キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

向日葵の午後

2014-08-30 15:32:06 | 
              

             妹が句集を出しました。感じの良い装幀の句集です。公に出した句集ですが、

             不思議なものですね、亡き父母にまつわる句やふるさとの句は、普通の文芸

             作品を味わうように冷静で客観的な楽しみ方ができません。共感のあまり、

             胸がつまるような気がするのです。

             

               飛び立たぬしづけさにあり著莪の花     冒頭のページにある句です。

             ふるさとの家の裏山に毎年春になると、無数の著莪の花が咲きました。仄暗

             い杉木立の下に、ひっそり、瞬きもしない白い星のように。この句を読むと、

             その昔、著莪の花を見ていた自分がまざまざと蘇ります。

                通草の実記憶の中に恥いくつ

                停まるたび花菜風入る吉野線

             これは、私よ、私のその昔のふるさとに対する思いよ、と叫びたくなるような

             句が並びます。もちろんそれは、妹の作句の力量があればこそで、私が言葉

             を尽くしてもこのように端的に表すことはできません。そのような心持ちを素敵

             な言葉で表してくれたことに、嬉しさと、ある意味羨ましさを感じます。

             

             けれども、そのような身びいきめいたほめ言葉だけで、この句集は語り尽くせま

             せん。外国の文化文学に精通しているだけに、グローバルな視点もあり、歴史

             的な視点もあります。悪く言えば種種雑多と言えなくもない題材を、絶妙のバラ

             ンス感覚でまとめています。瞬間を巧みに切り取り、言葉をそいでそいで十七

             文字に巧みに収めています。生死を真摯に見つめる冷静さと、対象に対する温

             かい眼差しが同居して、ユニークな作風を作り出しているように思えます。

             とここまで、書いてきて、ちょっとほめすぎか?なんておもいますが、ほんと

             に良い句集です。

                 故郷去るおんぶばったに見送られ

                 どことなく鹿に似る犬秋うらら

                 合唱のやうに集まり姫女苑

                 パティシエの赤きバンダナ降誕祭

                   以上 岡本紗矢句集『向日葵の午後』より

             まだまだ素敵な句がありますが、又次の機会にご紹介。

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