてもらっていた。
だが部屋に上げてくれず、
窓枠にしがみついて聴いた。
雨の日には傘をさして…
詩人の清水哲男さん(82)の述懐である。
しかしそんな扱いを受けても、
ふしぎとみじめな気持ちにならなかったという。
やはり相当の野球放送好きだったからにちがいないと、
かつての本紙への寄稿で少年時代を振り返っている。
自分が何をしているかさえ忘れて夢中で白球を追った耳に、
テレビ時代が訪れると、
目が加わったのは言うまでもない。
プロ野球が3か月遅れで開幕した。
先の寄稿とは別の文章だが、
「ポエムズ」という詩人の草野球チームまで率いた清水さんに今思い出すと胸に響く一言がある。
草野球はよく雨降りに泣かされる。
でもこれもよいところで、
思えば敗戦直後からの野球少年はいつだって雨に泣き、
ボールやグラブ不足にも泣いていたという。
で、
自然に思ったのは
「泣くことも、
また野球のうち」
球音が途絶えた時期への思いはファンも選手も同じだろう。
涙をはらうようにきのう、
各球団のエースが今シーズンの第1球を投じた。