小曽根真の音楽は、北川潔、クラレンス・ペンと組んだトリオでひとつのピークを迎えた、と言えるかもしれない。
この「Three Wishes」というアルバムは、『Good Music』という、同じ到達点に向かった三人の感性のぶつかり合いによって生まれた作品である。
北川とペンのふたりを得た小曽根は、まるで水を得た魚のように生き生きと、そして自在にピアノを鳴らしている。それをサポートするふたりも、小曽根を支えながらちゃんと自己主張している。三人が拮抗しながらもひとつの方向を目指して収束していると思う。
小曽根真は、父・小曽根実の影響を受けてジャズに興味を抱き、6歳の時に初めてテレビで演奏するという早熟ぶりを見せている。幼い頃の小曽根真は、マイナー調の曲を聴くと、部屋にこもって泣いていたそうだ。父の実が「なぜ泣くのか」と訊ねると、「悲しいメロディだから涙が出てきたんだ」と答えたという。感性の豊かさを物語るエピソードではないか。
12歳の時に、オスカー・ピーターソンのソロ・ピアノを聴いて衝撃を受け、自分もジャズ・ピアニストとなる決意をする。
15歳でプロ・デビュー。その後バークリー音大に進み、83年には同大の作・編曲科を主席で卒業した。同年、日本人として初めて米国CBSとレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビューを果たした。
この「Three Wishes」、全10曲すべてが小曽根真のオリジナルである。ラテンからファンキーなものまで幅広い音楽性とアイデアを持っていることが分かるラインナップだ。はっきりした輪郭のメロディを持つ曲ばかりで、どれもとても親しみ易い。
トランペットのウォレス・ルーニーが3曲に参加して華を添えている。ウォレスがフロントで吹いている時の小曽根はサイドに回り、ウォレスの演奏を見事に生かすような弾き方に徹している。
1曲目の「スリー・ウィッシズ」で、三人の緊張感の高いコラボレーションに早くも耳を奪われる。
トランペットをフィーチュアした2、6曲目はストレート・アヘッドな4ビート。ウォレスがここぞとばかりに表に出てきて熱いプレイを披露してくれる。
5曲目「オンリー・ウィ・ノウ」は、ベースがテーマを弾く極上のバラードだ。北川のみずみずしいプレイがまぶしい。
8曲目「ノー・シエスタ」はリズムがきらびやかなラテン・ビートが楽しい。しかしベース・ソロになると一転リリシズムが漂う。
10曲目「B.Q.E.」はエネルギッシュでハードなナンバーだ。俄然張り切るペンのドラムが爽快である。
小曽根のピアノはとても音色がクリアーだ。確かなテクニックに裏打ちされたそのフレーズの数々は力強いながらもスマートで、そのうえゆとりとか洒落っ気のようなものさえ感じる。
現在の小曽根はジャズの範疇にとどまらず、演劇のために曲を書いたり、クラシック音楽の分野でも演奏活動をしている。昨年は自己のビッグ・バンドを結成し、好評を得た。
年齢的にも脂の乗り切った小曽根の活躍はまだまだ続きそうである。
◆スリー・ウィッシズ/Three Wishes
■演奏
小曽根真トリオ
■アルバム・リリース
1998年
■録音
アヴァター・スタジオ(ニューヨーク) 1997年11月15日~17日
■プロデュース
小曽根真
■レコーディング・エンジニア
ジム・アンダーソン/Jim Anderson
■収録曲
① スリー・ウィッシズ/Three Wishes
② 53丁目のブルース/53rd st. Blues
③ ミスト/Myst
④ ケリーズ・アザー・チューン/Kelly's Other Tune
⑤ オンリー・ウィ・ノウ/Only We Know
⑥ ドント・セイ・モンク/Don't Say ”Monk"!
⑦ スティンガー・ダブル/Stinger Double
⑧ ノー・シエスタ/No Siesta
⑨ エンブレイス/Embrace
⑩ B.Q.E./B.Q.E.
※All tunes composed by Makoto Ozone
■録音メンバー
小曽根真 (piano)
北川潔 (bass)
クラレンス・ペン/Clarence Penn (drums)
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ウォレス・ルーニー/Wallace Roney (guest:trumpet②③⑥)
■レーベル
VERVE
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本当に小曽根さんはジャズのジャンルに留まりませんね。近年はクラッシックの様相も呈しているし、ソルトとのデュオもとっても楽しいです。
今年はライブ行かなかったので、また夏のフェスにでも来ていただけないかなぁ。。と思います。
しかし、演劇とコラボしたり、ビッグバンド作ったり、交響楽団と共演したり、ツイン・ピアノで弾いたりと、バラエティに富んだ活躍ぶりです。相当充実されてるんじゃないでしょうか。
今が旬だとすると、「生小曽根」、見る機会があれば見ておいた方がいいかもしれませんね。