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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

トゥルー・クライム(V)

2009-05-23 16:13:33 | 映画(た)
評価点:79点/1999年/アメリカ

監督・主演:クリント・イーストウッド

イーストウッドさん、まだまだお若いですね。

大学を卒業したばかりの23歳のミシェルは、エベレット(イーストウッド)に執拗に口説かれながらも、バーを後にする。
しかし、軽い飲酒でも、魔のカーブと呼ばれる峠で事故を起こしてしまう。
翌朝、編集長のボブの妻と寝ていたエベレットは、電話でたたき起こされ、仕事を頼まれる。
ジャーナリストを目指していたミシェルの死を告げられ、彼女が遺した、フランク・ビーチャムという死刑囚へのインタビュー記事を書く仕事を頼まれたのだ。
かつてレイプ犯の無実を訴えた「前科」をもつ彼は、12時間後に死刑執行が決まっているこの死刑囚が無実ではないかと疑い始める。

イーストウッドの映画は、おそらく「ダーティー・ハリー」あたりは観ている。
けれども、それ以降の記憶がすっぽりとない。
「スペース・カウボーイ」を観て以来、おそらく主演・監督作品はすべて劇場で鑑賞しているはずだが、実は全然知らない。
このあたりが「menfithさん、blog書いている割には意外とあんまり良い映画見ていないですね」と言われる所以である。

だが、「グラン・トリノ」の、これまでのイーストウッドが演じてきた役柄すべてに決着をつけるような姿を見て、これは観ておかないと、と思って今回借りることにした。
名作と言われる有名作品について、今後随時観ていくつもりだが、後に控えている「薦められた作品」がたくさんあるため、そして僕が非常に飽き性&ミーハーなため、どこまで観ていくかは僕自身もしらない。

ともかく、この作品はイーストウッドが主演・監督した作品の中でも非常に評価が高いものの一つだ。
死刑囚をめぐる社会サスペンスだが、まとまりがあり、観ている者を引き込む力をもっている。

▼以下はネタバレあり▼

評判が高いということくらいしか知らずに、ストーリーは全く予備知識なしで観た。
今更、何を観とんねん、という感じではあるが、読んでもらえれば幸いだ。

ストーリーはすごくシンプルだ。
おそらく多くの人が、序盤でラストまでの流れを読むことができただろう。
死刑囚の無罪を予感し、それが証明され劇的にも無罪が認められる。
非常にシンプルで、一本道の映画だ。
社会派「サスペンス」と銘打たれているが、サスペンテッドな状態に陥ることはそれほどない。
社会派ドラマ、と言ったほうが正しいだろう。
それでも引き込まれる力強さと、おもしろさがある。

まず人物造形が魅力的だ。
主人公となるエベレットは、不倫大好きの問題児記者。
彼は道徳的という言葉とは正反対で、編集長の妻まで寝取る有様だ。
彼が裁判の不備を突くというのが痛快なのは、そのためだ。
23歳の娘もくどくし、仕事のために娘との約束もすっぽかす。
だが、それでも魅力的なのだ。
なぜなら、彼には善悪を超えたところに誇りを持っているからだ。
その誇りとは、「真実を追求する」というスタンスである。
目の前にある事件や出来事が正しいかどうかという説教くさい観点は彼にはない。
誰がどんなことをしようとも、エベレット自身よりも反道徳的な人間はいないくらいだ。
しかし、嘘は報道できない。
嘘の記事をそれなりに感動的に読ませる論説は書けない。
それが彼の誇りなのだ。
もちろん、それはイーストウッドがこれまで築き上げてきたヒーロー像そのものだと言える。
グラン・トリノ」のウォルトとも重なるだろう。

昔気質のその気質が、魅力的なのだ。
ジェームズ・ウッズとも悪態をつきながら、お互いが通じ合っている関係性が、僕たちにはほほえましく見える。
その年で不倫するなよ、と思いつつ笑えてしまうのが、また良い。

その彼が立ち向かうのが、司法という巨大組織だ。
六年間の間ずっと無罪を主張するビーチャムに対し、再審は棄却され続けていた。
黒人という差別がなかったわけではないだろう。
明確に人種の問題を取り上げた作品ではないが、イーストウッドの映画には常に人種の壁がたちはだかっている。
エベレットにしても、死刑囚のビーチャムにしても、後ろ盾のない一人の人間である。
その彼らに対して立ちはだかるのが組織という集団である。
ここにはアメリカ人が得意とする対立構造がある。

そこに荷担するのが教会であることも注目されるべきだ。
しかもその牧師は民衆を守るために行動するのではなく、教会の権威を高めるために動く。
罪を認めて反省の言葉を述べているという嘘を知事に報告し、信仰の力強さを訴えようとする。

エベレットやビーチャム以外の人間たちは、みな組織的な権威や体裁などの真実以外の価値観によって行動する。
それが歯がゆく、口惜しいのだ。

自らの利益に奔走する牧師に比して、ビーチャムの信仰の深さが、教会がキリスト教を担っているわけではないということを、痛烈に、そして静かに批判する。
信仰そのものを否定しているわけではないところに、イーストウッドの倫理観が垣間見える。

その対決に拍車をかけるのが、12時間後に執行されるという時間制限だ。
地理的にどれくらいの距離にあるのか、不明なのでやたらと近い位置にエベレットがいるんだな、というようなツッコミは的外れだろう。
30分でどんでん返しを演じてみせるのは、さすがにドラマチックすぎるにしても、時計の描写が緊迫感を倍増させる。
ラストがハッピー・エンドになるのは、それまでのエベレットのキャラクター性からも読めるものの、時間制限は物語を単純に言ってもおもしろくさせる。

特筆すべきは、娘役の子供が、本当にイーストウッドの娘であることだ。
その他、元妻も、現在の妻も共演しているところがこの映画の見所の一つとなっている。
周囲のキャスティングも、エベレットのキャラクターを補強するに十分な効果を発揮している。
イーストウッドはやはり偉大だ。

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