ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

スプーキー・トゥー(Spooky Two)

2021年05月23日 | 名盤

【Live Information】


 半世紀以上になるロック・ミュージックの歴史の中で最もアツくて面白くて目を離せなかった1960年代半ばから1970年代後半。
 その理由は、ロックは若者を中心としたファン層を熱狂させるだけではなく、さまざまな音楽的要素と結びついて次々に独創的な音楽が生まれていたことにあります。
 ロックが成熟する過程において、後世に残る大ヒット曲や驚異的な売り上げ記録こそ持っていないものの、繰り返されるロック・バンドの消滅・分離・融合の流れの中でその存在の重要性がのちに認知されるようになったバンドがあります。
 それが、トラフィックやフリー、そしてスプーキー・トゥースだったりするんですね。


 「スプーキー・トゥー」は、スプーキー・トゥースの、文字どおりセカンド・アルバムです。
 決して華々しく売れたわけではありませんが、「珠玉の」とでも形容したくなるような、なんとも味わいのあるアルバムです。
 目立たないけれどずしりとした存在感がある佳作ではないでしょうか。


 


 ぼくがロックに夢中になった高校時代、東芝EMIから「ロック・グレイテスト1500」という再発売シリーズがありました。
 2500円だった新品のLPレコードが1500円で買えるんです。
 カタログを見ると、まだあまりロックに詳しくないぼくにとっては未知のバンドばかり。
 いいのやら良くないのやらさっぱり見当もつかないのですが、カタログに書いてある短い紹介文を読むとどれも「名作」のように思える。でも乏しい財布の中身をイチかバチかで知らないミュージシャンのレコードに対して遣うのには勇気がいるし。
 というわけで、結局は中古レコード店で買うことになったのですが、まさに心理学で言うところの「葛藤」を味わったわけですね。


 スプーキー・トゥースの特徴といえば、やはり当時のブリティッシュ・ロックらしい、ブルースに影響を受けた重厚なサウンドでしょう。 
 レコードに針が下りるとまず聴こえてくるのは、タイトで重みのあるドラムス。そのドラムスのフィル・インのあとに「満を持して」という感じで入ってくるオルガンのリフ。オルガンにはエフェクターをかけているのでしょう、ヘヴィーな音色にゾクゾクします。曲名は①「ウェイティン・フォー・ザ・ウィンド」。のちのハード・ロックへつながる曲のひとつとも言えますね。
 「ハード・ロックの源流のひとつ」といえば、④「イーヴィル・ウーマン」、⑤「ロスト・イン・マイ・ドリーム」、⑦「ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー」などがまさにそれに当たります。
 重いドラムスとオルガンが醸し出すどこか不穏なイントロ、次いで始まるギターのリフ、ワイルドなボーカル、ボルテージの上がるエンディング、などが「イーヴィル・ウーマン」の特徴です。
 体にズシンときます。文句なしのハード・ロックです。
 ルーサー・グロヴナーによる中間部の奔放なギター・ソロにもやられてしまいました。
 今聴いても血がたぎると言いますか、思わず体が動いてしてしまう曲ですね。
 「ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー」は、1978年にジューダス・プリーストもカヴァーしたことで知られます。
 のちのユーライア・ヒープを思わせるのが、「ロスト・イン・マイ・ドリーム」。美しいコーラス・ワークとボレロのリズムが強く印象に残ります。


 


 スプーキー・トゥーのもうひとつの特徴といえば、アメリカン・ロックへの憧憬が伺えることでしょう。
 それが現れているのが、ゴスペルやR&Bのエッセンスが感じられる②「フィーリン・バッド」や③「アイヴ・ゴット・イナフ・ハートエイク」、アメリカン・ロックの要素とポップな雰囲気が同居している⑥「ザット・ワズ・オンリー・イエスタデイ」、⑧「ハングマン・ハング・マイ・シェル・オン・ア・トゥリー」といった曲です。
 「ザット・ワズ・オンリー・イエスタデイ」には、ジャニス・ジョプリンの「ミー・アンド・ボビー・マギー」や、スプーキー・トゥースと同時期に人気を得たトラフィックなどに共通する雰囲気があるように感じます。
 「ハングマン・ハング・マイ・シェル・オン・ア・トゥリー」は、アルバムのラストを飾る3拍子のナンバー。アコースティック・ギターが奏でる導入部が美しい。アメリカ南部の空気とアイリッシュな雰囲気が同居したスケールの大きなこの曲は、なぜか懐かしささえ感じさせてくれます。
 

 スプーキー・トゥースのユニークなところといえば、ピアノとオルガンの2台の鍵盤楽器を擁する編成です。
 これは同じ時期に活躍した「プロコル・ハルム」、ジャニス・ジョプリンのバック・バンドだった「フル・ティルト・ブギー」、あるいは「ザ・バンド」などと同じなんですね。
 そういえば、彼らが3枚目のシングルとしてリリースしたのは、あのザ・バンドの名曲「ザ・ウェイト」でした。


 


 1967年にデビューしたスプーキー・トゥースは、数回の解散と再結成を繰り返しながら、2009年まで活動を続けました。
 このバンドは数多くの主要なロック・ミュージシャンを輩出していることでも有名です。
 のち「フォリナー」を結成するミック・ジョーンズ(guitar)、「スティーラーズ・ホィール」を経て「モット・ザ・フープル」で活躍したルーサー・グロヴナー(guitar)らをはじめとして、自身のバンド「パトゥー」や「ボクサー」を結成したマイク・パトゥー(keyboard, vocal)、のち「ジ・オンリー・ワンズ」へ加入するマイク・ケリー(drums)、エリック・クラプトンのバックを務めることになるクリス・ステイントン(piano)、のち「ハンブル・パイ」のベーシストとして名を馳せたグレッグ・リドリー(bass)、のちポール・マッカートニーの「ウィングス」のメンバーとなるヘンリー・マッカロック(guitar)、1976年にシングル「The Dream Weaver」と「Love is Alive」を全米2位に送り込む大ヒットを放ったゲイリー・ライト(vocal, piano)などの面々がロックの歴史に名を刻んでいます。



◆スプーキー・トゥー/Spooky Two
  ■歌・演奏
    スプーキー・トゥース/Spooky Tooth
  ■リリース
    1969年3月
  ■プロデュース
    ジミー・ミラー/Jimmy Miller
  ■収録曲
   [side-A]
    ① ウェイティング・フォー・ザ・ウインド/Waitin' For the Wind (Luther Grosvenor, Mike Harrison, Gary Wright)
    ② フィーリン・バッド/Feelin' Bad (Mike Kellie, Gary Wright) ☆アメリカ126位
    ③ アイヴ・ゴット・イナフ・ハートエイク/I've Got Enough Heartaches (Mike Kellie, Gary Wright)
    ④ イーヴル・ウーマン/Evil Woman (Larry Weiss)
   [side-B]
    ⑤ ロスト・イン・マイ・ドリーム/Lost in My Dream (Gary Wright)
    ⑥ ザット・ワズ・オンリー・イエスタデイ/That Was Only Yesterday (Gary Wright) ☆オランダ13位
    ⑦ ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー/Better by You, Better Than Me (Gary Wright)
    ⑧ ハングマン・ハング・マイ・シェル・オン・ア・トゥリー/Hangman Hang My Shell on a Tree (Gary Wright)
  ■録音メンバー
   [スプーキー・トゥース]
    ゲイリー・ライト/Gary Wright (keyboards, vocals)
    マイク・ハリソン/Mike Harrison (keyboards, vocals)
    ルーサー・グロヴナー/Luther Grosvenor (guitars)
    グレッグ・リドリー/Greg Ridley (bass)
    マイク・ケリー/Mike Kellie (drums)
   [ゲスト・ミュージシャン]
    ジョー・コッカー/Joe Cocker (backing-voval ②)
    スー&サニー/Sue & Sunny (backing-voval ②)
    スティーヴ・ウィンウッド/Steve Winwood (piano ③)
  ■チャート最高位
    1969年週間アルバム・チャート アメリカ44位(1969年10月11日付ビルボード)、オランダ4位(1969年6月28日付)
  


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