ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ラヴ・ミー・トゥモロウ/シカゴ16 (Chicago16) 

2007年11月23日 | 名盤


 ぼくは初期のシカゴが生んだ、ゴリゴリのブラス・ハード・ロックが大好きなのです。
 ホーン・セクションが作り出す分厚い音の壁、テリー・キャスのブルージーなギター、ロバート・ラムのソウルフルなヴォーカル、ダニエル・セラフィンのジャジーなドラミング、ピーター・セテラの音数の多い派手なベース・ライン。どこを取ってもシカゴの魅力が詰まっていました。


 そのサウンドが次第にポップな方向へ進み、大人のロックを聴かせるバンドに変貌を遂げつつあった矢先の1978年1月、大黒柱のひとりであるテリー・キャスを不慮の事故で失います。それをきっかけにシカゴは急激に失速し、長い低迷期に入り込んでしまうのです。
 1970年代終盤から1980年代当初のシカゴは、きちんとしたビジョンもなく、半ば惰性でサウンドを作っていたような感があります。
 その不振から立ち直るきっかけになったのが、「素直になれなくて」の大ヒットでした。





 「素直になれなくて」が収録されているのが、「シカゴ16」です。
 シカゴは、このアルバムからレーベルを移籍、プロデューサーを新進気鋭のデヴィッド・フォスターに変えて心機一転を図ります。そしてテリー・キャス亡き後定まらなかったギタリストの座にロサンゼルスの実力者、ビル・チャンプリンを迎え入れます。このふたつの新しい風が功を奏して、シカゴは劇的な復活を遂げるわけですね。


 フォスターは、当時ホール&オーツやアース・ウィンド&ファイアーなどを手がけていた辣腕プロデューサーです。彼は積極的に外部のソング・ライターやミュージシャンを起用したほか、自らも10曲中7曲の曲作りに参加したり、キーボード・プレイヤーとしてサウンド・メイクに携わったりするなど、八面六臂の活躍を見せています。その結果としてシカゴは一気にAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック=都会的な雰囲気を持つ大人のロック)路線へとシフトされました。


 新生シカゴのサウンドの特徴は、キーボード群やシンセサイザーが多用されていて、とても洗練されていることです。
 ギター陣のゲストとして、西海岸屈指の名手であるスティーヴ・ルカサーやマイケル・ランドーらを迎えていますが、彼らの音は、テリー・キャスのテレキャスターから生み出されていた乾いた土臭い音とは対照的で、ハードながらも都会的センスにあふれています。サウンドのひとつの鍵、と言ってもいいと思います。
 ホーン・セクションはバッキングに徹していますが、曲によってはスウィング・ジャズを彷彿とさせる華麗なアンサンブルを聴くことができます。


  


 「素直になれなくて」は、1976年の「愛ある別れ」以来6年ぶりに全米チャート1位に輝いた、80年代のシカゴを象徴する名バラードです。映画「青い恋人たち」でも使われ、話題になりました。
 作者はピーター・セテラ。彼は、この曲を家へ帰る車中で思いついたそうです。ピーターはアイデアをまとめ、一週間かけて曲を書き上げましたが、この曲は彼のお気に入りのひとつだということです。ヴォーカルもピーター自身がとっていますが、美しいハイ・トーンが冴え渡る歌いっぷりは、彼を一流のバラード・シンガーとして認めさせました。
 1997年にはア・カペラ・グループAZ YETがこの曲をカヴァーし、ヒットさせましたね。この時もピーターの歌声がフィーチュアされていました。


 この「シカゴ16」からは、他に「ラヴ・ミー・トゥモロウ」(全米22位)、「ホワット・ユー・アー・ミッシング」(全米81位)のヒット曲が生まれています。アルバム自体も全米9位と大ヒットを記録しました。
 「シカゴ16」で劇的な復活を果たしたシカゴは、こののちバラード、あるいはソフト路線を進み、新たな成功を手にすることになります。





 シカゴのアルバム・ジャケットは毎回バンドのロゴをあしらっていることで知られていますが、今回は電機製品の基盤。まもなく到来するパソコン時代を予感しているかのようですね。



◆ラヴ・ミー・トゥモロウ(シカゴ16)/Chicago 16
  ■歌・演奏
    シカゴ/Chicago
  ■リリース
    1982年6月7日
  ■プロデュース
    デヴィッド・フォスター/David Foster
  ■収録曲
   [side A]
    ① ホワット・ユー・アー・ミッシング/What You're Missing (Jay Gruska, Joseph Williams)  ☆アメリカ81位
    ② あなたの気持ち/Waiting for You to Decide (David Foster, Steve Lukather, David Paich)
    ③ バッド・アドヴァイス/Bad Advice (Peter Cetera, Foster, James Pankow)
    ④ チェインズ/Chains (Cetera)
    ⑤ 素直になれなくて~ゲット・アウェイ/Hard to Say I'm Sorry(Peter Cetera, Foster)~Get Away (Cetera, Foster, Robert Lamm)  ☆(Hard to Say I'm Sorry) アメリカ1位、イギリス4位
   [side B]
    ⑥ フォロー・ミー/Follow Me (Foster, Pankow)
    ⑦ ソニー・シンク・トゥワイス/Sonny Think Twice (Bill Champlin, Danny Seraphine)
    ⑧ ホワット・キャン・アイ・セイ/What Can I Say (Foster, Pankow)
    ⑨ レスキュー・ユー/Rescue You (Cetera, Foster)
    ⑩ ラヴ・ミー・トゥモロウ/Love Me Tomorrow (Cetera, Foster)  ☆アメリカ22位
    ☆=シングル・カット
  ■録音メンバー
   [Chicago]
    ロバート・ラム/Robert Lamm(piano, keyboards, percussion, backing-vocals)
    ビル・チャンプリン/Bill Champlin (piano, keyboards, guitars, lead-vocals②③⑥⑦, backing-vocals)
    ピーター・セテラ/Peter Cetera (bass, acoustic-guitar⑤, lead-vocals①②③④⑤⑧⑨⑩, backing-vocals)
    ダニエル・セラフィン/Daniel Seraphine (drums, percussion)
    リー・ロックネイン/Lee Loughnane (trumpet, flugelhorn, piccolo-trumpet)
    ジェームズ・パンコウ/James Pankow (trombone, percussion, backing-vocal)
    ウォルター・パラゼイダー/Walter Parazaider (sax, flute, clarinet)
   [additional musicians]
    デヴィッド・フォスター/David Foster (keyboards, synth-bass)
    クリス・ピニック/Chris Pinnick (guitar)
    スティーヴ・ルカサー/Steve Lukather (guitar)
    マイケル・ランドウ/Michael Landau (guitar)
    デヴィッド・ペイチ/David Paich (synthesizers)
    スティーヴ・ポーカロ/Steve Porcaro (synthesizer)
  ■チャート最高位
    1982年週間アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)9位、イギリス44位
    1982年年間アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)89位




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2 コメント

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Nobさん (MINAGI)
2007-11-24 12:33:54
「シカゴ16」よりも「シカゴ17」の方がさらに評判良いみたいですね。
ぼくも初期のシカゴの方が大好きなのです。でもこのようなポップなシカゴもそう悪くないな~、なんて最近思っています。
活動期間といえば、今年は、前身のバンドから数えると結成40周年だそうですよ。20歳で聴き始めたとしたら、還暦なんですよ~
ピーター・セテラ脱退後はほとんどぼくも聴いてないですね。あ、でもジャズのスタンダードをカヴァーした「ナイト&デイ」は愛聴盤です。(^^)
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おはようござります~ (Nob)
2007-11-24 09:37:36
シカゴ~
この16と17は有名なんですよね。 
もちろん、聴きましたよ~
と言っても、それを知ったのはブログを始めてからでございます・・・(汗)
私の場合、シカゴといえば「長い夜」「サタデー・イン・ザ・パーク」がお馴染みなのですよね ハハハ
しかし、それにしても活動期間長いですよね。 ピーター・セテラ脱退後のシカゴは聴いていないんですが、どうなんでしょ?
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