奈良県の北東部、もう少し東に行けば三重県名張市に入る辺りに
室生の里はあります。古事記や日本書紀にも現れる古い古い土地
柄ですが、山の中です。山紫水明とはこのような土地を言うので
しょう。緑濃い真夏の室生は静かでした。室生の中心部室生大野
に大野寺があります。
建物は残念ながら明治時代に全焼し再建されたものだそうですが、
こじんまりと清潔な佇まいの良いお寺です。春には右手に見える
枝垂れざくらが見事に咲いて、大勢の人々が花見に訪れるようです。
でも、なんといってもこのお寺で有名なのは横を流れる宇陀川岸の
岩に刻まれた弥勒磨崖仏です。1209年に後鳥羽上皇の臨席のもとに
開眼供養されたとか。
暑い時期ということもあり、訪れる人もまばらで、蝉の声を聞きなが
ら川辺に佇むと、心が洗われるようでした。
大野寺から数キロ南に下ると室生寺があります。ここは言わずと知
れた女人高野。来る人がみな癒やされて帰るような、とても心やす
まるお寺です。
門をくぐり石段を上がると、身の内の世俗の垢が流れ落とされたよう
な気持ちになります。春には石段の両脇の石楠花がそれは見事です。
奈良の古いお寺ではままあることですが、本堂も金堂も五重塔も、
中におわします釈迦如来立像、十一面観音像、釈迦如来坐像もみ
な国宝です。贅沢な目の保養です。
でも不敬ながら「可愛らしい」と表現したくなる五重塔は、18年前
の台風で倒れてきた大杉の直撃を受け大被害を被ったのですが、
きれいに修復されました。何度も繰り返し訪れたくなる奥ゆかし
くも、魅力的なお姿の塔です。
参拝後、このあたりの名物三輪素麺のにゅうめんを食べました。
柚子の香りの効いたやさしいほっとする味です。