ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

「安部朱美ふたたび」 安来市加納美術館での対話型鑑賞会(2019,8,24開催)

2019-09-22 08:48:07 | 対話型鑑賞
特別展 安部朱美ふたたび ~明日へのまなざし~
島根安来市加納美術館 8月24日(土)14:00~

初回の対話型鑑賞会 14:00~
鑑賞作品 或る夏の日
ナビゲーター:春日美由紀



 今回の鑑賞作品は画像からも分かるように、夏の縁側で切ったスイカを食べている人々の群像です。像は淡い色で彩色されているので、手に持ったり、頬ばったりしているスイカの赤く熟した色が際立ちます。私の過去の記憶ともリンクするこの作品を皆さんと共有したいと考えました。
 最初、時間になっても、積極的に参加しようとする方の姿はなく、会場にいた複数のグループに向けて、鑑賞会への参加を呼びかけました。ギャラリー・トークとは違って、参加者が話さないといけないというのは、大人にとってはハードルが高いようです。前回の県立美術館での実践でも感じましたが、大人は人前で「何かを話す」ということへの抵抗感が強いように今回も思いました。
 鑑賞作品をアナウンスし、半ば強引に、「面白くなかったら、途中でやめても構わない」ことや「みて感じたことを、自由に話してくださるだけでよい」ことを伝えたところ、バラバラと10名くらいの方が作品の前に集まってくださいました。
 いつもなら対話型鑑賞のやり方を説明してから始めるのですが、集まってくださった参加者の皆さんを逃したくなかったので、難しい講釈はせずに、「まずはじっくり作品を鑑賞してください。」と声をかけました。「すでにみた方も、もう一度、この作品をよくみてくださいね。」と再度みてもらうように促しました。
 ほどよい時間の経過を見計らって、「みて、感じたことや、思ったことをなんでもいいので、話してください。」と声をかけました。このタイミングで、房野会員が椅子を配り、座るように促してくれたのは助かりました。作品が少し低い位置に展示されているので、立っていると、後ろの方の人には作品がみえづらいからです。皆さんが着席されるのを待って再開しました。



鑑賞会の流れ◆ナビゲーター ●参加者
◆自由に「感じたことや、思ったこと」を話してもらう。※①
●お爺さんに注目して「こんなお爺さんがいた。懐かしい。」
●全体像から「こんな風にスイカを食べたよねえ。今はもう食べられないけど…。」※②
●「スイカの種を飛ばしながら食べた。今はもうそんなことができる場所がない。」
●昔のスイカは種が多くて食べるのが大変だった。現在は品種改良もあって種が少ない。現代の子どもは、スイカの種がうまく吐き出せないよ。
●お爺さんの隣の男性をみて「ご近所さんが野良仕事帰り通りかかった。お爺さんが、スイカ食べていけ。って言って、スイカをごちそうになっているところ。幼馴染じゃないかな。」
●時刻は夕方。昔は、夕ご飯の前に、水分を取って、疲れをいやしてから、夕ご飯を食べた。スイカは水分補給。みんな食べているから、この後、夕ご飯を食べる。
●だから、お爺さんの隣の人も、野良仕事帰り。首にタオルを巻いている。

◆話しやすい雰囲気ができてきたので、表現されている人物の関係を訊ねてみた※③
●家族、でも、近所の子どもや親せきの子もいると思う。お爺さんの隣もご近所さん。

◆詳細に人間関係をみていく流れにならない。概観して終わる感じ。
 そこで、さらに、人物の置かれている位置について考えてもらうことにする。※④
●偉い人が一番前にいて、一番後ろにお嫁さんが控えている。お婆さんも真ん中で控えめ。団扇で、みんなを扇いでいる。お婆さんのスイカはお皿に乗せられている。でも、手を付けていない。後で、足りなかった孫に食べさせるのでは?
●真ん中あたりに板状のものがあり、そこにスイカが並べられているのをみて、「昔はまな板でスイカを切って、お盆なんかに乗せずに、そのまま出した。そのまな板がある。」「まな板は、切った物が滑って落ちないように、縁がついていた。このまな板にもそれがある。」※⑤
●一番奥にお嫁さんがいて、赤ちゃんをみている。
◆赤ちゃんは、男の子?女の子?
●青い掛物を掛けているから、男の子。髪も短い。
◆この家の二人目の男の子ですかね?男の子一人しかいないみたいなんだけど?
●この男の子の持っているスイカが大きい。跡取りだ。昔は、男の子が先に取った。一番いいところを跡取りが取った。そこに違和感もなかった。そんなものだと思っていた。現在とは違って…。

「参加者の皆さんが懐かしさを感じる作品を共にみられてよかったです。私もこの作品と同じような思い出があるので、今日は皆さんと一緒にこの作品を鑑賞することができてよかったです。」と、話して締めくくりました。(対話時間約20分)



振り返り
まず、※①~⑤について
※①発言に対して「どこからそう思ったのか?」と始めから細かく追及すると、発言が消極的になってしまわないか、危惧したため。
※②「食べられない」について、「食べられない」と話した意味について。「できない」と感じたのはなぜか?こんな風に食べられる「庭」や「スペース」がなくなった。とのこと。
※③子どもはどういう関係の集まりなのかを考えてほしいと思ったが、人間関係を詳細にみていこうとするより、自分の思いついたことを話したい空気感が強かった。
※④人物の並び方に注目することで、昭和の家の在り方みたいなものが話題にあがるとよいと考えた。
※⑤縁側に腰掛ける人たちとお婆さんの間に板状のものがあり、何なのか不思議に思っていたが、「まな板」ということが分かった。縁のあるまな板らしい。
房野会員より
※③の投げかけが「秀逸だった。」とのコメントを頂いた。こちらとしては、話題があちこちする中、どうしたら、みんなで「一つのことについて語りあえるか」という悩みながらの投げかけだった。

 今回の作品は、「古き良き昭和」を彷彿とさせる作品だったが、「懐かしい」「こんな時代があったよね」で終わらず、「失ってしまったもの」は元には戻らず、失ってしまった後を、私たちはどう生きていくのかということについても考えていけたらよかったのですが、そこまで深めることができませんでした。話しやすい雰囲気ができてきたころに、ナビが「どこから?」「そこから?」を意識的に問いかけるギア・チェンジが※③のところあたりでできていたら、深まったのではないかと反省するところです。
 半ば強引な誘い掛けに応じていただき、たくさんの発言をしてくださった参加者のみなさまに感謝します。ありがとうございました。
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85回記念東光展 巡回島根展での対話型鑑賞会の様子②をお伝えします(2019.8.3開催)

2019-09-01 16:30:35 | 対話型鑑賞
85回記念東光展 巡回島根展
島根県立美術館 ギャラリー 8月3日(土)14:00~

2回目の対話型鑑賞会 14:30~
鑑賞作品 本田年男:リバイバル(文部科学大臣賞)
ナビゲーター:春日美由紀


 今回の鑑賞作品は画像からも分かるように、映画にまつわるモチーフが描かれた作品で、タイトルも「リバイバル」です。描かれているものは一見分かりやすそうですが、では、作品をどのように読み解いていくのかと考えると、謎な部分もあります。1回目で「対話型鑑賞」とはどのような鑑賞なのかがおおむね分かった鑑賞者の皆さんから、どんな意見が出てくるのか、楽しみに始めました。



対話の流れ
◆背景に3人の人物の頭部と思われるものがみえる。一番向かって右端は男性。
◆右に描かれた文字情報から「チャールズ・ブロンソン」「ヘンリー・フォンダ」「クラウディア・カルディナーレ」から西部劇(映画)にまつわるものが描かれている。
◆真ん中の機械は映写機。周囲に描かれているものから、一瞬に中学生時代にタイムスリップした気持ち。まさにタイトル通り「ノスタルジア」である。
◆文字が多い。大きく背面に描かれた「WEST」や「チャールズ・ブロンソン」「ヘンリー・フォンダ」「クラウディア・カルディナーレ」の名前、また、映写機の脇には映画の撮影に使うカチンコがあり、その中にも多くの文字が描かれている。そして、左下あたりにあるのは映画のパンフレットではないか?また、映写機が載せられている台のようなものにも文字が半分切れているが描かれているように思う。
◆お線香の煙のようなものがみえる。白っぽく、画面を覆っている。暗い部屋に明かりが差し込んで部屋の塵や埃がそのように白っぽくみえているのではないか?だから部屋は暗いと思う。
◆映写機の下部にオレンジ色がある。そこだけが明るい色で目に付く。
◆映写機の右側の後ろにある物は何だろう?カゴのようにも見えるが…。まさか蛸壺ではないだろう。
◆カウボーイが使う馬の鞍か、それに付いているもの。カウボーイは馬に乗るから。
◆カウベル。牛の首から下げる。帯状のものはチロリアンテープ。カウボーイだから、牛(カウ)で、カウボーイ。カウベルを描くことで、カウボーイを暗示している。
◆水か飲み物を入れて携帯できるもの。牛を連れて遠くまで行くので、飲み物は必要だと思うので。

◆映写機があるが、ここは映写室ではないのではないか?古い映画館で、今はこんな映写機ではないから、この映写機はもう使われていないと思う。
◆扱っている映画が古いから、古い映画館だと思う。
◆映写機が載せられている台のようなものも古い。
◆使われている色からも古さを感じる。
◆この台にくっついているこれらの物(丸や三角の形状のものが5つある)が何なのか気になる。コードをつなぐ端子なのか?映写機とつなげるものか?真ん中のものは鍵穴のようにみえる。両端のものが何か分からない。映写機と関わりのある物だろ思う。
◆古い映画館で、この映画を映しているのでは?後ろに描かれているのがその映画。背景の絵はポスターにしては大きすぎるから。
◆この映写機は、とても古くて、博物館入りとか、お蔵入りとかしていて、何かの展示の際に引き出されて、映写機そのものがみている画像が背景に映っているのでは?映画は光を映すものなので、モヤモヤっとした夢の中。それはもしかしたら、かつての映写技師さんの夢なのかもしれない。映画が斜陽になって、映画館がつぶされるときに、おじいさんになった映写技師に夢を託されて、自分が映してきた世界を映し出しているのではないか?



ふりかえり
●知らない者同士の集まりの中で自分の考えたことを発言するのは、大人の方だからこそ勇気がいるのかなと感じました。続けての2回目だったのですが、挙手はパラパラとで、「もっと他に意見はありませんか?」と繰り返し、繰り返しプッシュしました。
●ひとつのものについて皆で話したいとフォーカシングしても、自分が気になることについて話すことが多かったので、話題があちこちしても気にせず、時折、こちらで意見を集約して確認しながら進めていきました。
●誰もが、西部劇、映画、古い、映画館などをみえたものから想像されていたので、さらに詳細にみていきながら、この作品からなにが伝わってくるのかについて考えていきたかったのですが、時間切れになりました。
●最後に発言してくださった方が、この作品にまつわる物語を紡いでくださり、多くの方が共感されていたようなので、そのお話で会を締めくくることにしました。
●1回目のナビゲーターだった金谷会員からは「挑戦的なナビゲートだった。」という感想をもらいました。また、疑問が出ても「考えておいてください。」と疑問をその場で追及してしまわずに取り置きすることや、「どこから?」と確認することについて「軽重」をつけていた。との意見があり、私としては、より多くの鑑賞者に発言の機会を与えたいと考えていたので、細かく突っ込んで確認し過ぎないこと、疑問もその場その場で解決できないものもあるので、取り置きしておいて、結び付けながら考えていけるようになるとよいと考えていたことを伝えました。
●1~2作品と続けて鑑賞会を行いました。1回目に多くの方が参加してくださっていて、2回目には離れていかれるパターンが多いのですが、今回は人数にほぼ変動がなく、事後の感想も感触がよかったので、最初にナビゲーターを務めてくれた金谷会員の進め方が好印象だったので、続けての参加が多かったのだと感謝します。参加してくださった皆様方、ありがとうございました。




対話型鑑賞会参加者の事後アンケートから(回答者7名)
男性(2名)女性(5名)
年齢層 20代(3名)40代(1名)60代(2名)※1名無回答
参加しようと思ってきた(3名)会場で知って参加した(4名)
楽しかった(6名)まあまあ楽しかった(1名)

感想から
◆学生の時以来の対話型鑑賞を体験しました。絵の知識がなくとも美術の世界に楽しく入ることができる鑑賞法だということを改めて感じました。
◆分野は違いますが、書道の授業でもやってみたいと思いました。
◆人によって見方・感じ方が違っていて、見ていて面白かったです。
◆自分とは違う感じ方を聞いて、新しい発見があり、色んな情景が浮かぶような気がして、作品をじっくりみることができて楽しかった。
◆いろんな人の意見もきけて楽しかったです。ありがとうございました。色んな見方と年齢に違いがあるので、見方も変わってくるんだなと思いました。
◆参加者の様々な視点からの意見が聞けてとても面白いです。よい企画だと思います。
◆色々な見方が聞けて楽しかった。作者の思いもあわせて聞いてみたかった。
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