大学生と学ぶ対話型鑑賞ファシリテーション STEP1 参加レポート
2020/8/9
津室和彦
京都芸術大学でのファシリテーションセミナーが,オンラインで開催されると知り,思い切って参加することにした。Zoomを用いたセミナーなので,自宅に居ながらにして,京都芸術大学と全国の参加者が互いにつながって行った。25名の参加者と15名のメンター役の大学生,講師の伊達隆洋先生,ホストの三重野さんという構成メンバーである。
【第1部(8月8日・9日):ファシリテーターになるための鑑賞スキル】のうち,初日は,『対話型鑑賞の基本/みる・かんがえる・はなす・きく/鑑賞体験(VTS、ACOP)』であった。(以下,本レポートでは,セミナー名に合わせるため便宜上,ナビゲーターをファシリテーターと表記する。)伊達先生のレクチャーは,講義と,みる・かんがえる・はなす・きくそれぞれに関するエクササイズも含む,楽しいものであった。ZOOMの特性を生かし,全員マイク・オンで一斉に声を出して答えたり,チャットに自分がみえたものをどんどん打ち込んでいったりと,オンラインならではのコミュニケーションがとれたのも面白かった。その後,伊達先生がファシリテーターとなり,25名の参加者全員で対話型鑑賞を2本行った。2日目には,参加者全員がファシリテーターを1回ずつ行った。
○ファシリテーターは不要になるとよい?
講義で印象的だったのは,伊達先生の言「鑑賞者が優れていたら(または,育っていったら)ファシリテーターは不要になる。」だった。積極的なグループの空気が生まれ,メンバーが各自の考えをストレートに発せるならば,リンキング(つなぎ)やフレーミング(ここでは~について話してみましょう),問い返しや言い換えが自主的になされるようになるということである。自分の体験に照らしてみても,互恵的でよい関係が築けているグループでは,伊達先生が言われたような状態になることには,納得がいった。
○鑑賞者同士での問いの共有が大事
このように充実度が上がる対話型鑑賞になるには,鑑賞者の「問い」が共有されることが大切だということも学んだ。そもそも鑑賞者の発言の多くは自問自答の「答え」である。だから,ファシリテーターは,鑑賞者の複数の問いとそれらに対する複数の仮説を検討し,つなぎ合わせ,グループとしての問いを共有することが大切なのだということである。意見を共有するというよりも,むしろ問いをこそ共有するべきだということである。
○ディスクリプションの役割
ディスクリプションは,作品の中にある事実に基づいて解釈を積み上げて仮説を導く習慣を身につけるために大切だと学んだ。
ディスクリプションの4つの役割(伊達先生による)
・意識的・網羅的な観察の促進
・作品を考えるための材料収集
・作品に基づいて考えるための錨
・互いの意見を理解するための土台
私は,とくに,錨や土台というキーワードが腑に落ちた。作品に基づく考えや,互いの発言を一緒に考えて行くには,とにかく作品に立ち返らねばならないことは,対話型鑑賞の基本だと思うからである。錨とは比喩的で素敵な表現だ。作品の中からみとった事実を他者と確認・共有しながら話し合っていけば,波風にあおられる船のように作品から遊離してしまうことはないだろう。土台も同様である。お互いが見えているもの,factを確認・共有していれば,それぞれのtruthは違っても確認・共有したfactに立ち返り再考することによって相互理解がすすむと考えられるからである。
各々の自問や仮説を確かなものにするため,ディスクリプションをより意識していきたいと思った。
○2日間のセッション最後のQ&A
Q&Aの機会があったので,私の平素の実践について伊達先生に質問した。
小学校2年生との週1回の対話型鑑賞で,多くの7~8歳児はハウゼンの美的発達段階の第1段階からなかなか先には進めない。ファシリテーターとして気をつけることはないかという内容である。
結論としては,低年齢で美的発達が未発達ではあっても,対話の意味は大きいということであった。同年齢の集団で学ぶこと,すなわちピアトレーニングの見地からも,クラスメイトと対話を行うことは,集団に良い成長を促すと考えられるとの答えをいただいた。同年齢でみかたや考え方を共有したり,多様な考えに触れたりする場としても貴重だということである。自分本位で自分の考えばかりを言いたがるこの段階の子どもでも,「人の意見をきけて楽しかった。」と言うことも,集団で学ぶことのよさであろう。
○そもそも対話型鑑賞とは
伊達先生の第1部最後のお話が印象的だった。以下に述べる。
「そもそも対話とは,価値判断のための“ものさし”が違う人同士が話し合うこと。そして,鑑賞とは,違う時代の違う人がつくったものを考えること。つまり二重の違いがはじめから存在する活動なのであり,だからこそ対話型鑑賞では,自分自身の枠からはみ出なければならない」ということであった。
これまでの私の経験からも,鑑賞者としてもファシリテーターとしても,違うみかたや考え方に触れ「自分の枠をはみ出た」と感じたときこそ充実感を感じるので,納得のいくお話だった。
9月の第2部に向け,セミナー参加者には,最低2回は対話型鑑賞を実践することが課題として出された。
自分の枠をこわし,新たな自分になるためにも,実践を積まなければならないと強く感じた。