ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

5月例会のレポートが届きました!!

2016-06-25 10:02:57 | 対話型鑑賞



遅くなりましたが、上坂さんからのレポートが届きましたのでご覧ください。

金谷さんのレポートにもあったように、本年度初日・後半ナビを担当しましたのでご報告します。
グラントワ コレクション展「花とともに」【展示室A】平成28年5月21日(土)後半13:30~
☆鑑賞作品 2点
 今尾景年《花鳥風月図》明治~大正時代 絹本着色、六曲一双  各156.0×349.5(cm)
竹内栖鳳《藤花蕣花群犬図》1898(明治31)年 紙本着色、六曲一双 各155.0×360.0(cm)
☆参加者   みるみるの会員5名、初めての参加者1名 
鑑賞会
ともに六曲一双で、左右に植物が描かれていて、二作品を見れば四季が揃う構成で展示されていると捉え、様式の比較から誰もがそれぞれの特徴を述べやすいと考えた。また、鑑賞作品を2点みることで、それぞれの特徴が際立つという展開は、以前、山﨑修二さんの静物画の鑑賞会においても分かったことで、自ずと比較してしまいたくなるはずだと想定し、鑑賞会の作品に選んだ。
しかし、結果的に、二つの作品をみる意図が鑑賞者に伝わらずにいたのは何故か。ナビである私自身が二つの作品を比較し「何がみえるか。」「そこから、どのようなことが推察できるか。」に対して、準備不足で鑑賞会を試み、ナビとしての機能を果たさなかったためだと考える。そもそも、鑑賞作品の面積が大きすぎるという作品選択のミスもあるのだが、ナビとしての肝心な言葉「何が見えますか。」「そこからどう思いますか。」「どこからそう思いますか。」という投げかけがないことで機能を発揮していなかった。ナビが鑑賞者の発言に耳を傾け、問い返し、小まとめして話題を焦点化していくことで奥行きのある鑑賞会となるが、その役割を果たしていないという点で「ナビして!」というツッコミが鑑賞会の途中で入れられたのは失態であった。自身のコメントで下手にかき混ぜずにいた方がいい、と無意識に判断したのだが、それでは研修にならない。
鑑賞会の後の振り返りにおいて「落ち着いてみることができなかった。」という感想もあった。相手あっての鑑賞会なので、鑑賞者にとって話したくなる雰囲気づくりや環境設定は、作品の選び方(作品の大きさや題材など)や鑑賞者の層などの条件も考慮して選ぶことも大切と提案をいただいた。
初参加の方もおられる中、よい鑑賞会にしようという温かい気持ちで皆さんが、次々に作品から推察できることを語り、鑑賞会としては素晴らしい時間となった。心から感謝。作品から根拠を示して推論を語ることに慣れたメンバーだからできたことであり、そうではない状況でも豊かな展開にできるようナビの力量をあげることが研修の目的ではないかと、改めて学ぶ姿勢を問われる経験となった。
美術館でナビを務める際には「美術愛好者の一人」として共に作品の魅力を探る姿勢で臨むが、予め展開を想定することで中立性を保つことが困難になるのではという懸念もある。ナビ役のファシリテーターとしての中立性を保つことと、作品鑑賞を充実した展開にするために話題を焦点化することを両立させる具体策を明確に見出せず、鑑賞者からの発言から自ずと生じる展開を期待することが多い。しかし、やはり、プレ・ナビを試みることで話題の方向性を具体的に想定しやすく、初見よりも深く作品と対峙することができるので、ナビ役を務める際には、忘れてはならないステップだったと認識を改める。他にも問題点が幾つか。  
ナビとしての効果的・機能的な発言とはどのようなことか、という問題点からレポートを試みたい。
今尾景年《花鳥風月図》鑑賞の終盤、「背景が金箔で彩られ、鴨や鶏などのつがいの鳥たちが描かれていることから、おめでたい席に飾られた可能性が考えられる。」と発言があり、続いて「繁栄が永遠に続きますようにという願いが込められているよう。」との推察もいただいた。鑑賞者のなかでも納得の共通理解が図られた局面で、感銘を受けた。本来ならばナビとして「鳥や草木に注目してきましたが、背景の効果についても、考えてみましょう。」などと鑑賞者の思考を促す発言が求められていたのだが、鑑賞者の発言で補われた一場面。
さて、竹内栖鳳の《藤花蕣花群犬図》の前に移動。最初とは別の人に指名して発言を求め、「右隻と
左隻、同じ仔犬たちが描かれているのでは。」という回答を得たのを機に「どこから、そのように思いますか。」と問い詰めた感がある。ユニークな着眼点に感謝!と喜色溢れるナビの問いかけだったが、発言者一人に何度も重ねて問うのではなく、「今の意見と同じように感じられた方、いらっしゃいませんか。」と広く問い、ワンクッションおいた後に、最初の発言者に再度問うことで念入りに真意を聴くことができるのかもしれない。重ねて問うことでマンツーマンの問答を固定化させてしまうと、不慣れな鑑賞者は気軽に発言しにくい場合もあると考えられる。
「右隻と左隻、同じ仔犬たちが描かれているように見える。」という発言から仔犬に注目が集まり、他の鑑賞者から「飼い主に可愛がられている仔犬たち。」と発言があり、根拠を問うと「描かれているのは野生の藤ではなく、藤棚のある広々とした庭。」と背景の植物を根拠に述べられた。しばらくして、ある鑑賞者から「右隻の藤が淡く描かれているのに対し、左隻の朝顔の鮮やかさについて考えてみたいのですが。」という問題提起があった。ナビとしての機能性を発揮しない私の運営にしびれをきらし、思考を促す問いかけを全体にもたらそうと試みられた助け舟であったことは、後の反省会でも控えめに語られたことだったが、それにしても二作品を比較せずとも、《藤花蕣花群犬図》の左隻右隻の比較で話題展開は深まったという事実に愕然。鑑賞者の問いが局面となり、それまで語られた話題が繋がった。
鑑賞者からの問題提起「右隻の藤が淡く描かれているのに対して、左隻の朝顔の鮮やかさについて。」に関し、他の鑑賞者から「藤の色が淡く、朝顔は鮮明なのは時の移り変わりの表れ。それなのに、仔犬たちは成長していない。それは何故か。季節は巡るけれども、いつまでもかわいいままでいてほしいという願いが託されているのでは。」と、作品全体に及ぶ推察が述べられた。その後、再び、作品の詳細に視点がうつり、「蝶々を追う仔犬がいるが、蝶は黄泉の国からの使者を象徴することから何かを暗示しているのでは。例えば、幼くして亡くなってしまった誰かを象徴しているのかもしれない。」とまた別の鑑賞者から異なる視点で述べられ、非常に奥行のある展開となった。ナビとしてというより「鑑賞者の一人」として素晴らしく得難い時間に立ちあえたという満足感のある鑑賞会。心から、ありがとうございました。
さて反省をまとめると、以前、プレ・ナビを行ったうえで臨んだナビでは、「小まとめ」や言い換え(パラフレーズ)が円滑に行えた経験からも、プレ・ナビは私に不可欠の事前準備といえる。その他の気づきとして、初めて参加される方がお一人という状況のなか「しばらくご覧ください。」と述べたものの、「今日は指名制にしましょう。」と唐突に初参加の方に発言を求め、最初に「みる・かんがえる・はなす・きく」のサイクルについてアナウンスもせずに始めてしまったことなど、あまりに不親切。「発言は挙手をしてナビからの指名の後でお願いします。」という案内もなく、暗黙の了解事項として扱った不手際はナビの立場からの発言ポイントを失点。機能的なナビの発言について再考し、後日、自分のためのワークシートを作成してみたので、今後に生かしたい。
また、対話による鑑賞会に参加し、発言はせずとも、作品を前になされる対話を聴くことで、考えが構築される面白さも味わった。そのことから、発話はせずとも思考する生徒の評価についてや、文字を残さない少数民族や文献の少ない古い絵の価値や魅力を推察する力を養うアプローチについてなど再考したいテーマも得られた。多くの考えるヒントをいただき、貴重な研修となった。後日、二点の六曲一双の屏風全体をみるには随分な距離と空間を要すると再認識し、日頃から修養を積む必要性を感じた。

 ナビの力量には個人差があります。特にわたしたちみるみるの会では、VTSJを受講した者とそうでない者では理論を踏まえているかそうでないかの差があります。その差はVTSJの受講者が折に触れて理論を伝えることで解消したいと思っていますが、後はVTSの日本語訳版を熟読するなどの個人の努力も必要と思います。ナビは一朝一夕でなるものではないし、完成型はないと思うので、日々精進です。
 私は対話型鑑賞のナビはジャズセッションのようなものだと思っています。リアルなライブです。鑑賞者の投げた言葉にその場で最適な投げ返し(反応)ができ、対話がRICHに展開できるか!それがナビの醍醐味です。その面白さにハマれるナビをめざしてみるみるメンバー全員で取り組んでいきたいと思います。
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「佐々木信平とその仲間たち」展にあわせて対話型鑑賞会を開催しました

2016-06-19 11:57:27 | 対話型鑑賞


みるみるの会の今年度2回目の例会は浜田市世界こども美術館で開催されている「佐々木信平とその仲間たち」展にあわせて開催しました。
鑑賞会に先立って安来市加納美術館館長の神氏の講演も行われました。
鑑賞会には講演会聴講者を含め、常連さんの参加もあって多数の鑑賞者で対話が弾みました。
ナビは1作品目が澄川さん。2作品目が藤野さんでした。
佐々木氏の作品は精緻な描写表現の中にも深く意味を問うようなものが多く、みるものに問いを投げかける対話型鑑賞にはとてもふさわしいと感じました。
また、詳細なレポートはナビ担当者から届くと思います。
遅くなっています前回のナビレポートも近日中にアップできると思いますので、ともどもお楽しみにお待ちください。
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