ケイコ・リーさんと言えば、今や日本のジャズ界の中では綾戸智絵さんと並ぶトップ・シンガーです。いや、ジャズばかりでなく、ポップスやブラック・コンテンポラリーまで幅広く歌っているアーティストです。
このアルバムは、ケイコさんと現在も活動を共にしている「ドキドキ・モンスターズ」との初競演盤で、1999年11月名古屋、同年12月東京でのライヴの模様を収録したものです。全11曲中、ジャズ・スタンダードが8曲、ポピュラーのカヴァーが2曲、オリジナルが1曲、という構成になっています。
ジャズ・スタンダードとカヴァー曲は、ケイコ・リーならではの解釈で再構築してあります。それを支えるバック・バンドも腕利きばかり。随所できらめくようなプレイが聴かれます。
ピアノの野力奏一氏は、間を生かす、というか、空間の使い方が実に上手く、音を詰め込みすぎません。常にヴォーカルの良さを引き出そうとするようなプレイをしています。ベースの坂井紅介氏はとても堅実。全く揺らぐことなくビートを刻んでいます。ドラムスの渡嘉敷祐一氏は日本屈指のグルーヴ・マスターと言っていいでしょう。パーカッションのスティーヴ・ソーントン氏とのコンビで生み出すリズムは実に強固でグルーヴィーです。吉田次郎氏は変幻自在なプレイのギタリストです。ある時はリズムの補強に回るかと思えば、ソロではブルージーなロック調から正統派ジャズ調まで実に幅の広いプレイを聴かせてくれます。
ファンキーなリズムが楽しい「イフ・イッツ・ラヴ」、「カム・レイン・オア・カム・シャイン」。とくにオリジナル曲の「イフ・イッツ・ラヴ」は、ケイコさんのステージでの重要なレパートリーとなっています。
「タイム・アフター・タイム」はシンディ・ローパーの歌とは同名異曲。ノスタルジックな雰囲気のする、3連のナンバーです。
「マイ・ラヴ(ポール・マッカートニー作)」、「デイ・ドリーム」、「アイ・ウィル・ウェイト・フォー・ユー(シェルブールの雨傘)」では実にしっとりとした歌声が聴けます。一語一語、精魂込めて歌っているのが分かります。
「ラヴァー・マン」はベースを大フィーチュアしたブルージーな曲。ベースによるイントロで、歌もベースのみをバックにシブく決めています。間奏からピアノ、ドラムが入り、盛り上がりを見せます。
「サマータイム」はミディアム・スローの8ビート。静かに始まり、ダークな雰囲気が曲を支配しています。かなりフェイクしたケイコさん独自の「サマータイム」です。
「アフロ・ブルー」と「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」はとても迫力のある展開となっています。ホットな演奏に後押しされるように、ケイコさんも自在に音と戯れている様子が伺えます。
「イマジン」のみスタジオで録音されています。ピアノの弾き語り形式で、ショート・ヴァージョンというクレジットがついています。
ケイコさんの歌、圧倒的な存在感がありますね。
ドスの利いた低音。ほんのりとした色気。ハスキーで、それでいて心に沁み込むようなディープな歌声。実に個性的です。
また、「楽器と対等に渡り合える歌声」と言われているだけあって、迫力たっぷり。しかもインプロヴィゼイションも自由自在。バンドとのスリリングな音のやりとりは聴いているぼくをも興奮させてくれます。そして、ケイコさん自身の解釈による見事なフェイクはこれぞジャズ、といった自由さに満ちています。
ぼくは、9年ほど前にケイコさんのステージを見たことがあります。小さいハコ(ライヴ会場)だったので、ぼくの鼻先1メートルのところで見ることができて、とても感動しました。
ケイコさんは全くといっていいほどMCを取りません。余計な愛嬌も振りまかず、歌うことにだけ集中しているようでした。それでいて客席を沸かせるんです。とてもエモーショナルな歌でした。
ケイコさんは、2001年に日産ステージアのCMでクイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」をカヴァー、話題になりましたね。そのほかにも、山口百恵さんやマイケル・ジャクソン氏の曲をカヴァーするなど、一箇所にとどまらない意欲的な活動を続けています。
機会があればもう一度生の姿に触れてみたいシンガーのひとりです。
◆ケイコ・リー ライヴ1999
■歌
ケイコ・リー
■リリース
2000年3月23日
■プロデュース
渡辺康蔵
■レコーディング・エンジニア
鈴木ヨシヒロ
塩月博之⑪
■録音
①②③⑧⑩1999年11月4日 (名古屋テレピア・ホール)
④⑤⑥⑦⑨1999年12月14日 (東京銀座ソミド・ホール)
⑪ (東京 ソニー・ミュージック・スタジオ)
■収録曲
① イフ・イッツ・ラヴ/If It's Love (D. Worth, K. Lee)
② カム・レイン・オア・カム・シャイン/Come Rain Or Come Shine (H. Arlen, J. Mercer)
③ タイム・アフター・タイム/Time After Time (S. Cahn, J. Styne)
④ マイ・ラヴ/My Love (L. McCartney, P. McCartney)
⑤ デイ・ドリーム/Day Dream (D. Ellington, J. Latouche, B. Strayhorn)
⑥ ラヴァー・マン/Lover Man (J. Davis, R."Ram"Ramirez, J. Sherman)
⑦ サマータイム/Summertime (D. Heyward, G. Gershwin)
⑧ アイ・ウィル・ウェイト・フォー・ユー/I'll Wait For You (M. Legrand, J. Demy)
⑨ アフロ・ブルー/Afro Blue (M. Santamaria)
⑩ ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー/Lover Come Back To Me (S. Romberg, O. HammersteinⅡ)
⑪ イマジン/Imagine (studio short version) (J. Lennon)
■録音メンバー
ケイコ・リー(vocal, piano)
野力奏一(piano, keyboards)
坂井紅介(bass)
渡嘉敷祐一(drums)
吉田次郎(guitar①②③⑧⑩)
スティーヴ・ソーントン/Steve Thornton(percussion①②③⑧⑨⑩)
■レーベル
SME
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たしか何年か前の東京JAZZで生を見た気がします。
TVのトーク番組に出てるのを見たことありますが、彼女名古屋弁なんですよね。しゃべりも低いドスがきいた声なんですが、以外におもしろいんですよね。
小さい頃からジャズやソウルのレコードを聴いて育ったそうですけれど、やっぱりその影響って大きいのでしょうね。
あ、そうそう、彼女はたしか愛知県出身でしたね。
ライヴではほんとに「喋り」がないんですが、オフ・ステージではとてもフランクな方だそうです。
テレビにはほとんど現れないので、そのトーク番組を見ることができたのは貴重な体験だったかもしれないですよ。(^^)
試聴しました。これは、知ってる曲がどっちゃりですよ~
そうそう、百恵ちゃんの「秋桜」では、ちょっと暗い感じだったのですが、この時期にジャズでしっとり聴くには、この気だるさは良いですよねー。
「サマータイム」収集家?の私としては、ぜひこの曲をじっくり聴きたいです。
試聴は最初の♪サマタ~♪で終ってしまいました・・・
ジャズの人ってスタンダードやヒット曲を多く取り上げるから、曲のラインナップに馴染みがある場合が結構ありますよね。
そうですね、ケイコさんがしっとり目の曲を歌うと、雰囲気がよりダークになりますね。
サマータイムはいろんな方法で料理されてますけれど、ケイコ版はかなり崩して歌ってますよ。ミディアムスローの8ビートで、これもダークな感じにキメてますよ。
ジャズの場合はイントロが長かったりするので、試聴はメロディーが始まってから30秒にして欲しいですよね~