オンラインACOPに参加した房野さんからのレポートです。
報告者:Art Communication in Shimane みるみるの会 房野伸枝
日時:10月17日(土)13:30~Zoom接続確認 14:00~実践
進行:まっつんさん サポート:みっしーさん
参加者:8名
1作品目:「霊峰石鎚(れいほういしづち)」 紙本着色屏風 明治時代 制作年不明
長谷川 竹友(はせがわ ちくゆう)作
ナビゲーター:ゆきんこさん
2作品目:「りんごの天体観測」モノクロ写真 2014年 鈴木 康広(すずき やすひろ) 作
ナビゲーター:カスガさん
オンラインACOPは今回で10回目、私は2回目の参加です。今回のナビゲーターのカスガさんとゆきんこさんは2011年、京都造形芸術大学でのVTSJ受講で私もご一緒したお二人です。今回、タッグを組んでナビをされるとのことで大いに期待して鑑賞に臨みました。お二人でシークエンスを組んでの作品選び・・・1作品目はたくさんの修験者が切り立った岩山に登っている様子の屏風、2作品目は一見宇宙のような、(私は初見で深海のマリンスノーのようだと感じました)抽象的な写真でした。作品を続けて観ることで、それぞれの鑑賞に影響を及ぼし合うことも考慮した上で選んでいるのですから、二つの作品にどんな共通のテーマがあるのかと考えるのも楽しみでした。
ゆきんこさんのナビは一人ひとりのコメントを「面白い意見ですね」「それは初めて聞く意見です」と返しながらのパラフレイズが印象的で、フレンドリーで発言者に安心感を与えていると感じました。作品に描かれた人物はとても小さい上にたくさん描かれており、それらを拡大したり、作品上に線を描いて丸で囲んだりすることが、焦点化にとても効果的でした。鑑賞者が人物に注目した後、後ろの山に視点を移して、視点を変えて話を進めたことで、二つの山の高さの違いや、後ろの山にも白く点々と続く人物らしい列の発見を促しました。後半でナビが、モチーフとなった山が実在の愛媛県の石鎚山であるという情報を与え、視点に広がりを持たせたり、情報提供したりするタイミングが絶妙で短時間に多くの見方と深化を進めていたのを見習いたいと思いました。
また、この作品では、オンライン鑑賞の利点として画像をズームしてよく観ることができるという実感を得ました。なにしろ美術館ではガラスケースに阻まれて、屏風などに細かく描かれているモチーフを近づいてよく観ることが難しいからです。オンラインではナビが拡大して提示・焦点化することもできるし、鑑賞者が画像の拡大率を自由に変えながらみることもできます。実物を前にして対面で鑑賞する臨場感も魅力的ですが、オンラインに向く作品もあるのかな、と感じました。
カスガさんのナビは、抽象的で情報量の少ない作品をどう扱うのかが非常に興味深かったです!
前半、見えているものを根拠に様々な意見が出ました。「宇宙」「雪」「神秘的」「マグマのようなものをモノクロにしているのでは」「望遠鏡でのぞいた星や銀河にも見えるし、顕微鏡でのぞいたシャーレの微生物のようにも見える。マクロとミクロのどちらにも見える」などなど・・・。ナビが「これはリンゴのクローズアップのモノクロ写真」であるという情報を的確なタイミングで与えたことで、それまで黒を黒としてとらえていた我々の目に新たな視野がぱあっと開けました。中には私のように「これは、写真のネガの方なのでは?黒い汚れなどが白く反転することで、美しい星に見えるのでは。」とネガポジ逆の意見もありましたが、そこは、さすがカスガさん。きちんと「これはネガではありません」と正しつつも、「でも、おもしろいですね。汚かったものを、こうすることで美しく見せるという…」という意味付けをしてくれました。
作品のタイトルが「りんごの天体観測」であると告げた後はそれまでの様々な発言のエッセンスが重層的に意味となっていくのを感じました。「リンゴだけどリンゴに見えない」「モノクロにすることで色というノイズが消えて、美しいものに昇華させることができる」「人は色に左右される」「神は細部に宿る」「超越した神のような存在を二つの作品の共通項として感じる」「リンゴは誰しも触ったことがあるが、天体は大きすぎて触れることができない。遠くにあるから不可思議に感じるけれど、身近なものにもこんなに神秘さを感じることができるということに気付かされる」「宇宙のビッグバンとリンゴがマクロとミクロに通じている」「2つの作品を通じて、人間のしんせいが山にも天体にもあるという普遍的なものを感じる」など。
ナビが常にカーソルを動かしながら小さな点をポインティングしていたので今どこについて語っているのかが良くわかりました。言葉で『しんせい』といったところを「神聖」なのか、「心性」なのかを確認されていたので、(この場合、どちらの意味も込めていたとのことでしたが、)単語一つひとつを聞き逃さず、大事に扱うことがとても大切だと思いました。
最後の締めの「広大な宇宙から、手のひらに乗るリンゴに着地したところで終わりにしたいと思います。」というカスガさんの言葉が短くも全ての意見を集約していて、気持ちよかったです!
それにしても、オンライン上のチャットに参加者の皆さんがふりかえりのコメントを載せておられますが、短時間に言葉を選んで書き込んでおられることに感心します。私は時間切れで書き込み途中に中断してしまい、失礼いたしました。ゆきんこさん、カスガさん、お疲れさまでした。2つの作品を選ぶ際にナビのお二人が共通のテーマでシークエンスを組んでおられましたが、その内容も順番も鑑賞が深まるように仕組まれていて、本当にすごいと思います!1作目は多くの具象的なモチーフを読み解くことで自然への畏敬や神聖を感じさせ、2作目は情報の少ない抽象的な作品ありながら、対話を重ね多くの解釈が出たところへ、絶妙なタイミングで情報を与えられ、その度に新たな視点が浮上していきました。1作目との共通項を感じながら、さらに深められるような仕掛けが施され、2つの作品が響き合い、短時間で充実の鑑賞会でした。それはお二人のナビの力量に因るところが大きかったと思います。今回も学びの多い時間でした。ありがとうございました。