妹が句集を出しました。感じの良い装幀の句集です。公に出した句集ですが、
不思議なものですね、亡き父母にまつわる句やふるさとの句は、普通の文芸
作品を味わうように冷静で客観的な楽しみ方ができません。共感のあまり、
胸がつまるような気がするのです。
飛び立たぬしづけさにあり著莪の花 冒頭のページにある句です。
ふるさとの家の裏山に毎年春になると、無数の著莪の花が咲きました。仄暗
い杉木立の下に、ひっそり、瞬きもしない白い星のように。この句を読むと、
その昔、著莪の花を見ていた自分がまざまざと蘇ります。
通草の実記憶の中に恥いくつ
停まるたび花菜風入る吉野線
これは、私よ、私のその昔のふるさとに対する思いよ、と叫びたくなるような
句が並びます。もちろんそれは、妹の作句の力量があればこそで、私が言葉
を尽くしてもこのように端的に表すことはできません。そのような心持ちを素敵
な言葉で表してくれたことに、嬉しさと、ある意味羨ましさを感じます。
けれども、そのような身びいきめいたほめ言葉だけで、この句集は語り尽くせま
せん。外国の文化文学に精通しているだけに、グローバルな視点もあり、歴史
的な視点もあります。悪く言えば種種雑多と言えなくもない題材を、絶妙のバラ
ンス感覚でまとめています。瞬間を巧みに切り取り、言葉をそいでそいで十七
文字に巧みに収めています。生死を真摯に見つめる冷静さと、対象に対する温
かい眼差しが同居して、ユニークな作風を作り出しているように思えます。
とここまで、書いてきて、ちょっとほめすぎか?なんておもいますが、ほんと
に良い句集です。
故郷去るおんぶばったに見送られ
どことなく鹿に似る犬秋うらら
合唱のやうに集まり姫女苑
パティシエの赤きバンダナ降誕祭
以上 岡本紗矢句集『向日葵の午後』より
まだまだ素敵な句がありますが、又次の機会にご紹介。
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