10月1日 読売新聞「編集手帳」
本紙のデータベースで、
訪日外国人客を意味する「インバウンド」を検索したところ、
初出は2000年の12月で、
経済面ではなく鹿児島県版だった。
政府系銀行の支店が海外で調査を行い、
観光客増をはかるリポートを公表したと伝える記事中にあった。
それから各地の県版を中心にこのカタカナ語は頻出していく。
地方経済の希望とともに20年かけて熟成した言葉なのだろう。
新しいカタカナ語の使用を避けるきらいのある小欄はいささか反省し、
経済を支えるこの語句についてはためらいをなくそうと意を強くしている。
とはいえ、
インバウンドが以前のように戻る見通しはまだない。
きょうから政府の旅行キャンペーンに「東京発着」が加わる。
首都と地方の観光業の相互に救いとなってほしいものである。
天上影は替らねど/枯栄は移る世の姿――。
土井晩翠『荒城の月』の詞に1か所いたずらをし、
「栄枯」の順を逆にさせてもらった。
こうすれば悠久不変の月のもと、次は栄えが訪れる番と受けとれる。
今宵、
中秋の名月。
まん丸のお月様が列島の隅々を照らし、
踏ん張る人々を励ましてくれることを。