ジャニス・ジョプリンから放出されるエネルギーはやはりライヴ・アルバムから浴びたいものです。
スタジオ・アルバムでも感じることのできる熱気が、より強烈に押し寄せてくるからです。
「チープ・スリル」は、1968年3月から5月にかけてニューヨークとハリウッドで行われた、ジャニスとビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーのライヴの模様をピック・アップしたものです。
ジャニスは1943年1月にテキサス州ポートアーサーで生まれました。
これといって不自由のない中流家庭に育ったジャニスですが、孤独とコンプレックスを抱えた青春時代を送りました。保守的な地方都市に住んでいたため、両親からは枠にはめられたような窮屈さも感じていたようです。また自分の容貌などに対するさまざまな劣等感を持っていましたが、それは彼女が死ぬまで消えることはなかったといいます。
自分には歌がある、ということを知ったジャニスは、ステージで存分に自己表現することに没頭します。
それは、もしかすると劣等感の裏返しだったかもしれません。型破りなジャニスの言動も一種の強がりだったかもしれません。
ジャニスは孤独感や劣等感と戦い続け、ステージではあらん限りのエネルギーを振り絞って自己表現・自己主張し続けたのでしょう。
このアルバムを聴くと、ジャニスの鬼気迫るパフォーマンスに触れることができます。実質的なジャニスのデビュー・アルバムと言われるこの作品は、全米アルバム・チャートでも1位を獲得するヒットを記録しました。これはレコード会社のプロモーションによるものではなく、1967年のモンタレー・ポップ・フェスティヴァルなどで見られたジャニスのライヴ・パフォーマンスの凄まじさがクチコミで広がっていったことが大きく作用しているとも言われます。
収録されているのは全7曲。とくに「サマー・タイム」が出色の出来だと思います。ぼくは今までにいろんな「サマータイム」を聴きましたが、もっとも好きなのがこのジャニスの「サマータイム」です。これほどエネルギッシュで胸をかきむしられるような「サマータイム」にはなかなか出会うことができません。とにかく、素晴らしい。
「ボールとチェーン」、このヘヴィなブルースも見逃せません。「ボールとチェーン」、つまり錘と鎖、これは人生における愛という名の重荷のことです。ジャニスが自分のことのように切実に歌うこの曲は、重苦しいムードの中にも強烈なパワーを感じ取ることができます。
そして、「ふたりだけで」から始まり、「愛する人が欲しい」、「サマータイム」、「心のかけら」と続く流れは、ぼくを興奮の波の中に押しやるのです。
演奏は粗っぽいのですが、とても熱がこもっています。だからこそジャニスのブルージーでソウルフルなヴォーカルにマッチするのでしょうね。
このアルバムで聴くことのできるジャニスのヴォーカルは、信じ難いほどのブルース・パワーに満ちています。そしてその叫びからは一種のせつなささえ感じ取ることができるのです。
ジャニスは「チープ・スリル」の成功で一躍ロック・クィーンの座を手に入れましたが、それは彼女の孤独を癒すことには繋がらなかったようです。
むしろ、さらに孤独感はつのってゆき、それを紛らすためなのでしょう、以前にも増してドラッグにのめり込んでいったと言います。
いずれにしても、この「チープ・スリル」は1960年代後半の雰囲気を象徴し、またジャニスというシンガーの凄さを今に伝える重要な作品だと言えるでしょう。
◆チープ・スリル/Cheap Thrills
■歌・演奏
ビッグ・ブラザー & ホールディング・カンパニー/Big Brother & The Holding Company
■リリース
1968年8月12日
■プロデュース
ジョン・サイモン/John Simon
■録音メンバー
[Big Brother & The Holding Company]
ジャニス・ジョプリン/Janis Joplin (vocals)
サム・アンドリュー/Sam Andrew (lead-guitar, bass, vocals)
ジェームス・ガーリー/James Gurley (guitar, vocals)
ピーター・アルビン/Peter Albin (bass, lead-guitar⑥, vocals)
デヴィッド・ゲッツ/David Getz (drums, vocals)
[Additional Personnel]
ジョン・サイモン/John Simon (piano)
■収録曲
[Side-A]
① ふたりだけで/Combination of the Two (Sam Andrew)
② 愛する人が欲しい/I Need a Man to Love (Sam Andrew, Janis Joplin)
③ サマータイム/Summertime (George Gershwin, Ira Gershwin, DuBose Heyward)
④ 心のかけら/Piece of My Heart (Bert Berns, Jerry Ragovoy)
[Side-B]
⑤ タートル・ブルース/Turtle Blues (Janis Joplin)
⑥ オー、スウィート・マリー/Oh, Sweet Mary (Peter Albin, Sam Andrew, David Getz, Janis Joplin)
⑦ ボールとチェーン/Ball and Chain (Big Mama Thornton)
■チャート最高位
1968年週間チャート アメリカ(ビルボード)1位
1968年年間チャート アメリカ(ビルボード)57位
1969年年間チャート アメリカ(ビルボード)23位
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ジャニスのサマータイム、もうわたしのなかでガツンと打たれる気分です。FMから流れる彼女の歌を録音し 寮祭で流し ノリに乗ったあの頃。もう戻れないあの頃。こんなにもしめつけられる歌があったのかと思いましたねー。彼女のことをもっと知りたくて自伝を読んだりしたこと とても懐かしく思えます。
ジャニスはぼくにとって最高の歌姫なのです。
「サマータイム」けいさんにとっては思い出の曲なんですね。
ぼくも最初にこの「サマータイム」を聴いた時はとても大きな衝撃を受けました。まだブルースとかソウルとかをあまり聴いてなくて、よく分からない時だったにもかかわらず、です。
この歌、もともとは子守唄なんですが、子供のためのものじゃなくて、「大人のための子守唄」なんでしょうね。
TBさせて戴こうと思って,自分の昔の記事を見たら、
「ジャニスのサマータイムが一番好き!」
って書いてありました(笑)
あの魂を搾り出すような歌い方が堪らないですよね。
「サマータイム」って、ジャズの世界ではスタンダードになっていて、この曲を取り上げる人もとても多いんですが、いまだかつてジャニス以上のインパクトを受けたものを聴いたことがありません。『三本の指に入る』なんて書きましたが、本当は「ジャニスのサマータイムがNo.1」と言いたいワタクシです(^^)