2021年6月13日 読売新聞「編集手帳」
ここ何か月かの間、
本紙の地方版に載る千羽鶴の話題に目が留まる。
埼玉県川越市にお住まいの小高トメ子さん(92)は6000羽を折って、
生活を支えてくれるボランティアにプレゼントした。
千葉県袖ケ浦市役所ロビーの壁は、
滝の流れのような2万羽に彩られた。
中止のウォークラリー大会の代わりに小学生が汗をかいて折った。
鹿児島県鹿屋市のJA直売所は買い物客たちに色紙を配り、
折り鶴にして戻すよう頼んだところ、
10万羽が集まった。
なぜ人は鶴を折るのか。
まもなく地方予選が始まる高校野球のベンチや、
広島の原爆忌を待たなくても分かることだろう。
「折る」という字は「祈る」によく似ている。
スマホに<折り紙>と打ち込んでみた。
紙ふうせんに飛行機に…。
「おうち時間」の使い方を教える動画が次々にヒットする。
文具メーカーによると、
折り紙の売れ行きは例年の1割増しだという。
俳人の高橋修宏さんに、
鶴に変身する紙をいたわるかのような一句がある。
<折鶴は紙に戻りて眠りけり>。
声をかけるなら、
ありがとうだろうか。
いつもいつも、
祈りを手伝ってもらっている。