ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

腕試し鑑賞会 2人目のレポートです!!

2022-04-17 11:12:58 | 対話型鑑賞

京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターが主催する2021年度大学生と学ぶ対話型鑑賞ファシリテーション講座の受講生のお二人目が、みるみるの会で腕試しファシリテーションされたレポートが届きました。

ご覧ください。※作品画像は検索してください。

 

21年度ファシリテーション講座生〔吉澤〕みるみるの会での腕試しレポート

令和4年3月12日20時スタート

ファシリテーター:吉澤 鑑賞者:みるみるの会 5名 21年度講座生 2名

鑑賞作品名 『 枝 』 作家名 マルク・シャガール 制作年 1956年

 

描かれているモチーフ

浮かぶように伸び、寄り添う二人の人物(花嫁・花婿) ・ 花瓶に生けた花束 ・ 赤白黄色の円の中に描かれた動物と人のような存在 ・ 枝についた花々 ・ 鳥たち(3羽) ・ パリと思はれる街の風景 ・ 背景の青い色彩 ・ 背景色に同化した女性の横顔と花束を持って体をそらした人物 

 

□鑑賞者  〇ファシリテーター

【鑑賞の流れ】

 

□ X形の構図 と 細長く傾く二人の人物の描写

□ 着ているものの様相から結婚式の場面

□ 二人の人物の印象 (暗い)

□ 背景色に同化した女性の横顔(はにかむ)花束を持って体をそらした人物(喜び)

  ―2人の人との関係性(心情)

□ 結婚式の場面 花瓶の花束や枝からの花々から喜ばしい印象

□ 花瓶に生けた花束 (現実感)

□ 花瓶に生けた花束と枝についた花々の対比 (萎れていくものと鮮やかなもの)

〇 花・背景・人物 どこからどう見えているのか 〔ディスクリプションを深める〕

□ 街の風景の橋を通して2人の背景とのつながり

□ 赤白黄色の円(太陽のような明るい存在)背景にある月(夜)― 時の対比と共存

□ 赤白黄色の円の中に描かれた動物と人のような存在―目玉焼き―卵―鳥との関係性

□ 二人の人物と共に鳥が対―卵―新しい命―三羽目の小さい鳥―よい兆しと円の中に

↓ 描かれた動物―未来への安定、一方で二人の視線が見つめあってはいない不思議さ

〇 街の風景と二人の関係性は、どうですか

□ 二人の人物の目線や子供を予見させるような鳥や象徴的な円の存在から未来への喜び、

↓ 不安、現実と向き合う覚悟これらをふまえての意見

□ 背景の暗さからの花々の明るさなのか、花々の明るさからの背景の暗さなのか、どち

  らで考えていいのか悩む

□ 結婚の理想と現実を象徴する背景

 

□ 二人の若さと厳しい現実と夢の世界

 

【 振り返り アドバイス 】

◎ 鑑賞に向く作品であった、意見で見え方が変わる

◎ 第一印象から「気になるところは」ときかれるとビックリするので広くきくと良い。

  パラフレーズの一部が良かった。

◎ パラフレーズはしっかりしているとも受け取れるけども、太陽に「熱」を感じていた

  のに「力強い」に変わり、「山羊」を「獣」に変わるとニュアンスがズレてファシリ

  テーターの誘導につながる。

◎ パリの地名を「都」に変換して違和感があるので、聞いた意味はあるのか? 

返答〇 花の都を「花」としてつながりやすいと考え言い換えた。

◎ 最初の段階で「この部分に対して他の方はいかがですか?」は見るところが狭くなる

  ので、より皆さんの今見ているところを聞き出していったほうがスムーズに進められ

  る。

◎ サマライズを後半の時間配分の中でもう少し早くに入れられると、今までの意見をま

  とめやすい。

◎ 鑑賞者の発言していたところから急に別の部分のモチーフに対しての見え方を問われ 

  ると困る。

 

【 春日から 】

◎ ファシリテーターが話続けていると、沈黙の時間が無い。それは鑑賞者が静かに黙

  って考える時間を担保していないということである。ファシリテーターは沈黙を恐

  れないこと。 

◎ 鑑賞者の発言にフラットであることは重要であるが、ファシリテーターも鑑賞者な

  ので、鑑賞者の意見についての「驚き」や「感嘆」の反応はストレートに出てもよ

  いのではないか?その方が、鑑賞者がノッて話せるようになるのではないか。

◎ ファシリテーターのパラフレーズは鑑賞者の発言の中でどの部分が必要かを取捨選

  択することで、鑑賞者がじっくりと考え、話せる時間が確保できるようになる。

     

【 ファシリテーターの振り返り 】

外部の方と初めてのファシリテーターをしてみてやはり緊張していて鑑賞者の話が聞き

取れていないことがあった。「聴く」ことの意味を再度考えてみるべきだと思う。このことを含めて、再度、ファシリテーターにチャレンジしたい。

 

****************************************

 

21年度ファシリテーション講座生(吉澤)みるみるの会腕試しレポート 2回目

令和4年3月19日20時スタート

ファシリテーター:吉澤 鑑賞者:みるみるの会:6名 21年度受講生:2名

鑑賞作品名 『 枝 』 作家名 マルク・シャガール 制作年 1956年

 

描かれているモチーフ

上記同上

 

□鑑賞者 〇ファシリテーター

【鑑賞の流れ】

 

□ 2人の人物のウエディングドレスと赤いジャケット衣装と長く伸びて傾き浮かんで

↓ いる(不思議さ)

□ 右下の花瓶の花束 特にカスミソウと思われる花の白さが印象的

□ 花瓶の花束と枝からの花々との赤色のつながり 白いカスミソウは対角線で左上の

↓ 円の中の白色とのつながり(色彩の関係性)

 

□ 新郎のジャケット衣装の違和感から考えられる解釈(ダンスの場面)

□〇 新郎新婦の表情や目線が周りの花々と比較(幸福感が無い)

↓ 

□ 背景の色彩の青色と月の印象(夜)(悲しみを湛えている)パリの街の風景と二人

↓ の関係性背景の青色と比較して赤白黄色の円 (二人の未来への希望の象徴)

□〇 二人の目線と背景の青色と花瓶の花束の萎れた花色との関係性(過去)

□ 背景の青色の濃淡(暗さ)それに同化した女性の横顔と反った姿の人物 これらの

↓ 構図と存在(不思議さ)

〇 二人の人物との関係性は?□ まだそこまでは考えていません

□ 男性のズボン柄(道化師)と背景の反った人物・女性の横顔とウエディングドレス

↓ の女性人物の関係性(対照的な位置)(未来と過去)

□ 二人の人物から左側枝からの花々(未来)右側花瓶の花束萎れた花がある(過去)

↓ 背景のパリの街の風景と女性との関係性・花瓶の花束と男性との関係性

□ 花瓶の花束(色彩)からの男性女性の関係性と赤白黄色の円が左側の未来に位置し

↓ ている事と色彩の繋がり

□ 過去にとらわれている男性と未来へ連れ出そうする女性 

〇 背景の鳥たちのディスクリプション

□ 鳥たちと二人の関係性が(祝福されているような明るい未来)

〇 赤白黄色の円の中に描かれたもののディスクリプション 

□ 円の中の黄色が花瓶の花束の中に描かれた小さい黄色とのつながり

↓ 太陽や目玉焼きのようにも感じられて、中に描かれた人物や動物から二人の子供を感じる

□ 赤白黄色の円から玉子―生命―子供―誕生―生活と明るい未来を連想する

〇 今での意見をまとめて鑑賞会を終える

 

【 振り返り アドバイス 】

◎ 丁寧に聞いてくれている、色彩についてのフレーミングが良かった。

◎ 意見を引き出されていたので鑑賞を楽しめた。

◎ 新郎新婦の見え方が今までと違ってきて、踊りや未来や過去といった皆さん意見が

  楽しめた。

◎ ファシリテーターが鑑賞者の意見で出ていないところをコネクトしていた。(月→

  夜→過去)

◎ 青い鳥として見えていない人もいる、つまり一部の意見で見えているものを断定し

  ない方がよい。

◎ 最後に鑑賞者に画面全体を通しての意見を引き出せたら、ファシリテーターがまと

  めに入りやすい。

◎ 人物から背景に話の促しがあった際に、左側が未来・右側が過去という話題になっ

  ていたのに補足がないまま背景全体としての見え方の話題にしたので、つなげ方と

  して強引さを感じた。

 

【 春日から 】

◎ 2週続けてファシリテーションすることで、変化(成長)が感じられた。

◎ フォーカシングが無かったので、作品をどのようにみてきたかの意見が痕跡とし

  て残っていないから、まとめに困るのだと思う。

◎ 丁寧に拾うのは悪いことではないが、くどすぎるので、今まで出ていないトピック

  のみを拾って繋げる。無駄な時間が省ける。

◎ ある解釈について、他の鑑賞者に「ほかの方はどうですか?」と問うのは多様な見

  方を担保するのに有効な手段ではあるが、すべてのものに対してやることはどうな

  のか?を考えながらやる。コンセプトを意識する。

◎ 上記と逆。ひとつのものに対して、一つの解釈で「よし」としないこと。あえて異

  なる見方を出させることで、見え方や解釈が拡がることを意識しておく。

◎ 場数を踏むと、場に慣れ、無駄な緊張が無くなるので、このような体験は積極的に

  行うとよい。

  

【 ファシリテーターの振り返り 】

2回ファシリテーターとして実施し、皆さんの意見を必死に聴こうとしていたが文脈をしっかりと把握できていなかった。ただそこからもう一つ大切な要素について気づきを得ることができた。それは、鑑賞者の意見を自分も含めて他の鑑賞者も聞き取れているか、この視点を持つことがよりききとる事につながるのではないかということだ。より鑑賞者目線になってファシリテーションをしていくことが大切ではないかと授業で学んだことを再度気づかせてもらえる機会になった。

いつも練習会を開いているメンバーとは違うことで、鑑賞の見え方の違いや意見の文脈の違いから、今までにない解釈やそこから生まれる繋がりや結びつきがあったことで、当初考えていたコンセプトがより作品を考えうる意味に近づけることができたように思えた。

 

皆様との対話型鑑賞をさせていただく貴重な機会を、ありがとうございました。

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京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター主催の対話型鑑賞ファシリテーション講座の受講者が「腕試し鑑賞会」でファシリテーターを務めたレポートです!!

2022-04-09 12:52:06 | 対話型鑑賞

京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターではオンラインで対話型鑑賞のファシリテーション講座を一昨年前から開催し、多くの方々に受講いただいています。昨年度からはFBグループフォーラムを立ち上げ、受講者と参加学生との交流や、また、受講者同士で鑑賞者としてファシリテーターとしてのブラッシュアップに努めていただけるようzoomでオンライン練習会を開催しています。

その受講者のファシリテーションの腕試しの場として、みるみるの会での鑑賞会を企画しました。

鑑賞会は3月12日(土)と19日(土)の2回行いました。ファシリテーターは1回目が吉澤さん、佐藤さん、2回目が吉澤さん、貞岡さんでした。

1回目の佐藤さんからレポートが届いていますので、ご紹介します。

みるみるの会 3月例会(オンライン開催) レポート

佐藤芳哉

日時:2022年3月12日(土)

21:15~22:00 実践

作品:《ビキニの3つのスフィンクス》1947年、諸橋近代美術館蔵

作者:サルバドール・ダリ(1904-1989, スペイン)

作品画像URL:https://www.salvador-dali.org/en/artwork/catalogue-raisonne-paintings/obra/629/the-three-sphinxes-of-bikini?paraulaClau=Bikini

 

ファシリテーター:佐藤 ホスト・講師・進行:春日さん

参加者:上記2名の他5名 計7名 (みるみる会員3名,ACOP2021受講生2名)

 

作品選定の理由

原爆をテーマとした作品で、「戦争」や「放射能」というメタなテーマを語り得る作品と思い、3.11の翌日という日程や「ウクライナ報道」が話題になっている時事的な性格からこの作品を選定し、メタな領域での社会問題を語れるかチャレンジしようと思った。

 

  1. 鑑賞の流れ

 

録音データ:https://morohashi.box.com/s/c6ocmlm451p85katytn1shtu8hn23al7

 

フ・・・ファシリテーター

ア〜カ・・・鑑賞者の意見(6名)

自・・・鑑賞者自身

他・・・他の鑑賞者

※適宜、リンキングしながらのパラフレーズはしているが、その部分は割愛

 

①〈まずは鑑賞者4名から第一印象などを聞く〉

【鑑賞者から出た要素(発言順)】

ア)手前に巨大な首だけの後頭部。

ア)首の付け根には赤い血溜まり。

 ↘︎フ)プッシュ・・・地面の下は?

  ↘︎自)・・・地面に首から下が埋まっているよう。

イ)遠くにも巨大な後頭部。

イ)遠くの後頭部を境に左に穏やかな山々。

イ)遠くの後頭部を境に右に険しい山々。

ウ)後頭部のように見える穴の空いた1本の木。

エ)手前と奥の後頭部はモクモクとした雲のよう。

 ↘︎自)解釈・・・おどろおどろしい感じの雲。

エ)前後の後頭部と対比的な木。2本の木が合体しているようにも見える。

エ)不穏な空。

 ↘︎自)解釈・・・雲と空から不吉な感じ。

  ↘︎フ)プッシュ・・・どこから不吉さ?

   ↘︎自)・・・キノコ雲のような人工的な感じと地震前のような不気味な色味の空。

 

②〈後頭部のように見えているのかの確認と留保、後頭部に見えている部分へのフォーカス〉

【鑑賞者からの意見(発言順)】

ウ)原爆のキノコ雲のよう。

 ↘︎自:理由・・・人為的な雲の印象と首のような立ち上がり方から。

ウ)2つになっている木は、長崎にある被曝した木ともよく似ている。

 ↘︎フ)プッシュ・・・どんな木?

  ↘︎自)・・・長崎の神社にある原爆の影響で幹が二つに裂かれた楠の木。

イ)木の間が抜けていることから空虚さや命の危険さを感じる。

イ)人の頭もキノコ雲だと思うと、怖いなと感じる。

 ↘︎自)メタ化・・・ちょうどプーチン大統領が核兵器の使用を(ウクライナ問題で)チラつかせている。恐ろしい核兵器を使うのは人間だなと。

イ)後頭部の表情も気になる。

 ↘︎自)解釈・・・向こうを見ていて表情は見えないが兵器のことを考えるといい顔はしていない  

と連想できる。そういうところからも不穏さや不気味さを感じる。

エ)荒涼とした大地、こういうところで核実験をしていたのかなと思う。

 ↘︎自)理由・・・アメリカでのアリゾナや海での水爆実験ともリンクする。

エ)原爆、水爆実験は放射能が出て自然界にダメージはあるから、木が描かれているのではないか。

エ)後頭部は少し俯き加減だから、悔いているようにも思える。

エ)頭に(キノコ雲を)抱えているようにも見えるし、脳みそにも見えなくもない。

 ↘︎自)解釈・・・核兵器を作り出したのも、使うと決めたのも、そしてそれを後悔するのも人。そういったいろんな意味で、顔をみせないで、観る人に考えさせようとしているのではないか。

 

 

③〈キノコ雲の話が続いたので、みんながキノコ雲に見えているかの確認と留保〉

【鑑賞者からの意見(発言順)】

ア)キノコ雲にも見えるが、部分だけで見ると頭の部分や木の部分など、違和感を感じないほどリアルに描かれている。それを俯瞰して見た時に不吉さや有り得なさを感じる。

 ↘︎自)解釈・・・「木を見て森を見ず」ではないが、部分的にだけ見ていると本当のことを見失ってしまうというような警鐘を鳴らしているように感じる。

  ↘︎フ)プッシュ・・・部分と全体、作品の見方そのものにもメッセージがある?

   ↘︎自)メタ化・・・ウクライナ問題にしても、ウクライナの言い分もロシアの言い分もそれぞれは理解できるけど、全体を俯瞰するととんでもないことが起きている。そういった事象は色々なとこにあるのでは。

オ)木は真ん中がないから皮膚のようにも見えてきた。真ん中がないから骨抜きみたい。

オ)手前の頭は煙が上がっているように見えて、空の色味と地面の色味が似ている。

オ)原爆によって巻き上げられた大地の結果がこの首になっているのではないか。

 ↘︎自)解釈・・・要するにこの首が犠牲者のように感じる。

 

④〈背景の話が徐々に出てきたので、背景にフォーカス〉

フ)これまでに出ていた背景の話(サマライズ)・・・荒涼とした大地、不吉な色味の空、なだらかな山険しい山、何かが巻き上げられた後、核実験に適した場所

【鑑賞者からの意見(発言順)】

ア)右から光が差していて影が長い

 ↘︎自)解釈・・・夕方の黄昏時ではないか。

ア)奥には黒い雲

 ↘︎自)これから嵐が来るのかもしれない。

イ)黄色っぽい雲が気になる。

 ↘︎自)解釈・・・砂嵐であったり火山の噴火に近いような、原爆水爆のような、ふつうではない天変地異のようなことが起きたからこんな色になったのではないか。

イ)大地だけでなく空も荒涼としていて不穏な感じがする。

 ↘︎フ)プッシュ・・・空の色はキノコ雲などによって変化した?

  ↘︎自)・・・そう。もっと爽やかな空でも良いのにと思う。

エ)砂が巻き上がって飛散して黄色くなったようにも思える。

 ↘︎自)解釈・・・何かのきっかけで自然に影響が出て嵐が来たり雨が降ったりするのではないかと考えさせられる。

エ)手前の頭の根元の赤と白の線が気になる。

 ↘︎自)問題提起・・・導火線じゃないと思うけど、何を意味しているのか気になる。

ウ)後頭部の右側は荒涼としてて、左側は豊かな感じがする。

ウ)頭の影は1つだけど木の影は2つあることが気になる。

 ↘︎自)解釈・・・1つの木が爆風で真ん中が抜けたのかもしれないが、ここでは2本の木(幹)があって、それは寄り添って倒れていない。だけど人の頭は1つで、手前の首元には赤いところがある。

  ↘︎自)メタ化・・・人間は賢い頭で核爆弾まで考え出したけど、結局自分を傷つけてしまい、協力をしないことでさらに自らを傷つけてしまっている。一方で自然界は傷つけられてもお互い協力し助け合って、なんとか立ち直ろうとしている。だから、今は荒涼とした状態だけど今後再生するような明るい展望もあるかもしれない。

エ)奥の小さな頭は、手前の頭と比べても真後ろから描かれている。

 ↘︎自)解釈・・・険しい山を背負っているよう。

  ↘︎自)メタ化・・・左側の山は穏やかなのに、人間の愚かさゆえに、自ら険しい山を選んで進んで、荒涼としたものしか生み出さないのではないか。一方、自然は人間に抗議することもできないが、痛めつけられても支え合いながら穏やかに生きていくことができる。人間の叡智が何の役にも立たず戦争などを生み出してしまう人間の愚かさを自然に嘲笑われているような気になる。

オ)色味から空と大地がつながっているような感じがする。

 ↘︎自)解釈・・・(原爆の)巻き上げる力によって天地がひっくり返るとしたら、赤い血溜まりからは血の雨が降り、脆い木の幹は重さに耐えきれず落ちてしまう。

  ↘︎フ)リンキング・・・天変地異という話もあったが、天地がひっくり返るほどの大きな力を感じられている。

カ)3つの頭はそれぞれの地域を表しているように感じる。

 ↘︎自)解釈・・・奥は山のところ、真ん中は原爆が落とされたけどなんとか緑が残ったところ、手前は最近の砂漠での紛争を表しており、まだ起きたばかりで生々しいので赤いものが残っている。その手前にも黒いところがあるから、紛争地域のような場所がさらに手前にもあるのではないか。

 

⑤〈3つの後頭部について関係性が指摘されたので、3つの後頭部の関係性にフォーカス〉

フ)これまでに出ていた後頭部の話(サマライズ)・・・人工物と自然物、荒涼さと豊かさ、人と木といった対比、3つとも似た形。

【鑑賞者からの意見(発言順)】

ア)自然と人間という対比がある。

 ↘︎自)解釈・・・自然と人間を対比するとこからヨーロッパ的な考え方を感じる。この作者はヨーロッパの人と思う。

エ)3つであることに意味はあまり感じない。原爆だとしても日本に2発落とされただけで3ではない。遠近感を表すために3つ描いたのかもしれない。

エ)奥にあるものが未来ではなく過去として捉える(カ)さんの意見が面白かった。

 ↘︎自)解釈・・・どんなに過ちを繰り返しても、人間の愚かさゆえに、この先も過ちを繰り返すということが手前の黒い影で表されているように感じる。

  ↘︎自)メタ化・・・人間の救われない愚かさの悲劇を感じる。

 

⑥〈まとめ〉

フ)俯瞰してみると本当のことが見えてくる教訓的なメッセージという話も(ア)さんからあったが、私たちは原爆がもたらした凄惨な歴史を俯瞰できる立場にいるにも関わらず、画面の手前、私たちの未来であったり今この瞬間にも黒い影が落ちている。

核兵器が過ちであると知っているにも関わらず、それを手放せず、核兵器がもたらす暗い影が私たちにはいつも迫っている。それは今まさに問題となっているウクライナ情勢とも深く関わっているように感じる。

 

⑦〈最後に言い残したことがないか確認〉

【鑑賞者からの意見(発言順)】

オ)頭が描かれていることから、本当に大事な過去は穏やかな自然な部分ではないかと感じた。

 ↘︎自)解釈・・・自然が荒涼とした部分と対比されていることからも「核爆弾」の核が人間の「核心」としても表されているような気がする。

 

⑧〈エンディング〉

フ)顔の見えない頭が見つめているものは「核爆弾」であるかもしれないし、それが人間の「核心」であるかもしれない。ここに自然や木が描かれていることに、この作品に少しでも救いがあることを願いたい。

 

  1. 振り返り

〈鑑賞者講評〉

【良かった点】

・落ち着いてゆっくりとしたファシリ。

・鑑賞が深まっていくことを実感できた。

・プッシュが良かった。

・ファシリが喋りすぎていないことが良かった。

・フォーカスの流れが自然で構成的だった。

・適宜サマライズされていた。

【改善点】

・後頭部のフォーカシングではもう少し話を広げられたかもしれない。

・鑑賞者が序盤に気になっていたところ(赤い部分)をスルーするのではなく、他の鑑賞者にも聞いてみると良かったかもしれない。

・ウクライナ問題と核兵器の話が一緒くたになっており、戸惑った。

 

〈講師講評〉

【良かった点】

・口数が普段よりも少なく、鑑賞者主体の鑑賞になっていた。

・見ていく順番も良かった。

・「もうちょっと話したかった」という感想が出たことは、塩梅で、必ずしも悪いことではなく、発言を促す意味では良い点でもある。

【改善点】

・背景のフォーカスがざっくりとしていたので、もう少し「空」や「山」など整理して進めれば、行ったり来たりせずに話を進めることができ、最後に全体をしっかりと踏まえて考えることができたのではないか。

 

  1. ファシリテーターの振り返り

【良かった点】

・鑑賞会の直前に、喋りすぎないようにとの指導があったこともあり、思っていたよりも自身の口数を少なくして進行することができた。(鑑賞者主体)

・後頭部やキノコ雲など、重要な要素については意識的に鑑賞者全員に留保し、共通認識をつくることができた。(共通理解)

・ウクライナ問題などの時事ネタを意識していたので、その問題についても一緒に考えることができ良かった。(メタ化)

【改善点】

・一方で、振り返り動画を視聴するともう少しファシリの発言は無駄を省くことができたように思う。(喋りすぎ)

・「不穏さ」など、もう少しプッシュすべき箇所が散見された。(プッシュ不足)

・赤い部分の解釈がほとんど出来ていなかった。(プッシュ不足)

・木の幹が半透明になっている点について発見されなかった。(フォーカス不足)

・背景のフォーカスに移る際、これまでに小出しに出ていた背景の話はサマライズしていたが直前までフォーカスしていた後頭部についてのサマライズが抜けていた。(サマライズ不足)

・後半、メタな話が増えるほどにファシリの発言が中立性を欠いた感想に近づいていていたので注意が必要。(中立性の欠如)

 

  1. 総評

今回の鑑賞会は概ね好評で、テンポや鑑賞の進行構成、鑑賞深度は良かったように思う。一方でファシリテーターというよりも鑑賞者自身の鑑賞力の高さでメタ化した鑑賞に進んでいる部分が大きい鑑賞会でもあったので、今後この作品を鑑賞慣れしていない人と行う際などは、もう少しサマライズやコネクトを意識しないといけないだろう。特に今回のようにざっくりと背景のフォーカスをしてしまうと、既に出ている意見の言い直しであったり、視点が複数箇所にバラけて、作品全体を踏まえたまとめにうまく辿り着けない可能性がある。

また、「戦争」や「原子力」「自然破壊」「科学至上主義」など、社会問題に関連する事項も意見として出てきやすい作品であるために、「プッシュ」を丁寧に活用して、意識的に作品を鑑賞者の意見に紐づけていかないとならないだろう。

本作を今後も様々な鑑賞者と実践し、引き続き研鑽に努めたい。

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