ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

遊んでさわって からだで鑑賞 

2024-06-21 18:47:09 | 対話型鑑賞

日時:2024年5月19日(日)

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「みのり」富田菜摘(制作:2011年) 浜田市世界こども美術館所蔵    

材料:古着・ニットの帽子・ジーンズ・扇風機のカバー・アルマイトの椀・スピーカー部分・ビニール傘・ビ     ニール素材の布・園芸用支柱等 ※ワニの形をしていて、口の中や胴体に入ることのできる作品

参加者:7人家族(小学生兄、妹、幼児弟、父母、祖父母・こども美術館関係者1名・会員4名)合計12名 

ファシリテーター:正田裕子

対話型鑑賞の流れ

 最初に、この展示室で一番大きい作品をと見たり触れたりして、そこで感じたことや考えたことを伝えあって、楽しい時間を過ごそうと呼びかけた。(ワニの形状をした作品の開口部に興味を示したので「行ってらっしゃい。」と声をかける。)

・兄と弟は、作品の開口部から体内へ入って行き、右の脇腹の出口から出てくる。姉は開口部の前で、遠慮がちに兄弟の様子を見ている。弟は、兄に続き腹部の中に入ったり、親と兄の間を往来したりする姿が見られた。

・3人とも、名前を尋ねられたことに対して、兄、妹、弟の順番に自分の名前を言う。弟の名前が聞き取れなかったところ、母親が弟の名前を伝える。丁寧語を使って応える様子から礼儀正しい印象をもった。

・弟は、両親や祖父母もこの場にいることを発言する。兄姉、家族と一緒にやりたい気持ちが感じられた。

※以下左端は行動や発言の主体を表す

 表記例  ファ:ファシリテーター、 家族:兄・妹・弟・父・母・祖父・祖母、 大人:家族以外の大人

妹:「扇風機の羽の外の部分が付いている。」(作品のワニの上顎と下顎が重なる部分を指しながら。)

 ファシリテーターとのやりとりから、扇風機のカバーは、一般的には家庭にある物で、美術作品に付いていないということに気付く。

兄:「ワニの舌の部分に、ポケット付きのシャツがある。」「(咽頭部を指して)ここには小さな突起が付いた軍手が12個ある。」

 兄弟で、胴体の奥へ入って行く。弟は、兄の後ろで「戦闘機」「戦闘機」とくり返し言うが、ファシリテーターは洗濯機と聞き間違えていた。兄は家族の発言から、作品を「ワニ」という見立てをしていた。

兄:「胴体の中は、秘密基地のようだ。(二人が入っても十分な広さがある空間の奥の壁面を触りながら)壁

があること胴体に左右それぞれ小さな窓みたいな穴があるから。秘密基地とは秘密であるけれど、同時に、2%くらい他の人に分かってしまうところ。」

ファ:「内緒にしておきたいけれど、大切な人には2%分かってしまうのかな。」(周囲から和やかな笑い声あり)「他に何かあるかな。」

妹:胴体に入らず、アルマイト製のお椀で作られた目を差し示す。

ファ:「何でできているのかな」・・応えにくそうだったので、音を出したり、ファシリテーターと一緒にみたりした

妹:「目。……硬い物でできている。きらきらして、一つの物を狙っているかも。」

弟:「きらきら」「きらきら」「戦闘機」「戦闘機」・・ファシリテーターは、「そうだね。」と相づちを打つ。

ファ:「作品の外へ出ておいで。外側には何が見えるかな。」・・兄弟を作品の外側が見える場所に誘う。

兄:「ワニの脚の部分は、ズボンと靴下でできている。」・・靴下の色やテクスチャーについても言及有り。

「お腹の中には鈴の入った靴下もあった。外側は帽子でワニのウロコができている。数ある帽子の中でも背中から尻尾にかけて縫い付けてある灰色のベレー帽が特におもしろい。」

ファ:(弟に対して)「どれがおもしろいかな。」

弟:ベレー帽を指さす。

母:「祖母が普段ベレー帽を被ることが多いので、気になったのかもしれません。」

ファ:「おばあちゃんが大好きなんだね。」と3人に話しかける。弟が大きく返事をする。兄・姉は笑顔で頷く。

大人:「(胴体の中にある鈴の入った靴下の発言を受けて)この作品は、子どもが楽しむための物ではない

かと思った。「秘密基地」って言ってた胴体には、子どもがちょうど入ることができる大きさだし、出るときもちょうど子どもが出やすい大きさに作られているから、子どもが楽しめるように作られていると思う。」

ファ:「実はこの作品は、2011年の東日本大震災後に、この美術館で、作家自身が来館して、この作品を

制作していると聞いているのだが、それを聞いて何か意見はないか。」

兄:「使えなくなったものを使って、このワニはリサイクルして作られている。」(大人からどよめきがでる)

ファ:「今、使えなくなった物をワニの形として作り直して、ワニとして活かしているという発言があったが、他に意見はないか。」

大人:「これらの素材は、ほとんど布でできている。しかも、これらは、以前に人が身に付けていた古着などで、触感が柔らかい。使えなくなった物や使わなくなったものを材料としている。公園にある遊具といったら

固くて冷たい遊具だが、これは、先程の『おばあちゃんの帽子』の話にもあったように柔らかくて人に使われていたものだから「人肌」のぬくもりや優しさを感じる。だから、遊びたくなるのではないか。安心できる遊具のようだ。」

大人:「本当のワニは怖くて、口の中に入ったら大変なことになってしまうけれど、怖いことがかえって楽しいものに生まれ変わったように感じられてきた。」

ファ:「ワニを作った人も、それを聞くと『嬉しい』と言ってくれると思う。」

兄:「本当のワニは怖いけれど、このワニは親近感を感じる。」

姉:「海にある船、……子どもの用の車みたい。」

ファ:「秘密基地、船、子ども用の車など、とてもわくわくする意見を聞いて、私自身が楽しくなった。大人の皆さんの意見も聞いて、子どもを楽しませてくれる作品に見えてきた。」

兄:「どれくらい(の時間)かかって作られたのか?」

ファ:「よく知らないのだが、展覧会の前に、作家さんが来て作られたそうだ。ご家族の皆さん、どうでしたか。」

祖父:「賑やかで良かった。」

ふり返り

・名前を尋ねたり視線を子ども鑑賞者の目の高さに合わせたりするなど、話しやすい場になるように心がけた。

・家族を紹介する子どもの様子が見られたので、 家族をできるだけ対話に巻き込もうと考えた。そのためには、まず、子どもたちに作品を楽しんでもらい、その後、家族や周りの大人に発言を繋げることができるとよいと考えた。

・接触可能な作品だったため、五感で作品を鑑賞できるように、素材に触れることや音を聞くことを促した。

・大人が周りにいる中でも、発言できるように、「すごいね」「おおっ」「大発見だね」などと、発言を受け止めて、子どもの話しやすい雰囲気づくりを心がけた。

【今後にむけて】

・就学前の年中児くらいから小学校高学年くらいの子どもたちだったので、子どもにも分かりやすいを使うように心がけたい。

・子どもの発言に、何度かオウム返しをしているところがあったので、子どもにも分かる言葉を用いた言い換えができるようにしたい。

・今後、未就学児や小学校低学年の子どもたちとも楽しく鑑賞ができるようなファシリテーションをめざしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アートで脳トレ『ひらめき美術展』で 楽しく鑑賞しました

2024-06-09 21:54:13 | 対話型鑑賞

日時:2024年5月19日(日)11:30~12:00(2作品目)

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「山のお面」 本濃研太    

参加者:みるみる会員3名 美術館関係者1名  ファシリテーター:津室和彦

2作品目は,子どもを含め家族連れの参加はなく,美術館長とみるみる会員の4名が鑑賞者でした。

前半は,作品からみつけたこと,感じたこと,考えたことなどの発言を重ね,それらを踏まえた解釈が後半になされるという流れでした。

1 鑑賞の構造とファシリテーターとして考えていたこと(抜粋)

発言のキーワードを図示し,併せていくつかの局面でのファシリテーションの意図について述べます。図中と以下本文の〇囲み数字「ファシリテーターまとめ」は対応し,ファシリテーターの発言を表します。

①「それってどんなお面なんですかね?」・・・動物,人間,人間っぽいという3種があるということについて,一つ踏み込んで考えてほしかった。

②▲「いろんな表情があるんですね。今までのお話を聞いていると,人間ぽいのもあれば動物っぽいのもある。表情・感情もいろいろなのがある。たくさんあるので,これが気になるよっていうのはありますか?絞って話してもらえますか?」・・・お面の数が多いので焦点化しようという意図だったが,鑑賞者の意識はまだ全体をみていきたいというものだったようだ。読み違え,ファシリテーターのミスだった。実際この後,総体としての色の話に移っていった。

③「じゃ,森や木,顔とかいろいろな生き物がいるということから関連付けて考えられますか?そのことから考えられることは?」・・・木や森という新しい発言と,しばらく前の人間・動物・人間っぽいものを結びつけることを促した。

④「山を見たからってすぐそれを感じ取れる人は少ないかもしれませんが,こうやってお面のような形をとることで,訴える力とかは見る私たちは強く感じやすくなるのかもしれませんね。タイトルの『山のお面』ということにも触れていただきました。」・・・自然を連想させる表現の特性を考えてほしかった。

⑤「先ほど,『(ダンボールという素材は)木の命をもらっている』という話もありました。一旦もらっているけれど,リサイクルして繰り返し使うこともできるというところは,人間に対して自然からのメッセージがあるとしたら,それを表す素材としてはいいかもしれませんね。素材とも結びついている。」・・・通常梱包など別の用途があるダンボールを素材としていること自体が,自然の循環を想起させることや,これまでの発言内容を踏まえるとよりぴったりくる素材だと感じられたので,ファシリとしても強調した。

⑥「緑や茶色で統一されていて森とか木を感じるということで,里山とか森と人が関わりながら暮らしている時代とか様子とかの中で,動物や人,精霊など目に見えないものも含めてつながり合って生きてきたというようなことが読み取れるのかもしれませんね。」・・・プレまとめ,方向づけ。

⑦「往復というか繰り返しがあって,それが積み重なって問い直しているうちに見ていること自体が内省になる。」

【ファシリテーターまとめ】「それぞれが自分の内面を見つめなおすということであれば,それぞれの人ならではの自分の内部の掘り起こしや見つめなおしのきっかけを与えてくれる作品なのかなと思いました。」

2 対話のワードクラウド化

さて,対話をテープ起こししたので,ワードクラウドにしてみました。ここでも,神や精霊など神秘的なものと,ユーモラスな感じや表情,内面などの人間的なものの両方が出てきていることが興味深いと思います。どこかプリミティブなお面というものを見ていながら,自分自身を内省してしまうというような対話の内容と重なります。

3 振り返りと鑑賞会後のエピソード

 鑑賞中にも,鑑賞者の一人として参加してくださった館長から,「(これらのお面は)もともと一塊りの作品だったものをばらばらに解体し,その材料でリメイクされたものだと聞いています。」というような情報を得ていました。鑑賞会後,学芸員からその前身の作品画像を見せていただきました。8年前にこの美術館で開かれた「ダンボールの変身展」に出品されていた大きな人面のある山の作品でした。その山にはトンネル状の口が開いており,鑑賞者が入れるくらい大きな作品でした。わたしも,その展覧会のことはよく覚えていたので,対話の中で出てきた,全体として山のようだとか,木を大元の資源として繰り返し使える素材であるというようなことと繋がって鳥肌ものの感動を味わうことができました。美術館でのリアルの鑑賞会であったので,鑑賞会のさなかにこの情報や画像資料が使えたら,どんなにすばらしかっただろうかという幸せな空想も働いたのでした。

※その後,8年前の前身の作品画像を美術館から提供していただきました。感謝いたします。

※8年前の前身となった作品

今回の作品鑑賞風景

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